明ンク街13番地

きりしま つかさ

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第0146話「彼は死んだ」

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ローヤは宙に浮かび、高いステージの上で立つキェルとほぼ同じ高さまで昇った。

金色の長い髪を垂らした彼女は、白磁のような肌と青い瞳で、まるで壊れ物のように儚げな姿を見せていた。

「おじいさん、久しぶりね」

「あなたが帰ってきたことを嬉しく思うわ」

キェルは笑みを浮かべながらそう答えた。

ローヤも同じように微笑んだ。

「でもね、あなたが私を作ったのも、同時に私の命を奪うのも、互いに償い合う必要はないわ」

短いやり取りの後、彼女は指先でキェルの方へと向けてみせる。

暗黄緑色の輝きを持つ銅貨が渦巻きとなったその瞬間、キェルの腕から爆発が連鎖的に広がり、彼の一部の魂も同時に粉砕された。

「くっ」

キェルは急に後退し始めた。

その間に四人の秩序小隊員たちが渦巻きの中に吸い込まれ、血の霧となって消えていった。

ローヤは両手を組み合わせて方印を作り、渦巻きから枯れたような黄土色の手が伸びてきた。

五本の爪先には紫色の長い爪があり、その腕は無限に続くようにキェルへと伸びた。

「バチッ!」

爆発でキェルの体が粉々になった。

銅貨はローヤの胸元に戻り、彼女の視線と共に回転を続けている。

すると突然、上空の防壁の向こうにキェルの姿が再び現れた。

「おじいさんよ、あなたが私を育てたのは知ってるわ。

でもその分、私はあなたの偽造体をも見抜いてるの」

ローヤは腕を開き、彼女の位置から巨大な防壁を作り出した。

上下の二つの壁が徐々に近づき始めた。

「くっ!」

キェルは歯を食いしばった。

現在の状況では空間圧縮で体と魂が潰れてしまうかもしれない。

彼は忌ましい呪文を唱え始めた。

その瞬間、足元から巨大な黒い星芒が現れ、そこに角を持つ何かが顔を出した。

『禁呪 アロスの怒り』

かつて秩序神が活躍した時代に封じられた凶獣たちの力を利用した術法だった。



禁呪を発動させる代償は巨大だった。

その時、まだ半分しか発動していない禁呪が途切れたが、既に現れた角は二つの巨壁の間で押し留められていた。

「おじいちゃん、生まれた日からずっと、私の最大の願いはあなたをこの豚小屋に植え付けることよ。

その願いは過去も現在も未来も変わらないわね」

ローヤーが胸元の銅貨を前に投げると光幕が広がり、そこには巨大な青銅棺の虚像が浮かび上がった。

これはラクスの棺だ。

真神ラクスと九つの罪悪の根源となる銅貨を埋葬した棺材だった。

「ローヤー、この頭上の壁を撤去して私を解放してくれれば、私も自由になり、あなたも自由になるわ。

もし今ここで二つの禁呪が衝突すればその振動は隠せないでしょう。

ヨーク城の至る所から無数の目がこちらを見つめるわ。

あなたも知っているようにこの街には私よりも遥かに強力な存在がたくさんいるわ。

彼らがラクス銅貨の気配を感じ取れば、あなたは逃げ延ばせないでしょう。

私は秩序神より外れた者として亡命を決意したのよ。

ご覧なさい、これが私が受け入れる罰なの。

あなたも自分の身を守るために考えてみるべきでしょ?生まれた日から一度も触れていない自由というものを求めないのかしら?」

キーヘルは交渉を試みていた。

以前の彼はこの汚染された空気を外に漏らさないようにしていたのは、自分の身分を隠すためだったが、今は命を守るためでさえあれば他の全てを捨て去っても構わないと言わんばかりだ。

