【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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可哀想な子

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「それでディーンを虐げていたと?」

 話を聞きながら、私はどうにか手首を拘束している綱を緩めようとしていました。
 誘拐された時の対処法を、私は幼い頃からいくつか習得させられていましたが、縄抜けもその流れで覚えさせられていました。
 手首の関節を緩め、気が付かれないように体の向きをお義母様に話しかけるタイミングに合わせて変えながら、綱から手を引き抜きました。
 これで反撃の用意が出来ました。
 私の左手首に着けている腕輪には、仕込み刃が仕掛けとして付いています。
 これは魔力を流すことにより刃先が飛び出し固定され、相手の肌に触れた瞬間弱い雷の魔法が流れます。
 同じ仕組みの指輪も両手の中指に嵌めています。
 私は腕力がないため脅し程度にもなりませんが、相手に触れることさえすれば雷の魔法が使えますから、それに望みを掛けようとしていたのです。

「あんな子、産まなければ良かったわ。あの目つきは私の大嫌いな祖母にそっくりだし、話し方はお義父様にそっくりで視界に入るだけで寒気がしてくるのよ」
「それでもあなたが産んだ息子ではありませんか、どうしてそんな残酷な気持ちになるのか理解できかねますわ」

 ディーンが哀れで私はまだお義母様を刺激してはいけないと分かっていながら、我慢できずに反論してしまいました。

「奥様に生意気なっ!」

 イバンに激しくお腹を蹴られて、私は体を丸めようとして必死に思いとどまりました。
 今手首の拘束が緩んでいると気が付かれたら、逃げる機会を失ってしまいます。

「イバン、お止め。これから子を孕む体を害しては駄目でしょう? 生意気で気に入らない嫁だけれど、ピーターの子を産んでもらわなければいけないのよ」
「そうでした。申し訳ございません」

 ピーターの子? 私が産まずとも跡継ぎになる子はいるというのに、ロニーは彼の子供だというのにどうして認めないのでしょう。

「ロニーがいます」

 負けるわけにはいきません。
 ゲームの様に私が家を出てしまったり、ここで死んでしまったらロニーはお義母様とディーンに虐待されてしまうでしょう。
 それはロニーにとってもディーンにとっても不幸でしかありません。

「あの子はピーターの子です。彼の子を跡継ぎにしたいなら、ロニーを大切に育てればいいだけです」
「あんな平民の穢れた血を引くこなど、私の孫と認められるわけがないでしょう? お前がそんなに愚かだから平民の愛人に負けるのよ」

 屈辱的な言葉だと思います。
 私がピーターを愛していたなら、ロニーの存在など認めたくなかったでしょう。
 でも、ピーターが私を愛していなかった様に、私だって彼を愛していなかったのです。

「仕方がないでしょう。彼は私に出会う前に本当に愛する人を見つけていたのですから。それをお義父様とお義母様が引き裂いて無理矢理私を妻の座に引きずり出したのですから、彼はお義母様よりも愛する存在を選んだだけ、貴族の血が尊いというあなたの教えも、彼にはどうでも良くなる程愛した人がいたのです。そして、子も生まれた。それの何がいけないのですか」

 いけないのでしょう。
 この国の宗教は、婚外子は認められないのですから。

「認めないっ! 認めないわ、私とイバンの子が平民を妻にして子を作るなんてっ! そんなの認められる訳がないじゃないっ!」
「それでもロニーは、あなたの可愛い息子の子です。あなたの息子が、愛した相手との間に授かった子です。愛される為に生まれた子です。そしてディーンも同じ、虐げられていい存在なんかじゃありませんっ!」

 私が守る。
 ディーンもロニーも、私が守ってみせる。

「黙って聞いていれば」
「愚かなのは、あなた達二人の関係ではありませんか。お義父様を裏切りどれだけの不貞を重ねたのですか、穢らわしいのはあなた達二人ですっ!」

 私の挑発に、イバンは怒りにまかせてナイフを振りかざしました。

「殺してやるっ!」

 ぐいっと胸元を掴まれ体が浮き上がりました。

「私達がどんな思いで長年過ごしていたと? 分かるのかなんの苦労もなく生きてきたお前にっ!」
「分かりたくもないわ、なんの罪もないディーンを蔑み虐げて、穢れた関係を欲望のまま続けただけじゃない。そんな最低の行いを神様は見ているわ。お許しにはならない、あなたもお義母様も神の園には入れない大罪を犯しているのよっ!」

 叫びながら、私は腕輪と指輪に魔力を流しました。
 一瞬感じた熱は魔道具が発動した合図です。
 私は魔力を流し続け、私の胸元を掴んだままのイバンの手首をギュッと両手で握りしめたのです。
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