【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

文字の大きさ
206 / 310
番外編

おまけ 兄の寵愛弟の思惑29(トニエ視点)

しおりを挟む
 留学した国での学生生活は、思っていたよりも順調に日々過ごせている。
 そう思っていた昨日までの自分、ロマーノ・トニエの考えの甘さを笑ってやりたい。
 今日はついてないいや神に見放された日という奴なのだろうと、私は「冒険者として剣術の見本を」と上級組の剣術の授業に呼び出された時に感じたがそれが間違いでは無かったと、今目の前の光景を見つめながら思う。

 私の家はモロウールリ国で子爵位を賜っている下級貴族だ。
 一族の殆どが薬師か錬金術師という変わった家系に生まれた私は幼い頃から薬師と錬金術師の修行に明け暮れ、その合間に冒険者としての修行、さらに将来の領主になるための勉強をしていた。
 私は領主の勉強より薬師の勉強が好きだった。
 勿論嫡男として生まれた自分が将来トニエ領を治めるのは決定事項、その責任を疎かにするつもりはない。だが私の父はまだまだ働き盛りだから私はもっともっと学びたい。
 その思いで学校卒業後にこの国に留学を決めたのは、この国独自の薬の製法を学びたかったのと、魔法陣を極めたかったからだ。
 私は目立たぬように大人しく平和に留学生活を満喫し望みの知識を得るのを楽しみにしているだけなのに、なぜ剣術の見本を私が見せないといけなくなった。
 しかも上級貴族の子供ばかりの授業で、それを行うのは少々どころかだいぶ気が進まなかった。
 渋々鍛錬場に向かい、終始控えめな態度で見本を終わらせたまでは良かったが、なぜか昼休みにマーニ先生の部屋に呼ばれた。
 そこで突然この国の第二王子殿下からの質問に答えることになり、落ち着いて質問に答えた筈の私は、一番やってはいけないことをしたと後々気がついてしまった。
 私は治癒師でもない人、しかも魔力を使うことに慣れてなさそうな子どもにうっかり魔力譲渡という治療方法を教えてしまったのだ。
 子供が薬を手に入れるには、大人に頼む必要がある。相手は第二王子殿下、自分で薬師に交渉し薬を求めたりはしないというより出来ないだろう。だけど魔力譲渡は魔法の勉強を少しでもしていれば子供でも簡単に出来る。
 つまり、試そうと思えば簡単に出来てしまう。
 予想外の王族との会談に冷静を欠いていた私は、自分の失敗に動揺しその上マーニ先生からこの国では魔力譲渡は婚姻の儀式の時位しかしないものと聞かされて血の気が引いた。
 私はなんということを王族に教えてしまったのか。
 これを知られたら不敬罪で処刑されかねない、だが後悔してももう遅い。
 処刑覚悟で王宮に行くことをマーニ先生に告げれば、先生は私も悪かったと同行を決めてくれた。
 先生と共に王宮に向かい、婚約者候補とお茶会をしている途中の王太子殿下に時間を頂き経緯を伝えている途中、陛下の侍従が王太子殿下を呼びに来た。
 そして今に至る。
 私は平和に留学生活を満喫する筈だったのに、何故かいまこの国の国王陛下の私的な部屋で陛下と王子殿下お二人を前にしている。
 神に見放された日だ、私にとって今日はまさしくそれだ。
 内心の絶望を表に出さない様に気を付けながら、私は冷静にと自分に言い聞かせながら魔力回復薬を飲んだ第二王子殿下の顔を観察した。

「殿下、ご気分はいかがでしょう」

 ベッドの上で体を起こしてこちらを見ている第二王子殿下は、今日学校でお会いした時よりやつれている様に見える。それは魔力切れを起こしたからだろうが、そのお姿は煽情的過ぎて目に毒だ。
 ベッドの傍にいらっしゃる王太子殿下も、ソファーに座っていらっしゃる陛下も美形ではあるけれど、第二王子殿下の美しさとは方向が違う気がする。まだ成長期途中だからなのか、痩せ型というより華奢といった方が良い体つきで女性的ではないのに妙な色気がある方だと思う。
 同学年にいらっしゃる第二王子殿下は女神の化身と言われる程に美しい方で、一目見たら誰でも魅了されてしまうのだと噂されていた。
 そうは言っても男性であるのだからと軽く考えていた私は、噂以上の外見に驚き過ぎて薬師として絶対にしてはいけない失敗をしてしまったのだ。

「急に体が楽になった。この薬を君が作ったのか素晴らしく腕がいいのだね」

 綺麗すぎるほど綺麗な方は、心まで綺麗なのだと思う。
 王族としてどうなのかと思うが、平伏したくなるほどの眩しい笑顔で私を褒めてくれるのだから。

「恐れ多いお言葉にございます」

 第二王子殿下が私を褒めた途端、その傍に立つ王太子殿下から殺気を向けられすぐさま頭を下げる。
 余計なことを第二王子殿下に教えて、命の危険に晒したのだから処刑されても仕方がない。
 国には戻れないかもしれない、と私は内心覚悟を決めていた。

「君は治癒師では無く薬師だったね」
「はい。私は薬師であり錬金術師でもあります」
「そうか、君が教えてくれた日薬草? あれは誰でも育てられるものなのかな」
「はい、魔素が濃い場所であれば簡単に育てられます」

 視線を動かさない様に顔を下に向け、答える。
 第二王子殿下が日薬草を使いたい相手は、ソファーに座っていらっしゃる陛下なのだろう。
 背筋を伸ばし座っていらっしゃるが、顔色が悪いし離れた場所からも肌がかさついているのが分かるし、白目の部分が黄色く濁っているし、爪の色も悪い。
 第二王子殿下が魔力切れを起こすほど魔力譲渡した相手は陛下なのだろうが、それだけの魔力を譲渡されて尚この状態というのは何かの病……。
 薬師としての失敗だけでなく、それに気がついてしまった私は生きてこの部屋を出られないかもしれない。

