明ンク街13番地

きりしま つかさ

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第0150話「『家』へ帰る」

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「家」へと戻る途中、カレンは廊下に立つ二人の姿を認識していたが、それでも秩序神教への賛辞を口にした。

その一重根は、この儀式を踏まないで済ませられないと心地よい不満が残るからだった。

二重根は、レマルが秩序神教を嫌悪していることを知りつつも、彼女たちが自分に提供してくれた「仮面」への返礼として、一見無害な「黒い秘密」を共有することで距離を縮めようとしたからだ。

カレンの口から出るその言葉は、彼女の祖父が神前で否定した「啓示」を軽々しく繰り返すものだった。

レマルの青い瞳孔が金貨のように輝く様子に、セリーナは純粋な驚きを浮かべた。

洗髪後の白シャツ姿で髪を揺らして見せるような演出など、男としての最低限の知恵すらない行為と感じていたからだ。

カレンがレマルの前に進み、胸元に手を添えて半礼をした瞬間、レマルは家族伝統の挨拶で応じた。

「あなたには恩返ししたい。

機会があれば必ず」

「お言葉ですが、そのようなお言葉は頂く必要はありません。

私がこうしてあるのは、姉妹を救ったご恩に報いるためです」

「申し訳ありません。

先日店頭で私は確かに不適切な行動を取りましたが、これは友人からの信頼を裏切るわけにはいかないからです。

セリーナが私の隣に座りながらポテトチップスを食べている様子は、普通の大人なら誰もが守りたいと思うでしょう」

「でも私はもう大人なんですわ」セリーナは不満げに眉をひそめた。

男性が自分を「妹」と見なすことに抵抗を感じていたのだ。

「あなたはとても可愛らしいわね」カレンが笑みを浮かべ、レマルを見つめる。

「貴方には可愛いお姉さんがいらっしゃいます」

「あーあ、あの腕のボルトは逆ネジだったんですよ。

今では外れそうに」

「えっ……」カレンは言葉に詰まった。

「たった一粒の指輪など、あなたがセリーナを救ってくださったご恩には比べ物にならないわ。

うちの娘は陶芸は苦手ですが、お菓子作りなら上手です。

カレン様のお宅までお届けに」

「ええ、ぜひどうぞ」セリーナが即座に同意した。

「楽しみにしております」カレンは頷いて受け取った。

レマルのポケットから飛び出したデザイン図とペンを受け取り、自身の住所と連絡先を記入する過程で、ふと彼女の視線がレマルの青い瞳孔に吸い込まれた。



レマルに渡した後、レマルはカレンの前でそのまま妹に手渡した。

セルリーナが真剣に折り畳んでポケットに入れた。

カレンはその「兄」の態度の急変に違和感を覚えつつも、普洱を使った実例がある家であることを察していた。

「ところでレマルさん、血霊粉を購入できる場所をご存知ですか?」

「血霊粉?私は少し持っています。

必要ですか?少々お待ちください」

「私も行きましょう」

「絶対にいけない!!!」

レマルが声のトーンが高いことに気づき、妹に向かって笑った。

「倉庫は汚いから、カレンさんに再びお茶を淹れさせよう。

彼はまだ寝起きで喉が渇いているはずだ」

セルリーナを連れてカレンがリビングに着くと、セルリーナがお茶を淹れながら肉松パンも用意した。

お茶と共にパンを食べ終えたカレンは、「セルリーナ姉さん、もう少し持ってきてくれませんか?」

セルリーナが喜んで一皿取り出し、カレンが一つ食べた時、レマルが「小粉袋」を持って近づいてきた。

カレンは立ち上がり両手で受け取った。

「今日は本当にありがとうございました、レマルさん」

「どういたしまして。

私もあなたと友人になれて嬉しいです」

