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番外編
おまけ くぅちゃんと絵本(蜘蛛視点)
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「あぶないよ、まわりをよくみよう。まほうつかいのおじいさんはおとこのこにいいました」
ロニーがブレガ侯爵と一緒にウィンストン公爵家を出た日の夜、マチルディーダはウィンストン家の客間でしょんぼりとアデライザに絵本を読んでやっていた。
絵本は、ダニエラが文章を、蜘蛛が絵を担当して作っている。
殆どが絵で、文章は僅かだから話は単純なものばかりだがマチルディーダは絵本が大好きだ。
幼い子供が夢中になる話を考えられるダニエラは凄いと思う。
これで絵の才能があれば完璧だったが、そちらのほうは何とも悩ましいものがある。
まあ、絵は蜘蛛が描けるからいいのだが。あれだけ上手に刺繍を刺すダニエラがなぜ絵が苦手なのか分からない。
「ちゃあ、あぶぅな」
「わあ、アデライザがあぶないって読めた。凄いねアデライザ」
「ジェリュ?」
「僕の名前も呼んでくれるの? そうだよ君のジェリンドだよ。可愛いねアデライザ。あ、ご、ごめんマチルディーダ」
アデライザは今日はご機嫌らしくおしゃべりだ。
アデライザのおしゃべりを聞いてはしゃぐジェリンドは、しょんぼりとしているマチルディーダに気が付き慌てている。
「ごめん? ジェリンわるくないのよ」
「でも」
きょとりとしているマチルディーダに、ジェリンドは戸惑いこちらを振り返る。
床に敷いた毛足の長い絨毯の上にクッションを置きマチルディーダとジェリンドが並んで座り、ジェリンドはアデライザを抱っこしている。ちぃはマチルディーダに寄り添うようにして絵本に興味津々だ。
蜘蛛はダニエラ達が座るソファーの背もたれに張り付きそれをのんびりと眺めていた。
「ディーー」
「アデライザ、マチルディーダの名前も言えるようになったんだね」
「アディザ? ディーダよ。おねぇさまよ」
本を脇に置き、マチルディーダはアデライザの顔を覗き込むとアデライザは小さな手をマチルディーダの頭に乗せた。
「いーーこぉ」
「ん? アデライザ?」
「ディーー。いいこお」
マチルディーダの頭に手を乗せたまま、アデライザはにこにこと笑っている。
なんとも愛らしい笑顔だ。
「アデライザはマチルディーダが良い子って褒めてるの? ぼ、僕は? アデライザ!」
アデライザを抱っこしたまま、ジェリンドが騒ぐのはまあ仕方がないのだろうが、どれだけジェリンドはアデライザが好きなのかとちょっと呆れる。
ソファーの方で、主も動揺した顔でダニエラに宥められている。
「ディーダ元気よ。アディザありがと」
「へへへ」
アデライザとまだ呼べないマチルディーダは、アディとかアディザとかアデライザを呼んでいる。
アデライザは最近よく話すようになってきた。かなり拙い。
「ディー? よんで」
「よむにょ? えほん?」
「もりぃ、くぅちゃでてくりゅ?」
「くぅちゃん? うんっ、くもさんが出てくるのよ。アディザ覚えてたのぉねぇ、すごぉい。おしゃべりもじょうずねぇ」
この絵本は、魔物の蜘蛛と主人公の男の子が出会い、友達になって冒険をするという話だ。
主人公に名前は付いていないが、ダニエラの希望で主に似せて描いている。最近のマチルディーダのお気に入りの絵本だから何度もアデライザに読み聞かせている。
それで覚えたのか、アデライザの記憶力も凄いな。
「アデライザ凄い! 沢山はなしてるね」
「ジェリュ、しゅごい?」
「僕じゃなくてアデライザが凄いんだよ! あぁ可愛いなぁ」
「アディザはかわいいのよ。ディーダのいもおぉとなのよ」
「いもおぉとじゃなく、い、も、う、と、だよ」
「いもおーーと?」
「いーーも?」
こてりと首を傾げてマチルディーダとアデライザが聞き返す、その愛らしい姿に主が呟いた。
「この姿が残せないのが勿体ないな」
「絵師を呼ぶか」
主の呟きに、子供たち(父上殿には孫)の様子を眺めながら寛いでいた父上殿が提案してくる。
母上殿は体調が良くなく既に休んでいるし、ニール様と義姉殿は外せない夜会があるらしく、先程出掛けたばかりだが、もしここに居たら同じ反応をしたかもしれない。
「絵師では時間が掛かりますし、子供達も警戒してしまいますわ」
