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番外編
ほのぼの日常編2 くもさんはともだち3(ダニエラ視点)
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「マチルディーダ、僕の可愛い可愛いお姫様。今朝は林檎のジャムがあるよ、これ好きだよね。スープはカボチャだよ。これは大好きだよね」
「カボチャしゅきぃ! ジャムいっぱい食べりゅっ」
ご機嫌になったマチルディーダとロニーは兎も角、今度はディーンの方に不穏な空気が漂い始めています。
マチルディーダの世話をするロニーが気に入らないのです、可愛い娘をロニーに取られた気になってしまうのでしょう。
「ディーン、アデライザがあなたにかまってもらえなくて拗ねていますわ。可愛いアデライザを私の分まで抱っこしてあげて」
「え、あ、おはようアデライザ。今朝はご機嫌が悪いのかな、まだ眠い? さあお父様のところにおいで」
私は今フォーク以上の重いものを持つのをディーンに禁じられていますから、乳母に抱かれたままのアデライザの柔らかな頬にキスをするしかできませんが、ディーンにはしっかりアデライザと触れ合って欲しいので優しくお願いしました。
「ばぁぶ?」
ディーンが乳母からアデライザを受け取り、そっと頬を擦り寄せる姿は子煩悩な父に見えます。
マチルディーダもですが、アデライザもディーンに抱っこされるのが大好きです。
「きゃあぅ。おーとぉ」
「ん? お父様と呼んでいるのかな?」
「ふふ、アデライザが初めて話した言葉はお父様ですものね」
「アデライザ、お父様だよ」
優しい笑顔でディーンはアデライザをあやしています。
けれど彼は物凄く心配性な上すぐに闇落ちしかかるヤンデレなのだと、妻である私は嫌という程分かっています。
ディーンと結婚してすぐに妊娠した私は、出産までずっと悪阻に苦しんでいました。
ロニーも含めた暮らしは順調でお腹の子はすくすくと成長していたけれど、本来であれば妊娠後期にはある程度落ち着く筈の悪阻が軽くなるどころかどんどん酷くなるばかり、最後には水を飲んでも吐き気がして起き上がる事すら出来なくなりました。
悪阻の理由は、ストレスだと分かっていました。
私のお腹の中にいるのは、ゲームで私と共に断罪される悪役令嬢、例え父親がディーンに変わっても、彼女の未来は変わらないのでは。と考え始めたのはお父様が考えたという名前の候補に、ルチアナの文字を見つけたからです。
まだ生まれてもいないのに、すでに内々で第一王子の息子との婚約が決められている私の赤ちゃん。
その名前がゲームと同じになるかもしれない。
そうなったら、父親が違っても、育つ家が違っても悪役令嬢になってしまうかもしれない。
それは恐怖だったのです。
食べられなくても無理矢理に食べ、気力だけで飲み込んで、吐く。
少しでも眠ろうとして、悪夢に魘される。
月が満ちていくほど私は痩せていき、皆に心配を掛け続けました。
やつれた私をディーンが抱き上げ運ぶ様になり、最後の一ヶ月は完全にベッドの住人と化していました。
そんな弱った体での出産は、早産だった事もあり当然のことながら難産で、何度も意識を失いながら産んだ子は、最初産声を上げることすら出来ませんでした。
このまま、この子と別れる事になるかもしれない。
力の入らない両腕に抱いた子の口に、私は自分の胸を近付けました。
母親の魔力は赤ん坊の一番の栄養だと、この国では信じられていて、私はそれに縋りたかったのです。
小さな、ふえぇという声がした後、小さな口が開き私の胸に吸い付きました。
母乳が出たのかどうか分からない、でも何度か弱々しく吸い続ける気配を感じながら、私は意識を手放しました。
