【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

文字の大きさ
136 / 310
番外編

ほのぼの日常編2 くもさんはともだち46(蜘蛛視点)

しおりを挟む
「くぅちゃんではないくもがいる! あおいろだ!」

 公爵家で迎えた朝、着替えを終えたマチルディーダとアデライザを迎えに来たジェリンドは、蜘蛛の隣にいたちぃを指差しながら声を上げた。
 ジェリンドと会うのは双子が産まれた日以来だが、ニール様似の賢そうな顔立ちは相変わらずだ。
 今朝は前立てにフリルがついた可愛らしいシャツと膝丈のズボンを着ていて、なんというか愛らしい装いだ。
 これはニール様の伴侶殿の好みだろうか、あの人は可愛らしい装いを好んでいて何かというとダニエラやマチルディーダとアデライザを飾りたてようとしているが、息子にもそうなんだな。

「ジェリンド様、あれはマチルディーダの使役獣の蜘蛛です。義父上の使役獣同様話も出来る賢い蜘蛛ですから、どうか指をさすのはおやめ下さい」

 珍しく興奮している様子のジェリンドに、側付きと共に背後に控えていたロニーが小声で諫める。
 幼子に指をさされた程度で蜘蛛は機嫌を損ねたりはしないが、ロニーが控え目にでもジェリンドを諌めたのは驚いた。
 昨晩ロニーはジェリンドに部屋に強引に連れて行かれたが少しは気安い関係になったのだろうか、ロニーの立ち位置は側付きと変わらないがどうだのだろう。

「あ、おどろいてついしてしまった。ごめん」

 ロニーに諌められジェリンドは素直に反省する。
 ニール様に良く似た顔立ちの幼子に謝られると、何と言うか戸惑ってしまうが過ちをすぐに認められる良い子だと思う。

「構わない。これは蜘蛛の子でちぃと言う。よろしく頼む」
「ちぃと申しまス。はじめマシて」
「ほんとうにはなせるのだな。くぅちゃんのこなのか? おおきいけれどこれでこどもなのか? くぅちゃんの薄いみどりいろもきれいだけれど、あおいいろもとってもきれいだっ!」

 ちぃの体の色が気に入ったのか、ジェリンドははしゃいでいる。

「はい、ちぃはまだ子供デス」
「そうなのか、くぅちゃんのこはおおきいのだな」
「ちぃはまだ変化の術を使いこなせていないから、これ以上小さくなれないのだ」

 ちぃが大きいのではなく、小さくなれていないだけだがジェリンドにはまだそれが分からないのだろう。
 蜘蛛は通常、主の肩に乗れる様に大人の握りこぶし程の大きさになっている事が多いが、ちぃはまだそこまで小さくなれない。
 大人の握りこぶし二つ分よりやや大きい位で、体の色は青に変化させている。

「きれいなあおだ。つるつるしていてほうせきみたいだ。くぅちゃんもきれいだけれど、ちぃちゃんもきれいだ」
「きれい? つるつるデスカ?」

 興奮してぴょんぴょんとその場で跳ねているジェリンドを、ちぃが困惑して見ている。
 ちぃは、体の大きさを維持する方に神経を集中させると言葉が疎かになるようで、元の大きさの時に比べるとだいぶ話し方がぎこち無くなってしまうのが残念だ。
 元の大きさの時は蜘蛛とそう変わらず話せるのに、これは森に帰ったら変化の術と一緒に話し方も特訓だな。

「ディーダはもうまものをしえきできるのか、すごいなあ。ぼくはまほうはまだだめだとおとうさまにとめられているから、べんきょうすらしていないのに」
「マチルディーダも他の魔法の勉強はしていないぞ。ジェリンドはもう乗馬の練習も始めたと聞いているが、マチルディーダはそれもまだだ。乗馬はどうだ、アデライザはまだ馬には介助付でも乗れないが馬を見るのは好きだぞ」

 最近ジェリンドは魔法を使いたいとしきりに言っていて困っているとニール様が言っていたのを思い出し、蜘蛛はジェリンドの魔力を探りながら話を逸らした。

「アデライザはうまがすきなの? ぼくのうまはね、しろくてとてもきれいなんだよ。きょねんのたんじょうびにおじいさまがくださったんだ」
「そうか、それはアデライザが見たら喜ぶだろう。ネルツ家には白馬はいないからな」

 主の愛馬は炭の様に黒い毛の巨大な軍馬だ。
 がっしりとしていて体力があり、足が速い。
 主とダニエラ、そしてマチルディーダが一緒に乗っても軽快に走る。
 マチルディーダには春に生まれたばかりの栗毛の馬を調教中で、もう少ししたらマチルディーダにも乗馬の練習を始めさせる予定の様だ。
 女性はあまり一人で馬に乗る事はしないが、ダニエラの希望で男女関係なく子供達には馬に乗れる様にさせる様だった。
 ダニエラ自身は体力が無いし運動どころか外で走り回った経験も無いらしいが、子供達には色々経験をさせたいのだそうだ。

「そうなんだ、アデライザをのせられるようにじょうばのおけいこがんばってるんだ。ぼくのうま、アデライザがきにいってくれるとうれしいな」

 にこにこと笑いながら、ジェリンドは部屋の奥の扉をちらちらと見ている。
 マチルディーダとアデライザはまだ寝室だ、着替えは済んだがアデライザが乳母から乳を貰っているためこちらに来ていない。
 気なっていてもアデライザに早く会わせてと騒がないところは、さすがニール様の教育の賜物だと思う。