「そうだな、あの無邪気な笑顔は他人がいる場では出ないかもしれないな」
「あの姿をそのまま絵に出来たらいいのに」
ダニエラはまた無茶なことを言い始める。
時々ダニエラはこういう無茶を言い出す。
妊娠してからだと、体を締め付けなくても綺麗に着られるドレスが欲しいとか、大きくなった胸を支える下着がいいとかだ。
さすがに下着とドレスは主には難しくて、タオとメイナを中心にネルツ家のお針子達が頑張って新しい考えのドレスと下着を作り上げてしまった。
今のダニエラはコルセットを使っていない。
胸をしっかりと包み支える下着を着け、コルセットで締め付けなくても細い腰を印象付けるドレスを着ている。
日常的に腰を締め付け無くなったせいなのか、ダニエラは食事をしっかりと取るようになり、少しだけ体力が付いてきた。
そういえばあの時、主はダニエラの希望を叶えるために軽くて弾力があり加工しやすいヒゲを持つ鯨の魔物を大量に狩っていた。
「そのままを絵に、そのまま」
「どうした主」
「蜘蛛、魔物にいるだろう。幻覚で景色を作る」
「幻覚? ああ、幻覚大魔蟻か」
大きな蟻の巣に薄い膜を張り、その膜に目眩ましの幻覚を映す。
周囲の景色を膜に映す事が多く、幻覚に気が付かず膜を踏み抜いて蟻の巣に落ちて幻覚大魔蟻の餌食になるのだ。
「あれはあの魔物の能力で膜に周辺の景色を描いているんだ」
「そうなのか?」
「あの能力は解明済みなんだが、何か使えないかと思っていたんだがダニエラの希望を叶えられるかもしれない」
この主の顔を蜘蛛は何度も過去に見てきた。
これは思いついた時の顔だ。
「まあディーン、子供達の愛らしい姿をそのまま絵に出来るの?」
「多分可能です」
「まあ、素敵だわっ! 絵に出来る様になったら、いつか声や動きもそのまま再現できる様にもなるかしら」
「声や動きも再現、ですか?」
ダニエラが言いたいことが理解出来なかったのだろう。
主はダニエラの言葉を繰り返した後動かなくなった。
だが主の気持ちも分かる。ダニエラ何が言いたいんだ?
「そうよ、動く絵とでも言えばいいのかしら。だってあの子達の可愛さは姿だけじゃないわ。声も表情が変わるところも動く様子もすべてが愛らしいのよ。あの子達が大きくなってからそれが見られたら素敵だわ」
「ダニエラ、あなたは何て素晴らしい発想をするんでしょう」
「出来る? ディーン」
「ええ、絵にするのに比べればだいぶ難しいとは思いますが、必ず作ってみせますので待っていて頂けますか?」
「楽しみに待っているわ」
ダニエラの笑顔に、主のやる気に火がついた。
今の主の頭の中は、ダニエラの希望を叶えるために全力で動いている筈だ。
「ディーンおじうえは凄いです!」
「どうしたジェリンド」
「ダニエラおばさまのようぼうを叶えられる力があるのは、素晴らしいとおもいますっ! 僕の理想はおじい様とお父様ですが、ディーンおじうえも理想になりました!」
ジェリンドはとても素直だ。
これが将来はニール様の様になるのだろうか、そして行く行くはブレガ侯爵を跪かせる父上殿の様に……いや、いま考えるのは止めよう。
「ふふ、そうよディーンはとても凄いの。素晴らしい才能があるだけでなく努力や工夫を惜しまない人なの」
「ダニエラ、そんな……私なんて」
「私の夫が、可愛い甥の理想になるなんて素敵だわ。さすが私の自慢の旦那様だわ」
「おかあさまぁ?」
「ふふ、皆こちらにいらっしゃい。喉が乾いたでしょう?」
ダニエラが三人を手招きすると、すかさずタオが子供達の茶器を用意する。
夕食の後の遅い時間だから、茶器の中身は温めた牛の乳だ。
「マチルディーダ、お父様が素晴らしい魔道具を作ってくださるから楽しみに待ちましょうね」
「まどおぐ?」
「そうよ、それが出来たらマチルディーダの姿を写し絵にしてロニーに送りましょうね。声もロニーに届けられる様になるわ」
蜘蛛だけでなく、ダニエラの言葉に部屋の中にいる大人達皆目を見開いた。
「通信の魔道具をロニーにあげることは出来なかったけれど、写し絵ならきっと大丈夫よ。マチルディーダの成長をロニーに届けてあげられるわ」
「そしたらヨニーさみしくない?」
「マチルディーダは、ロニーが寂しいと心配していたの?」
マチルディーダのしょんぼりとしていた理由に気が付いて、ジェリンドが尋ねるが、まさかそうなのか?
