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複雑な気持ち
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ディーンと別れ部屋に戻ると、メイナが心配しているという表情を隠さずに私を出迎えました。
メイナは、私が侯爵家に嫁ぐ前から私の侍女として仕えてくれている女性です。
タオと同様、私に忠誠を誓っていて私の為だけに日夜気を配ってくれている、私にとってはなくてはならない存在ですが、前世の記憶を取り戻した私が見ると二人は働き過ぎです。
私の侍女とメイドとして生活する二人にこの環境はブラックすぎますが、なにせ執事のリチャードがあんな感じで役に立たない上他のメイドにはとても今の状況は教えられませんから、二人にはもうしばらく辛抱して貰わないといけません。
「メイナ」
「はい、奥様」
「私、ディーンに求婚されたの。お兄様の目の前で、そして先程も」
メイナとタオは私の侍女とメイドつまり使用人ですが、私が唯一心を許せる存在でもあります。
社交で付き合う人はいても、友人と呼べる方は今のところ誰もいませんし、これからもそんな人が出来ることはないでしょう。
ですから私の戸惑いも、彼女に正直に打ち明けてしまおうと思いました。
転生して、私が悪役なのだ。なんてことは流石に言えませんし言えるはずもありません。
そんなことを言えば私に忠誠を誓う二人は、私が気がふれたと勘違いしてお兄様に報告するでしょう。
そんな愚策は流石に出来ません。
「先程と言いますと」
「今庭でディーンに会ったの。彼は本心から私を妻にと望んでくれている様なの。この私をよ。でも、本当に信じていいのかしら」
ディーンが私を望む、彼の眼には確かに私への欲情が感じられました。
でも、それは本当に私への気持ち故なのでしょうか。
私は結婚してからディーンと親しく話をした記憶は全くありませんし、結婚前にディーンと会ってもいません。
兄がディーンと親しかったというのも、今日知った位ですし、兄が私の話をディーンにしていたとも思えません。
つまり、あれだけの熱情で請われる理由が全く分からないのです。
「ピーターは私に愛人の存在を上手く隠していたわ。私が結婚時の契約を信じ切っていたせいもあるけれど、彼は慎重に愛人と子供の存在を隠していた」
私は愚かにも夫が私という妻以外の存在は望んでいないのだと信じ切っていました。
今考えると、愚か以外の何者でもありませんが、私は夫が結婚の契約を頑なに守っていると信じ切っていたのです。
「奥様」
「ピーターのことはもうどうでもいいの。あの子、ロニーの存在も同じよ。私にはどうでもいいの」
どうでもいいといいながら、ピーターの仕打ちに憤り、ロニーの未来を憂います。
リチャードの実子として、将来ネルツ侯爵家の養子にしたとして彼の未来が明るいものになるのかどうかは分かりません。
お義母様にロニーの教育を任せればゲームと同じ展開になるでしょうし、リチャードが私や侯爵家の恨みつらみをロニーに教え込んでしまえば、こちらもゲームと同じ展開になるでしょう。
ゲームと同じ、私と娘が悪役として断罪される未来を回避したいのであれば、ロニーの存在をここで消してしまった方が安心なのです。
「奥様、なんとお労しい」
「そんなことを言ってはいけないわ。可哀そうなのは私ではなく、あの子、ロニーよ」
前世の記憶がよみがえってしまった私には、ロニーはただただ可哀そうな子供でしかありません。
今までどんな風に生きてきたのか分かりませんが、両親を一度に亡くしたことに変わりはないのですから。
「ねえ、メイナ。あの子、ロニーが私を恨むことなく育つ様にしたいの。出来るかしら」
「正直な事を申し上げれば、ロニー様を教育するのは難しいでしょう。七歳だというのにまともに挨拶することも出来ず、大人しく座っていることすら出来ないのですから。貴族の令息としては教育そのものが遅すぎるのではないかと愚考致します」
「そうよね。旦那様は何故ロニーにまともな教育をしていなかったのかしら」
