【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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兄と交渉

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「お前は相変わらず人がいいのだな。あれの為に泣くなど。だか、それでは侮られるだけだぞ」

 兄を応接間に招いた途端、辛辣な言葉で兄は私を諭しました。

 葬儀は無事に終了しました。

 私が取り乱し石棺に泣き縋るというハプニングはありましたが、それ以外は滞りなく仮の葬儀を終えました。
 突然の事故で夫を亡くした妻が、理性を失い夫の石棺に縋りつくのは許される範囲の筈です。
 それは今後を考え、大神官様に私の気持ちを見せつける為でした。
 他家の目が無い仮の葬儀でなら、それも許容範囲だ兄も判断したのしょう。
 だからこそ、今兄の叱責が人がいい程度で終わっているのです。

「優秀な兄様の様に、すべてを利益で判断できない愚かな私ですからの愚行ですが、私なりに熟考した末だと思っていただけたなら何よりでございます」

 殊勝な振りをして兄にそう訴えれば、兄は大袈裟にため息をつき、隣に座るディーンに目配せをした後納得してくれました。

 ゲームの世界では、我儘贅沢し放題だった私が育てた悪役令嬢が、私と共に我儘贅沢をしまくった末、兄が呆れ私と娘の断罪を主人公達に許す。そんな流れでしたが、現状私は我儘贅沢し放題だった過去も無ければ、現在も慎ましい貞淑な妻です。
 原作程兄と私の関係も壊れてはいなかった筈ですが、どうでしょうか。
 父や兄の思いは、人がいいと言われる私の頭で判断できるものではありません。

「公爵家の次期当主としては、お前の人のよさは眉を顰めるものだろうけれど。父上が馬鹿だと切り捨てるらそんなお前の言動が私は嫌いではないのが困るな」
「兄様は私をお厭いにはなりませんか?」

 家の繁栄と自分への賛辞しか頭に無かった父と、自分を良く見せることだけに執着していた母の娘として生まれた私にとって、結婚前は兄に認められることだけがすべてでした。

 それはゲームの私の中にも存在していた感情です。けれどゲームのダニエラは兄に認められず、その不満を贅沢をすることで解消し、兄に許されていると実感したくて我儘を言い続けた結果、兄に見捨てられてしまうのです。

「お前を厭うことなどないよ。辛かっただろう」
「家のお役に立てなかった私は、辛い等言えるものではございませぬ。私は自分が情けなくて、何故気が付かなかったのでしょう」

 葬儀が終わり、大神官が去った後私は兄とディーンを誘い私の私室へと誘いました。
 今ここにいるのは私達三人の他はタオとメイナだけですが、ディーンは他人と同じですから気は抜けません。

「兄様、役立たずだとお叱りにならないのですか」
「叱りはしない、お前は良くやってくれた。呆れるのは亡くなった彼だ」

 苦々しい表情で、兄様はそう言いながらディーンを見ました。

「愚兄が申し訳ございません」
「お前に謝ってもらってもな」
「まさか愛人と領地に戻り、捏造した書類で離縁しようとしていたなど、聞いた時は我が耳を疑いました」

 夫とディーンは不仲でした。
 ですからディーンは殆どこの屋敷には来ず、お義母様から疎まれていた彼は、領地にも殆ど近付きませんでした。
 ですから私は殆どディーンと交流していませんが、兄のこの話し方を見る限り二人は仲が良さそうです。
 どういう繋がりなのでしょう?

「どうした」
「あの、お兄様はディーンと親しいのですか」

 頭の悪い聞き方をしたと、口にしてから気が付きましたが時すでに遅しです。
 どうも私は上手く頭が回っていないようです。

「彼は同級生なんだ。学生の頃から中々博識でね話すのは楽しいよ」

 答えになっていない答えが返って来たのは、私の聞き方が悪かったからでしょう。

「で、人がいいダニエラは、あの子供をどう考える?」
「子供」
「お前の夫そっくりの子供だ」
「どうと言われましても、あの子供の出生届はは父親の名前は空欄、六歳の陛下への謁見もしていない。そんな子供をどうせよと」

 呆れた顔で言いながら、ゲームではどういう設定だったかと考えました。

『俺は父の子として侯爵家にいるわけじゃない。当時父の執事だったリチャードの実子扱いなんだ。母さんはリチャードと結婚していたことになっていて、俺は書類上では母さんとリチャードの子供、そしてディーン父上の養子になった』

 確かヒロインにそう告げるシーンがありました。
 それでどうして侯爵家の養子になったのか、確かリチャードは。

「ディーン、リチャードは、執事のリチャードはあなた達の従兄になるのよね」
「よく知っていますね、そうです彼は父の弟の子です。庶子ですが」
 
 だから彼の子供なら、跡取り候補として候爵家の養子に出来たのでしょう。
 でもそれはロニーには屈辱だったことでしょう。

「その庶子がなんだ」
「庶子の結婚証明ならお兄様は簡単に偽造出来ますよね」
「何を考えている」
「リチャードと夫の愛人と結婚した記録を作り、子供を彼の実子として届けるのです。リチャードが庶子なら平民扱いの筈です。それならば陛下に謁見していなくても問題にはなりません」

 ゲームで出来たことなら、その通りロニーをディーンの養子にすればいいのです。
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