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番外編
おまけ 兄の寵愛弟の思惑22 (デルロイ視点)
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「あの男は何がしたいんだか」
今日は用事があると言うボナクララと馬車乗り場で見送った後、自分も馬車に乗り込もうとしたら生徒会長がまた待ち伏せしていてレモが追い払った。
何度生徒会は入らないと断ってもしつこく勧誘に来て、私の手を掴み頬をすり寄せようとするから、護衛達が力づくでそれを遮りレモが抗議の声を上げている。
私はもう声を出すことも、視線を合わせることもしない。
最初は相手の立場を考慮した方がいいかと気を遣っていたが、そんな事をしてやる義理はないかと思い直したというわけだ。
「第二王子殿下がお優しすぎるのです。ご自分でお断りされず私が対処致します」
馬車に乗り込むなりため息を吐く私に、レモはきっぱりと宣言する。
あれの相手をするのももう面倒になっているから、私はそれを止めずに頷いた。
「周囲に守られるだけではいけないと思うが、私では兄上の様な迫力もないから相手にあなどられるのだろうな」
兄上と違いまだまだ私は筋肉もついていない、背はだいぶ伸びたが痩せ型で弱々しい。
もう少し剣の稽古の時間を増やすべきだろうか、といつまでたっても細い手首を見ながら考える。
「もう少し鍛えないと駄目だな。ひ弱過ぎる」
「十分鍛えていらっしゃると思います。ひ弱だなんてとんでもないことでございます」
まあ、レモは私に甘いからそう言うだろうが、入学してみて同じ年頃の者達が大勢いる環境に慣れてくると自分は少し過保護にされ過ぎているのではないかと思うようになって来た。
兄上は勿論私に甘いが、周囲も似たようなものなのかもしれないと気が付いたのだ。
王子という立場上、護衛と従者が常に側にいるのは仕方が無いとはいえ、私だけ何をやるにも従者頼りになっているのはいつまでたっても私一人だけ子ども扱いされている様で情けなく思う。
「まあ徐々に考えていくよ」
私が世間知らずなのは事実だから、焦らずに世の中を知るためにまずは他の者達と話す機会を増やして行こう。
世の中を知りたいと思っても、いきなり町に出て平民達と交流するわけにはいかないのだから、お茶会などではない場所での交流が必要だ。
そう考えると今日あの留学生と話が出来たのは良かった。
使える可能性が低くても、治癒師の考えとは違うことも聞く事が出来たのも良かった。
「それよりレモ、帰ったら兄上と話がしたいのだが、今日の兄上の予定はどうだっただろう」
「王太子殿下は午前中大臣達との会議があった筈ですが、午後は執務室にいらっしゃると思います」
「そうするとエマニュエラに捕まっていなければ、会えるか」
「ご挨拶程度でしたら、王太子殿下がお断りになることは無いかと思いますが、そうではないのですね」
私が昼休みにロマーノ・トニエから聞いた話を兄上としたいと考えている。そうレモは察したのだろう。
私は小さく頷くと「レモ、お前なら採取して一時間以内に王宮で日薬草を食すには、どこに日薬草を植えたらいいと考える?」と聞いてみた。
「それは王宮の森しかないと存じます」
「例えば王宮の森の入り口近くにそれを植え、お前なら誰にも知られずに私の宮まで運んで来られるか?」
「私単身では森の入り口にも入れないでしょう。誰かを森に向かわせ私がそれを受け取り殿下にお届けするなら何とか出来るやもしれませんが、それでも毎日それを行えば気付くものが出るかと」
「そうだな。日薬草も魔物肉と迷宮産の野菜を煮た物も、日を重ねれば気付くものは増えていく」
そうなると、残るのはもう一つの方法。
魔力の譲渡か。
ロマーノ・トニエは日薬草と魔物と迷宮産の野菜の煮た物の話をした後で、 体力が落ちているだけなら常時弱い治癒魔法を掛け続ける方法もあると言い、虹のユニコーンのたてがみの織物や
