【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。

木嶋うめ香

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可愛そうな王妃達

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「王妃の役割、何故それを私が知らずお前が知っている」

 苛々と爪を噛みながら、シオン殿下はお兄様を睨みつけています。
 不安そうなスィートピーが隣に座っているというのに、気遣う様子は一切ありません。
 この人はスィートピーを愛していると言いながら、その行いは私を婚約者にしたあの人同じ自分勝手で自分の気持ちだけが大切、愛しているといいながらスィートピーの様子等どうでもいいとばかりに苛立ちをお兄様に向けているのです。

「それは父は前陛下のお子として生まれながら、魔神の子だからです」
「どういう事だ、魔神? それはなんだ」
「おや、シオン殿下はこの国の王太子でいらっしゃるというのにまだ王家の真実をご存じではないのですか」
「真実だと」

 私は早くに王太子妃教育を終えました。
 王太子妃教育を終え、王妃様と共に魔神と会い王家の秘密を教わりました。
 王太子妃の教育等、基本的な上位貴族の令嬢としての教育を完璧に行われていれば後はひたすら王家への忠誠と感情を外に出さないという教育を繰り返されるのですから簡単です。
 魔神は早くから私を認めていたそうですが、まだ幼いからと王妃様が止めて下さっていたそうです。
 私を認めるのとは逆に、シオン殿下は未だに魔神に認められてはいません。

 王太子の教育も実は王太子妃教育と似た様なものです。
 大切な王太子としての役割等は成人後に実務を行いつつ陛下自ら行われますが、シオン殿下は感情を外に出さず冷静に判断し、好んでいる事嫌っている事を他人に悟られない様に動くという部分がどうしても出来ず、王家の真実である魔神については知らされていませんでした。
 自分勝手で世界は自分の為にあると言わんばかりの方です。
 そう育てたのは、シオン殿下を甘やかし続けた陛下と王妃様ですから、家庭教師達が何を言ってもシオン殿下が納得するわけがありません。
 魔神は王家と契約し、陛下の願いを何でも叶えると言われている存在です。
 願いを叶える代償として、陛下は最愛の人を魔神の妻とし世継ぎ以外は自分の子を残せず魔神の子を自分の子として認めるのです。
 心の中で何を考えていても他者に悟られず、自分の思い通りに周囲を動かせる能力がなければとても魔神の話を知らせることなど出来ないのです。

「ふふふ、陛下はまだ王太子としてあなたを認めてはいないのですね。ああ、陛下ではなく魔神が認めていないんですね。これは面白い。魔神に認められる前に子を授かるなんてね」
「どういう意味だ。私はこの国でただ一人国を継ぐ資格があるのだぞ」
「資格、そうでしょうかね。魔神よもういいのではないですか」


 お兄様はどこかを見ながら、そう呟きました。
 その声は私にははっきりと聞こえたというのに、シオン殿下にもスィートピーにも届いてはいない様です。

「スィートピーお前は父達が戻ったら一緒に王宮に行きくんだ。そうしたらお前は二度とこの屋敷には戻れないだろうから、大切な物は持って行くといい」
「そんな、お兄様どうして。ねえ、お姉様は亡くなってしまったの? どうしてなの」

 私がふざけているのではなく、本当に動かないと気がついたのでしょう。スィートピーは殿下に縋り付いていた手を離し、彼の側からも逃げようとしています。
 ですが、妹のその判断は遅かったようです。

『残念だ、お前は私の好みだったのに』
『魔神様』

 先日お会いしたばかりの魔神が、いつの間にかこの部屋に来ていました。
 王太子妃教育を終えた私は、次の妻として魔神との顔合わせを現在の妻である王妃様と一緒に行いました。
 王妃様は私を魔神に紹介し、王家の秘密を私に告げた後部屋を出て行きました。
 魔神と二人きりになった私は、王太子である彼を少しも好いていないとすぐに見破られましたが、兄を慕っている事も同時に気付かれてしまいました。
 相手が王でなくとも、王家の血筋だと今の陛下が信じている者を愛しているなら同じだと笑う魔神は、シオン殿下よりも余程私にはマシな人に見えました。
 
