【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。

木嶋うめ香

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魔神との賭け

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『お前は面白い事を言う。私の妻に、死んだ身でなるというならそれは永遠の時を一緒に過ごすと言う事』
『そうなるのであっても構わないわ。私を最後の妻にするのであれば、それでいい。ずっと魔神と同じ時を生きましょう。ただし私の願いを叶えて欲しいの』

 言葉を荒げお兄様に怒鳴り続けるシオン殿下を見ながら、私は魔神はどう出るだろうと横目で様子を窺いました。
 魔神にとって好ましいのは、ずっと妻である私の心が悲しみ続けること。
 それが叶えられるとしたら、私の願いを聞いてくれるでしょうか。

『願い、言ってみろ。死んだ身で派手なドレスを強請るかそれとも宝石か。ああ、分かったあの王子とお前の妹への罰だな。そうだろう。どうする? 醜い顔に変えるか、顔中にいぼをつけ膿でじくじくと痛み続ける呪いでも付けようか』

 くっくっくと笑いながら、魔神は私が何を願うか楽しみにしている様です。
 私が本気で二人への復讐を願うと思っているのでしょうか。
 いいえ、これはある意味復讐なのかもしれません。

『お兄様をこの国の王に、私への記憶は残しても思いは消して、王として迎えた王妃をただ一人愛し大切にする。愛した王妃と生まれて来る子を大切にし、国民を大切に守り国と富ませる王に。そして私の事等記憶にはあっても思い出しもしない薄情者にして欲しいの』
『お前もあれへの思いを消すのか?』
『いいえ、私はお兄様への気持ちは永遠にそのまま、私の愛する人はお兄様だけれど私の望みを叶えてくれるのなら、他の人を愛し妻にするお兄様を見守り続ける。心で血の涙を流し続けながらお兄様もお兄様の子もその先も見守り続けるわ』

 シオン殿下が王になってしまえば、魔神の力があってもこの国の民は苦しむでしょう。
 お兄様は私の事が無ければ優秀な方です。
 きっと賢王と呼ばれる人になるでしょう。

『ふん、お前はその為に私の妻になると』
『そうです。ただ魔神の好む心にはならないかもしれませんが』
『どういう意味だ』
『お兄様が私への思いを忘れ妻を娶り、その女性を愛したとしたら私はとても苦しみ悲しむことでしょう。今想像しただけで涙が出そうな程辛いのですもの。でも今までの王妃達の様に私は魔神が怖くないし厭ってもいないのですから、あなたの妻になる恐怖はありません』

 魔神の目を見つめそう言えば、魔神はきょとりと子供の様な顔で私を見つめた後で大声で笑いだしました。

『これは面白い。お前は私を怖くないというのか』
『ええ、闇の中にポツリとある炎の様なその目も、墨の様に黒い髪や肌も、どんな動物の角よりも鋭いその二本の角も怖くはありません。私にはシオン殿下の妻になる方が辛かった、きっと死を賜るよりも辛かったわ。あの人の妻になり子を授かり、その子を育てるなんて』

 あの自分だけが大切で、お兄様を苦しめるためだけに私を婚約者に選んだ様な人。
 私が側にいることを厭い、何か気に入らない事があれば火傷しそうに熱い紅茶を私に浴びせ、茶器を投げつけ怒鳴り続ける。
 あんな人の妻になるのは、苦しいだけ。
 それをしなくても済んだのは、スィートピーのお陰とも言えるわ。

『私の心はお兄様の物。魔神を愛する事は出来ませんが、あなたには私と会話をしようとしてくれる。あなたを愛せない私はお兄様を思い苦しむでしょう。お兄様が妻を愛する姿を見て悲しむでしょう。でもそれでいいの、私はお義兄様が幸せならば、それでいいの』

 お兄様が私への気持ちを忘れる。
 自分で願っておきながら、そんな事にはならないで欲しいと心の底では思ってしまいます。
 でも、私が死んでしまった今、お兄様が私を覚えていていたらきっとずっと私を思い続けるでしょう。
 私を生涯忘れず思い続ける、お兄様はそういう方です。
 それは悲しすぎる事です。
 私は苦しくても、悲しくてもお兄様には愛する人と結ばれて欲しい。そう思うのです。

『あれは私の子の子供、あれが王になれば王家の血筋は耐えるぞ』
『契約等、すでに王家は誓いを反故にしているのに魔神だけが律儀に守ろうというのですか』
『何を言う』
『王家は、王は最愛を王妃にしてはいません。シオン殿下は自分の欲望に忠実で嫌いな私を王妃にしようとはしませんでしたが、今の陛下の最愛は側妃です。最初から王妃様では無かった』

 王妃様はお父様を愛していました。
 お父様の最愛はお母様と知りながら、それでも王妃様はお父様を愛していたのです。

『私は妻にする者の苦しみと悲しみを糧に出来れば、誰を思っていようと構わなかった。だが、そうだな契約を結んだ王の子孫が苦しむ事なくいるのに、それに付き合わされる王妃だけは苦しい等魔神を馬鹿にしている所業だな』

 魔神は怒鳴り続けるシオン殿下を見た後、自分の事だけを心配するスィートピーを見てにやりと笑いました。

『お前の願いを叶えるかどうか、魔神と賭けをしてみないか』

 にやにやと笑いながら、魔神は私にある事を告げたのです。
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