【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。

木嶋うめ香

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愛を誓う

『その善き神というのは』

 長い長い話が終わり、ふと気がつくとスィートピーはお父様に頬を打たれて泣き喚いています。
 シオン殿下はそれを見ても止めようとすらしておらず、お兄様は泣いているお母様を慰めています。
 声は魔神の力でこちらには聞こえてはきませんが、声が聞こえずとも、スィートピーの金切り声が耳に届きそうな氣がしました。

『魔神のことだ』
『あなたは、王妃を恨まなかったのですか』
『恨む? 何故』

 魔神の話が本当だとすれば、呪いを掛けたのは白き善き神の仕業です。
 黒き善き神とは別れて、別のものになった白き善き神は
黒き善き神が哀れだと王家に呪いを掛けました。
 それは恨み故の行いでしょう。
 でも、黒き善き神の、魔神になったこの人の思いはどうだったのか、それが気になりました。

『あなたは王妃に何を感じたのですか』
『……魔神は、いいや黒き善き神は、悲しかったのかもしれない。人の心が分からない、魔神にも黒き善き神にも心は分からない。人のものもそれ以外も』
『それでも悲しいと感じたのですか』
『白き善き神は言った。王宮にいるのは辛いと、こちらから望んだわけでもない対価を払った結果恨まれては辛いと言ったから、神殿に向かえと言った。一つだった善き神はその時完全に二つに別れた』


 善き神は、私を抱き締めたままの魔神の本来の姿。
 腹に子がいるというのに、お父様から逃げようと暴れ続けるスィートピーを見ながら、心を闇に染めるしか無かった当時の魔神の心を思いました。
 白き善き神の思惑はわかりませんが、最初の王妃の悲しみや苦しさを受けて心を闇に染めてしまった魔神は、苦しみ続け幸せになれない呪いをかけられた王家に契約で縛り付けられて、今日まで来てしまいました。
 その間、どれだけの王妃達の悲しみを受けて来たのでしょうか。
 魔神が苦行と感じることが出来ずに、ただ悲しさを感じていただけだとしても、その心を思うだけで私の心が潰れそうになってしまいます。

『手を離して下さい』
『あぁ』

 躊躇うことなく離された腕の中で、私は向きを変え魔神の方を向きました。

『私は決めました。お兄様の記憶から私への思いを消して下さい。そしてお兄様を王に』
『お前は魔神の妻となり、苦しむのか。魔神がなぜ今の話をしたのか分からないのか』

 私の苦しみを受けるのが辛いのでしょう。
 人の苦しむ姿は面白いといいながら、本心ではそれを悲しんでいたのですから。
 ずっと、ずぅっとたった一人で。

『男女の思いは、私の思いはずっとお兄様へ。それは変わらないでしょう。けれど、私はあなたを恨まない。私は永遠にあなたの側にいて、あなたを家族として愛すると誓います。魔神、いいえ黒き善き神。今まで国を守ってくれて民を守ってくれてありがとうございます。この国の王妃になるかもしれなかった私の感謝の気持をどうぞ受け取ってください』

 国はとても豊かです。
 穏やかな日差し、嵐すら起きない温暖な気候。
 実りは豊かで、民達の気性は良く勤勉です。
 でもそれは、魔神が自分の心を闇に染めながら守ってけれた結果なのです。
 私達の幸せは、魔神の心を壊した結果得られたものなのです。


『家族として』

 私の心は今でもお兄様を求めています。
 ですから、魔神を夫として愛することはこれから先も出来ないでしょう。
 でも、愛の形はそれだけではないのです。
 
 親が子供に向ける愛、兄が妹に、妹が兄に向ける愛、そういった愛もあるのです。

『ええ、家族として。あなたが不安なら、父のように力強くあなたを守ります。あなたが寂しいなら、母のように優しい愛であなたを抱きしめます。あなたが退屈なら、共に育った仲良しの兄妹のように、あなたが愉快な気持ちになるまで歌を歌い楽器を奏でましょう』
『それは、素晴らしい、だがお前はいつか私を疎ましく思うようになるだろう。私さえいなければと思うようになるだろう』

 本気では無い顔で魔神は私の言葉を聞いていますが、それだけです。

『私はあなたが守ってきた国の民の一人です。私が病なくひもじく思うこともなく生きてこられたのは、魔神の守りのお陰、あなたが心を闇にしてまで守り続けてくれたお陰です。そんなあなたを疎ましくなど思わない。私は本心からの妻にはなれないけれど、それでもあなたの家族にはなれるわ。ずっとずっと側にいて、こうして抱きしめる』

 私は両腕を伸ばし魔神に触れました。
 死んでしまった私は、魔神を温めることは出来ませんが感謝の気持を胸に、傷付いた魔神を労ることは出来るのです。

『あなたに感謝を、民達すべてを代表して言います。今まで守ってくれてありがとうございます』

 恐れはもうありませんでした。
 私の心にあるのは、悲しい魔神の心を癒やしたい。
 その思いだけだったのです。

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