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乙女ゲームと前世の記憶
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「シード神様の下へと旅立つ魂よ、この世の苦しみや悲しみから解き放たれ、安らかなる眠りにつく」
大神官様の祈りが始まり、私は俯き瞼を閉じました。
この国での葬儀は、喪主的な立場のものは葬儀が終わり石棺の蓋が閉じられるまで弔問客とは会話をしません。
まあ、一般的にはなので大っぴらでなければ会話を咎める人もいませんが、兄もディーンも私に会釈したのみで席に着いています。
まさか二人が一緒に来るとは思いもしませんでした。
大神官様との会話の後、白地に黒い縁取りの薄いベールを被った私が石棺の前の席に一人で座っていると、タオが兄達の到着を耳打ちしてきました。
リチャードはあの子供と、神殿の目立たない場所に控えている筈です。
今回は仮の葬儀の為、弔問客は兄だけの筈で後は私と屋敷の使用人達のみの筈でした。
ディーンに知らせたとは誰も言っていなかったので、こちらから呼んだわけではなく、兄が彼に声がけしたのでしょう。
「……彼も」
思わず声が出てしまい、慌ててハンカチで口元を覆いました。
薄く瞼を開き、ベール越しに周囲を覗いましたが、誰も気にしてはいないようです。
危ない、危ない。
危うく変な独り言を聞かせるところだったわ。
内心の動揺を、涙を堪えている様にスンと鼻を小さく鳴らして誤魔化しました。
私は突然の事故で夫を亡くした未亡人です。
ある程度仲を察している使用人達は兎も角として、ディーンと大神官様には取り繕わなければなりません。
攻略対象者、なんて葬儀の時にうっかり口にしていいものではありません。
ある意味私は動揺しているのでしょう。
何せ先程前世の記憶が戻ったばかりです。
前世の記憶を突然思い出したという感覚は、過去の自分がラノベを読んでいて想像していたのとは少し違う気がします。
何というか、一人称のアニメを全部一度に思い出した様な、上手く説明できませんがそういう感覚です。
自分が体験した記憶というより、過去の自分の記憶全部一本のアニメを思い出した感覚なのです。
でも不思議なことに前世の記憶の自分も、私だと分かるのです。
そして今世の私は勿論私です。
今世の自分、今まで生きてきたダニエラは他の誰でもなく自分そのものです。
誰かと入れ替わったわけではありません。
だからこそ、ダニエラの性格や行動がゲームとは異っているのでしょう。
ちらりとディーンの方に視線だけ動かして確認します。
なんと彼も私が前世でやっていたゲーム『白百合と白薔薇の乙女は恋に溺れる』の攻略対象者です。
このゲームは表の攻略対象者と裏の攻略対象者がいて、ロニーは表の攻略対象者、ディーンはロニールートの、裏の攻略対象者です。
表の攻略対象者とはハッピーエンド溺愛コースですが、ルート攻略を失敗し、裏の攻略対象者とのエンドを迎えると、ヤンデレとか監禁とかメリバなエンドを迎えます。
そして両方の攻略を失敗すると、ヒロインは破滅エンドを迎え、そのルートの悪役令嬢が表の攻略対象者とハッピーエンドになります。
ダニエラはロニールートの悪役令嬢の母親として登場しますが、現時点ですでに色々変わっているので、これからゲーム通りの流れになるのか分かりません。
ゲームはロニーが十七歳の時、学園の聖なる乙女を決めるイベントに平民の娘が立候補するところからストーリーが始まります。
白百合と白薔薇という聖なる乙女に二人の女子生徒がなれる。その栄誉を求め、女生徒達が半年間競い合うのですが、そこで攻略対象者達はヒロインと出会い惹かれていくというゲームです。
聖なる乙女に選ばれる為には様々なミニゲームを行い合格点を出さなければならず、その合間に攻略対象者の好感度も上げなくてはならず、かなりハードです。
おまけに攻略対象者はトラウマ持ちばかりでまともなキャラが少ないというのもゲームの特徴でした。
前世の私は何が楽しくてあんなゲームをしていたのか、今となってはよく分かりません。
大神官様の祈りが始まり、私は俯き瞼を閉じました。
この国での葬儀は、喪主的な立場のものは葬儀が終わり石棺の蓋が閉じられるまで弔問客とは会話をしません。
まあ、一般的にはなので大っぴらでなければ会話を咎める人もいませんが、兄もディーンも私に会釈したのみで席に着いています。
まさか二人が一緒に来るとは思いもしませんでした。
大神官様との会話の後、白地に黒い縁取りの薄いベールを被った私が石棺の前の席に一人で座っていると、タオが兄達の到着を耳打ちしてきました。
リチャードはあの子供と、神殿の目立たない場所に控えている筈です。
今回は仮の葬儀の為、弔問客は兄だけの筈で後は私と屋敷の使用人達のみの筈でした。
ディーンに知らせたとは誰も言っていなかったので、こちらから呼んだわけではなく、兄が彼に声がけしたのでしょう。
「……彼も」
思わず声が出てしまい、慌ててハンカチで口元を覆いました。
薄く瞼を開き、ベール越しに周囲を覗いましたが、誰も気にしてはいないようです。
危ない、危ない。
危うく変な独り言を聞かせるところだったわ。
内心の動揺を、涙を堪えている様にスンと鼻を小さく鳴らして誤魔化しました。
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ある程度仲を察している使用人達は兎も角として、ディーンと大神官様には取り繕わなければなりません。
攻略対象者、なんて葬儀の時にうっかり口にしていいものではありません。
ある意味私は動揺しているのでしょう。
何せ先程前世の記憶が戻ったばかりです。
前世の記憶を突然思い出したという感覚は、過去の自分がラノベを読んでいて想像していたのとは少し違う気がします。
何というか、一人称のアニメを全部一度に思い出した様な、上手く説明できませんがそういう感覚です。
自分が体験した記憶というより、過去の自分の記憶全部一本のアニメを思い出した感覚なのです。
でも不思議なことに前世の記憶の自分も、私だと分かるのです。
そして今世の私は勿論私です。
今世の自分、今まで生きてきたダニエラは他の誰でもなく自分そのものです。
誰かと入れ替わったわけではありません。
だからこそ、ダニエラの性格や行動がゲームとは異っているのでしょう。
ちらりとディーンの方に視線だけ動かして確認します。
なんと彼も私が前世でやっていたゲーム『白百合と白薔薇の乙女は恋に溺れる』の攻略対象者です。
このゲームは表の攻略対象者と裏の攻略対象者がいて、ロニーは表の攻略対象者、ディーンはロニールートの、裏の攻略対象者です。
表の攻略対象者とはハッピーエンド溺愛コースですが、ルート攻略を失敗し、裏の攻略対象者とのエンドを迎えると、ヤンデレとか監禁とかメリバなエンドを迎えます。
そして両方の攻略を失敗すると、ヒロインは破滅エンドを迎え、そのルートの悪役令嬢が表の攻略対象者とハッピーエンドになります。
ダニエラはロニールートの悪役令嬢の母親として登場しますが、現時点ですでに色々変わっているので、これからゲーム通りの流れになるのか分かりません。
ゲームはロニーが十七歳の時、学園の聖なる乙女を決めるイベントに平民の娘が立候補するところからストーリーが始まります。
白百合と白薔薇という聖なる乙女に二人の女子生徒がなれる。その栄誉を求め、女生徒達が半年間競い合うのですが、そこで攻略対象者達はヒロインと出会い惹かれていくというゲームです。
聖なる乙女に選ばれる為には様々なミニゲームを行い合格点を出さなければならず、その合間に攻略対象者の好感度も上げなくてはならず、かなりハードです。
おまけに攻略対象者はトラウマ持ちばかりでまともなキャラが少ないというのもゲームの特徴でした。
前世の私は何が楽しくてあんなゲームをしていたのか、今となってはよく分かりません。
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