希少種ユニコーンの魔石は治癒魔法と同じ効果があるし、魔力も補充出来ると教えてくれた。
その後で彼は、魔力を多く使用し続けた場合の対処方として魔力の譲渡を上げたのだ。
「虹のユニコーンのたてがみの織物、希少種ユニコーンの魔石に比べたら魔力の譲渡は容易く出来るし、一番人目に付かずに出来るな」
「虹のユニコーンのたてがみの織物などにそんな力があることを初めて聞きました。そもそも虹のユニコーンを狩れるのはかなりの強者です。魔法使いや騎士達を何人派遣すれば狩れるのか見当もつきません」
「宝物庫にあるかもしれないが、あったとしても簡単に持ち出せるものでもないからな」
誰に使うと話をしていなくても、レモは使う相手を想定して私と話をしているのだと思う。
父上の状態は兄上の従者も知っているし、レモもそうだ。
「魔力の譲渡というのは、婚姻の儀式だけでするものだと思っていたんだが」
「私もです。まさか患者への治療で使うことがあるとは思いませんでした」
「国が違うと考え方も違うのだな」
魔力の譲渡の話をし始めた途端、何ともいえない空気が部屋の中に漂い始めたのを彼だけが気が付いていなかったと思う。いや、気が付いていたけれど気にしていなかったのかもしれない。
この国では魔力の譲渡は貴族の婚姻の儀式で、神の前で行う神聖な儀式の一つだ。それを治療の為に行うというのだから驚くなという方が無理だった。
「夫婦でもない者同士で魔力譲渡をするのは神の教えに反するのではありませんか」
「婚姻の儀式でするのは魔力の交換だから、彼の言うのはやはり治療なのだろう。治癒師以外が行うとしても、魔力譲渡を行うのは治癒師がいる場でと言っていたから、危険もあるのかもしれない」
魔力を持っているものが無い者へ魔力を流す。
明らかに治療なのだろうが、それを兄上にお話しするのは少しだけ躊躇いがあったのだ。
※※※※※※
虹のユニコーン、ディーンは一人で狩ります。
そして、今回の件があるのでウィンストン家では魔力譲渡の考え方への偏見がなくなります。
今日は用事があると言うボナクララと馬車乗り場で見送った後、自分も馬車に乗り込もうとしたら生徒会長がまた待ち伏せしていてレモが追い払った。
何度生徒会は入らないと断ってもしつこく勧誘に来て、私の手を掴み頬をすり寄せようとするから、護衛達が力づくでそれを遮りレモが抗議の声を上げている。
私はもう声を出すことも、視線を合わせることもしない。
最初は相手の立場を考慮した方がいいかと気を遣っていたが、そんな事をしてやる義理はないかと思い直したというわけだ。
「第二王子殿下がお優しすぎるのです。ご自分でお断りされず私が対処致します」
馬車に乗り込むなりため息を吐く私に、レモはきっぱりと宣言する。
あれの相手をするのももう面倒になっているから、私はそれを止めずに頷いた。
「周囲に守られるだけではいけないと思うが、私では兄上の様な迫力もないから相手にあなどられるのだろうな」
兄上と違いまだまだ私は筋肉もついていない、背はだいぶ伸びたが痩せ型で弱々しい。
もう少し剣の稽古の時間を増やすべきだろうか、といつまでたっても細い手首を見ながら考える。
「もう少し鍛えないと駄目だな。ひ弱過ぎる」
「十分鍛えていらっしゃると思います。ひ弱だなんてとんでもないことでございます」
まあ、レモは私に甘いからそう言うだろうが、入学してみて同じ年頃の者達が大勢いる環境に慣れてくると自分は少し過保護にされ過ぎているのではないかと思うようになって来た。
兄上は勿論私に甘いが、周囲も似たようなものなのかもしれないと気が付いたのだ。
王子という立場上、護衛と従者が常に側にいるのは仕方が無いとはいえ、私だけ何をやるにも従者頼りになっているのはいつまでたっても私一人だけ子ども扱いされている様で情けなく思う。
「まあ徐々に考えていくよ」
私が世間知らずなのは事実だから、焦らずに世の中を知るためにまずは他の者達と話す機会を増やして行こう。