そして、次に目を開けたら数日経っていました。
目を開くと、私の手を泣きながら握っているディーンと同じく泣きながら赤ん坊を抱いているロニーの姿が見えて一瞬だけ気を失いかけました。
気が付いたばかりの私には、心臓に悪すぎる光景です。
私と赤ん坊は、二人共死にかけたのだそうです。
私が赤ん坊に乳を飲ませた後、二人共意識を失ってしまったのだと聞いた時は驚きましたが、もっと驚いたのは子供の名前がルチアナでは無く、マチルディーダと付けられていた事でした。
マチルというのは、シード神の妻と言われている女神で生命を司る神の名です。
この国では、生まれた子供の生命が危ぶまれる時マチル女神の名に両親の名前の一部を付け仮の名とします。
ディーンと私の名の一部を取ったのがディーダ、その前にマチル女神の名をつけて子供はマチルディーダと名付けられていたのです。
マチルディーダは、小さくか弱い赤ん坊でした。
前世なら保育器が必要ではないかと思う程の小ささしかなく、生きているのが奇跡と思う程手足も小さく細かったのです。
幸いというかなんというか、マチルディーダは生まれてすぐに死にかけた事とマチル女神の名前が名前の一部になっている事で、第一王子殿下の息子との婚約は無くなりました。
体が弱い可能性がある子供とは婚約出来ないという理由は将来王妃になる可能性を考えれば当然なものでしたが、実は「顔がダニエラより夫に似ている子供などいらない」と第一王子殿下が言ったのがお父様の耳に入ったのが本当の理由でした。
お父様はかなりお怒りで「可愛い孫を王家にくれてやるのなど、次に女の子が出来ても絶対にしない」と陛下に宣言してしまわれたそうです。
王妃の祖父の地位を欲していた筈のお父様が、そう宣言したと聞いて私は内心大喜びしてしまいました。
婚姻の儀式の時の第一王子の態度で、彼は私の従兄でも仲良く出来ない相手になっていましたし、可愛い私の赤ちゃんを顔が私ではなくディーンに似ているからいらない等言う人間を許す程私は寛容では無いのです。
幸い娘はマチル女神の名を貰う程生死を案じられていた程だったにも関わらず順調に育ち始め、私の体もすぐに体力を取り戻りました。
可愛いマチルディーダは、ディーンに本当に良く似ていていました。
ゲームとは違い大きな目で、しかもタレ目です。
私は自分が二重のつり目が嫌いなので、マチルディーダのタレ目が可愛くて仕方ありません。アデライザは基本ディーン似ですが、目だけ私に似ている気がするので将来が不安です。
マチルディーダが王子と婚約成立しなかった事もそうですが、顔立ちとか名前とかゲームとの違いを見つける度に私は元気を取り戻し、痩せ細った体も妊娠前のドレスを着こなせるまで回復しました。
けれど生死の境を彷徨った私とマチルディーダを目の前で見たディーンとロニーは、そうではありませんでした。
ディーンは私の近くにいるのに決して触れようとはしなくなり、ロニーは片時もマチルディーダから離れなくなったのです。
「ディーダこれ嫌」
マチルディーダの声に、私は思考を今に戻しました。
嫌いなものがあったのでしょう、ロニーに嫌だと訴えています。
「人参美味しいよ、嫌って言われたら人参が悲しむよ」
「かなしいの駄目にゃの。ヨニーが食べりゅ? あーんすりゅ?」
「僕は自分の分を食べたよ。ほらマチルディーダ、あーんしてごらん」
まだ離乳食のアデライザは、挨拶が済むと乳母に抱かれて部屋を出て行きました。
すでにディーンとロニーは食事を終えており、マチルディーダは嫌いな人参を残そうと抵抗中です。
「ダニエラ、食欲がない?」
「え、少しだけ気分が良くないみたい。ディーン、後で食べさせてくれる? その時間は取れるかしら」
スープを頂いている途中で食事の手が止まっていた私にいち早く気が付いたディーンが、心配そう私を見ていました。
