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番外編
おまけ 過保護は誰だ 後編(ニール視点)
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「よろしいのですか?」
「どういう意味だ」
扇越しにロマーナはじぃっと私を見つめている。
私の変化を瞬き一回分も見逃さないとしているかの様な視線に興味が沸いて、顔を近づけてみた。
「な、な、なんですのっ」
ばさりと扇が落ちて、ロマーナは立ち上がりかけながら後退ろうとして、ぐらりと後ろによろめいた。
走っている馬車の中で急に立ち上がったらよろめいて当然だ。
「危ないぞ、落ち着きなさい」
手を伸ばし抱き止めて、座らせた。
ロマーナが「な、な、な」と意味の無い音を発しながら大人しく座っているのを目の端で確認しながら、扇を拾い上げる。
ふわりと香るのは、ロマーナ愛用の香水の香りだ。
扇に付けた香水の香りは、この香りを嗅いだだけでロマーナが近くにいると錯覚する程慣れた匂いだ。
「ニール様、揶揄わないでくださいませっ」
「揶揄う? 意図はないが」
本当に何も無かった。ただ、あまりに真剣に見つめるから近寄ってみようかと思っただけだ。
「もう、ニール様はいつも余裕で嫌になりますっ」
「余裕か、いつもそうならいいのだがな」
自分の事だけなら、いつだって余裕でいられる。
そうならないのは、ダニエラとディーンの事だけだ。
ロマーナの事で焦ることはない、ジェリンドの事もだ。
ロマーナは、あまり危ういところを昔から感じない女性だった。
ダニエラを大切にしそうだという以外だと、そこが他の令嬢と違うと思ったから、婚約者を選ばなければならないとなった時、ロマーナの名を上げた。
あの時ロマーナを望んだ自分に間違いは無かったと、今も思っている。
体を支えたついでに、ロマーナの細い背中を抱き寄せるとなぜかビクリと震えるから笑ってしまう。
「ニール様は考える事が多いのですから、後方支援はお任せください」
そう言いながら赤い顔をして離れようとするから、腕に力をこめる。
私の子供を産んでいるくせに、たまにロマーナはこうやって逃げようとするのがおもしろい。
「ふっ。何を急に言い出す」
「あら、私の事を考えていたのではありませんか? 読み違えました?」
諦めたのか私の腕の中でおとなしくなるから、体を離して顔を覗き込む。
平気そうな声を出しながら、耳を赤く染めている。
「どうだろうな」
ロマーナの事を考えていたのは確かだが、それがどうして後方支援となったのか分からない。
勘が鋭い様で、違う様な気がする。
「後方支援は得意です。だからダニエラちゃんが上手く社交界で動ける様に私が守ります」
「頼りにしている」
「でも、ニール様はダニエラちゃんを外に出したくないのですよね」
「……そう思うか」
「はい、私もですから。ダニエラちゃんは綺麗な箱に入れてそっとしておきたいわ。あの子は周囲が必要だと考えたら蓋を開けるまで箱の中にいてくれるでしょう」
そうだろうな。いいや、そうだった。
私と父上がダニエラを綺麗な宝石箱の中に入れて育て、守った。
母上は、ダニエラがその中にいると気付かせないようにしながら、自分も違う箱の中にいた。
母上は自分が父上の弱点だと気が付いていたからだ。
ダニエラは、考える事を放棄してただ私と父上に従っていた。
「昔はそうだった。だが、今のダニエラは違う。母になって強くなったのか。ディーンが変えたのか分からないが」
ジェリンドは幼いが、あれは私に似ているから上手く生きていくだろう。
そういう意味での安心感がある。
ロマーナも同じだ。
「ダニエラちゃんも母親ですから。母は強い生き物ですから」
「そうなのかもしれないな」
母上も強かった。
ダニエラを守る為、自ら毒見役をしていた程だ。
そうして体を壊した。
毒を盛った相手が王妃だったから、それ以上の守りが難しかった。
今は王妃の体を蜘蛛が操っているから、あの女への警戒は無くなった、だが。
「ダニエラがいくら強くなったとしても、第一王子から守るには限界がある」
