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番外編
おまけ 兄の寵愛弟の思惑36 (デルロイ視点)
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「デルロイは何を心配している」
兄上は私の表情を見てすでに察しているのだろう。
私が何を考えているか、何を心配しているのか察してそれでも聞きたいのだろう。
「兄上は、本当はボナクララを好いているのでは、彼女を選びたかったのではありませんか? でも、国の為エマニュエラを選んだのではありませんか」
そうではないと言って欲しい。そう思う私は浅ましい。
兄上なら、ボナクララを想っているわけではないと、そう言ってくれるだろうと思いながら私は聞いているのだ。
「ふっ。デルロイは馬鹿だな」
「あにうぇ」
ぐしゃぐしゃと私の頭を両手で撫でて、兄上は笑った。
「ボナクララを私が選ぶ? そんなことするわけがないだろう。彼女は王妃には向いていない」
ボナクララが王妃に向いていないとは言っても、好いていないとは兄上は言わなかった。
その事実に私は打ちのめされて、それならば兄上は本当に国の為にエマニュエラを選んだのだと泣きたくなる。
「王妃ではなく、兄上の妻として望むのは」
「私は王太子で、父上の、陛下の跡を継ぐ者だ。それ以外の未来はないというのに、王妃ではない妻など私には想像も出来ない」
つまり、どういうことだろう。
兄上は王になるから、ボナクララを好きでも選択肢に入れないということなのだろうか。
それとも、ボナクララを好きでもないし、王妃には向いていないから選ばなかったのだろうか。
私にはその判断が出来ない。
それはボナクララを好いていないという、その答えが欲しいからだ。
兄上が彼女を望んでいるのなら、私が選べる立場にいないからだ。
いくら兄上が私を可愛がってくれているとはいえ、兄上はこの国の王太子で私は成人後臣籍降下する身だ。
選ぶ権利は、その優先順位は兄上にあるのだ。
「私は自分の幸せ等望まない。国が平和で、お前が幸せであればそれで良いのだよ。違うな、私の幸せはデルロイが幸せでいることだ。デルロイがボナクララと夫婦になり、子供を授かり幸せを増やしていく。それを兄としてこの国の王として見守る。それが私の未来で幸いだ」
兄上はそう言い切って、私の頭を抱き寄せた。
「デルロイ、お前が幸せに生きていける国を作る。私が王位を継ぎ、エマニュエラを王妃とすれば守りの魔法陣の呪いはそれで一旦は落ち着く筈だ。あの残虐な女を妻にするしかないのは業腹だが、私ならあの女を御せる筈だ。お前が憂う未来はない」
「兄上」
婚約前から残虐な女だと言い切れる人を妻にする。
自分なら御せるからと、兄上は余裕だとばかりに笑って言うけれど、そこに兄上の幸いはないと私には分かる。
「兄上」
その覚悟はどれほどのものだろう。
妻というのは、夫婦というものは、国王と王妃だとしても、それが政略だとしても最低限の信用は互いになければ苦行でしかないだろう。
そして兄上には、エマニュエラに対して信用という感情すら無いのだ。
王妃にしなければならないから、そうする。それだけなのだ。
「お前は兄を信じろ。お前が憂いなく生きられる国にするから、約束する」
「信じます。兄上は万能ですから、私が幼い頃から尊敬する兄上ならきっと出来ると信じています」
不安がある。
申し訳なさもある。
自分だけが愛する人を妻にする未来があるのだ。
兄上がそれを選ばせてくれたのだ。
「兄上、私は兄上の弟に生まれて幸せです。私は兄上に誇って貰える様な弟でいたい。どうかずっとずっと私を兄上の弟として傍に置いて下さい」
頭を兄上に抱きしめられたまま、私は両腕を兄上の背中にまわす。
こんな風に触れ合うことは、今迄無かった。
「兄上が平和で豊かな国を作る手伝いを私にさせてください。兄上の弟として」
兄弟として生まれ育っても、弟が王位を狙い兄弟の命を狙うのは、他国ではよくある話だ。
この国では過去一度もそういうことは無かったらしいが、他国では当たり前にあることなのだ。
「デルロイ、可愛い私のデルロイ。勿論だ。お前はずっと私の可愛い弟だ。お前がボナクララと結婚しても父親になってもずっとずっと変わらない」
兄上の愛情はどれだけ深いのだろう。
私は自分のことしか考えていない、子供なのに。
「ありがとうございます。兄上」
兄上に抱きしめられながら、私は利己的な自分が情けなくて仕方がなかった。
兄上は私の表情を見てすでに察しているのだろう。
私が何を考えているか、何を心配しているのか察してそれでも聞きたいのだろう。
「兄上は、本当はボナクララを好いているのでは、彼女を選びたかったのではありませんか? でも、国の為エマニュエラを選んだのではありませんか」
そうではないと言って欲しい。そう思う私は浅ましい。
兄上なら、ボナクララを想っているわけではないと、そう言ってくれるだろうと思いながら私は聞いているのだ。
「ふっ。デルロイは馬鹿だな」
「あにうぇ」
ぐしゃぐしゃと私の頭を両手で撫でて、兄上は笑った。
「ボナクララを私が選ぶ? そんなことするわけがないだろう。彼女は王妃には向いていない」
ボナクララが王妃に向いていないとは言っても、好いていないとは兄上は言わなかった。
その事実に私は打ちのめされて、それならば兄上は本当に国の為にエマニュエラを選んだのだと泣きたくなる。
「王妃ではなく、兄上の妻として望むのは」
「私は王太子で、父上の、陛下の跡を継ぐ者だ。それ以外の未来はないというのに、王妃ではない妻など私には想像も出来ない」
つまり、どういうことだろう。
兄上は王になるから、ボナクララを好きでも選択肢に入れないということなのだろうか。
それとも、ボナクララを好きでもないし、王妃には向いていないから選ばなかったのだろうか。
私にはその判断が出来ない。
それはボナクララを好いていないという、その答えが欲しいからだ。
兄上が彼女を望んでいるのなら、私が選べる立場にいないからだ。
いくら兄上が私を可愛がってくれているとはいえ、兄上はこの国の王太子で私は成人後臣籍降下する身だ。
選ぶ権利は、その優先順位は兄上にあるのだ。
「私は自分の幸せ等望まない。国が平和で、お前が幸せであればそれで良いのだよ。違うな、私の幸せはデルロイが幸せでいることだ。デルロイがボナクララと夫婦になり、子供を授かり幸せを増やしていく。それを兄としてこの国の王として見守る。それが私の未来で幸いだ」
兄上はそう言い切って、私の頭を抱き寄せた。
「デルロイ、お前が幸せに生きていける国を作る。私が王位を継ぎ、エマニュエラを王妃とすれば守りの魔法陣の呪いはそれで一旦は落ち着く筈だ。あの残虐な女を妻にするしかないのは業腹だが、私ならあの女を御せる筈だ。お前が憂う未来はない」
「兄上」
婚約前から残虐な女だと言い切れる人を妻にする。
自分なら御せるからと、兄上は余裕だとばかりに笑って言うけれど、そこに兄上の幸いはないと私には分かる。
「兄上」
その覚悟はどれほどのものだろう。
妻というのは、夫婦というものは、国王と王妃だとしても、それが政略だとしても最低限の信用は互いになければ苦行でしかないだろう。
そして兄上には、エマニュエラに対して信用という感情すら無いのだ。
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「信じます。兄上は万能ですから、私が幼い頃から尊敬する兄上ならきっと出来ると信じています」
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兄上がそれを選ばせてくれたのだ。
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