今朝は食欲が無く、かぼちゃのスープは重すぎて食べられそうにありません。
「お義母様お体の具合が良くないのですか」
「昨晩この子が何度も暴れたものだから、少し寝不足なだけよ。心配いらないわ」
大きくなってきたお腹を撫でながら微笑みますが、二人の眉間には大きな皺が刻まれたままです。
マチルディーダとアデライザを年子で産んでから間を置かずに授かった子供、でも今までに無く大きなお腹に育っていて、まさか双子ではないかと内心恐れているのは誰にも話していません。
この世界では、前世よりも遥かに出産は命懸けのものなのです。
ほんの少しの問題で、母子共に儚く消えてしまう。
マチルディーダの出産の時の心の傷が癒えず、二人目を授かった時のディーンの絶望と喜びが入り混じった表情を思い出す度に絶対に死ねないと思います。
マチルディーダが生まれた後で私を失うかもしれない、自分との子が出来たせいでそうなったかもしれない。
そう考え後悔していたディーンは私に触れなくなりましたが、私がそれは違うと説き伏せて無事に二人目を授かるまでになりました。
私に触れなくなる事で、不仲になるのは絶対に避けたかったですし、ディーンの悲しそうな顔を見るのが辛かったというのもあります。
だから私はひたすら頑張りました。
幸い子供の世話は乳母たちがしてくれたので、ディーンに専念出来たとも言います。
二人目は幸い大きな産声をあげて生まれ、私も元気に日々を過ごした結果がなんと三度目の妊娠です。
しかも今度はどうも双子らしいので、尚ビックリです。
双子だった場合でも無事に生めるのか、不安はありますがどんどんゲームと違う展開になるのは心の安寧にも繋がっています。
「寝不足! それはいけません、すぐにベッドへ。お義父様マチルディーダは僕にお任せ下さい。どうか早くお義母様を休ませて差し上げて下さい」
「寝室に行くほどでは無いわ。大袈裟ね」
食欲が無くても頑張るべきでした、これは完全に私の失敗です。
ディーンはすぐさま立ち上がり私を抱き上げようとしているし、ロニーは絶対に譲らないという顔をしています。
「そこまで酷くないわ。ディーンと庭を歩いたら食欲も出ると思うわ。ディーンお庭に連れて行って」
「でも、ダニエラ」
すでに抱き上げられてしまったから、もう抵抗する素振りは見せません。
初めての出産後から過度の心配性になってしまったディーンは、私が自分から逃げようとする気配にとても敏感だから、ここは絶対に失敗出来ないのです。
これは私が結婚してから学んだ心得です。
「あなたもロニーも心配し過ぎよ。二人の気持ちが嬉しいけれど、外の空気を吸うことも大切なのよ。庭に出たら花を眺めながらディーンと散歩するわ。忙しいディーンの時間を独占するのは申し訳ないけれど、構わないわよねディーン。私を何よりも優先するでしょう?」
「勿論いくらでも側にいるよ」
私がディーンの腕の中にいるだけで、このヤンデレは満足なのですから可愛いものです。
結婚して数年経ち、言葉遣いもだいぶ砕けてきたのも可愛いと思っています。
「ダニエラに甘えられるのが私の一番の幸せだからね」
他の人が聞いたら、妻を甘やかしすぎだと言われそうですが、私達はこの関係が適切なのです。
「ロニー、マチルディーダをお願いするわね。あぁ、一つ忘れていたわ、マチルディーダ、お勉強をしない理由はなあに?」
ディーンは私が素直に身を委ねているとわかり満足したのか、何も言わずにいます。
「おかあさまぁ、ディーダね、くぅちゃんがよんでりゅからいくの」
マチルディーダの返事を聞いた私は、ため息が出そうになるのをなんとかこらえました。
「そう。ディーンお願い出来る?」
助けを求めるように、視線を上げます。
これは私の管轄外の話なのですから、ディーンにお願いするしかないのです。