「ええ、君は良い友達だよ」

「それからヨークシティでは最近血霊粉の流通量が豊富ですが、闇市場で買うならさらに安価になります」

「血霊粉も貴方の仕事に必要な材料ですか?」

「たまには必要です」

「その場合はレマルさんもこの数日中に多めにストックしておくことをお勧めします」

「そうか。

貴方が大量に必要なのか?」

「いいえ、おそらく近々流通量が減り不足するでしょうから」

「分かりました。

今晩闇市場で注文しておきます。

もし追加が必要なら連絡してください」

「良いですね。

戒厳令は免除ですが、この血霊粉と次回の仕入れ分についてはポイントを計算しておいてください。

友人낟らしく公平に扱ってほしいのです」

「もちろんです」

「では失礼します。

またのご来店をお待ちしております」

カレンがパンと血霊粉を持ち陶芸館を出ると、アルフレッドは車内で寝ていたが足音で目覚めた。

すぐに降りて回り込み荷物を持ってドアを開けた。

「おやじ?」

「大丈夫です」

カレンが副席に乗り込んだ。

「あのパンは君の分だよ」

「了解です、おやじ。

運転しながら食べます」

アルフレッドが車を発進させた時、目的地は尋ねなかった。

血霊粉の袋を見たからだ。

貴族様の次の行き先はパヴァロ家葬儀社以外にない。

ブルーブリッジ地区に入った頃には夕暮れだった。

カルンは今日の空を特に澄み切っていると感じていた。

アルフレッドが車をパヴァロ家葬儀社の向かいに停めた。

「貴族様、到着です」

カルンがうなずくと紫の光が一瞬だけ輝き「パヴァロ」氏がアルフレッドの前に現れた。

「おや……」

「魔眼で確認してみるといいでしょう」

「はい、貴族様、ごめんなさい」

アルフレッドの双眸が赤くなり上下から観察すると驚嘆した。

「全く見分けられない。

本当にパヴァロ氏が蘇ったみたいだ」

「陶芸館のレマル氏はヴォース家の人間です」

「ヴォース家?地獄の神に魔人を造り地獄を震撼させた一族の末裔ですか?」

「はい」

「なるほど、凄まじい。

おや、貴族様、その声もパヴァロ氏と全く同じで気づかなかった!」

「そうだったのかな……まあいいでしょう。

私は下車するわ」

「貴族様、一緒に行きませんか?」

「まずは一人で行ってみよう。

パヴァロ氏の身分を引き継いだ以上、向き合わないといけないこともあるから」

「貴族様、レク夫人にはお知らせしますか?」

カルンが一瞬迷った。

「この身分は明かさない方がいいわ。

まずは様子を見てみましょう」

「はい、貴族様の深いご配慮です」

カルンが血霊粉を持って葬儀社に入ると今日は客もいない冷清な門前だった。

中にはピックとディンコムが座っていた。

ピックは憂色を帯びた顔をしていてディンコムは手元の本に没頭していた。

以前から知っているカルンにとってピックは誠実で信頼できる人物、ディンコムは器用だが悪くはないという印象だった。

カルンが入ると同時に二人は立ち上がり来訪者を見上げた。

するとピックは椅子を後ろに倒しそのまま床に転んだ。

ディンコムの本も「バチーン」と音を立てて地面に落ちた。

「ボス!」

「ボス、帰ってこられたんですか?」

彼らとパヴァロ氏は主従関係だが師弟のような雰囲気だった。

「うん、帰ってきたわ。

私のこと調べたら無罪放ちになったのよ」

明らかに葬儀社には「パヴァロが脱獄して殺された」という知らせは届いていなかったようだ。

「ほんとですか!素晴らしい!」

「本当に素晴らしいですボス!」

二人は大喜びし胸を合わせて同時に叫んだ。

「秩序を賛美せよ!」

するとレク夫人の足音が聞こえ、彼女が顔を出した。

カルンを見た瞬間目頭を染め抱きついてきた。

首元を叩くように殴りつけた後もそのまま絞め上げ続けた。

「チィィィ……本物だわ」

