【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

文字の大きさ
231 / 310
番外編

おまけ 兄の寵愛弟の思惑54 (デルロイ視点)

しおりを挟む
「……ボナクララ、彼女の足は本当に痛みがあったのかな」

 エマニュエラを置いて、ボナクララと並んで歩きながら問うと「……痛みはあった様ですが、多分新しい靴のせいでしょう」と小声で言った。

「靴のせい?」
「ええ、あの靴は実は私のものなのです。先日出来上がり届いたばかりなのですが、自分の方が似合うと」

 ボナクララの言葉に頭痛を感じ額を抑えたくなるけれど、エマニュエラのそういう行為は昔からだったと思い出した。
 エマニュエラは一度気に入ったら、自分の物にするまで大騒ぎするらしい。
 ボナクララの両親がいくら諫めても聞かないから、最後にボナクララが折れるのが常だ。
 その筆頭が姉か妹かという、なんとも呆れることだ。

「エマニュエラ嬢は相変わらずだな、君を妹だと言い張っているし、気に入ればボナクララの靴も取り上げてしまうのだから」

 本来はボナクララが姉だと届けを出していて、実際生まれもボナクララが数日早いらしいが、エマニュエラは自分が姉だと言い張り周囲にもそう言っているのだから呆れてしまう。
 自分より劣るボナクララが姉なのは許せないのだそうだ。

「私に合わせ作った靴ですから、エマニュエラにはもしかすると少しキツイのかもしれませんが、新しいドレスと色味が似ていますから靴も新しいものが欲しかったのでしょう」

 学校には通わず王宮通いし母上から様々なことを習う、と決めたのは兄上だ。
 エマニュエラが学校に通って、諫められる者がいない環境で何をしでかすか心配だったのと、私に彼女が近づこうとするのを兄上が阻止したかったかららしい。
 確かに王宮内でもこんな風に女官に嫌がらせするのだから、ボナクララと共に学校に入ったら何をしでかすか分からない。

「相変わらず困った人だな」
「ええ、本当に」
「ボナクララはいいのか? 靴、折角新しいものを作ったのに」
「……内緒にしてくださいませね、本当は二足作ってあるんです。エマニュエラが好みそうな一足はエマニュエラが届いたと気が付く様に届けて頂いたのですけれど、もう一足はこっそりと。さすがに一度私が履いたものは奪おうとしませんから」

 にこりと笑い話すボナクララに、私達の前を歩いていた女官が堪え切れず吹き出し「し、失礼致しました」と立ち止まって私達に向かい謝罪した。

「いいよ。でも絶対に他言無用だ、お前達も心得ておきなさい」
「畏まりました」

 女官と護衛と侍女が揃って頭を下げるが、皆の肩が震えている。
 すでにエマニュエラの姿は遠くなり、私達の近くを歩いている者はいないけれど、私達がエマニュエラを笑っていた等噂になるのは困る。

「ボナクララは賢いな」
「今まで散々奪われ続けましたから、両親と一緒に考えましたのよ。エマニュエラはなぜか私が持っているものの方が良いものだと言うもので、好みの差はあれど優劣など無いというのに」

 公爵家に出入りする仕立て屋達が質の悪いものを作るわけはないし、いくらエマニュエラの出生の秘密があるとしても二人を差別して育てる家ではない。
 ボナクララの両親は、娘達に向ける愛情に偏りはあるのかもしれないが、それを表に出す様な二人ではないだろうし、他の兄弟もそれは同様だろう。

「ボナクララの兄君達は、エマニュエラ嬢との関わりは?」
「兄達は私にもエマニュエラにも同じ態度で接しています。エマニュエラは優秀ですから、色々注意はしても仲は悪くありません。話しをするのは楽しいと言っていますエマニュエラは政治の話等も出来ますから」