世の中を知りたいと思っても、いきなり町に出て平民達と交流するわけにはいかないのだから、お茶会などではない場所での交流が必要だ。
そう考えると今日あの留学生と話が出来たのは良かった。
使える可能性が低くても、治癒師の考えとは違うことも聞く事が出来たのも良かった。
「それよりレモ、帰ったら兄上と話がしたいのだが、今日の兄上の予定はどうだっただろう」
「王太子殿下は午前中大臣達との会議があった筈ですが、午後は執務室にいらっしゃると思います」
「そうするとエマニュエラに捕まっていなければ、会えるか」
「ご挨拶程度でしたら、王太子殿下がお断りになることは無いかと思いますが、そうではないのですね」
私が昼休みにロマーノ・トニエから聞いた話を兄上としたいと考えている。そうレモは察したのだろう。
私は小さく頷くと「レモ、お前なら採取して一時間以内に王宮で日薬草を食すには、どこに日薬草を植えたらいいと考える?」と聞いてみた。
「それは王宮の森しかないと存じます」
「例えば王宮の森の入り口近くにそれを植え、お前なら誰にも知られずに私の宮まで運んで来られるか?」
「私単身では森の入り口にも入れないでしょう。誰かを森に向かわせ私がそれを受け取り殿下にお届けするなら何とか出来るやもしれませんが、それでも毎日それを行えば気付くものが出るかと」
「そうだな。日薬草も魔物肉と迷宮産の野菜を煮た物も、日を重ねれば気付くものは増えていく」
そうなると、残るのはもう一つの方法。
魔力の譲渡か。
ロマーノ・トニエは日薬草と魔物と迷宮産の野菜の煮た物の話をした後で、 体力が落ちているだけなら常時弱い治癒魔法を掛け続ける方法もあると言い、虹のユニコーンのたてがみの織物や
希少種ユニコーンの魔石は治癒魔法と同じ効果があるし、魔力も補充出来ると教えてくれた。
その後で彼は、魔力を多く使用し続けた場合の対処方として魔力の譲渡を上げたのだ。
「虹のユニコーンのたてがみの織物、希少種ユニコーンの魔石に比べたら魔力の譲渡は容易く出来るし、一番人目に付かずに出来るな」
「虹のユニコーンのたてがみの織物などにそんな力があることを初めて聞きました。そもそも虹のユニコーンを狩れるのはかなりの強者です。魔法使いや騎士達を何人派遣すれば狩れるのか見当もつきません」
「宝物庫にあるかもしれないが、あったとしても簡単に持ち出せるものでもないからな」
誰に使うと話をしていなくても、レモは使う相手を想定して私と話をしているのだと思う。
父上の状態は兄上の従者も知っているし、レモもそうだ。
「魔力の譲渡というのは、婚姻の儀式だけでするものだと思っていたんだが」
「私もです。まさか患者への治療で使うことがあるとは思いませんでした」
「国が違うと考え方も違うのだな」
魔力の譲渡の話をし始めた途端、何ともいえない空気が部屋の中に漂い始めたのを彼だけが気が付いていなかったと思う。いや、気が付いていたけれど気にしていなかったのかもしれない。
この国では魔力の譲渡は貴族の婚姻の儀式で、神の前で行う神聖な儀式の一つだ。それを治療の為に行うというのだから驚くなという方が無理だった。
「夫婦でもない者同士で魔力譲渡をするのは神の教えに反するのではありませんか」
「婚姻の儀式でするのは魔力の交換だから、彼の言うのはやはり治療なのだろう。治癒師以外が行うとしても、魔力譲渡を行うのは治癒師がいる場でと言っていたから、危険もあるのかもしれない」
魔力を持っているものが無い者へ魔力を流す。
明らかに治療なのだろうが、それを兄上にお話しするのは少しだけ躊躇いがあったのだ。
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虹のユニコーン、ディーンは一人で狩ります。
そして、今回の件があるのでウィンストン家では魔力譲渡の考え方への偏見がなくなります。
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