そして打った後にさらに絞め上げるという暴挙に出たのだ。

カルンはその場に立ち尽くし任せておくだけだった。



自分がパヴァロ先生の身代わりをした以上、受けなければならない罰だった。

「畜生!畜生!畜生!畜生!」

二人の店員が即座に女主人を引き離す。

「お母様、秩序の鞭は状況を調べ上げました。

主人は無罪です」

「主人が帰ってこられたんですわ、お母様。

いいことですねえ」

引きちぎられるように引き離されたレック夫人は、カレンの太腿に足を振り上げた。

「きゃあ!」

これは本気で力いっぱいだった。

引き離されてもレック夫人は手を止めるつもりがなく、むしろ二人の店員から逃れようとして、帰宅した主人に向かってさらに殴ろうとした。

パヴァロ先生が家にいた頃の生活がこれだということになる。

カレンが荷物を持ち上げた。

ディクムがすぐさま受け取り、開けて驚きを顕わにする。

「お母様、主人が血霊粉を持って帰ってこられました」

「えっ?」

レック夫人はようやく主人のほうを見やった。

ディクムから荷物を受け取ると確認した瞬間、笑みが浮かんだ。

「僕たちを誤解させたので、これで償いに」とカレンが説明する。

だがレック夫人はカレンの弁を聞く気もさらさらない。

彼女には二つの娘が苦しみを受けているという事実しかなかったのだ。

「ピク、水を沸かせよ;ディクム、お風呂桶を洗って」

「承知です、お母様」

「分かりました、お母様」

レック夫人は二人の娘の部屋前まで行き、鍵を外してドアを開けた。

カレンもためらいがちにそのあとについていった。

室内の腐臭は以前よりも強かった。

血霊粉の使用が止まった頃からだろう。

パヴァロ先生が逮捕され殺された後、二人の神職店員だけでは血霊粉を手に入れる手段がなかったからだ。

二人の娘たちの体の腐敗状態は前回よりも酷く、ほぼ半数の皮膚が膿んでいた。

家にはボイラーがあるはずで、水を沸かす速度は早かった。

ディクムが風呂桶を拭き終えるとすぐに適温の湯を入れた。

二人は笑みを浮かべて部屋から出て行った。

二つの娘たちがお風呂に入った後の時間帯には、家の中の雰囲気が明らかに和らぐのだ。

主人の眉根は緩んだし、レック夫人も口数が減った。

しかし彼らはドアを閉めたままだった。

これまで二人の娘たちがお風呂に入った際、自分という「父親」もその場にいたのかどうか。

レック夫人は二つの娘たちの服を脱がせ始めた。

衣服と膿んだ体が一体化しているため、脱がす際に痛みが出るはずだが、二人の娘たちは一言も声を出さなかった。

おそらくこの程度の痛みには慣れているのかもしれないし、あるいはお風呂で解放されるという希望から我慢できているのかもしれない。

カレンが近づくとレック夫人は自然に脱いだ服をカレンに渡した。

カレンはそれを隣の桶に入れた。

父娘として適切な距離を保つべきではあるが、目の前の二人の娘たちの衣服が剥がれると現れる広大な腐敗部分を見れば、そんな些細な問題など気にならない。

レック夫人は二つの娘たちの服を脱がせ続けた。

彼女は娘たちの体に触れた瞬間から、もう主人の存在など眼中にないようだった。



ふたりの娘が父親の帰宅を知ると、自然と体を寄せ合い、父との距離を縮めようとした。

カレンも積極的に近づいたが、互いに接近した瞬間、ふたりの娘は彼から身を引くようにし、目線を合わせないようにした。

レック夫人は娘たちの服を脱がせ終えると、バスタブのそばへ向かい、カレンは彼女が半袋の血霊粉を投入し、手で混ぜる様子を見ていた。

カレンはレマルにこの半袋の血霊粉が市場価格いくら点券なのか尋ねなかったが、明らかに高額だろう。

その分だけ使うとパヴァロ氏も負担に耐えられまい。

しかしカレンはそんな問題を気にする必要はない。

