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番外編
おまけ 愛のかたち16 (蜘蛛視点)
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「父上殿、過去はもう変えようが無い。ダニエラが今第一王子の妻になっていたらこれ以上不幸な事があるか? 父上殿はそれを回避しようとした。一度目の結婚は王妃からも第一王子からも不幸だと思われる結婚でなければなかったのなら、主の兄は丁度良すぎる相手だった筈だ」
「蜘蛛丁度良いは言い過ぎだ」
父上殿は困った様な顔で蜘蛛を呼んだ。
ダニエラと結婚しなかったら主の兄はロニーの母親を妻に出来たのだろうかと考えて、すぐに否定する。
多分誰と結婚しなくても、あの男は両親を説得しロニーの母を妻にする。なんてことはしなかっただろう。
あの男は自分で動く人間じゃ無かった。
自分の出来が悪いのを他人のせいにして、閑職と言われる様な場所でくすぶっているだけだった。
ただ王都で生活したいというだけで仕事に就いて、ネルツ領に帰らない理由にしていただけだ。
あんな怠惰な男が一時でもダニエラの夫だったのは気分が良く無いが、あの男が主の兄でなければダニエラと主の関係は今の様にはならなかったかもしれないから、そう考えるとこれは神の采配という奴なんだろうか。
蜘蛛は神の教えとは遠いところにいる魔物だが、そうなんだろうか。
でもそうすると、ダニエラが言っていたブレガ侯爵家へダニエラが嫁いだのはどうなんだろう。
夢は所詮夢なのか、でもロニーはマチルディーダーの夫になる為に、ブレガ侯爵の養子になった。
「父上殿、なぜブレガ侯爵なんだ」
「なぜというのは」
「ロニーの養子先だ」
「ブレガ侯爵ならロニーを託しても私達の弱みにはならないと思ったからだ」
弱みにならない。つまり、父上殿はブレガ侯爵を信じているということか。
「それはもし年齢が近かったら、ダニエラを嫁がせた程の信用か」
「……蜘蛛がどうしてそう思ったか分からないが。あの男が死んだ時、ディーンがダニエラの夫になりたいと願わなければ、ブレガ侯爵はダニエラの受け入れ先として考えていた位には信じている」
なんと、それではダニエラの言う通り、あの暑苦しい夫がダニエラの夫になる可能性はあったのか。
「父と娘程度に年齢が離れているぞ」
「あれは妻として預かって欲しいといえば、ダニエラの尊厳を守り大切にしてくれる男だ」
「尊厳を守る。本当の妻にはしないということか」
そこまでの信用があの男にはあるのか、あの暑苦しい男を信用。蜘蛛にはとても出来ないが。
それは本当にダニエラの幸せになるのだろうか。
だが、夢の中のダニエラなら世間の目から夫として父親として自分と娘を守る存在は必要だっただろう。
「ダニエラが生涯結婚せずに屋敷にいても私達は仲良くくらしただろう。だが、陛下はきっとそれを認めないだろうし王妃様にも第一王子にも狙われ続ける。ブレガはああ見えて強い、あの者の娘も同じく強い。王都から遠い場所でダニエラを匿うならあそこは理想的だった」
「そうなのか」
ああ嫌だ。ダニエラの夢は所詮夢だと思いたいのに、父上殿がそれを否定してくる。
主の母親のせいで穢されて、望まぬ子を身ごもったダニエラをブレガ侯爵が父上殿にダニエラを託されて匿う為に夫になった。その道筋が蜘蛛の目にも見えてしまう。
「何を心配している」
「父上殿やニール様の目の届かないところで、主やダニエラが側にいないところでロニーが育っていくのが不安でたまらないのだ」
蜘蛛に食べてと願うダニエラ。
あんな悪夢を現実にしたくない。
ブレガ侯爵と関りを持つのがいいことなのか、蜘蛛には分からない。
