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呆れる兄と感心する義弟
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「お前は、昔から人が良かったが、結婚して更に磨きがかかったのか」
兄の声には呆れが見えますが、同時に面白がっている気配もします。
これが本心から呆れて失望されたのであれば、話は終わったとばかりに兄は席を立つでしょう。
つまり、兄も乗り気ということです。
「あなたはそれでいいのですか」
「それでとは」
「あなたが正妻だというのに、そんな兄の不貞の子を守る様な……」
言いにくそうにディーンが尋ねてきます。
夫よりも弟の方が善人なのか、それとも兄の手前気を遣っている振りをしているのか分かりません。
「まあ、私は善意で言っているのではありませんわ。それに子を守る事になるかどうかは分からないでしょう。すでに彼は七歳、難しい事は分からなくても自分の親が誰かは把握している筈よ。今の状況もね」
「つまり?」
「自分の父親が誰なのか正しく理解している子に、いきなり知らない男性を連れてきてあなたの父親はこの人で、母親はこの人と結婚していたのよ。等と告げたら混乱するでしょうし衝撃も受けるでしょう。身分は何とか出来てもあの子供は悲しむでしょうね」
亡くなったあの子の母親も夫も屈辱でしょう。
愛し合っているのは相手ではなく、違う男と書類上だけでも結婚させられて子もそちらの実子とするのですから。
しかも葬儀もリチャードの妻として行うのです。
「こんな手続き、死者への冒涜としかならないわね。夫はさぞかし屈辱でしょう」
ほら、私はちっとも優しくありません。
「ふん。だから人がいいと言うんだ。自分が憎まれ役になって面倒事を片付けようとするなど、お前は自分が夫に何をされたのか分かっているのか?」
「理解していますが、その根底にあるのは私が彼に懸想していたという誤解ですから、彼だけを責めるのもどうかと思うのです」
困ったように頬に手を添えてため息をつけば、兄は馬鹿にしたようにフンと鼻を鳴らしました。
この人は何故か私の前では表情豊かなのですが、第三者のディーンがいてもそうなのは少し驚きです。
「誤解、それは本当に兄の誤解なのでしょうか」
「私が彼と会ったのは婚約が決まってからだというのに、それでどうやって彼を思えと言うのかしら。彼は社交界で噂される程に良い人だったのかしら?」
皮肉を込めてそう言えば、ディーンは無言になり兄へと視線を移しました。
「考えずとも分かるだろう。お前の母親がそう言って婚約を納得させたのだろう」
「母が……」
「お義母様ならやりかねませんね。どうしても平民の嫁が許せなかったのでしょう」
お義父様は我が公爵家との繋がりと未来の王妃の実家を求めての結婚としか考えていなかったでしょうが、お義母様にとっては家柄のいい嫁が来る程度でしょう。
「お前はそれでいいのか」
「すでに亡くなっていますからね。彼が生きているなら別ですが」
もしどちらかだけでも生きていたなら、何か変わったのでしょうか。
考えても仕方がありませんが、少なくとも毒を使ったことに関しては報復していた、それくらいでしょうか。
「何の興味もないというのが本心か」
「夫婦としての情はあると感じていましたけれど、勘違いだったみたいですし、彼が生きていないなら報復も出来ませんから」
私だけ一方的に思っていたら惨めだから認めたくないだけなのか、それとも本当にどうでも良かったのか未だに分かりません。
分かっているのは、ここが乙女ゲームの世界で私には前世の記憶がある。そしてゲームの展開通りであれば私の未来は破滅しかないということです。
「恨んでも仕方ないでしょう。そんなものに囚われるのは時間の無駄ですし」
リチャードやあの子供にそれが通じるか分かりません。
彼らを親子とすることで、ゲーム通りになる可能性は高くなるかもしれませんし、私という異物が入ることで変わってしまった一部が上手く作用してくれる可能性もあります。
「あの子供はリチャードの実子として、行く行くはあなたの養子にして欲しいの」
今すぐでなくても、ディーンが跡継ぎと決まりお義父様が亡くなった後(ゲーム通りなら数年後)にディーンがそうしてくれればいいのです。
「養子、ですか」
「あなたが結婚して侯爵家を継ぐ時の妨げになると考えるなら、リチャードの子としてそのまま育ててもいいわ」
ディーンは誰かと結婚していたのだったか、そこが思い出せません。
あの子を養子にしているから跡継ぎ問題は解決としていたのでしょうか、あのお義母様が? なんだか不自然な気がします。
「私は家に戻るつもりはありませんが」
「そうなの?」
それならゲームとは違う展開になるのでしょうか、その場合あの子をどうするか決めるのはお義父様になるのでしょう。
まあ、ゲームの展開なら私は家に戻りどこか別の家に嫁ぐのでしょうからこれ以上は関われませんが。
「でも、あなたが妻になって下さるならそうしてもいいですが」
兄が亡くなり弟に嫁ぐ。
