32 / 310
寄り添い眠れ
しおりを挟む
次の日、ロニーの母親の葬儀を終えたリチャードは、ひっそりと棺と一緒に屋敷に戻ってきました。
普通であれば平民は、神殿近くにある平民専用墓地に埋葬しますが、リチャードに故人の故郷に埋葬するとして引き取ってこさせたのです。
リチャードは夫、ロニーは二人の子供として葬儀を行いました。
お兄様の仕事は早く、誰が見ても完璧な婚姻届と出生届けが今朝早くに届いたお陰で葬儀を無事に行えました。
なくなった夫とロニーの母親には気の毒な話ですが、これでロニーは夫の婚外子では無くなりました。
彼女は平民ですから、棺は安っぽい木製です。
霊廟に棺を納める貴族と違い、平民は土葬ですから棺は土に還りやすい木製が適していますし、朽ちて無くなる物にお金を掛けようとする平民は少ない為、棺に使われている木材も良い物とはいえませんが仕方ないのでしょう。
ちなみにこの世界では、遺体を火葬するのは罪人だけで神官の弔いもありません。
罪人への最大の罰は、天の国へ行けない事と考えられているからです。
「リチャード、棺を開けなさい」
夫の石棺近くに棺を運び入れてすぐ、私はリチャードに命令しました。
これから行うのは秘密の作業です。
ここに居るのは私とメイナ、タオの他はディーンとリチャード、ロニーだけです。
この神殿を管理する神官は、理由を付けて今日は休みを取らせています。
「はい」
軽い木の蓋をリチャードが開けるとその途端、独特な匂いが漂ってきました。
「酷いわね」
事故の後衣服を改めなかったのか、ドレスは土と血等で汚れたままです。
亡くなった本人は気にならないでしょうが、この姿で埋葬するのは流石に気の毒に感じました。
「『修復』対象は衣服と身体」
棺の中に横たわる身体に向け、私は魔法を放ちました。
「奥様、何をなさるのですかっ!」
「何って、彼女の体を元に戻しただけよ」
大声を上げるリチャードに眉をしかめながら答えると、彼は驚いた様に棺の中を確かめました。
「服が綺麗に、まさか足も?」
「生き返らせるなんて神の御業は使えないけれど、私程度の魔法でもこの位は出来るのよ。これなら天の園をピーターと共に歩けるでしょう。彼の顔は直さないわよ、そこまで私は優しくはないわ」
私の言葉はどれほどリチャードを驚かせたのでしょう。
彼は私の顔をしげしげと見た後で、静かに涙を流し始めました。
「リチャード、泣いている時間がないわ誰かに見られたらどうするの、早く遺体を移動して頂戴」
「畏まりました」
涙を拭うこともせず、リチャードは石棺の蓋を横にずらしました。
一人で動かせる筈がない石棺の蓋ですが、彼は身体強化のスキルが使えるので、容易に動かせたのでしょう。
「若様失礼致します」
夫の体を石棺の奥へとずらしてから、リチャードは彼女の体を優しく抱き上げました。
「!」
一瞬彼女の顔にリチャードが頬を寄せたように見え、私は見てはいけないものを見てしまった気持ちで取り乱してしまいました。
ゲームの設定に、リチャードがロニーの母親に片思いしていたとありましたが、その思いはかなり重いようです。
二人を一緒に埋葬するのは、ロニーの気持ちを思ったのと、リチャードとロニーから恨みを買いたくないという考えからでしたが、リチャードはこれをどう感じているのか不安になってきました。
「母さんをどうするの?」
「若様と同じ棺で埋葬するのですよ。そうすればきっとお二人で天の国へ向かわれるでしょう」
「天の国へ? 一緒なの?」
不安そうなロニーの顔は、ゲームの攻略対象者の面影が確かにあります。
私と、私の娘を断罪するロニーの顔です。
「お二人一緒の埋葬を奥様がお許しになりましたから、お二人はずっと一緒にいられるのですよ」
「奥様?」
そんなことを言っても、幼い子供に理解できる筈がないでしょうが、私がそれを許したという事実をロニーが覚えていてくれるといいのですが。
「リチャード早くなさい」
「申し訳ありません」
女性を横抱きにし石棺に近付くと、そっと夫の隣に横たえました。
「ロニー、お別れをしなさい」
ロニーを領地での侯爵家の葬儀に参列させるかどうか、私はまだ迷っていました。
連れていけばお義母様が大騒ぎされるのは間違いありませんが、かと言っていつまでも隠しておけるものではありません。
戸籍こそリチャードの息子ですが、顔がピーターそっくりなのですから、リチャードの息子として育ててもいずれ何らかの形で噂がお義母様の耳に入るでしょう。
「母さん、父さん、僕を置いてかないで」
背伸びをして石棺の中の二人に手を伸ばすロニーは、哀れです。
子供の悲しみの代償に、狭い石棺の中寄り添う二人は生きている間に叶えられなかった、誰の目も気にせず一緒にいる時間を永遠に得ました。
本人達は、生きてそうなりたかったでしょうが、誰にも叶えてあげる事など出来ません。
「二人の安らかな眠りを」
これは虚しい、ただの茶番。
ロニーの泣き声を聞きながら、私はそう呟いて目を閉じたのです。