「そうか、マチルディーダは主と一緒に馬に乗るのが大好きだから、きっとアデライザも好きになるだろう」
「ディーダはまだひとりではのれないんだよね、ロニーは? ロニーはうまにのれる?」
「はい、まだ駆けさせるのは怖いですが、だいぶ慣れてきました」

 ロニーの乗馬の腕はいまいちだが、養子になると決まってから主が毎日指導していたからだいぶ上達したと思う。
 怠惰だったロニーの父親と違い、ロニーは勤勉だ。
 座学も剣も乗馬も必要以上に熱心に取り組み、力を付けている。

「そうなんだ。じゃあこんどいっしょにうまにのろう」
「はい、是非」

 ブレガ侯爵は父上殿を崇拝していると聞く、ジェリンドがロニーと交流を取ろうとしていると知れば、二人の交流を理由に公爵家に来られるから侯爵はロニーを粗末には扱わないだろう。
 ロニーの将来を考えたら公爵家の嫡男と親しくするのは悪い話ではないし、ジェリンドにとっても取り巻きとしてではなく友となれそうなロニーの存在は悪くない筈だ。

「坊ちゃまおはようございます。お嬢様、ジェリンド坊ちゃまですよ」
「あぅ? ジェ?」
「ジェリンド? あ、ヨニーおはよーごじゃいますっ」

 二人の子供の交流を考えていたら、部屋の奥の扉が開いて乳母に連れられマチルディーダとアデライザが姿を現した。

「アデライザ! おはよう、アデライザッいまぼくのなまえをよんでくれたの? うれしいよアデライザ!! うわっ」

 アデライザの姿が見えた途端駆けだしたジェリンドは、足をもつれさせ派手に転んでしまった。

「う、いたい、うううっ」
「ジェリンドッ」
「ジェリンド様っ!」
「坊ちゃまっ!」

 見事に転んだジェリンドは、そのまま蹲り泣き始めたのだった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生したので前世の大切な人に会いに行きます!

本見りん
恋愛
 魔法大国と呼ばれるレーベン王国。  家族の中でただ一人弱い治療魔法しか使えなかったセリーナ。ある出来事によりセリーナが王都から離れた領地で暮らす事が決まったその夜、国を揺るがす未曾有の大事件が起きた。  ……その時、眠っていた魔法が覚醒し更に自分の前世を思い出し死んですぐに生まれ変わったと気付いたセリーナ。  自分は今の家族に必要とされていない。……それなら、前世の自分の大切な人達に会いに行こう。そうして『少年セリ』として旅に出た。そこで出会った、大切な仲間たち。  ……しかし一年後祖国レーベン王国では、セリーナの生死についての議論がされる事態になっていたのである。   『小説家になろう』様にも投稿しています。 『誰もが秘密を持っている 〜『治療魔法』使いセリの事情 転生したので前世の大切な人に会いに行きます!〜』 でしたが、今回は大幅にお直しした改稿版となります。楽しんでいただければ幸いです。

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
サフィリーン・ル・オルペウスである私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた既定路線。 クロード・レイ・インフェリア、大国インフェリア皇国の第一皇子といずれ婚約が結ばれること。 皇妃で将来の皇后でなんて、めっちゃくちゃ荷が重い。 こういう幼い頃に結ばれた物語にありがちなトラブル……ありそう。 私のこと気に入らないとか……ありそう? ところが、完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 絆されていたのに。 ミイラ取りはミイラなの? 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? いろいろ探ってましたけど、どうなったのでしょう。 ――考えることに、何だか疲れちゃったサフィリーン。 第一皇子とその方が相思相愛なら、魅了でも何でもいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- 不定期更新です。 他サイトさまでも投稿しています。 10/09 あらすじを書き直し、付け足し?しました。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結】あなたの『番』は埋葬されました。

月白ヤトヒコ
恋愛
道を歩いていたら、いきなり見知らぬ男にぐいっと強く腕を掴まれました。 「ああ、漸く見付けた。愛しい俺の番」 なにやら、どこぞの物語のようなことをのたまっています。正気で言っているのでしょうか? 「はあ? 勘違いではありませんか? 気のせいとか」 そうでなければ―――― 「違うっ!? 俺が番を間違うワケがない! 君から漂って来るいい匂いがその証拠だっ!」 男は、わたしの言葉を強く否定します。 「匂い、ですか……それこそ、勘違いでは? ほら、誰かからの移り香という可能性もあります」 否定はしたのですが、男はわたしのことを『番』だと言って聞きません。 「番という素晴らしい存在を感知できない憐れな種族。しかし、俺の番となったからには、そのような憐れさとは無縁だ。これから、たっぷり愛し合おう」 「お断りします」 この男の愛など、わたしは必要としていません。 そう断っても、彼は聞いてくれません。 だから――――実験を、してみることにしました。 一月後。もう一度彼と会うと、彼はわたしのことを『番』だとは認識していないようでした。 「貴様っ、俺の番であることを偽っていたのかっ!?」 そう怒声を上げる彼へ、わたしは告げました。 「あなたの『番』は埋葬されました」、と。 設定はふわっと。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

処理中です...