【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

文字の大きさ
213 / 310
番外編

おまけ 兄の寵愛弟の思惑36 (デルロイ視点)

しおりを挟む
「デルロイは何を心配している」

 兄上は私の表情を見てすでに察しているのだろう。
 私が何を考えているか、何を心配しているのか察してそれでも聞きたいのだろう。

「兄上は、本当はボナクララを好いているのでは、彼女を選びたかったのではありませんか? でも、国の為エマニュエラを選んだのではありませんか」

 そうではないと言って欲しい。そう思う私は浅ましい。
 兄上なら、ボナクララを想っているわけではないと、そう言ってくれるだろうと思いながら私は聞いているのだ。

「ふっ。デルロイは馬鹿だな」
「あにうぇ」

 ぐしゃぐしゃと私の頭を両手で撫でて、兄上は笑った。

「ボナクララを私が選ぶ? そんなことするわけがないだろう。彼女は王妃には向いていない」

 ボナクララが王妃に向いていないとは言っても、好いていないとは兄上は言わなかった。
 その事実に私は打ちのめされて、それならば兄上は本当に国の為にエマニュエラを選んだのだと泣きたくなる。

「王妃ではなく、兄上の妻として望むのは」
「私は王太子で、父上の、陛下の跡を継ぐ者だ。それ以外の未来はないというのに、王妃ではない妻など私には想像も出来ない」

 つまり、どういうことだろう。
 兄上は王になるから、ボナクララを好きでも選択肢に入れないということなのだろうか。
 それとも、ボナクララを好きでもないし、王妃には向いていないから選ばなかったのだろうか。
 私にはその判断が出来ない。
 それはボナクララを好いていないという、その答えが欲しいからだ。
 兄上が彼女を望んでいるのなら、私が選べる立場にいないからだ。
 いくら兄上が私を可愛がってくれているとはいえ、兄上はこの国の王太子で私は成人後臣籍降下する身だ。
 選ぶ権利は、その優先順位は兄上にあるのだ。

「私は自分の幸せ等望まない。国が平和で、お前が幸せであればそれで良いのだよ。違うな、私の幸せはデルロイが幸せでいることだ。デルロイがボナクララと夫婦になり、子供を授かり幸せを増やしていく。それを兄としてこの国の王として見守る。それが私の未来で幸いだ」

 兄上はそう言い切って、私の頭を抱き寄せた。
 
「デルロイ、お前が幸せに生きていける国を作る。私が王位を継ぎ、エマニュエラを王妃とすれば守りの魔法陣の呪いはそれで一旦は落ち着く筈だ。あの残虐な女を妻にするしかないのは業腹だが、私ならあの女を御せる筈だ。お前が憂う未来はない」
「兄上」

 婚約前から残虐な女だと言い切れる人を妻にする。
 自分なら御せるからと、兄上は余裕だとばかりに笑って言うけれど、そこに兄上の幸いはないと私には分かる。
 
「兄上」

 その覚悟はどれほどのものだろう。
 妻というのは、夫婦というものは、国王と王妃だとしても、それが政略だとしても最低限の信用は互いになければ苦行でしかないだろう。
 そして兄上には、エマニュエラに対して信用という感情すら無いのだ。
 王妃にしなければならないから、そうする。それだけなのだ。

「お前は兄を信じろ。お前が憂いなく生きられる国にするから、約束する」
「信じます。兄上は万能ですから、私が幼い頃から尊敬する兄上ならきっと出来ると信じています」

 不安がある。
 申し訳なさもある。
 自分だけが愛する人を妻にする未来があるのだ。
 兄上がそれを選ばせてくれたのだ。

「兄上、私は兄上の弟に生まれて幸せです。私は兄上に誇って貰える様な弟でいたい。どうかずっとずっと私を兄上の弟として傍に置いて下さい」

 頭を兄上に抱きしめられたまま、私は両腕を兄上の背中にまわす。
 こんな風に触れ合うことは、今迄無かった。

「兄上が平和で豊かな国を作る手伝いを私にさせてください。兄上の弟として」

 兄弟として生まれ育っても、弟が王位を狙い兄弟の命を狙うのは、他国ではよくある話だ。
 この国では過去一度もそういうことは無かったらしいが、他国では当たり前にあることなのだ。

「デルロイ、可愛い私のデルロイ。勿論だ。お前はずっと私の可愛い弟だ。お前がボナクララと結婚しても父親になってもずっとずっと変わらない」

 兄上の愛情はどれだけ深いのだろう。
 私は自分のことしか考えていない、子供なのに。

「ありがとうございます。兄上」

 兄上に抱きしめられながら、私は利己的な自分が情けなくて仕方がなかった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
サフィリーン・ル・オルペウスである私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた既定路線。 クロード・レイ・インフェリア、大国インフェリア皇国の第一皇子といずれ婚約が結ばれること。 皇妃で将来の皇后でなんて、めっちゃくちゃ荷が重い。 こういう幼い頃に結ばれた物語にありがちなトラブル……ありそう。 私のこと気に入らないとか……ありそう? ところが、完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 絆されていたのに。 ミイラ取りはミイラなの? 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? いろいろ探ってましたけど、どうなったのでしょう。 ――考えることに、何だか疲れちゃったサフィリーン。 第一皇子とその方が相思相愛なら、魅了でも何でもいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- 不定期更新です。 他サイトさまでも投稿しています。 10/09 あらすじを書き直し、付け足し?しました。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

処理中です...