普通であれば平民は、神殿近くにある平民専用墓地に埋葬しますが、リチャードに故人の故郷に埋葬するとして引き取ってこさせたのです。
リチャードは夫、ロニーは二人の子供として葬儀を行いました。
お兄様の仕事は早く、誰が見ても完璧な婚姻届と出生届けが今朝早くに届いたお陰で葬儀を無事に行えました。
なくなった夫とロニーの母親には気の毒な話ですが、これでロニーは夫の婚外子では無くなりました。
彼女は平民ですから、棺は安っぽい木製です。
霊廟に棺を納める貴族と違い、平民は土葬ですから棺は土に還りやすい木製が適していますし、朽ちて無くなる物にお金を掛けようとする平民は少ない為、棺に使われている木材も良い物とはいえませんが仕方ないのでしょう。
ちなみにこの世界では、遺体を火葬するのは罪人だけで神官の弔いもありません。
罪人への最大の罰は、天の国へ行けない事と考えられているからです。
「リチャード、棺を開けなさい」
夫の石棺近くに棺を運び入れてすぐ、私はリチャードに命令しました。
これから行うのは秘密の作業です。
ここに居るのは私とメイナ、タオの他はディーンとリチャード、ロニーだけです。
この神殿を管理する神官は、理由を付けて今日は休みを取らせています。
「はい」
軽い木の蓋をリチャードが開けるとその途端、独特な匂いが漂ってきました。
「酷いわね」
事故の後衣服を改めなかったのか、ドレスは土と血等で汚れたままです。
亡くなった本人は気にならないでしょうが、この姿で埋葬するのは流石に気の毒に感じました。
「『修復』対象は衣服と身体」
棺の中に横たわる身体に向け、私は魔法を放ちました。
「奥様、何をなさるのですかっ!」
「何って、彼女の体を元に戻しただけよ」
大声を上げるリチャードに眉をしかめながら答えると、彼は驚いた様に棺の中を確かめました。
「服が綺麗に、まさか足も?」
「生き返らせるなんて神の御業は使えないけれど、私程度の魔法でもこの位は出来るのよ。これなら天の園をピーターと共に歩けるでしょう。彼の顔は直さないわよ、そこまで私は優しくはないわ」
私の言葉はどれほどリチャードを驚かせたのでしょう。
彼は私の顔をしげしげと見た後で、静かに涙を流し始めました。
「リチャード、泣いている時間がないわ誰かに見られたらどうするの、早く遺体を移動して頂戴」
「畏まりました」
涙を拭うこともせず、リチャードは石棺の蓋を横にずらしました。
一人で動かせる筈がない石棺の蓋ですが、彼は身体強化のスキルが使えるので、容易に動かせたのでしょう。
「若様失礼致します」
夫の体を石棺の奥へとずらしてから、リチャードは彼女の体を優しく抱き上げました。
「!」
一瞬彼女の顔にリチャードが頬を寄せたように見え、私は見てはいけないものを見てしまった気持ちで取り乱してしまいました。
ゲームの設定に、リチャードがロニーの母親に片思いしていたとありましたが、その思いはかなり重いようです。
二人を一緒に埋葬するのは、ロニーの気持ちを思ったのと、リチャードとロニーから恨みを買いたくないという考えからでしたが、リチャードはこれをどう感じているのか不安になってきました。
「母さんをどうするの?」
「若様と同じ棺で埋葬するのですよ。そうすればきっとお二人で天の国へ向かわれるでしょう」
「天の国へ? 一緒なの?」
不安そうなロニーの顔は、ゲームの攻略対象者の面影が確かにあります。
私と、私の娘を断罪するロニーの顔です。
「お二人一緒の埋葬を奥様がお許しになりましたから、お二人はずっと一緒にいられるのですよ」
「奥様?」
そんなことを言っても、幼い子供に理解できる筈がないでしょうが、私がそれを許したという事実をロニーが覚えていてくれるといいのですが。
「リチャード早くなさい」
「申し訳ありません」
女性を横抱きにし石棺に近付くと、そっと夫の隣に横たえました。
「ロニー、お別れをしなさい」
ロニーを領地での侯爵家の葬儀に参列させるかどうか、私はまだ迷っていました。
連れていけばお義母様が大騒ぎされるのは間違いありませんが、かと言っていつまでも隠しておけるものではありません。
戸籍こそリチャードの息子ですが、顔がピーターそっくりなのですから、リチャードの息子として育ててもいずれ何らかの形で噂がお義母様の耳に入るでしょう。
「母さん、父さん、僕を置いてかないで」
背伸びをして石棺の中の二人に手を伸ばすロニーは、哀れです。
子供の悲しみの代償に、狭い石棺の中寄り添う二人は生きている間に叶えられなかった、誰の目も気にせず一緒にいる時間を永遠に得ました。
本人達は、生きてそうなりたかったでしょうが、誰にも叶えてあげる事など出来ません。
「二人の安らかな眠りを」
これは虚しい、ただの茶番。
ロニーの泣き声を聞きながら、私はそう呟いて目を閉じたのです。
181
あなたにおすすめの小説
悪女として処刑されたはずが、処刑前に戻っていたので処刑を回避するために頑張ります!