※※※※※※※※※
マチルディーダ、アデライザは年子の姉妹です。
そしてさらにダニエラは妊娠中。
「カボチャしゅきぃ! ジャムいっぱい食べりゅっ」
ご機嫌になったマチルディーダとロニーは兎も角、今度はディーンの方に不穏な空気が漂い始めています。
マチルディーダの世話をするロニーが気に入らないのです、可愛い娘をロニーに取られた気になってしまうのでしょう。
「ディーン、アデライザがあなたにかまってもらえなくて拗ねていますわ。可愛いアデライザを私の分まで抱っこしてあげて」
「え、あ、おはようアデライザ。今朝はご機嫌が悪いのかな、まだ眠い? さあお父様のところにおいで」
私は今フォーク以上の重いものを持つのをディーンに禁じられていますから、乳母に抱かれたままのアデライザの柔らかな頬にキスをするしかできませんが、ディーンにはしっかりアデライザと触れ合って欲しいので優しくお願いしました。
「ばぁぶ?」
ディーンが乳母からアデライザを受け取り、そっと頬を擦り寄せる姿は子煩悩な父に見えます。
マチルディーダもですが、アデライザもディーンに抱っこされるのが大好きです。
「きゃあぅ。おーとぉ」
「ん? お父様と呼んでいるのかな?」
「ふふ、アデライザが初めて話した言葉はお父様ですものね」
「アデライザ、お父様だよ」
優しい笑顔でディーンはアデライザをあやしています。
けれど彼は物凄く心配性な上すぐに闇落ちしかかるヤンデレなのだと、妻である私は嫌という程分かっています。
ディーンと結婚してすぐに妊娠した私は、出産までずっと悪阻に苦しんでいました。
ロニーも含めた暮らしは順調でお腹の子はすくすくと成長していたけれど、本来であれば妊娠後期にはある程度落ち着く筈の悪阻が軽くなるどころかどんどん酷くなるばかり、最後には水を飲んでも吐き気がして起き上がる事すら出来なくなりました。
悪阻の理由は、ストレスだと分かっていました。
私のお腹の中にいるのは、ゲームで私と共に断罪される悪役令嬢、例え父親がディーンに変わっても、彼女の未来は変わらないのでは。と考え始めたのはお父様が考えたという名前の候補に、ルチアナの文字を見つけたからです。
まだ生まれてもいないのに、すでに内々で第一王子の息子との婚約が決められている私の赤ちゃん。
その名前がゲームと同じになるかもしれない。
そうなったら、父親が違っても、育つ家が違っても悪役令嬢になってしまうかもしれない。
それは恐怖だったのです。
食べられなくても無理矢理に食べ、気力だけで飲み込んで、吐く。
少しでも眠ろうとして、悪夢に魘される。
月が満ちていくほど私は痩せていき、皆に心配を掛け続けました。
やつれた私をディーンが抱き上げ運ぶ様になり、最後の一ヶ月は完全にベッドの住人と化していました。
そんな弱った体での出産は、早産だった事もあり当然のことながら難産で、何度も意識を失いながら産んだ子は、最初産声を上げることすら出来ませんでした。
このまま、この子と別れる事になるかもしれない。
力の入らない両腕に抱いた子の口に、私は自分の胸を近付けました。
母親の魔力は赤ん坊の一番の栄養だと、この国では信じられていて、私はそれに縋りたかったのです。
小さな、ふえぇという声がした後、小さな口が開き私の胸に吸い付きました。
母乳が出たのかどうか分からない、でも何度か弱々しく吸い続ける気配を感じながら、私は意識を手放しました。
そして、次に目を開けたら数日経っていました。
目を開くと、私の手を泣きながら握っているディーンと同じく泣きながら赤ん坊を抱いているロニーの姿が見えて一瞬だけ気を失いかけました。
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私と赤ん坊は、二人共死にかけたのだそうです。