 ボナクララの兄弟を思い出すと、長兄は公爵そっくりの性格で一見穏やかそうに見えて腹の中で何を考えているのか分からない人だし、次兄は剣術好きでさっぱりとした性格だ。二人はそれぞれイトコと婚約している。
 私が言えたことでは無いが、王家の血筋は、それ以外には惹かれないのかもしれない。皆がイトコやハトコと縁を結んでいるのだから。

「そうか。エマニュエラは確かに賢い。優秀過ぎるほどに」

 エマニュエラは見目麗しく優秀で、人の心を掴むのが上手い。これでもう少し心根が良ければ何の問題もないのだが、彼女は自分の機嫌だけが大切で目下の者はいくら虐げても良い存在だと考えている。
 あの人がこのまま王太子妃になり、王妃になったらこの国はどうなってしまうのか。
 父上のお体のため、守りの魔法陣のためとはいえ、それを考えるとため息しか出なかった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生したので前世の大切な人に会いに行きます!

本見りん
恋愛
 魔法大国と呼ばれるレーベン王国。  家族の中でただ一人弱い治療魔法しか使えなかったセリーナ。ある出来事によりセリーナが王都から離れた領地で暮らす事が決まったその夜、国を揺るがす未曾有の大事件が起きた。  ……その時、眠っていた魔法が覚醒し更に自分の前世を思い出し死んですぐに生まれ変わったと気付いたセリーナ。  自分は今の家族に必要とされていない。……それなら、前世の自分の大切な人達に会いに行こう。そうして『少年セリ』として旅に出た。そこで出会った、大切な仲間たち。  ……しかし一年後祖国レーベン王国では、セリーナの生死についての議論がされる事態になっていたのである。   『小説家になろう』様にも投稿しています。 『誰もが秘密を持っている 〜『治療魔法』使いセリの事情 転生したので前世の大切な人に会いに行きます!〜』 でしたが、今回は大幅にお直しした改稿版となります。楽しんでいただければ幸いです。

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
サフィリーン・ル・オルペウスである私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた既定路線。 クロード・レイ・インフェリア、大国インフェリア皇国の第一皇子といずれ婚約が結ばれること。 皇妃で将来の皇后でなんて、めっちゃくちゃ荷が重い。 こういう幼い頃に結ばれた物語にありがちなトラブル……ありそう。 私のこと気に入らないとか……ありそう? ところが、完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 絆されていたのに。 ミイラ取りはミイラなの? 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? いろいろ探ってましたけど、どうなったのでしょう。 ――考えることに、何だか疲れちゃったサフィリーン。 第一皇子とその方が相思相愛なら、魅了でも何でもいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- 不定期更新です。 他サイトさまでも投稿しています。 10/09 あらすじを書き直し、付け足し?しました。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結】あなたの『番』は埋葬されました。

月白ヤトヒコ
恋愛
道を歩いていたら、いきなり見知らぬ男にぐいっと強く腕を掴まれました。 「ああ、漸く見付けた。愛しい俺の番」 なにやら、どこぞの物語のようなことをのたまっています。正気で言っているのでしょうか? 「はあ? 勘違いではありませんか? 気のせいとか」 そうでなければ―――― 「違うっ!? 俺が番を間違うワケがない! 君から漂って来るいい匂いがその証拠だっ!」 男は、わたしの言葉を強く否定します。 「匂い、ですか……それこそ、勘違いでは? ほら、誰かからの移り香という可能性もあります」 否定はしたのですが、男はわたしのことを『番』だと言って聞きません。 「番という素晴らしい存在を感知できない憐れな種族。しかし、俺の番となったからには、そのような憐れさとは無縁だ。これから、たっぷり愛し合おう」 「お断りします」 この男の愛など、わたしは必要としていません。 そう断っても、彼は聞いてくれません。 だから――――実験を、してみることにしました。 一月後。もう一度彼と会うと、彼はわたしのことを『番』だとは認識していないようでした。 「貴様っ、俺の番であることを偽っていたのかっ!?」 そう怒声を上げる彼へ、わたしは告げました。 「あなたの『番』は埋葬されました」、と。 設定はふわっと。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

処理中です...