「不安ばかりだ、父上殿。第一王子と王子妃の事も、子供達が使ったまじないのことも、ロニーがどう育つかも蜘蛛は不安で仕方が無い」
「まじないは、そうだな」
「ダニエラの血というより主の血なのか、マチルディーダもアデライザも容易くとんでもない事をしてくれる」
だが、アデライザのやらかしのお陰で母上殿は元気になった。
不安はあるが良い事もある。
「ふっ。あれはダニエラの血だ。ディーンは慎重だ。新しい魔法陣を思いついた時は面白くなるが、あれはとても真面目で一途で本当にいい子だ」
「主を息子と思ってくれるか」
そう思って欲しい。主を大切に思って欲しい。
それは蜘蛛の願いだ。
「思っているよ。ディーンがダニエラの夫になりたいと願ったとニールに聞いた時私がどれだけ嬉しかったか分かるかい、蜘蛛」
「父上殿は嬉しいと思ってくれたのか」
「勿論だ。ディーンが良い子だと知っていたからね。義理の息子になってくれてとても嬉しいよ。お陰で可愛い孫にも会えたからね」
父上殿は目を細めて蜘蛛にそう言ってくれた。
蜘蛛はそれが嬉しくてたまらない。
「父上殿、蜘蛛は魔物だ。主とダニエラの命が尽きてもその先も蜘蛛は生き続けるだろう。その時はマチルディーダの使役獣になってウィンストン家とネルツ家を守る。マチルディーダの命が尽きたら、その子か孫の使役獣になる。そうしてずっと蜘蛛と蜘蛛の子が守り続けると誓う」
蜘蛛はその為にもっともっと力を付ける。
力を付けて、永遠に大切なものを守り続ける。それは蜘蛛の愛だ。今主に思うと同じ愛を、蜘蛛はずっと抱きながら大切な者を守り続ける。
「蜘蛛ありがとう。私の子供と孫たちをよろしく頼むよ」
「ああ、任された。蜘蛛は絶対に守り続ける」
ダニエラの悪夢を本当にはしない。
蜘蛛はもっともっと強くなって、愛する者を守り続けるんだ。
※※※※※※
愛のかたちはこれでおしまいです。
ちなみに王妃様、瀕死ですがまだ生きてます。
第一王子と王子妃は拘束されてます。この三人がどうなったかは乙女ゲーム編で明らかになるかなあ。
今週ちょっとばたばたしているので、ダニエラ父編は来週からのスタートとなります。
他の作品は何か更新出来たらいいなと思ってます。
「蜘蛛丁度良いは言い過ぎだ」
父上殿は困った様な顔で蜘蛛を呼んだ。
ダニエラと結婚しなかったら主の兄はロニーの母親を妻に出来たのだろうかと考えて、すぐに否定する。
多分誰と結婚しなくても、あの男は両親を説得しロニーの母を妻にする。なんてことはしなかっただろう。
あの男は自分で動く人間じゃ無かった。
自分の出来が悪いのを他人のせいにして、閑職と言われる様な場所でくすぶっているだけだった。
ただ王都で生活したいというだけで仕事に就いて、ネルツ領に帰らない理由にしていただけだ。
あんな怠惰な男が一時でもダニエラの夫だったのは気分が良く無いが、あの男が主の兄でなければダニエラと主の関係は今の様にはならなかったかもしれないから、そう考えるとこれは神の采配という奴なんだろうか。
蜘蛛は神の教えとは遠いところにいる魔物だが、そうなんだろうか。
でもそうすると、ダニエラが言っていたブレガ侯爵家へダニエラが嫁いだのはどうなんだろう。
夢は所詮夢なのか、でもロニーはマチルディーダーの夫になる為に、ブレガ侯爵の養子になった。
「父上殿、なぜブレガ侯爵なんだ」
「なぜというのは」
「ロニーの養子先だ」
「ブレガ侯爵ならロニーを託しても私達の弱みにはならないと思ったからだ」
弱みにならない。つまり、父上殿はブレガ侯爵を信じているということか。
「それはもし年齢が近かったら、ダニエラを嫁がせた程の信用か」
「……蜘蛛がどうしてそう思ったか分からないが。あの男が死んだ時、ディーンがダニエラの夫になりたいと願わなければ、ブレガ侯爵はダニエラの受け入れ先として考えていた位には信じている」