私が赤ん坊に乳を飲ませた後、二人共意識を失ってしまったのだと聞いた時は驚きましたが、もっと驚いたのは子供の名前がルチアナでは無く、マチルディーダと付けられていた事でした。
マチルというのは、シード神の妻と言われている女神で生命を司る神の名です。
この国では、生まれた子供の生命が危ぶまれる時マチル女神の名に両親の名前の一部を付け仮の名とします。
ディーンと私の名の一部を取ったのがディーダ、その前にマチル女神の名をつけて子供はマチルディーダと名付けられていたのです。
マチルディーダは、小さくか弱い赤ん坊でした。
前世なら保育器が必要ではないかと思う程の小ささしかなく、生きているのが奇跡と思う程手足も小さく細かったのです。
幸いというかなんというか、マチルディーダは生まれてすぐに死にかけた事とマチル女神の名前が名前の一部になっている事で、第一王子殿下の息子との婚約は無くなりました。
体が弱い可能性がある子供とは婚約出来ないという理由は将来王妃になる可能性を考えれば当然なものでしたが、実は「顔がダニエラより夫に似ている子供などいらない」と第一王子殿下が言ったのがお父様の耳に入ったのが本当の理由でした。
お父様はかなりお怒りで「可愛い孫を王家にくれてやるのなど、次に女の子が出来ても絶対にしない」と陛下に宣言してしまわれたそうです。
王妃の祖父の地位を欲していた筈のお父様が、そう宣言したと聞いて私は内心大喜びしてしまいました。
婚姻の儀式の時の第一王子の態度で、彼は私の従兄でも仲良く出来ない相手になっていましたし、可愛い私の赤ちゃんを顔が私ではなくディーンに似ているからいらない等言う人間を許す程私は寛容では無いのです。
幸い娘はマチル女神の名を貰う程生死を案じられていた程だったにも関わらず順調に育ち始め、私の体もすぐに体力を取り戻りました。
可愛いマチルディーダは、ディーンに本当に良く似ていていました。
ゲームとは違い大きな目で、しかもタレ目です。
私は自分が二重のつり目が嫌いなので、マチルディーダのタレ目が可愛くて仕方ありません。アデライザは基本ディーン似ですが、目だけ私に似ている気がするので将来が不安です。
マチルディーダが王子と婚約成立しなかった事もそうですが、顔立ちとか名前とかゲームとの違いを見つける度に私は元気を取り戻し、痩せ細った体も妊娠前のドレスを着こなせるまで回復しました。
けれど生死の境を彷徨った私とマチルディーダを目の前で見たディーンとロニーは、そうではありませんでした。
ディーンは私の近くにいるのに決して触れようとはしなくなり、ロニーは片時もマチルディーダから離れなくなったのです。
「ディーダこれ嫌」
マチルディーダの声に、私は思考を今に戻しました。
嫌いなものがあったのでしょう、ロニーに嫌だと訴えています。
「人参美味しいよ、嫌って言われたら人参が悲しむよ」
「かなしいの駄目にゃの。ヨニーが食べりゅ? あーんすりゅ?」
「僕は自分の分を食べたよ。ほらマチルディーダ、あーんしてごらん」
まだ離乳食のアデライザは、挨拶が済むと乳母に抱かれて部屋を出て行きました。
すでにディーンとロニーは食事を終えており、マチルディーダは嫌いな人参を残そうと抵抗中です。
「ダニエラ、食欲がない?」
「え、少しだけ気分が良くないみたい。ディーン、後で食べさせてくれる? その時間は取れるかしら」
スープを頂いている途中で食事の手が止まっていた私にいち早く気が付いたディーンが、心配そう私を見ていました。
今朝は食欲が無く、かぼちゃのスープは重すぎて食べられそうにありません。
「お義母様お体の具合が良くないのですか」
「昨晩この子が何度も暴れたものだから、少し寝不足なだけよ。心配いらないわ」
大きくなってきたお腹を撫でながら微笑みますが、二人の眉間には大きな皺が刻まれたままです。