「ふっ」

ローヤーは首を横に振り、笑った。

「交渉しない方が、おじいちゃんの魂を消し去る方がもっと面白いわね」

その言葉が途切れた瞬間、ラクスの棺の虚像はキーヘルめがけて直撃した。

しかし同時にカレンの体から暗黄色の光が発せられ、アルフレッドやパヴァロ、小ジョン、プールとケビンにも同じ光が広がった。

するとカレンは眼前が回転するような感覚を覚え、道路脇に立っている自分を見た。

周囲には倒れたアルフレッドたちが転がり、特にプールは木の枝に飛び乗りながらも爪で掴んでいた。

「汚れちゃダメよ、汚したら見栄えが悪いわね」

ローヤーの声がカレンの耳元で響く。

「ありがとうね。

姉さんたちが言うような感覚を体験できたわ。

あら、そろそろお別れよ。

おじいちゃんに会うのが楽しみだわ」



凶獣の角とラクスの棺が衝突し、激しいエネルギー放出が発生した。

アンロースの咆哮は四方八方に響き渡り、さらに濃厚なラクスの棺の気配が今夜の静かなヨーク城の闇を切り裂いた。

すると瞬間的に多くの気配が空へと昇り、この場所に向かって駆けつけてきた。



さらに約二道の光柱がヨークシティ内に立った。

そのような光柱は、かつてロカ市ディスがオーク墓場で神格の破片を集める際にも現れたものだった。

チエックは焦じらせて叫んだ。

「ローヤ!今やめてもまだ間に合うわ!」

「じゃあお爺様早く消滅してちょうだい!!!」

ラックスの棺とアンロースの角が衝突し続けているが、アンロースの角がゆっくりと亀裂を生んでいた。

これは凶獣アンロースが弱っている証拠ではない。

なぜならラックスの棺は虚像だからだ。

主にチエックの状態が極度に悪化していることが問題だった。

彼女は禁呪の運転を支えられなくなっていた。

やっと、アンロースが不満げに唸りながら角を折った。

チエックの足元の星芒も崩壊し、禁呪は強制的に破壊された。

チエックの体から黒い炎が発生した。

彼女は絶望した後の一発賭けとして逃亡を試みたのだ。

しかし「お爺様」と敬称で呼んでいたその少女は彼にその機会を与えない。

ラックスの棺が開き、無限の吸引力が現れた。

炎に包まれたチエックはそのまま棺の中に引き込まれた。

「パッチ!」

ローヤが掌を叩いた。

「バーン!」

ラックスの棺が閉じた。

ローヤはゆっくりと地面に降り立ち、巨棺も一緒に落ちてきた。

棺の表面が透明になり、外からチエックが炎の中で苦しみながら逃げ出せない様子が見えた。

ついに、チエックは自身で燃やした炎によって体と魂を灰燼に変えた。

彼女は死んだ。

始終ローヤは棺を見つめて笑みを浮かべていた。

お爺様が完全に消滅すると満足げに手を振ると、ラックスの棺は消えた。

ローヤは地面に座り、「姉さんたち、あの可愛い男の子とまた会えると思う?うん、私もそう思うわ。

きっといずれ彼が私の前に現れるでしょう、ふふふ。



「あら、そうだね。

姉さんたち、外に出たい方はいらっしゃいますか?あなたたちは自由になったから、外に出て行ってください。



しばらくの間、ローヤは淋しげに言った。

「おー、あなたたちが外には入り込めないってことね。



彼女たちの身体は強制的に飲まされた毒薬によって死のカウントダウンに入っていた。

外に出ても生存できないし、家族にも悲劇をもたらすだけでなく、重荷になるだろう。

自分自身が囚われていた時こそ自由を求めたのに、自由が目の前に来ると、その暖かい太陽光に恐怖するようになったのだ。

「じゃあみんなで寝てみようか。

夢を見ようよ?」