なんと、それではダニエラの言う通り、あの暑苦しい夫がダニエラの夫になる可能性はあったのか。
「父と娘程度に年齢が離れているぞ」
「あれは妻として預かって欲しいといえば、ダニエラの尊厳を守り大切にしてくれる男だ」
「尊厳を守る。本当の妻にはしないということか」
そこまでの信用があの男にはあるのか、あの暑苦しい男を信用。蜘蛛にはとても出来ないが。
それは本当にダニエラの幸せになるのだろうか。
だが、夢の中のダニエラなら世間の目から夫として父親として自分と娘を守る存在は必要だっただろう。
「ダニエラが生涯結婚せずに屋敷にいても私達は仲良くくらしただろう。だが、陛下はきっとそれを認めないだろうし王妃様にも第一王子にも狙われ続ける。ブレガはああ見えて強い、あの者の娘も同じく強い。王都から遠い場所でダニエラを匿うならあそこは理想的だった」
「そうなのか」
ああ嫌だ。ダニエラの夢は所詮夢だと思いたいのに、父上殿がそれを否定してくる。
主の母親のせいで穢されて、望まぬ子を身ごもったダニエラをブレガ侯爵が父上殿にダニエラを託されて匿う為に夫になった。その道筋が蜘蛛の目にも見えてしまう。
「何を心配している」
「父上殿やニール様の目の届かないところで、主やダニエラが側にいないところでロニーが育っていくのが不安でたまらないのだ」
蜘蛛に食べてと願うダニエラ。
あんな悪夢を現実にしたくない。
ブレガ侯爵と関りを持つのがいいことなのか、蜘蛛には分からない。
「不安ばかりだ、父上殿。第一王子と王子妃の事も、子供達が使ったまじないのことも、ロニーがどう育つかも蜘蛛は不安で仕方が無い」
「まじないは、そうだな」
「ダニエラの血というより主の血なのか、マチルディーダもアデライザも容易くとんでもない事をしてくれる」
だが、アデライザのやらかしのお陰で母上殿は元気になった。
不安はあるが良い事もある。
「ふっ。あれはダニエラの血だ。ディーンは慎重だ。新しい魔法陣を思いついた時は面白くなるが、あれはとても真面目で一途で本当にいい子だ」
「主を息子と思ってくれるか」
そう思って欲しい。主を大切に思って欲しい。
それは蜘蛛の願いだ。
「思っているよ。ディーンがダニエラの夫になりたいと願ったとニールに聞いた時私がどれだけ嬉しかったか分かるかい、蜘蛛」
「父上殿は嬉しいと思ってくれたのか」
「勿論だ。ディーンが良い子だと知っていたからね。義理の息子になってくれてとても嬉しいよ。お陰で可愛い孫にも会えたからね」
父上殿は目を細めて蜘蛛にそう言ってくれた。
蜘蛛はそれが嬉しくてたまらない。
「父上殿、蜘蛛は魔物だ。主とダニエラの命が尽きてもその先も蜘蛛は生き続けるだろう。その時はマチルディーダの使役獣になってウィンストン家とネルツ家を守る。マチルディーダの命が尽きたら、その子か孫の使役獣になる。そうしてずっと蜘蛛と蜘蛛の子が守り続けると誓う」
蜘蛛はその為にもっともっと力を付ける。
力を付けて、永遠に大切なものを守り続ける。それは蜘蛛の愛だ。今主に思うと同じ愛を、蜘蛛はずっと抱きながら大切な者を守り続ける。
「蜘蛛ありがとう。私の子供と孫たちをよろしく頼むよ」
「ああ、任された。蜘蛛は絶対に守り続ける」
ダニエラの悪夢を本当にはしない。
蜘蛛はもっともっと強くなって、愛する者を守り続けるんだ。
※※※※※※
愛のかたちはこれでおしまいです。
ちなみに王妃様、瀕死ですがまだ生きてます。
第一王子と王子妃は拘束されてます。この三人がどうなったかは乙女ゲーム編で明らかになるかなあ。
今週ちょっとばたばたしているので、ダニエラ父編は来週からのスタートとなります。
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