私と離縁して、ロニーを自分の息子として義両親に会わせようとしていた筈なのに、ロニーの言動はあまりにも無様です。
あんな野生児を侯爵家の跡継ぎと紹介されたとして、義両親が納得したとは思えません。
「ピーターは何を考えていたのかしら」
死人に口なし。それは私の前世の諺か何かですが、まさに同じことが今起きています。
ピーターが何を考え、ロニーをどうしたかったのか今を生きる私達には分からないのです。
「奥様、私に今分かるのは、ディーン様が奥様へ本気の求愛をしていると言う事のみです」
「それは。ねえ、メイナ、ディーンは私を本当に妻として求めているのかしら。私は彼が大嫌いな兄の妻だったというのに」
私の呟きを聞いている、メイナの笑顔がすべてを肯定している様に見えます。
でも、本当にそうなのでしょうか。
ディーンは私の義弟でしかなかったというのに。
親しく会話をしたことが無かったどころか、ピーターと結婚してからディーンと話をしたのは片手でも足りる程度ですし、それも挨拶を交わしただけです。
それなのに、ディーンは私を本心から欲してくれているとはどうしても思えません。
「奥様、恐れながらディーン様の求愛は、嘘偽りはないように思います」
忠実なる僕、メイナの言葉に私は無様に想像してしまいます。
ディーンが夫で、私を愛する未来。
彼が私を心から愛してくれて、偽りなく大切にしてくれる、そんな未来です。
「メイナ。私はディーンとなら幸せになれるのかしら」
子供を、ディーンとの間の子供を産んで、彼に愛される未来。
そんなことを私が望んでいいのでしょうか。
しかも、そんな設定はゲームには無いというのに。
「奥様。私の永遠なる主様」
「メイナ」
「奥様はきっと、次なる夫、ディーン様と共になら幸せになれるのではないかと私は愚考致します。奥様、どうか幸せになってくださいませ。ディーン様を信頼し、夫として頼れる方だと認識し、そうして幸せに」
視界が歪むのを私は止められませんでした。
メイナは今まで私のすべてを見ていた人、私を守り、私の考えを尊重してそうして生きてきた人です。
そのメイナに言われて、嬉しくない筈がありません。
「メイナ、私はディーンとなら幸せになれるのかしら。駒としての役目も果たせなかった私が、幸せになれる?」
彼になら、愛して貰えるのかもしれない。
そう信じたいと思ったのは、ディーンの告白を聞いたからです。
「なれますとも、きっと、ええ、きっと奥様は幸せになれると信じています」
メイナのその言葉に、私はディーンとの未来を想像しました。
ディーンとなら、幸せになれる。
そう信じた私が想像したものは、私がディーンの隣に立ち笑っている。そんな未来だったのです。
メイナは、私が侯爵家に嫁ぐ前から私の侍女として仕えてくれている女性です。
タオと同様、私に忠誠を誓っていて私の為だけに日夜気を配ってくれている、私にとってはなくてはならない存在ですが、前世の記憶を取り戻した私が見ると二人は働き過ぎです。
私の侍女とメイドとして生活する二人にこの環境はブラックすぎますが、なにせ執事のリチャードがあんな感じで役に立たない上他のメイドにはとても今の状況は教えられませんから、二人にはもうしばらく辛抱して貰わないといけません。
「メイナ」
「はい、奥様」
「私、ディーンに求婚されたの。お兄様の目の前で、そして先程も」
メイナとタオは私の侍女とメイドつまり使用人ですが、私が唯一心を許せる存在でもあります。
社交で付き合う人はいても、友人と呼べる方は今のところ誰もいませんし、これからもそんな人が出来ることはないでしょう。
ですから私の戸惑いも、彼女に正直に打ち明けてしまおうと思いました。
転生して、私が悪役なのだ。なんてことは流石に言えませんし言えるはずもありません。
そんなことを言えば私に忠誠を誓う二人は、私が気がふれたと勘違いしてお兄様に報告するでしょう。
そんな愚策は流石に出来ません。
「先程と言いますと」
「今庭でディーンに会ったの。彼は本心から私を妻にと望んでくれている様なの。この私をよ。でも、本当に信じていいのかしら」