ダニエラに執着している男はあれだけではないが、第一王子が一番厄介だった。
将来この国の王となる男、第一王子は結婚し子供が生まれたと言うのにまだダニエラに執着しているのだ。
ダニエラを守る為、父上は第二王子側に付くことを決めた。
彼も癖があるが、第一王子より遥かにマシだ。
今日の夜会も、公爵家の立ち位置を知らしめるために行くようなものだ。
「彼が王になったら、それを心配しているのですよね。だからダニエラちゃんを外に出したくない」
「ああ、そうだ。ダニエラだけでなく、子供達もだ」
目元がディーンに似ているから、第一王子はマチルディーダを自分の息子と婚約させなかった。
だが、マチルディーダはふとした瞬間の顔がダニエラにそっくりだ。
幼い頃のダニエラを良く知る第一王子なら、マチルディーダにダニエラを重ねるだろう。
アデライザとルチアナだって、もう少し大きくなればダニエラに似て来るかもしれない。
大人になったダニエラは守れても、子供達を第一王子が手に入れようとする可能性もあるんだ。
「悩ましいですね。子供達が大きくなれば、それだけ危険は増えますし」
「すべてを閉じ込めては置けない。とくにマチルディーダは難しいだろう、あれはダニエラとは違う」
「ふふふ、執事お客様がお帰りよ。でしたか」
くすくすとロマーナが笑う。
「それを父上がマチルディーダに教えたのは、今のアデライザよりも幼い時だ。まさか覚えているとは。教えた本人は忘れていたらしいぞ」
「お義父様驚かれたでしょうね。でも、その場面を見たかったわ。きっとマチルディーダは凛々しかったでしょう」
まさか辺境伯相手にそれを言うとは思わなかった。
あれのお陰で、辺境伯の息子がマチルディーダを欲しいと喚いているのも予想外だが、マチルディーダは記憶力が良いのかもしれない。
「辺境伯にマチルディーダをやったりしませんよね」
「当たり前だ」
あの男は、マチルディーダを否定したのだから、やるわけがない。
「ニール様、案外過保護ですわね」
「そんな事、今更だ」
ふんと鼻を鳴らし腕を組むと、ロマーナはくすくすと笑いながら私に抱き着いたんだ。
「どういう意味だ」
扇越しにロマーナはじぃっと私を見つめている。
私の変化を瞬き一回分も見逃さないとしているかの様な視線に興味が沸いて、顔を近づけてみた。
「な、な、なんですのっ」
ばさりと扇が落ちて、ロマーナは立ち上がりかけながら後退ろうとして、ぐらりと後ろによろめいた。
走っている馬車の中で急に立ち上がったらよろめいて当然だ。
「危ないぞ、落ち着きなさい」
手を伸ばし抱き止めて、座らせた。
ロマーナが「な、な、な」と意味の無い音を発しながら大人しく座っているのを目の端で確認しながら、扇を拾い上げる。
ふわりと香るのは、ロマーナ愛用の香水の香りだ。
扇に付けた香水の香りは、この香りを嗅いだだけでロマーナが近くにいると錯覚する程慣れた匂いだ。
「ニール様、揶揄わないでくださいませっ」
「揶揄う? 意図はないが」
本当に何も無かった。ただ、あまりに真剣に見つめるから近寄ってみようかと思っただけだ。
「もう、ニール様はいつも余裕で嫌になりますっ」
「余裕か、いつもそうならいいのだがな」
自分の事だけなら、いつだって余裕でいられる。
そうならないのは、ダニエラとディーンの事だけだ。
ロマーナの事で焦ることはない、ジェリンドの事もだ。
ロマーナは、あまり危ういところを昔から感じない女性だった。
ダニエラを大切にしそうだという以外だと、そこが他の令嬢と違うと思ったから、婚約者を選ばなければならないとなった時、ロマーナの名を上げた。
あの時ロマーナを望んだ自分に間違いは無かったと、今も思っている。
体を支えたついでに、ロマーナの細い背中を抱き寄せるとなぜかビクリと震えるから笑ってしまう。
「ニール様は考える事が多いのですから、後方支援はお任せください」
そう言いながら赤い顔をして離れようとするから、腕に力をこめる。
私の子供を産んでいるくせに、たまにロマーナはこうやって逃げようとするのがおもしろい。
「ふっ。何を急に言い出す」