「うん、ディーダは皆がいっしょだから、だいじょおぶなの。おとおさまぁとおかあさまぁに抱っこしてもらえるし。おじぃさまにあたまをなででもらえるの。でもね、ヨニーはディーダがいないのだめなの」
マチルディーダが幼い子供だと侮っていた。
蜘蛛は馬鹿だ。
幼くても考え心配する。大事な人、家族なのだから。
「でもねえ、ヨニーはディーダとずっといっしょにいりゅって、そうなるためにいくんだよって、ディーダねぇ、まってりゅの」
「マチルディーダは、ロニーが好きか」
「おとおさまぁ、あのねだいしゅき、ヨニーがみんなとおなじくらいしゅき」
それは幼いながらの思いなのだろうか。
「ヨニーはディーダをしあわせにしゅるって言ってた。だからディーダもヨニーをしあわせにしゅるのよ」
「マチルディーダ! ロニーが聞いたらきっと元気になるよ! 僕がロニーに教えるから。マチルディーダのこと沢山ロニーに話すから安心して」
ジェリンドの張り切っている様子に、蜘蛛はそっと父上殿へ視線を向ける。
ジェリンドはロニーと仲良くなったようだったが、父上殿もそれを認めているのだろうか。
「ジェリンドがロニーと仲良くしてくれたら、心強いわ。ねぇ、ディーン?」
「ダニエラおばさま、僕はお父様とディーンおじさまみたいにロニーと仲良く大きくなります! 生涯の友で将来の兄弟ですから」
ニール様と主と同じ? そんなこと言っていいのか。
「そうね、お兄様とディーンと同じね」
蜘蛛の心配を、ダニエラは呑気に跳ね返す。
「確かにアデライザとジェリンドが結婚したら、ジェリンドはマチルディーダの義弟になるわけだが。そうかロニーと義理の兄弟」
父上殿は、ブツブツ呟きそして小さく頷いた。
「ジェリンド、ロニーをよろしく頼む。私達は近くにいてやれないからな」
「はいっ! ディーンおじうえ」
主に元気に返事をすると、ジェリンドは腕の中でにここと笑っているアデライザに頬擦りしたんだ。
ロニーがブレガ侯爵と一緒にウィンストン公爵家を出た日の夜、マチルディーダはウィンストン家の客間でしょんぼりとアデライザに絵本を読んでやっていた。
絵本は、ダニエラが文章を、蜘蛛が絵を担当して作っている。
殆どが絵で、文章は僅かだから話は単純なものばかりだがマチルディーダは絵本が大好きだ。
幼い子供が夢中になる話を考えられるダニエラは凄いと思う。
これで絵の才能があれば完璧だったが、そちらのほうは何とも悩ましいものがある。
まあ、絵は蜘蛛が描けるからいいのだが。あれだけ上手に刺繍を刺すダニエラがなぜ絵が苦手なのか分からない。
「ちゃあ、あぶぅな」
「わあ、アデライザがあぶないって読めた。凄いねアデライザ」
「ジェリュ?」
「僕の名前も呼んでくれるの? そうだよ君のジェリンドだよ。可愛いねアデライザ。あ、ご、ごめんマチルディーダ」
アデライザは今日はご機嫌らしくおしゃべりだ。
アデライザのおしゃべりを聞いてはしゃぐジェリンドは、しょんぼりとしているマチルディーダに気が付き慌てている。
「ごめん? ジェリンわるくないのよ」
「でも」
きょとりとしているマチルディーダに、ジェリンドは戸惑いこちらを振り返る。
床に敷いた毛足の長い絨毯の上にクッションを置きマチルディーダとジェリンドが並んで座り、ジェリンドはアデライザを抱っこしている。ちぃはマチルディーダに寄り添うようにして絵本に興味津々だ。
蜘蛛はダニエラ達が座るソファーの背もたれに張り付きそれをのんびりと眺めていた。
「ディーー」
「アデライザ、マチルディーダの名前も言えるようになったんだね」
「アディザ? ディーダよ。おねぇさまよ」
本を脇に置き、マチルディーダはアデライザの顔を覗き込むとアデライザは小さな手をマチルディーダの頭に乗せた。
「いーーこぉ」
「ん? アデライザ?」
「ディーー。いいこお」
マチルディーダの頭に手を乗せたまま、アデライザはにこにこと笑っている。
なんとも愛らしい笑顔だ。