ローヤの前にあるラックス銅貨から柔らかな輝きが発せられ、豚小屋の中の人々と凹部の死体を包んだ。

やがて全員が静かになった。

ここに来た日以来、彼女たちが唯一の休息を得たのは、その少女との夢の中でだった。

ローヤは涙を流した。



彼女の統制下で、既に立ち上がることもできず息絶え寸前だった姉妹たちが次々と最後の呼吸を失い、全員が死んでいく。

それぞれが亡くなる際には笑みを浮かべていた。

その頃、ずっと抑圧されていた膨大な汚染の気配がゆっくりと消えていった。

汚染源は爆発させることもできるが、解消することも可能だ。

彼女たちから微かな星々の輝きが立ち上り、最終的にローヤーの胸にあった銅貨へと凝縮した。

ローヤーはその銅貨を抱きながら囁くように言った。

「姉妹たちよ、ここでもう一度夢を見るわ」

彼女の姿が透明になっていく。

最後には銅貨の中に溶け込んでしまった。

「ドン」という音と共に、床に落ちたその銅貨は普通のものと見えた。

二つの光柱が現れた。

一方の光柱が口を開く。

「濃厚な秩序の気配だ。

貴方たち秩序神教の人間が生き物を使って神器を修理しているようだ」

もう一方の光柱も発言する。

「秩序神教は調査後に説明を出すわ」

床に落ちていた銅貨が浮かび上がり、秩序の光柱の中に吸い込まれた。

その光柱が言った。

「ラクス・コイン……」

「秩序神教が一時的に保管します。

深渊神教が異議があれば書面で連絡してお待ちください」

……

「終わったわね」

二つの光柱がそこに現れた。

暗闇の中には他にも多くの存在がいるはずだ。

香腸工場の下の闇は引き裂かれていた。

同時に汚染を心配する必要もなくなった。

彼らは約クールで汚染が発生することを許すわけがないからだ。

「ご主人様、大丈夫ですか?」

アルフレッドが気遣うように近づく。

「大丈夫よ。

貴方はどう?」

「私は大丈夫です、ご主人様」

小ジョンはカレンの前に歩み寄り、彼のズボンを引っ張った。

「カレンお兄さん、孤児院に行きたくないわ、本当にどうしても行かないで!」

「いやなら行かなくてもいいわよ」

「本当?」

「我が家にはペットの世話をする人手が足りていないの」

「私はペットが大好きなの。

特に会話するペットが!」

「ふーん」

カレンは小ジョンの頭を撫でてから、床に座っているパヴァロ・セントラルに向かって歩み寄った。

「成功したわね」パヴァロが言った。

「あなたとアンニエさんのお陰よ。

貴方たちの努力なしではこの場所を見つけることはできなかったわ」

「アンニエはミールス神に安らぐ準備ができているわ」

「ええ、彼女はミールス神の忠実な信者でしょう」

「あなたが器霊を蘇らせたのは素晴らしいことよ。

私も覚醒術を使えるけど、あなたの術は奇跡のように見えたわ」

「冗談じゃないわ、そんなにまで言わないで」

自分の体が汚染下で持ちこたえられたのは、ラネダルの改造のおかげだったからかもしれない。

それを褒め称えるなら些かも神々しいことではあるが、奇跡とは関係ない。

外は雨が降っていた。

あなたがレインコートを着ていたから濡れなかったというのも奇跡と言えるのかしら?

「その覚醒術の仕組みは?パヴァロ・セントラルさんが気になって」

「簡単よ、それほど特別なものじゃないわ」

「えっ?」

豚小屋の女たちが毎日耐えに耐えているから、その器霊は自身の霊性を彼女たちに分散させて彼女たちを夢の中へと導き、常人には耐えられない苦痛の中で一時的な安らぎを与えていたんだ。