「あら、私の事を考えていたのではありませんか? 読み違えました?」
諦めたのか私の腕の中でおとなしくなるから、体を離して顔を覗き込む。
平気そうな声を出しながら、耳を赤く染めている。
「どうだろうな」
ロマーナの事を考えていたのは確かだが、それがどうして後方支援となったのか分からない。
勘が鋭い様で、違う様な気がする。
「後方支援は得意です。だからダニエラちゃんが上手く社交界で動ける様に私が守ります」
「頼りにしている」
「でも、ニール様はダニエラちゃんを外に出したくないのですよね」
「……そう思うか」
「はい、私もですから。ダニエラちゃんは綺麗な箱に入れてそっとしておきたいわ。あの子は周囲が必要だと考えたら蓋を開けるまで箱の中にいてくれるでしょう」
そうだろうな。いいや、そうだった。
私と父上がダニエラを綺麗な宝石箱の中に入れて育て、守った。
母上は、ダニエラがその中にいると気付かせないようにしながら、自分も違う箱の中にいた。
母上は自分が父上の弱点だと気が付いていたからだ。
ダニエラは、考える事を放棄してただ私と父上に従っていた。
「昔はそうだった。だが、今のダニエラは違う。母になって強くなったのか。ディーンが変えたのか分からないが」
ジェリンドは幼いが、あれは私に似ているから上手く生きていくだろう。
そういう意味での安心感がある。
ロマーナも同じだ。
「ダニエラちゃんも母親ですから。母は強い生き物ですから」
「そうなのかもしれないな」
母上も強かった。
ダニエラを守る為、自ら毒見役をしていた程だ。
そうして体を壊した。
毒を盛った相手が王妃だったから、それ以上の守りが難しかった。
今は王妃の体を蜘蛛が操っているから、あの女への警戒は無くなった、だが。
「ダニエラがいくら強くなったとしても、第一王子から守るには限界がある」
ダニエラに執着している男はあれだけではないが、第一王子が一番厄介だった。
将来この国の王となる男、第一王子は結婚し子供が生まれたと言うのにまだダニエラに執着しているのだ。
ダニエラを守る為、父上は第二王子側に付くことを決めた。
彼も癖があるが、第一王子より遥かにマシだ。
今日の夜会も、公爵家の立ち位置を知らしめるために行くようなものだ。
「彼が王になったら、それを心配しているのですよね。だからダニエラちゃんを外に出したくない」
「ああ、そうだ。ダニエラだけでなく、子供達もだ」
目元がディーンに似ているから、第一王子はマチルディーダを自分の息子と婚約させなかった。
だが、マチルディーダはふとした瞬間の顔がダニエラにそっくりだ。
幼い頃のダニエラを良く知る第一王子なら、マチルディーダにダニエラを重ねるだろう。
アデライザとルチアナだって、もう少し大きくなればダニエラに似て来るかもしれない。
大人になったダニエラは守れても、子供達を第一王子が手に入れようとする可能性もあるんだ。
「悩ましいですね。子供達が大きくなれば、それだけ危険は増えますし」
「すべてを閉じ込めては置けない。とくにマチルディーダは難しいだろう、あれはダニエラとは違う」
「ふふふ、執事お客様がお帰りよ。でしたか」
くすくすとロマーナが笑う。
「それを父上がマチルディーダに教えたのは、今のアデライザよりも幼い時だ。まさか覚えているとは。教えた本人は忘れていたらしいぞ」
「お義父様驚かれたでしょうね。でも、その場面を見たかったわ。きっとマチルディーダは凛々しかったでしょう」
まさか辺境伯相手にそれを言うとは思わなかった。
あれのお陰で、辺境伯の息子がマチルディーダを欲しいと喚いているのも予想外だが、マチルディーダは記憶力が良いのかもしれない。
「辺境伯にマチルディーダをやったりしませんよね」
「当たり前だ」
あの男は、マチルディーダを否定したのだから、やるわけがない。
「ニール様、案外過保護ですわね」
「そんな事、今更だ」
ふんと鼻を鳴らし腕を組むと、ロマーナはくすくすと笑いながら私に抱き着いたんだ。
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