【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

文字の大きさ
205 / 310
番外編

おまけ 兄の寵愛弟の思惑28 (デルロイ視点)

しおりを挟む
 ロマーノ・トニエ、薬師で錬金術師でもある彼は一体何を言いたいのか、媚薬に近い扱いだと言いながら今私に飲ませようとしているのは、その媚薬に近い扱いのものじゃないのか。
 部屋の中に漂う空気はどう形容していいものか分からず、しかも私にこれを飲んだらどうかと勧めた本人とマーニ先生二人が毒見をしているのは、一体どうしたらいいのだろう。

「媚薬」
「媚薬ですか」
「きさまはそれを我が弟に飲ませようとしたのか」

 父上、マーニ先生、兄上はそれぞれ複雑な表情をしながら薬師トニエに問いただした。
 私はといえば、体が怠いからなのかぼんやりとそれを見つめているだけだ。

「はい、私のは媚薬になりそうな薬草は使っておりません。こちらの国で魔力回復薬、媚薬にもなりうるものの作成手順と私のものはことなりますので」

 父上とマーニ先生と兄上、三人の眼力は相当なものだと思うが、トニエは三人を前に怯える様子はない。

「媚薬ではないのか」
「はい、これは違います。この国で出回っている魔力回復薬がなぜ媚薬紛いのものに成り下がっているのか、薬師として疑問を覚えますが、それは今追及するものではありません」

 怯える様子がないどころか、彼は自分が作成した薬に絶対なる自信があるといわんばかりだ。

「飲んで悪い作用は起きないのだな」
「体質というものはございますので、絶対に悪くならないとは言い切れませんが、この薬は基本的に魔力を回復するだけのものです」

 兄上の問いにトニエは淡々と答える。

「第二王子殿下がお使いになるなら、この国の薬師が作成した薬になるでしょう。そうなると媚薬と変わらない扱いのものを使われることになります。ですから私はお伝えしませんでした。ただ魔力譲渡がこの国では夫婦になった者達だけが行うものだと知らなかった為、迂闊に方法をお伝えしましたことについては謝罪いたします」
「で、でもっ! 君はちゃんと治癒師がいる時にと教えてくれた! それを私は軽んじて」

 誰が悪いのかといえば、私だ。
 トニエがはっきりと駄目だと言っていたことを私は安易に行って、その行動で魔力切れを起こしてしまった。
 軽率な私の行いが、魔力切れに繋がったのだ。

「デルロイ、興奮してはいけないよ。体がまだ怠いだろう」
「兄上、彼は一人では魔力譲渡を行ってはいけないと私に教えてくれていました。彼の気遣いを無下にしたのは私です。彼がこの国の魔力回復薬は使わない方がいいと考え私に教えなかったというのは、彼の気遣いです」

 薬師として当たり前の行いなのか分からないが、彼は成人前の私が飲んではいけないものだと判断し教えずにいたのだから、十分に配慮してくれている。

「これは私が飲んでも問題が無いのだな」
「はい、私が配合を考え作成したものでございます。お飲み頂いて問題ございません」

 激高する兄上を前にしても、彼は落ち着いた態度で私の問いに答えた。

「分かった。兄上、それを下さい」
「デルロイ」
「彼を信じます。彼は信じるに値する人です」

 そう言って兄上に手を出すと、兄上はため息をついてからトニエが持つ薬瓶を手に取った。

「デルロイ」
「兄上、私はそれを飲みます」

 兄上に手の平を見せると、そっとその上に薬瓶が乗せられた。
 
「このまま飲んでいいのだな」
「はい、第二王子殿下」

 トニエの返事に私は躊躇いなく瓶に口をつけ中身を飲み干した。
 体がカッと熱くなり、その後で力がみなぎって来る気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したので前世の大切な人に会いに行きます!

本見りん
恋愛
 魔法大国と呼ばれるレーベン王国。  家族の中でただ一人弱い治療魔法しか使えなかったセリーナ。ある出来事によりセリーナが王都から離れた領地で暮らす事が決まったその夜、国を揺るがす未曾有の大事件が起きた。  ……その時、眠っていた魔法が覚醒し更に自分の前世を思い出し死んですぐに生まれ変わったと気付いたセリーナ。  自分は今の家族に必要とされていない。……それなら、前世の自分の大切な人達に会いに行こう。そうして『少年セリ』として旅に出た。そこで出会った、大切な仲間たち。  ……しかし一年後祖国レーベン王国では、セリーナの生死についての議論がされる事態になっていたのである。   『小説家になろう』様にも投稿しています。 『誰もが秘密を持っている 〜『治療魔法』使いセリの事情 転生したので前世の大切な人に会いに行きます!〜』 でしたが、今回は大幅にお直しした改稿版となります。楽しんでいただければ幸いです。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
サフィリーン・ル・オルペウスである私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた既定路線。 クロード・レイ・インフェリア、大国インフェリア皇国の第一皇子といずれ婚約が結ばれること。 皇妃で将来の皇后でなんて、めっちゃくちゃ荷が重い。 こういう幼い頃に結ばれた物語にありがちなトラブル……ありそう。 私のこと気に入らないとか……ありそう? ところが、完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 絆されていたのに。 ミイラ取りはミイラなの? 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? いろいろ探ってましたけど、どうなったのでしょう。 ――考えることに、何だか疲れちゃったサフィリーン。 第一皇子とその方が相思相愛なら、魅了でも何でもいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- 不定期更新です。 他サイトさまでも投稿しています。 10/09 あらすじを書き直し、付け足し?しました。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!(続く)

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
恋愛
養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!大勢の男性から求婚されましたが誰を選べば正解なのかわかりません!〜 タイトルちょっと変更しました。 政略結婚の夫との冷えきった関係。義母は私が気に入らないらしく、しきりに夫に私と別れて再婚するようほのめかしてくる。 それを否定もしない夫。伯爵夫人の地位を狙って夫をあからさまに誘惑するメイドたち。私の心は限界だった。 なんとか自立するために仕事を始めようとするけれど、夫は自分の仕事につながる社交以外を認めてくれない。 そんな時に出会った画材工房で、私は絵を描く喜びに目覚めた。 そして気付いたのだ。今貴族女性でもつくことの出来る数少ない仕事のひとつである、魔法絵師としての力が私にあることに。 このまま絵を描き続けて、いざという時の為に自立しよう! そう思っていた矢先、高価な魔石の粉末入りの絵の具を夫に捨てられてしまう。 絶望した私は、初めて夫に反抗した。 私の態度に驚いた夫だったけれど、私が絵を描く姿を見てから、なんだか夫の様子が変わってきて……? そして新たに私の前に現れた5人の男性。 宮廷に出入りする化粧師。 新進気鋭の若手魔法絵師。 王弟の子息の魔塔の賢者。 工房長の孫の絵の具職人。 引退した元第一騎士団長。 何故か彼らに口説かれだした私。 このまま自立?再構築? どちらにしても私、一人でも生きていけるように変わりたい! コメントの人気投票で、どのヒーローと結ばれるかが変わるかも?

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...