ゆずこしょう
恋愛
「フランチェスカ。お前を処刑する。精々あの世で悔いるが良い。」
特に何かした記憶は無いのにいつの間にか悪女としてのレッテルを貼られ処刑されたフランチェスカ・アマレッティ侯爵令嬢(18)
最後に見た光景は自分の婚約者であったはずのオルテンシア・パネットーネ王太子(23)と親友だったはずのカルミア・パンナコッタ(19)が寄り添っている姿だった。
そしてカルミアの口が動く。
「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ。」
オルテンシア王太子に見えないように笑った顔はまさしく悪女のようだった。
「生まれ変わるなら、自由気ままな猫になりたいわ。」
この物語は猫になりたいと願ったフランチェスカが本当に猫になって戻ってきてしまった物語である。
ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~
浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。
「これってゲームの強制力?!」
周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。
※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜
雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。
しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。
英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。
顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。
ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。
誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。
ルークに会いたくて会いたくて。
その願いは。。。。。
とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。
他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。
本編完結しました!
大変お待たせ致しました。番外編の公開を始めました。
なるべくこまめに公開していきたいと思います。
あんまり長くならない予定ですので、どうぞよろしくお願いします!
【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい
マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」
新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。
1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。
2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。
そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー…
別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート
【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます
よどら文鳥
恋愛
「リリーナ、俺はお前の姉と結婚することにした。だからお前との婚約は取り消しにさせろ」
婚約者だったザグローム様は婚約破棄が当然のように言ってきました。
「ようやくお前でも家のために役立つ日がきたかと思ったが、所詮は役立たずだったか……」
「リリーナは伯爵家にとって必要ない子なの」
両親からもゴミのように扱われています。そして役に立たないと、家から追放されることが決まりました。
お姉様からは用が済んだからと捨てられます。
「あなたの手柄は全部私が貰ってきたから、今回の婚約も私のもの。当然の流れよね。だから謝罪するつもりはないわよ」
「平民になっても公爵婦人になる私からは何の援助もしないけど、立派に生きて頂戴ね」
ですが、これでようやく理不尽な家からも解放されて自由になれました。
唯一の味方になってくれた執事の助言と支援によって、隣国の公爵家へ向かうことになりました。
ここから私の人生が大きく変わっていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる