【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

文字の大きさ
146 / 310
番外編

ほのぼの日常編2 くもさんはともだち56(蜘蛛視点)

しおりを挟む
「そうなの……」
「ダニエラどうした」

 照れている主を見ながらダニエラはなんだか残念そうな顔で、主とロニーを見ている。

「お兄様の成人の時の礼服姿はとても素敵だったわ。お父様とお揃いの礼服が本当に良く似あっていて、私はお父様とお兄様に見惚れた程なのよ」
「それは父上とニール兄上が素敵で無い筈がありません」

 主、そこで言い切るのはどうなんだ。
 いや、これが主だから仕方ない、ロニーが驚いて二人を見ているなんて蜘蛛は気が付かない。

「ディーンの礼服も見たかったわ。成人の祝いの式にそのころ子供だった私が参列するのは出来なかったでしょうけれど、私もディーンの成人のお祝いしたかったわ」
「ダニエラ」

 ダニエラには教えられていないらしいが、父上殿とニール様はダニエラが第一王子の婚約者候補から正式に外れるまで、ダニエラに他家の令息を最低限以下の接触もさせなかったそうだ。
 第一王子はダニエラを幼い頃から自分のもの扱いしていて、茶会等でダニエラが他家の令息と会話するだけで癇癪を起していたらしくその癇癪をダニエラ本人に向け暴力を振るおうとしていたらしい。
 ダニエラが第一王子と会う時はニール様か母上殿のどちらかが必ず側にいて、陛下の側には父上殿が向かいダニエラを守っていたのだそうだ。
 だから成人の祝いとはいえ、ダニエラを主に会わせるなんて出来る筈が無い。

「仕方ないだろう。その頃ダニエラは主を知らない」
「そうなのよ。本当に残念だわ。その頃からディーンを知っていたら成人のお祝いも卒業のお祝いも出来たのに」
「ダニエラ、ああ、私はあなたが今そう思ってくれるだけで幸せです」

 ダニエラが主を祝ってくれたら、蜘蛛だってそう思う。
 成人の祝いは兎も角、卒業のあの日、主はどれだけ悲しかっただろう。
 実の母親からの暴言を、周囲に人がいる場所で受け止めなければならなかった主。
 ニール様達が主を助けてくれたとはいえ、それでも主には苦しく悲しい思いをしていたんだ。
 ダニエラがあの場にいたら、主を抱きしめ慰めてくれただろう。
 主の努力した日々は素晴らしかった、その結果成績優秀者として表彰された事は素晴らしかったときっと主を褒めてくれただろう。
 蜘蛛は主の母親の暴言を聞いて、あの女を殺せない自分の立場を呪った。
 主の使役獣である蜘蛛は、主の命令がなければ人を殺められない。
 主と血の繋がりがある者を勝手に殺せない。
 それが悔しくてたまらなかった。
 主が望めばすぐに蜘蛛が殺したというのに、あの頃の主は母親に絶望しても悲しんでも恨んではいなかった、死を望んだりしていなかったのだ。
 主はただ悲しみ、それでもまだ母親から愛されたいと願っていた。
 どうして自分は兄と同じく愛して貰えないのか、努力をどれだけしても駄目なのかと絶望していただけなんだ。

「ダニエラ、蜘蛛もあの時ダニエラが主を祝ってくれたらどれだけ嬉しいかっただろう。でもその気持ちが嬉しい主の使役獣として礼を言う。ありがとうダニエラ」

 ダニエラが主を祝いたかったと言ってくれるだけで、あの時の主の寂しさが、悲しさが癒される気がする。

「……私ロニーのお祝いも出来ないのね。ロニーはブレガ侯爵の義息子として成人の式に出るのですもの」

 そうか、ロニーはブレガ家の養子として成人する。
 
「それはロニー次第ですよ。ダニエラ」
「どういう事?」
「申し訳ありません。その話をしようとしていたのに、つい自分の思い出に浸ってしまいました」

 主は何が言いたいのだろう。ダニエラもロニーも蜘蛛も、疑問を持った顔で主の言葉の続きを待った。

「ロニーが成人までに父上殿とニール兄上からマチルディーダの婚約者に相応しいと認められたなら、ロニーの婚約者の父である私とロニーが揃いの礼服を着て成人の式に出られる。私の妻であるダニエラは勿論、婚約していればマチルディーダだって一緒にロニーの成人を祝える」
「まあ、そうよ、そうだわ」
「お義父様、それは本当ですか」
「ああ、勿論婚約するにはマチルディーダの気持ちが最優先だが、マチルディーダに求婚するにはまず父上殿とニール兄上に認められなければ駄目だ」