「アデライザはマチルディーダが良い子って褒めてるの? ぼ、僕は? アデライザ!」
アデライザを抱っこしたまま、ジェリンドが騒ぐのはまあ仕方がないのだろうが、どれだけジェリンドはアデライザが好きなのかとちょっと呆れる。
ソファーの方で、主も動揺した顔でダニエラに宥められている。
「ディーダ元気よ。アディザありがと」
「へへへ」
アデライザとまだ呼べないマチルディーダは、アディとかアディザとかアデライザを呼んでいる。
アデライザは最近よく話すようになってきた。かなり拙い。
「ディー? よんで」
「よむにょ? えほん?」
「もりぃ、くぅちゃでてくりゅ?」
「くぅちゃん? うんっ、くもさんが出てくるのよ。アディザ覚えてたのぉねぇ、すごぉい。おしゃべりもじょうずねぇ」
この絵本は、魔物の蜘蛛と主人公の男の子が出会い、友達になって冒険をするという話だ。
主人公に名前は付いていないが、ダニエラの希望で主に似せて描いている。最近のマチルディーダのお気に入りの絵本だから何度もアデライザに読み聞かせている。
それで覚えたのか、アデライザの記憶力も凄いな。
「アデライザ凄い! 沢山はなしてるね」
「ジェリュ、しゅごい?」
「僕じゃなくてアデライザが凄いんだよ! あぁ可愛いなぁ」
「アディザはかわいいのよ。ディーダのいもおぉとなのよ」
「いもおぉとじゃなく、い、も、う、と、だよ」
「いもおーーと?」
「いーーも?」
こてりと首を傾げてマチルディーダとアデライザが聞き返す、その愛らしい姿に主が呟いた。
「この姿が残せないのが勿体ないな」
「絵師を呼ぶか」
主の呟きに、子供たち(父上殿には孫)の様子を眺めながら寛いでいた父上殿が提案してくる。
母上殿は体調が良くなく既に休んでいるし、ニール様と義姉殿は外せない夜会があるらしく、先程出掛けたばかりだが、もしここに居たら同じ反応をしたかもしれない。
「絵師では時間が掛かりますし、子供達も警戒してしまいますわ」
「そうだな、あの無邪気な笑顔は他人がいる場では出ないかもしれないな」
「あの姿をそのまま絵に出来たらいいのに」
ダニエラはまた無茶なことを言い始める。
時々ダニエラはこういう無茶を言い出す。
妊娠してからだと、体を締め付けなくても綺麗に着られるドレスが欲しいとか、大きくなった胸を支える下着がいいとかだ。
さすがに下着とドレスは主には難しくて、タオとメイナを中心にネルツ家のお針子達が頑張って新しい考えのドレスと下着を作り上げてしまった。
今のダニエラはコルセットを使っていない。
胸をしっかりと包み支える下着を着け、コルセットで締め付けなくても細い腰を印象付けるドレスを着ている。
日常的に腰を締め付け無くなったせいなのか、ダニエラは食事をしっかりと取るようになり、少しだけ体力が付いてきた。
そういえばあの時、主はダニエラの希望を叶えるために軽くて弾力があり加工しやすいヒゲを持つ鯨の魔物を大量に狩っていた。
「そのままを絵に、そのまま」
「どうした主」
「蜘蛛、魔物にいるだろう。幻覚で景色を作る」
「幻覚? ああ、幻覚大魔蟻か」
大きな蟻の巣に薄い膜を張り、その膜に目眩ましの幻覚を映す。
周囲の景色を膜に映す事が多く、幻覚に気が付かず膜を踏み抜いて蟻の巣に落ちて幻覚大魔蟻の餌食になるのだ。
「あれはあの魔物の能力で膜に周辺の景色を描いているんだ」
「そうなのか?」
「あの能力は解明済みなんだが、何か使えないかと思っていたんだがダニエラの希望を叶えられるかもしれない」
この主の顔を蜘蛛は何度も過去に見てきた。
これは思いついた時の顔だ。
「まあディーン、子供達の愛らしい姿をそのまま絵に出来るの?」
「多分可能です」
「まあ、素敵だわっ! 絵に出来る様になったら、いつか声や動きもそのまま再現できる様にもなるかしら」
「声や動きも再現、ですか?」
ダニエラが言いたいことが理解出来なかったのだろう。
主はダニエラの言葉を繰り返した後動かなくなった。
だが主の気持ちも分かる。ダニエラ何が言いたいんだ?