ディーンが私を望む、彼の眼には確かに私への欲情が感じられました。
でも、それは本当に私への気持ち故なのでしょうか。
私は結婚してからディーンと親しく話をした記憶は全くありませんし、結婚前にディーンと会ってもいません。
兄がディーンと親しかったというのも、今日知った位ですし、兄が私の話をディーンにしていたとも思えません。
つまり、あれだけの熱情で請われる理由が全く分からないのです。
「ピーターは私に愛人の存在を上手く隠していたわ。私が結婚時の契約を信じ切っていたせいもあるけれど、彼は慎重に愛人と子供の存在を隠していた」
私は愚かにも夫が私という妻以外の存在は望んでいないのだと信じ切っていました。
今考えると、愚か以外の何者でもありませんが、私は夫が結婚の契約を頑なに守っていると信じ切っていたのです。
「奥様」
「ピーターのことはもうどうでもいいの。あの子、ロニーの存在も同じよ。私にはどうでもいいの」
どうでもいいといいながら、ピーターの仕打ちに憤り、ロニーの未来を憂います。
リチャードの実子として、将来ネルツ侯爵家の養子にしたとして彼の未来が明るいものになるのかどうかは分かりません。
お義母様にロニーの教育を任せればゲームと同じ展開になるでしょうし、リチャードが私や侯爵家の恨みつらみをロニーに教え込んでしまえば、こちらもゲームと同じ展開になるでしょう。
ゲームと同じ、私と娘が悪役として断罪される未来を回避したいのであれば、ロニーの存在をここで消してしまった方が安心なのです。
「奥様、なんとお労しい」
「そんなことを言ってはいけないわ。可哀そうなのは私ではなく、あの子、ロニーよ」
前世の記憶がよみがえってしまった私には、ロニーはただただ可哀そうな子供でしかありません。
今までどんな風に生きてきたのか分かりませんが、両親を一度に亡くしたことに変わりはないのですから。
「ねえ、メイナ。あの子、ロニーが私を恨むことなく育つ様にしたいの。出来るかしら」
「正直な事を申し上げれば、ロニー様を教育するのは難しいでしょう。七歳だというのにまともに挨拶することも出来ず、大人しく座っていることすら出来ないのですから。貴族の令息としては教育そのものが遅すぎるのではないかと愚考致します」
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私と離縁して、ロニーを自分の息子として義両親に会わせようとしていた筈なのに、ロニーの言動はあまりにも無様です。
あんな野生児を侯爵家の跡継ぎと紹介されたとして、義両親が納得したとは思えません。
「ピーターは何を考えていたのかしら」
死人に口なし。それは私の前世の諺か何かですが、まさに同じことが今起きています。
ピーターが何を考え、ロニーをどうしたかったのか今を生きる私達には分からないのです。
「奥様、私に今分かるのは、ディーン様が奥様へ本気の求愛をしていると言う事のみです」
「それは。ねえ、メイナ、ディーンは私を本当に妻として求めているのかしら。私は彼が大嫌いな兄の妻だったというのに」
私の呟きを聞いている、メイナの笑顔がすべてを肯定している様に見えます。
でも、本当にそうなのでしょうか。
ディーンは私の義弟でしかなかったというのに。
親しく会話をしたことが無かったどころか、ピーターと結婚してからディーンと話をしたのは片手でも足りる程度ですし、それも挨拶を交わしただけです。
それなのに、ディーンは私を本心から欲してくれているとはどうしても思えません。
「奥様、恐れながらディーン様の求愛は、嘘偽りはないように思います」
忠実なる僕、メイナの言葉に私は無様に想像してしまいます。
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「メイナ。私はディーンとなら幸せになれるのかしら」
子供を、ディーンとの間の子供を産んで、彼に愛される未来。
そんなことを私が望んでいいのでしょうか。
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