 ロニーの目が大きく見開かれて、主とダニエラを交互に見ている。

「僕が努力すれば、ディーダに相応しくなる様に努力すれば、僕は本当に彼女と婚約出来るのですか」

 ロニーの声が震えている。
 婚約者候補になる為にブレガ侯爵の養子になるのに、ロニーにはその未来が信じられていなかったのだろう。
 
「ロニーの努力次第だ」

 主がこう言い切るなら、それは父上殿とニール様がそう決めたと言う事だ。
 婚約者候補の一人ではなく、ロニーこそがマチルディーダの婚約者として育てられる。
 そういうことなんだ。

「努力します。どれだけ辛くても諦めません、投げ出しません。僕にその許しを下さるのなら、僕は精一杯努力し続けます」
「ロニー、頑張って。私信じているわ。あなたが私の本当の義息子になる日を信じて待っているわ」

 主とダニエラに誓うロニーの小さな体を、ダニエラがぎゅうっと抱きしめた。
 そして主も、ダニエラとロニーの体を抱きしめたんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生したので前世の大切な人に会いに行きます!

本見りん
恋愛
 魔法大国と呼ばれるレーベン王国。  家族の中でただ一人弱い治療魔法しか使えなかったセリーナ。ある出来事によりセリーナが王都から離れた領地で暮らす事が決まったその夜、国を揺るがす未曾有の大事件が起きた。  ……その時、眠っていた魔法が覚醒し更に自分の前世を思い出し死んですぐに生まれ変わったと気付いたセリーナ。  自分は今の家族に必要とされていない。……それなら、前世の自分の大切な人達に会いに行こう。そうして『少年セリ』として旅に出た。そこで出会った、大切な仲間たち。  ……しかし一年後祖国レーベン王国では、セリーナの生死についての議論がされる事態になっていたのである。   『小説家になろう』様にも投稿しています。 『誰もが秘密を持っている 〜『治療魔法』使いセリの事情 転生したので前世の大切な人に会いに行きます!〜』 でしたが、今回は大幅にお直しした改稿版となります。楽しんでいただければ幸いです。

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
サフィリーン・ル・オルペウスである私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた既定路線。 クロード・レイ・インフェリア、大国インフェリア皇国の第一皇子といずれ婚約が結ばれること。 皇妃で将来の皇后でなんて、めっちゃくちゃ荷が重い。 こういう幼い頃に結ばれた物語にありがちなトラブル……ありそう。 私のこと気に入らないとか……ありそう? ところが、完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 絆されていたのに。 ミイラ取りはミイラなの? 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? いろいろ探ってましたけど、どうなったのでしょう。 ――考えることに、何だか疲れちゃったサフィリーン。 第一皇子とその方が相思相愛なら、魅了でも何でもいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- 不定期更新です。 他サイトさまでも投稿しています。 10/09 あらすじを書き直し、付け足し?しました。

【完結】あなたの『番』は埋葬されました。

月白ヤトヒコ
恋愛
道を歩いていたら、いきなり見知らぬ男にぐいっと強く腕を掴まれました。 「ああ、漸く見付けた。愛しい俺の番」 なにやら、どこぞの物語のようなことをのたまっています。正気で言っているのでしょうか? 「はあ? 勘違いではありませんか? 気のせいとか」 そうでなければ―――― 「違うっ!? 俺が番を間違うワケがない! 君から漂って来るいい匂いがその証拠だっ!」 男は、わたしの言葉を強く否定します。 「匂い、ですか……それこそ、勘違いでは? ほら、誰かからの移り香という可能性もあります」 否定はしたのですが、男はわたしのことを『番』だと言って聞きません。 「番という素晴らしい存在を感知できない憐れな種族。しかし、俺の番となったからには、そのような憐れさとは無縁だ。これから、たっぷり愛し合おう」 「お断りします」 この男の愛など、わたしは必要としていません。 そう断っても、彼は聞いてくれません。 だから――――実験を、してみることにしました。 一月後。もう一度彼と会うと、彼はわたしのことを『番』だとは認識していないようでした。 「貴様っ、俺の番であることを偽っていたのかっ!?」 そう怒声を上げる彼へ、わたしは告げました。 「あなたの『番』は埋葬されました」、と。 設定はふわっと。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...