「そうよ、動く絵とでも言えばいいのかしら。だってあの子達の可愛さは姿だけじゃないわ。声も表情が変わるところも動く様子もすべてが愛らしいのよ。あの子達が大きくなってからそれが見られたら素敵だわ」
「ダニエラ、あなたは何て素晴らしい発想をするんでしょう」
「出来る? ディーン」
「ええ、絵にするのに比べればだいぶ難しいとは思いますが、必ず作ってみせますので待っていて頂けますか?」
「楽しみに待っているわ」
ダニエラの笑顔に、主のやる気に火がついた。
今の主の頭の中は、ダニエラの希望を叶えるために全力で動いている筈だ。
「ディーンおじうえは凄いです!」
「どうしたジェリンド」
「ダニエラおばさまのようぼうを叶えられる力があるのは、素晴らしいとおもいますっ! 僕の理想はおじい様とお父様ですが、ディーンおじうえも理想になりました!」
ジェリンドはとても素直だ。
これが将来はニール様の様になるのだろうか、そして行く行くはブレガ侯爵を跪かせる父上殿の様に……いや、いま考えるのは止めよう。
「ふふ、そうよディーンはとても凄いの。素晴らしい才能があるだけでなく努力や工夫を惜しまない人なの」
「ダニエラ、そんな……私なんて」
「私の夫が、可愛い甥の理想になるなんて素敵だわ。さすが私の自慢の旦那様だわ」
「おかあさまぁ?」
「ふふ、皆こちらにいらっしゃい。喉が乾いたでしょう?」
ダニエラが三人を手招きすると、すかさずタオが子供達の茶器を用意する。
夕食の後の遅い時間だから、茶器の中身は温めた牛の乳だ。
「マチルディーダ、お父様が素晴らしい魔道具を作ってくださるから楽しみに待ちましょうね」
「まどおぐ?」
「そうよ、それが出来たらマチルディーダの姿を写し絵にしてロニーに送りましょうね。声もロニーに届けられる様になるわ」
蜘蛛だけでなく、ダニエラの言葉に部屋の中にいる大人達皆目を見開いた。
「通信の魔道具をロニーにあげることは出来なかったけれど、写し絵ならきっと大丈夫よ。マチルディーダの成長をロニーに届けてあげられるわ」
「そしたらヨニーさみしくない?」
「マチルディーダは、ロニーが寂しいと心配していたの?」
マチルディーダのしょんぼりとしていた理由に気が付いて、ジェリンドが尋ねるが、まさかそうなのか?
「うん、ディーダは皆がいっしょだから、だいじょおぶなの。おとおさまぁとおかあさまぁに抱っこしてもらえるし。おじぃさまにあたまをなででもらえるの。でもね、ヨニーはディーダがいないのだめなの」
マチルディーダが幼い子供だと侮っていた。
蜘蛛は馬鹿だ。
幼くても考え心配する。大事な人、家族なのだから。
「でもねえ、ヨニーはディーダとずっといっしょにいりゅって、そうなるためにいくんだよって、ディーダねぇ、まってりゅの」
「マチルディーダは、ロニーが好きか」
「おとおさまぁ、あのねだいしゅき、ヨニーがみんなとおなじくらいしゅき」
それは幼いながらの思いなのだろうか。
「ヨニーはディーダをしあわせにしゅるって言ってた。だからディーダもヨニーをしあわせにしゅるのよ」
「マチルディーダ! ロニーが聞いたらきっと元気になるよ! 僕がロニーに教えるから。マチルディーダのこと沢山ロニーに話すから安心して」
ジェリンドの張り切っている様子に、蜘蛛はそっと父上殿へ視線を向ける。
ジェリンドはロニーと仲良くなったようだったが、父上殿もそれを認めているのだろうか。
「ジェリンドがロニーと仲良くしてくれたら、心強いわ。ねぇ、ディーン?」
「ダニエラおばさま、僕はお父様とディーンおじさまみたいにロニーと仲良く大きくなります! 生涯の友で将来の兄弟ですから」
ニール様と主と同じ? そんなこと言っていいのか。
「そうね、お兄様とディーンと同じね」
蜘蛛の心配を、ダニエラは呑気に跳ね返す。
「確かにアデライザとジェリンドが結婚したら、ジェリンドはマチルディーダの義弟になるわけだが。そうかロニーと義理の兄弟」
父上殿は、ブツブツ呟きそして小さく頷いた。
「ジェリンド、ロニーをよろしく頼む。私達は近くにいてやれないからな」
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