「そう、ならば問題は一刻で使えなくなるという点」
「デルロイ何を言っている」
「とても体に良い薬草についてです。兄上は日薬草という薬草をご存知ですか?」
「知っている。上級の体力回復に含まれる貴重な薬草だろう」

 王太子殿下は博識らしい。
 日薬草を知っていても、それが何の薬に使われるものか知らない者が殆どだろうに考えるそぶりもなく第二王子殿下に即答していらっしゃる。

「兄上は凄いですね! 私は今日教えてもらったばかりです」

 第二王子殿下は嬉しそうに王太子殿下を褒めると、少しだけ殺気が和らぎ呼吸が楽になる。
 こんな恐ろしい殺気、魔物と対峙しても感じたことがない。
 いいや、相手が魔物の方がどれだけマシだろう。魔物相手なら思う存分剣を振るうことが出来るが王族相手にそんな馬鹿な真似は出来ないのだから。

「そうか、それで日薬草をどうする」
「はい、第二王子殿下は病気まではいかないものの疲労が酷い方に薬以外で良いものをとお尋ねでした。日薬草は栄養豊富な薬草でございますので提案させて頂きました」
「なるほど、他には」
「はい、魔物肉、迷宮産の野菜を姿が無くなるまで煮込んだもの、虹のユニコーンのたてがみを織った布、ユニコーンの魔石等についてお話しました。けれどこれらは体力を回復するためのもの、魔力の回復はあまり期待できませんんので、私の国ではそれなりに広まっている治療方法である魔力譲渡についてもお話致しました」

 虹のユニコーンのたてがみを織った布なんて、貴重過ぎるが王族なら持っているかもしれない。
 何せ虹のユニコーンは、めったに出てこないし狩るのが大変なのだ。
 私は過去に迷宮で何度か狩った経験があるだけだ。

「虹のユニコーンのたてがみの織物に体力回復の効果があるのか」
「はい。たてがみを身に着けるだけでも効果はありますが、織物にして例えば寝具としたり天蓋を覆う布に使うことで眠っている間に体力回復が出来ます。このたてがみは寝ている間の方が効果が出やすいと言わているのです」

 他国の者である私が知ってはいけないことを知ってしまったのだから、命は捨てたと思っていた方がいい。
 だが、薬師として私は患者を前に逃げ出すわけにはいかない。
 少しでも患者が良くなるのなら、私の知識はすべてさらけ出そう。
 そう心に決めて、王太子殿下に話し続けた。

※※※※※※
え、ダニエラパパこんなのなの? と驚いている読者の方がいらっしゃるかと思うのですが、この頃のデルロイさんは世間知らずの王子なのです。
ここから決心して今のダニエラパパになるのです。
十五歳の世間知らずな箱入り王子が今のダニエラパパなので、えええっとドン引きされる可能性もあるかと思いちょっと心配している作者です。
見た目で言えば、十五歳のデルロイ様は、綺麗、可愛い、華奢、儚い。コンプリートしています。
けれど性格は、俺様で、本人的には兄上を超えて成長したい!! (キリッ)です(笑)。
思った以上に長引いていますが、今後もお付き合い頂ければ幸いです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪女として処刑されたはずが、処刑前に戻っていたので処刑を回避するために頑張ります!

ゆずこしょう
恋愛
「フランチェスカ。お前を処刑する。精々あの世で悔いるが良い。」 特に何かした記憶は無いのにいつの間にか悪女としてのレッテルを貼られ処刑されたフランチェスカ・アマレッティ侯爵令嬢(18) 最後に見た光景は自分の婚約者であったはずのオルテンシア・パネットーネ王太子(23)と親友だったはずのカルミア・パンナコッタ(19)が寄り添っている姿だった。 そしてカルミアの口が動く。 「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ。」 オルテンシア王太子に見えないように笑った顔はまさしく悪女のようだった。 「生まれ変わるなら、自由気ままな猫になりたいわ。」 この物語は猫になりたいと願ったフランチェスカが本当に猫になって戻ってきてしまった物語である。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

その瞳は囚われて

豆狸
恋愛
やめて。 あの子を見ないで、私を見て! そう叫びたいけれど、言えなかった。気づかなかった振りをすれば、ローレン様はこのまま私と結婚してくださるのだもの。

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました! 大変お待たせ致しました。番外編の公開を始めました。 なるべくこまめに公開していきたいと思います。 あんまり長くならない予定ですので、どうぞよろしくお願いします!

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます

よどら文鳥
恋愛
「リリーナ、俺はお前の姉と結婚することにした。だからお前との婚約は取り消しにさせろ」  婚約者だったザグローム様は婚約破棄が当然のように言ってきました。 「ようやくお前でも家のために役立つ日がきたかと思ったが、所詮は役立たずだったか……」 「リリーナは伯爵家にとって必要ない子なの」  両親からもゴミのように扱われています。そして役に立たないと、家から追放されることが決まりました。  お姉様からは用が済んだからと捨てられます。 「あなたの手柄は全部私が貰ってきたから、今回の婚約も私のもの。当然の流れよね。だから謝罪するつもりはないわよ」 「平民になっても公爵婦人になる私からは何の援助もしないけど、立派に生きて頂戴ね」  ですが、これでようやく理不尽な家からも解放されて自由になれました。  唯一の味方になってくれた執事の助言と支援によって、隣国の公爵家へ向かうことになりました。  ここから私の人生が大きく変わっていきます。

処理中です...