我々の『蘇醒』術法はそもそも死体に残る霊性エネルギーを対象にするものだから、私はただ彼女が元々分散させていた霊性を集めるだけだった。

本質的には普通の『蘇醒』で、追加の手順があるだけだ。

「でもその手順を考えられる人間はどれくらいいるだろう。

実行できるのはさらに少ないはずさ」パヴァロ先生がため息をついた。

「主にクイェフが一生懸命育てた器霊が最初から彼に対して強い怨みを持っていたからだ。

この機会を逃したら、いずれクイェフは銅貨の手で死ぬ運命だったんだ。

我々はただその過程を早めただけさ。

まあ、運も良かったってことかな」カルンが笑った。

「善行をするときは多少の幸運に恵まれるのも当然だ」

「もし次回……」

カルンはパヴァロ先生を遮った。

「もし次に男が私にライターを借りようとしてきたら『喫煙は健康によくない』と返して彼を禁煙させることにする。

もし次に女がメモの入った封筒を持ってきてきたら、その場で封筒を焼いてやる。

パヴァロ先生、もう二度とそういうことはないさ。

私の本業は心理医師だ。

人権弁護士じゃないんだから。

あーっ……」

「そうだな、私が働く診療所が今夜閉鎖されるって話だったか?」

従業員の半分は既に逃げ出したんだろうし、

何よりオーナー自身も逃げたんだろ?

パヴァロ先生が笑った。

「まあ大した損失じゃなかったね。

数日間働いただけだもの」

「えっ、そんなことないよ。

私は一ヶ月前から給料を貯めていたんだ」

「ふふ、おめでとう、儲かったね」

「ふふ」

「カルン、終わったぞ」

「そうだな」

「あなたは私に約束した顔の皮を使ってマスクを作ってくれるんだろ?」

「急いで作る必要はないさ。

帰り道で話そう。

明け方まで待ってから車に乗せてもらって霊園へ行き、家族を見舞うのもいいかもしれない」

「貴方の世話なら安心だよ、ありがとう」

「ニャー! ニャー! ニャー!」

カルンが猫の鳴き声に気付いてようやくプールが木の上にいることに気づいた。

高い枝を抱えている。

地面まで下りて顔を上げたカルンは尋ねた。

「まだ降りないのか?」

「降れないんだよ! あの器霊がわざと私を困らせてるんだ!」

「猫に対して何をするつもりだ」

「ふーっ、それはあなたが女に詳しくないからだ」

カルンがため息をついた。

「それじゃあまだ日出を見守り続けるのか?」

「降れないって言ってるんだよ! 降れないんだ!」

「木登りできないのか?」

「できない」

「百年近く生きている猫なのに木登りすら知らないなんて、普通じゃないだろ?」

「木登りは野生の猫がするものさ。

私はしないのが当たり前だろう?」

「まあいいや、じゃあ爪を広げて飛び降りろよ」

「しっかり受け止めろよ、カルン」

普洱が爪を広げて降りてきたのを受け止めたのはカレンだった。

ケビンが近づいてきて、カレンに普洱を背中に乗せさせた。

「バカ犬、帰宅したら木登りを教えてやる」

「……」ケビン

「お主様」アルフレッドがカレンの口元を指で示した。

カレンはパヴァロ先生の位置を見やると、膝まずいていた彼が爪で自分の顔皮膚を引き裂いているのを目撃した。

「急いでないわ」

「ずっと待たされてるのは私よ」パヴァロ先生が言った

カレンはその場に立ち尽くし、パヴァロ先生が爪先から指先までゆっくりと自らの顔皮膚を剥ぎ取る様子を見ていた。

するとパヴァロ先生はカレンに向かって両手で顔皮膚を持ち上げて言った

「ありがとう。

あなたのおかげで信仰に確信が持てるようになったわ。

本当の秩序の光を見たわ」

「秩序の光はいつもお主様の身近にあるわね。

でも本音を言えばもう見たくないわ、疲れるし危険だし;

うちのテラスへ行ったことある?日当りの良い温室があるのよ。

そこで太陽光を浴びるだけで満足なの。

今度帰ったら一緒に行こう」

そう言いながらカレンはパヴァロ先生が持っている顔皮膚を受け取った。

顔皮膚を持ち上げた瞬間、パヴァロ先生は両手を離さずに固まったまま

死んだ

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