【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

おまけ 愛のかたち15 (蜘蛛視点)

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「父上殿、蜘蛛は主はウィンストン家とダニエラと子供達の為にすべてを捧げている様な人だ。主は……」

 主の才能が蜘蛛は誇らしい。
 だが、それは蜘蛛だけが思う感情なのか、主はニール様が父上殿に行った様に役に立っているのだろうか。
 ふいに不安になって、主の才能を父上殿に告げなければと蜘蛛は焦ってしまう。

 主はニール様との関わりが出来てから、ニール様の役に立てる様になりたいと考えて生きて来た。
 母親からの愛情を望みながらそれが叶えられなくて、その代わりと言うわけでは無いがニール様の望むものを捧げられる様にと考えて行動して来たのだ。
 幻滅されたくないと学業にも力を入れて、魔物を狩って魔石を得て魔法陣を刻みその腕を磨いて来た。
 主にとって、ニール様から見限られることは恐怖だ。
 ダニエラの夫になり、子供が生まれても、それは変わらない。

「主は素晴らしい能力を持っている。その能力はダニエラと子供達そしてウィンストン家の為にあると考えている。だからどうか見捨てないでやって欲しい」

 もしも主では駄目だと、そう思ってもどうか見捨てないで欲しい。
 蜘蛛はそれだけを願い父上殿をまっすぐに見つめる。
 主の使役獣でも蜘蛛は所詮魔物でしかない。
 知能を得ても、人の形になれても、それは変わらない。
 だが、蜘蛛は守りたい。主を、ダニエラを、子供達を。

「蜘蛛、急にどうした。見捨てるなどある筈がない。ディーンは私の義理の息子だ。私の娘ダニエラの夫だ」
「夫なんて、いつだって消せる繋がりなのではないか」

 少なくともダニエラの前の夫はそうだと思う。
 ダニエラは主の兄の妻だったが、それは形だけだった。
 互いに思いは交わさず、主の兄はダニエラを害そうとしていた。

「夫婦も親子も兄弟も、互いに思う心が無ければいつでも繋がりは消えるのかもしれない。だが私は妻を愛しているし子も孫も愛している。娘の夫、私には義理の息子も愛しているよ」
「そうなのか」

 父上殿の言葉に、蜘蛛は焦りの気持ちが消えていく。
 主が見捨てられる、そんな未来は無いと言えるのだろうか。

「そうだよ。大切なんだ、私にとって家族も兄上も大切だ。だがその中に義姉上は、王妃様は一度も入らなかった」

 王妃は父上殿の従兄妹で母上殿とは姉妹。
 でも、王妃は母上殿を害した。そこに躊躇いはきっとなかった。

「兄上は……陛下は、王妃様を自ら殺す決断をされたんだ。どうしてなのだろうね、蜘蛛。私はその決断をさせたことがとても辛いと思ってしまった。ずっと憎んでいた相手なのに」
「王妃は憎むべき存在だ。それでも命を狩るのは躊躇うものか」

 蜘蛛なら躊躇わない。
 蜘蛛が王妃を殺さずに分身で操っていたのは、その方が都合がいいから。それだけだ。

「私はそうだった。ボナクララを害されて、ダニエラの命を執拗に狙われて、ダニエラが周囲から不幸に見える婚姻を結ばせるしかなかった。それが悔しくて悲しくて、王妃を恨んだし憎み続けた」
「それは主の兄との婚姻の事だな」

 主との婚姻がそうだったとしたら、蜘蛛はその事実を主にはとても話せない。
 それが父上殿達に必要な事だったとしても、周囲から不幸に見えると思われている婚姻なんて、気の毒すぎるじゃないか。

「勿論あのどうしようもない男との婚姻の事だ。あの時ダニエラの夫となる男は分かりやすくどうしようもない男である必要があった。周囲から、王妃様からなぜあの男と婚姻を? と疑問視される程の男が望ましかった」

 父上殿の言葉はあまりにも主の兄にぴったり過ぎた。
 主の兄は、学校こそ退学にならず卒業したが、成績は下の下の下、やっと卒業できた問程度で、就いた職業は侯爵家の嫡男が勤めるものではない。
 何故ここに勤めようと思ったのかと周囲が疑問視するような場所だった。

「なぜ、あの者だったのだ」

 あの者をネルツ侯爵家から追い出し、主を当主とするから結婚相手も主に変える。
 その思惑があったとは思えない。
 魔物の蜘蛛にはくだらない考えだが、この国は夫と離縁して新たに誰かと再婚すると言うのを酷く嫌うらしい。
 前夫が亡くなり、その弟との婚姻は許容範囲らしいが、そうでなければ寡婦として生きるしかないのがこの国の貴族の女性の生き方だ。
 寡婦となり、亡き夫の忘れ形見を育てながら生きられる者はいいが、そうでなければ嫁ぎ先から追い出され修道院に入るしかない。
 不思議な制度だと思う。
 最初の夫が善良だとは限らないのだから、酷い夫と別れて新たな夫と生きる道があってもいいと蜘蛛は思うが、そんな女性は貴族の間では侮蔑の対象のようだ。

「あの頃のダニエラは、未来の王妃にはとてもなれない程虚弱だった。ずっと血が近すぎる婚姻を危険視する声があって、だからこそ第一王子の相手は他の国の王女となった」
「そういえば、そういう理由もあったか」

 確かに、従兄妹同士の婚姻でも兄妹と同じかそれ以上の血の濃さだと言っていた。
 近い血同士の婚姻は、弱い子が生まれる可能性が高くなるのだそうだ。
 だから、ある程度離した方がいいのだそうだ。
 兄妹、おじと姪の婚姻は禁忌となり、最低限いとこ同士まで離れてと決まっても、これだけ血が濃くなってはあまり意味が無い気がする。
 従兄妹同士の婚姻により生まれたダニエラと、王家直系の第一王子の婚姻は、この考えから取りやめになったのだった。

「ああ、それが理由でダニエラと第一王子の婚姻は無くなった。私とニールが意図してそういう考えを周囲に流したんだ。ダニエラを王宮に向かわせたくなかったからだ」
「王妃に狙われるからか」
「そうだ。王妃はダニエラを嫌って、憎んでいた」

 王妃が憎んでいたのは、多分母上殿なのだろう。
 蜘蛛の分身が母上殿の体に寄生していた時、感じていたのは母上殿に向ける王妃の憎しみだった。

「姉妹でも、家族でも絆を持てない関係はある。だがディーンとダニエラはそうではない。ニールとディーンも互いを大切に思っている。蜘蛛、互いを大切に思い続けられる間は繋がりは消えない。私はそう思う」
「そうだな」
「だが、ダニエラと第一王子はそうでは無かった。あの二人の関係は悲しみしか生まれない。少なくともダニエラは第一王子と過ごす時間を苦痛に思っていたと私は知ったから、だからダニエラが彼に嫁がなくて済む様に考えたんだよ。彼に嫁いだら一生ダニエラは不幸なままだ。そうならない様にするには、一時的にでも不幸な結婚をダニエラに強いる必要があった」

 不幸な結婚、それを愛する娘に強いるのは辛い決断だっただろう。
 蜘蛛はその頃の父上殿の気持ちを想像するしか出来ないが、ダニエラと主の兄の結婚は誰も幸せになれないものだったのだろうと思う。

「辛かったな」
「一番辛かったのは、私では無くダニエラだ」

 今のダニエラが幸せそうなだけに、一度目の彼女の結婚の不幸さが蜘蛛には辛く感じたんだ。
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