自分の給与や他の収入源で十分な点券を得られない場合は、アラン家に直接電話し、ボーグが毎月血霊粉かその購入用の点券を送ってくれるように頼むだろう。

おそらく二日もすればラファエル家の滅亡の知らせが届く。

その際、アラン家は大患を除きつつ、機会があれば彼らの工場を回収するはずだ。

その中には元々ラファエル家にあった血霊粉工場も含まれるかもしれない。

カレンは自身の生活からアラン城の影響を排除できるが、パヴァロ氏の娘たちにはそれを強いるつもりはない。

迂闊な男ではないのだ。

さらに、パヴァロ氏の調査がラファエル家の滅亡につながった以上、アラン家が得た大利益から、その娘たちへの配分は当然のことだろう。

「よし、抱いてこい」

レック夫人が言うと、カレンはひとりの娘を抱き上げた。

軽い体だった。

本当に体重がない。

彼女の震えを感じながら、カレンは思った。

この子は……怖れているのか。

最初の娘をバスタブに放り込んだ後、もうひとりも抱き上げる。

こちらも震えていた。

ふたりが浴槽に入るとすぐに「解放」という表情が浮かんだ。

泡が次々と湧き上がり、黒い水が浮かび上がる。

体中の汚染物質が排出されているのだ。

しかし血霊粉は根本的な解決策ではない。

時間とともに再び蓄積するだろう。

いずれ機会があれば、プールとケビンに診察してもらいたい。

彼女たちのうちひとりは祥瑞そのもので、もうひとりはそれ以上にもなるかもしれない。

何か別の方法があるかもしれない。

「あー」

レック夫人がため息をつき、娘たちの安らかな表情を見ながら微笑んだ。

「よくぞ来た」

「うん」

「うん」

彼女は夫を見やると、カレンが娘を抱いて服を汚したことに気づき、「こっちへ来なさい。

新しい服を持ってくるわ」と言った。

二人は寝室に入った。

「今回はお疲れ様」

レック夫人は服を探しながら言った。

「いえ」

「いえ」

「秩序、秩序、秩序! もし秩序の神が本当に見ていたなら、娘たちをこんな目に遭させるはずがないのに!」

カレンは言葉に詰まった。

彼女と一緒になって神様を罵ることはできないからだ。

レック夫人はコートをベッドに投げつけた後、「お腹減った?」

と尋ねた。



「腹が減ったわ」

カレンは頷いた。

パンは腹を満たすだけだ、本格的な食事にはならない。

「コートを着替えて、汚れた服は床に捨てておきなさい。

あとで私が洗います」

レック夫人は寝室から出て行った。

カレンがコートを着替えた後、レック夫人はすぐに食事を運んできた。

大きなグラスの牛乳、パン、ベーコン、ソース類が書机の上に並べられた。

カレンは書机の後ろで座り、食べ始めた。

レック夫人はパヴァロ氏を罵り続けた。

正確には「自分が盲目的だった」という内容で、「銀行支店長の副支店長と結婚した方が良かった」とまで言及していた。

カレンは黙って食事を続けた。

彼はパヴァロ氏が普段からこのように振る舞っていることを知っていた。

カレンが食べ終える頃、レック夫人はようやく罵り足りないのか、あるいは疲れたのか、最後にカレンの肩を強く絞った。

牛乳を飲み込もうとしたカレンは痛みで噴き出しそうになったが、耐え抜いた。

ある種の儀式のように、レック夫人は深呼吸をして満足げに笑みを浮かべた。

「娘たちを見に行きますわ」

そう言いながらレック夫人は寝室から出て行った。

ドアが「バタン」と閉まった。

その直後、レック夫人は娘たちの部屋へ向かわず、むしろ寝室のドアに背中を預けて、一気に精気を失ったように崩れ落ちた。

床に座り込んだ彼女は衣領を強く握り締め、唇を噛み締めながら、声も出さずに涙が溢れてきた。



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