マチルディーダとアデライザを年子で産んでから間を置かずに授かった子供、でも今までに無く大きなお腹に育っていて、まさか双子ではないかと内心恐れているのは誰にも話していません。
この世界では、前世よりも遥かに出産は命懸けのものなのです。
ほんの少しの問題で、母子共に儚く消えてしまう。
マチルディーダの出産の時の心の傷が癒えず、二人目を授かった時のディーンの絶望と喜びが入り混じった表情を思い出す度に絶対に死ねないと思います。
マチルディーダが生まれた後で私を失うかもしれない、自分との子が出来たせいでそうなったかもしれない。
そう考え後悔していたディーンは私に触れなくなりましたが、私がそれは違うと説き伏せて無事に二人目を授かるまでになりました。
私に触れなくなる事で、不仲になるのは絶対に避けたかったですし、ディーンの悲しそうな顔を見るのが辛かったというのもあります。
だから私はひたすら頑張りました。
幸い子供の世話は乳母たちがしてくれたので、ディーンに専念出来たとも言います。
二人目は幸い大きな産声をあげて生まれ、私も元気に日々を過ごした結果がなんと三度目の妊娠です。
しかも今度はどうも双子らしいので、尚ビックリです。
双子だった場合でも無事に生めるのか、不安はありますがどんどんゲームと違う展開になるのは心の安寧にも繋がっています。
「寝不足! それはいけません、すぐにベッドへ。お義父様マチルディーダは僕にお任せ下さい。どうか早くお義母様を休ませて差し上げて下さい」
「寝室に行くほどでは無いわ。大袈裟ね」
食欲が無くても頑張るべきでした、これは完全に私の失敗です。
ディーンはすぐさま立ち上がり私を抱き上げようとしているし、ロニーは絶対に譲らないという顔をしています。
「そこまで酷くないわ。ディーンと庭を歩いたら食欲も出ると思うわ。ディーンお庭に連れて行って」
「でも、ダニエラ」
すでに抱き上げられてしまったから、もう抵抗する素振りは見せません。
初めての出産後から過度の心配性になってしまったディーンは、私が自分から逃げようとする気配にとても敏感だから、ここは絶対に失敗出来ないのです。
これは私が結婚してから学んだ心得です。
「あなたもロニーも心配し過ぎよ。二人の気持ちが嬉しいけれど、外の空気を吸うことも大切なのよ。庭に出たら花を眺めながらディーンと散歩するわ。忙しいディーンの時間を独占するのは申し訳ないけれど、構わないわよねディーン。私を何よりも優先するでしょう?」
「勿論いくらでも側にいるよ」
私がディーンの腕の中にいるだけで、このヤンデレは満足なのですから可愛いものです。
結婚して数年経ち、言葉遣いもだいぶ砕けてきたのも可愛いと思っています。
「ダニエラに甘えられるのが私の一番の幸せだからね」
他の人が聞いたら、妻を甘やかしすぎだと言われそうですが、私達はこの関係が適切なのです。
「ロニー、マチルディーダをお願いするわね。あぁ、一つ忘れていたわ、マチルディーダ、お勉強をしない理由はなあに?」
ディーンは私が素直に身を委ねているとわかり満足したのか、何も言わずにいます。
「おかあさまぁ、ディーダね、くぅちゃんがよんでりゅからいくの」
マチルディーダの返事を聞いた私は、ため息が出そうになるのをなんとかこらえました。
「そう。ディーンお願い出来る?」
助けを求めるように、視線を上げます。
これは私の管轄外の話なのですから、ディーンにお願いするしかないのです。
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マチルディーダ、アデライザは年子の姉妹です。
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