【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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寄り添い眠れ

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 次の日、ロニーの母親の葬儀を終えたリチャードは、ひっそりと棺と一緒に屋敷に戻ってきました。
 普通であれば平民は、神殿近くにある平民専用墓地に埋葬しますが、リチャードに故人の故郷に埋葬するとして引き取ってこさせたのです。

 リチャードは夫、ロニーは二人の子供として葬儀を行いました。
 お兄様の仕事は早く、誰が見ても完璧な婚姻届と出生届けが今朝早くに届いたお陰で葬儀を無事に行えました。
 なくなった夫とロニーの母親には気の毒な話ですが、これでロニーは夫の婚外子では無くなりました。

 彼女は平民ですから、棺は安っぽい木製です。
 霊廟に棺を納める貴族と違い、平民は土葬ですから棺は土に還りやすい木製が適していますし、朽ちて無くなる物にお金を掛けようとする平民は少ない為、棺に使われている木材も良い物とはいえませんが仕方ないのでしょう。
 ちなみにこの世界では、遺体を火葬するのは罪人だけで神官の弔いもありません。
 罪人への最大の罰は、天の国へ行けない事と考えられているからです。

「リチャード、棺を開けなさい」

 夫の石棺近くに棺を運び入れてすぐ、私はリチャードに命令しました。
 これから行うのは秘密の作業です。
 ここに居るのは私とメイナ、タオの他はディーンとリチャード、ロニーだけです。
 この神殿を管理する神官は、理由を付けて今日は休みを取らせています。

「はい」

 軽い木の蓋をリチャードが開けるとその途端、独特な匂いが漂ってきました。

「酷いわね」

 事故の後衣服を改めなかったのか、ドレスは土と血等で汚れたままです。
 亡くなった本人は気にならないでしょうが、この姿で埋葬するのは流石に気の毒に感じました。

「『修復』対象は衣服と身体」

 棺の中に横たわる身体に向け、私は魔法を放ちました。

「奥様、何をなさるのですかっ!」
「何って、彼女の体を元に戻しただけよ」

 大声を上げるリチャードに眉をしかめながら答えると、彼は驚いた様に棺の中を確かめました。

「服が綺麗に、まさか足も?」
「生き返らせるなんて神の御業は使えないけれど、私程度の魔法でもこの位は出来るのよ。これなら天の園をピーターと共に歩けるでしょう。彼の顔は直さないわよ、そこまで私は優しくはないわ」 

 私の言葉はどれほどリチャードを驚かせたのでしょう。
 彼は私の顔をしげしげと見た後で、静かに涙を流し始めました。

「リチャード、泣いている時間がないわ誰かに見られたらどうするの、早く遺体を移動して頂戴」
「畏まりました」

 涙を拭うこともせず、リチャードは石棺の蓋を横にずらしました。
 一人で動かせる筈がない石棺の蓋ですが、彼は身体強化のスキルが使えるので、容易に動かせたのでしょう。

「若様失礼致します」

 夫の体を石棺の奥へとずらしてから、リチャードは彼女の体を優しく抱き上げました。

「!」

 一瞬彼女の顔にリチャードが頬を寄せたように見え、私は見てはいけないものを見てしまった気持ちで取り乱してしまいました。

 ゲームの設定に、リチャードがロニーの母親に片思いしていたとありましたが、その思いはかなり重いようです。

 二人を一緒に埋葬するのは、ロニーの気持ちを思ったのと、リチャードとロニーから恨みを買いたくないという考えからでしたが、リチャードはこれをどう感じているのか不安になってきました。

「母さんをどうするの?」
「若様と同じ棺で埋葬するのですよ。そうすればきっとお二人で天の国へ向かわれるでしょう」
「天の国へ? 一緒なの?」

 不安そうなロニーの顔は、ゲームの攻略対象者の面影が確かにあります。
 私と、私の娘を断罪するロニーの顔です。
 
「お二人一緒の埋葬を奥様がお許しになりましたから、お二人はずっと一緒にいられるのですよ」
「奥様?」

 そんなことを言っても、幼い子供に理解できる筈がないでしょうが、私がそれを許したという事実をロニーが覚えていてくれるといいのですが。

「リチャード早くなさい」
「申し訳ありません」

 女性を横抱きにし石棺に近付くと、そっと夫の隣に横たえました。
 
「ロニー、お別れをしなさい」

 ロニーを領地での侯爵家の葬儀に参列させるかどうか、私はまだ迷っていました。
 連れていけばお義母様が大騒ぎされるのは間違いありませんが、かと言っていつまでも隠しておけるものではありません。
 戸籍こそリチャードの息子ですが、顔がピーターそっくりなのですから、リチャードの息子として育ててもいずれ何らかの形で噂がお義母様の耳に入るでしょう。

「母さん、父さん、僕を置いてかないで」

 背伸びをして石棺の中の二人に手を伸ばすロニーは、哀れです。
 子供の悲しみの代償に、狭い石棺の中寄り添う二人は生きている間に叶えられなかった、誰の目も気にせず一緒にいる時間を永遠に得ました。
 本人達は、生きてそうなりたかったでしょうが、誰にも叶えてあげる事など出来ません。


「二人の安らかな眠りを」

 これは虚しい、ただの茶番。
 ロニーの泣き声を聞きながら、私はそう呟いて目を閉じたのです。
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