それはこの国ではおかしい話ではありませんし言い出すならお義父様だと考えていましたが、まさかディーンからそれを言われるとは思ってもいなかったのです。
兄の声には呆れが見えますが、同時に面白がっている気配もします。
これが本心から呆れて失望されたのであれば、話は終わったとばかりに兄は席を立つでしょう。
つまり、兄も乗り気ということです。
「あなたはそれでいいのですか」
「それでとは」
「あなたが正妻だというのに、そんな兄の不貞の子を守る様な……」
言いにくそうにディーンが尋ねてきます。
夫よりも弟の方が善人なのか、それとも兄の手前気を遣っている振りをしているのか分かりません。
「まあ、私は善意で言っているのではありませんわ。それに子を守る事になるかどうかは分からないでしょう。すでに彼は七歳、難しい事は分からなくても自分の親が誰かは把握している筈よ。今の状況もね」
「つまり?」
「自分の父親が誰なのか正しく理解している子に、いきなり知らない男性を連れてきてあなたの父親はこの人で、母親はこの人と結婚していたのよ。等と告げたら混乱するでしょうし衝撃も受けるでしょう。身分は何とか出来てもあの子供は悲しむでしょうね」
亡くなったあの子の母親も夫も屈辱でしょう。
愛し合っているのは相手ではなく、違う男と書類上だけでも結婚させられて子もそちらの実子とするのですから。
しかも葬儀もリチャードの妻として行うのです。
「こんな手続き、死者への冒涜としかならないわね。夫はさぞかし屈辱でしょう」
ほら、私はちっとも優しくありません。
「ふん。だから人がいいと言うんだ。自分が憎まれ役になって面倒事を片付けようとするなど、お前は自分が夫に何をされたのか分かっているのか?」
「理解していますが、その根底にあるのは私が彼に懸想していたという誤解ですから、彼だけを責めるのもどうかと思うのです」
困ったように頬に手を添えてため息をつけば、兄は馬鹿にしたようにフンと鼻を鳴らしました。
この人は何故か私の前では表情豊かなのですが、第三者のディーンがいてもそうなのは少し驚きです。
「誤解、それは本当に兄の誤解なのでしょうか」
「私が彼と会ったのは婚約が決まってからだというのに、それでどうやって彼を思えと言うのかしら。彼は社交界で噂される程に良い人だったのかしら?」
皮肉を込めてそう言えば、ディーンは無言になり兄へと視線を移しました。
「考えずとも分かるだろう。お前の母親がそう言って婚約を納得させたのだろう」
「母が……」
「お義母様ならやりかねませんね。どうしても平民の嫁が許せなかったのでしょう」
お義父様は我が公爵家との繋がりと未来の王妃の実家を求めての結婚としか考えていなかったでしょうが、お義母様にとっては家柄のいい嫁が来る程度でしょう。
「お前はそれでいいのか」
「すでに亡くなっていますからね。彼が生きているなら別ですが」
もしどちらかだけでも生きていたなら、何か変わったのでしょうか。
考えても仕方がありませんが、少なくとも毒を使ったことに関しては報復していた、それくらいでしょうか。
「何の興味もないというのが本心か」
「夫婦としての情はあると感じていましたけれど、勘違いだったみたいですし、彼が生きていないなら報復も出来ませんから」
私だけ一方的に思っていたら惨めだから認めたくないだけなのか、それとも本当にどうでも良かったのか未だに分かりません。
分かっているのは、ここが乙女ゲームの世界で私には前世の記憶がある。そしてゲームの展開通りであれば私の未来は破滅しかないということです。
「恨んでも仕方ないでしょう。そんなものに囚われるのは時間の無駄ですし」
リチャードやあの子供にそれが通じるか分かりません。
彼らを親子とすることで、ゲーム通りになる可能性は高くなるかもしれませんし、私という異物が入ることで変わってしまった一部が上手く作用してくれる可能性もあります。
「あの子供はリチャードの実子として、行く行くはあなたの養子にして欲しいの」
今すぐでなくても、ディーンが跡継ぎと決まりお義父様が亡くなった後(ゲーム通りなら数年後)にディーンがそうしてくれればいいのです。
「養子、ですか」
「あなたが結婚して侯爵家を継ぐ時の妨げになると考えるなら、リチャードの子としてそのまま育ててもいいわ」
ディーンは誰かと結婚していたのだったか、そこが思い出せません。
あの子を養子にしているから跡継ぎ問題は解決としていたのでしょうか、あのお義母様が? なんだか不自然な気がします。
「私は家に戻るつもりはありませんが」
「そうなの?」
それならゲームとは違う展開になるのでしょうか、その場合あの子をどうするか決めるのはお義父様になるのでしょう。
まあ、ゲームの展開なら私は家に戻りどこか別の家に嫁ぐのでしょうからこれ以上は関われませんが。
「でも、あなたが妻になって下さるならそうしてもいいですが」
兄が亡くなり弟に嫁ぐ。
それはこの国ではおかしい話ではありませんし言い出すならお義父様だと考えていましたが、まさかディーンからそれを言われるとは思ってもいなかったのです。
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