【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

おまけ 兄の寵愛弟の思惑27 (デルロイ視点)

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「……おじ、い、さ……」

 おじい様に、それでは駄目だと言おうとして、何かに意識が引っ張られる様に私は唐突に目醒めた。

「デルロイ!」

 瞼を開いた途端すぐ近くから名前を叫ばれて、私は体をビクリと震わせた。
 この声は兄上?

「兄、上?」

 眠っていた自覚はある。
 夢の内容も覚えている、シード神の園の近くでおじい様に会った。

「デルロイ、良かった。デルロイッ!!」

 ぎゅうぎゅうと苦しいくらいに兄上にしがみつかれて、顔をしかめながら周囲を見渡す。
 ここは父上の執務室の隣、父上が休まれていた部屋だ。

「父上? マーニ先生、それに……」

 ソファーに腰を下ろしている父上とマーニ先生、その隣に膝の上に乗せた鞄から薬瓶らしきものを出しテーブルに並べているトニエの姿があった。
 留学生の彼までなぜここにいるのだろう。

「兄上、苦しいです」

 どんどん腕の力を強くしていく兄上にそう言うと、兄上はやっと自分の体を起こして「デルロイ、吐き気はしないか頭痛は?」と聞いてきた。

「どちらもありません。私は魔力切れを起こしたのでしょうか?」
「……自覚があるのか」

 過ごしの変化も見逃さないとばかりに私を見つめ続ける兄上は、眉間に深い皺を寄せながら問うてくる。

「はい」

 返事をしながらゆっくりと体を起こす。
 かなり体が怠いが、それだけだ。

「マーニ先生とあなたはなぜここに?」
「昼間、学校で殿下に話した件で、トニエ君がどうしても気になると言うものでな。王太子殿下に時間を頂いたというわけだ」
「私に話した件? 何が気になったのか教えて」

 わざわざ王宮まで訪ねてきたのだから、大事な話なのだろうと彼に視線を向ける。

「はい、お答え致します。私が安易に魔力譲渡の話をしたため、第二王子殿下がお一人でそれを試されるのではないかと危惧の念を抱きました。治療としての魔力譲渡は相手の状態を熟練の治癒師が見極めながら行います。相手に多すぎる魔力を譲渡してもいけませんし、譲渡する側も魔力の残量を稽えなければなりません」
「それは君が一人ではしないようにと伝えてくれていただろう」

 知っていたのに私は、治癒師を呼ばずに父上に魔力譲渡を行った。
 これは私が悪い。

「それでも私はなぜ一人で行ってはいけないのかまでお伝えしませんでした。それにこちらの国の治癒師はそもそも治療で魔力譲渡は行わないのだと、そう聞きました」
 
 成る程、国が違うというのはこういう事を言うのか。

「私の家では、幼い頃に何度か魔力切れをわざと経験させます。そうして使用して良い魔力の限界を体で覚えていくのですが、それは一般的な訓練ではないということも忘れていました」

 あまりな話に私の顔は引きつっている。
 気を失うような訓練を何度もするのは、当たり前ではないだろうにどういう考えの一族経営なのか。

「デルロイが父上のところに行ったと知ったマーニ先生がすぐさま私のところに来て話してくれた。そこに父上の侍従から知らせが入ったのだ」
「そうでしたか。父上驚かせてしまい申し訳ありません」

 ソファーに座ったままの父上に謝罪する。
 最近一人では立ちがる時に不安があるらしい父上の傍に侍従がいないから、父上は座ったままだ。
 侍従がいない理由は、私の状態を知る人数を最小限にするためなのだろう。

「第二王子殿下、魔力切れの疲労を回復する薬がございます。お飲みになりますか」
「ありがとう、もらうよ」

 私の即答に、薬を勧めた本人が一番驚いている。
 父上とマーニ先生は困ったようにしているし、兄上は殺気立っている。

「私が勧めたものですが、よろしいのですか」
「君は信頼できると思うからね」

 そう言った途端、父上が笑い出した。

「マーニ、確認を」
「畏まりました。トニエ君それを私に」
「はい、では私も先に」

 気を悪くした様子もなく、スプーンに薬瓶から薬を垂らしてそれを二人が口にする。

「問題は無い……いや、これはこの国の回復薬よりも上のものの様です」
「これは上級回復薬です。魔力切れは疲労が酷いですからそれを解消します。健康な者であればあとは食事と睡眠で魔力は回復しますので、無理矢理魔力薬を飲む必要はありません」

 魔力薬、そんなものがあると知らなかった。
 それではなぜ魔力譲渡なんて言ったのだろう。

「魔力薬というのは、こちらの国では媚薬に近い扱いになっているそうですのでお勧めしませんてした」

 私の疑問を悟ったのだろうが、真顔でそう説明されて私は上手く反応出来なかった。
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