『今の王妃はいいが、あの娘は好みではないな。暫く王妃には頑張ってもらうとするか』
『スィートピーは愛嬌のある良い子ですが』
『あやつは誰も本心から好いてはおらぬ。あれが腹に王子の子を宿したのは、お前への敵対心から。そんな者を甚振っても面白くはない』

 姉の私をあんな風に思っていたとは知りませんでしたが、私の前であの子は姉を慕う無邪気な妹でした。
 懐姙しているということは、今後殿下の形だけの妻となるということです。
 殿下をいくら慕っていても、閨を共にするのは魔神ただ一人だけ、心の底から殿下を思っているのならそれはとても辛いことでしょう。

『お前の魔力はとても好みだった。お前が望むなら生涯私の妻としてやるが』
『私を妻にすれば、今後王妃を妻とするのをやめてくださいますか』
『それは無理な話。お前は王家の歴史を学んだのだから知っているだろう?』

 私はお兄様達の様子を見ながら頷きました。

 昔々、魔神にこの国は救われました。
 国に疫病が流行り、水害までおきたのです。
 当時の王は、自分の身を捨てても国を守りたいと禁忌に手を出しました。
 それが魔神召喚でした。

 王に呼び出された魔神は、国を救う対価として王が心の底から愛する王妃を妻とすることを望みました。
 それが出来なければ、国民たちから魔力を吸い上げすべての民を屍にすると脅したのです。
 王は嫌がりましたが、王妃は自分の身で沢山の命が救われるのならと、魔神の妻になると誓いました。

 魔神の妻となってからも、王妃は人の国で暮らし続けました。

 魔神の住む国では、人は暮らせなかったからです。
 長い年月王妃は魔神の妻で居続け、人の王のお飾りの妻で居続けました。
 やがて王妃が年を取り、その身が儚くなると魔神は王妃の息子の妻を新たな妻として望みました。
 息子もまた魔神の申し出を拒絶しましたが、民の命を盾にされ、妻を泣く泣く差し出したのです。

 何代にも渡り歴代の王妃達は、魔神に嫁ぎました。
 夫である王を慕えば慕うほど、魔神は酷いやり方で王妃の心を傷付けました。
 互いを信じる心が、民のためという理由をつけて自分の妻を差し出すのです。
 その刹那、王妃の心は絶望に染まるのです。
 そして魔神はその絶望した瞬間の王妃の心を閉じ込めてしまいます。
 傷ついた心を体に閉じ込められた王妃は、王を慕う心を残したままただ一人の夫と魔神に仕え、本心から慕う本来の夫が側妃の元へ通う様を見続けるようになります。
 魔神に心を操られているわけでもないのに、王妃を忘れ側妃を寵愛する夫を見続けるのです。
 王妃の心を救うのは、己の死だけです
 王太子妃も王妃と同じ道を辿りますが、魔神の妻になるのはどちらか一人、魔神が気に入った方だけです。
 でもそれを陛下も王太子も知らず、懐妊した直後から側妃だけを寵愛する様になるのです。
 そうして王妃と王太子妃は魔神に比べられ続け、魔神が王太子妃を王妃より気に入れば、王太子妃が魔神の妻になる日に王妃の命はこの世から消えます。
 そして屍の姿で魔神が飽きるまで、彷徨い続け王宮の者たちは死に気付かず普通の生活を続けるのです。
 優しい王妃だ、優秀な王太子妃だと崇めながらそれはもう死者なのだ。楽しいだろう?
 初めて会った魔神にそう言われ、私はその場で命を絶ちたい衝動に駆られました。

 例えば私が嫁ぎ運良く魔神に気に入られ王妃にまでなれたとしても、死の恐怖とは別の苦しみは続きます。もう開放されたいと願っても、次の王太子妃が気に入られなければ、王妃の苦しみは年老いてからも続くのです。
 
 魔神にとって、女性の若さや老いは関係ありません。妻である人間の女性の悲しみや苦しみを、甘いお菓子の様に美味だと味わい続けるのですから。
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