【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

おまけ 兄の寵愛弟の思惑59 (デルロイ視点)

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 兄上と私の婚約が正式に決まってから十日程経ったある日、私はトニエと共にマーニ先生の屋敷に来ている。
 トニエは寮からマーニ先生の屋敷に住まいを移しているから、正確には私がトニエを訪ねてマーニ先生の屋敷に来たのだが、マーニ先生の屋敷のトニエの部屋は、もう何年も住んでいるかの様にトニエの錬金術や調剤の道具で溢れかえっていて、呆れてしまった。
 トニエが加工した虹のユニコーンの魔石を父上が携帯する様になってから、父上の体調は目に見えて良くなってきている。
 今まで起きていられる時間が一日の三分の一も無かったのに、無理をすれば朝から夕方まで執務を行えるまでになったのだから驚き以外の言葉が見つからない。
 食事も普通の量を取れる様になってきているし、顔色もだいぶマシになってきたからこれでもう安心出来るのではないかと私はホッとしていたのだが、トニエに言わせるとそれは甘かったらしい。
 
「虹のユニコーンの魔石と、虹のユニコーンのたてがみを使った布の効果で今はお元気になった様に見えているだけですよ。何を呑気に喜んでいらっしゃるのか」

 出来の悪い生徒を見る様に、トニエは額に手を当てながら私を見る。
 トニエはだいぶ私に容赦が無くなって来たと思うが、私相手にこういう態度を取る人間は今までいなかったからちょっと面白いと思ってしまう。

「呑気にしていてはいけないのか」
「当たり前です。魔石も布も魔力が尽きれば効果は終わるのですよ、今は魔力を殿下方が補充しているから何とかなっていますが、これを陛下の為に一生続けるのですか?」
「それは、大変だが父上の為と思えば……」

 今は兄上と私とウーゴの三人で魔石の魔力を補充している。
 三人共魔力は多い方だが、ウーゴは日中魔法の練習で魔力を使うことが多いから無理はさせられないし、兄上は執務で多忙だから必然的に私が請け負うことが多い。
 私はあまり魔力を使わないし、兄上の様に多忙でも無いのだから当然だ。

「この国の迷宮に、虹のユニコーンを狩れるところがいくつかあるとマーニ先生から伺いました。でもあれは上級冒険者だけのパーティーで狩る魔物ですし、今のところこれを加工できるのは私だけです。理由はお分かりですよね」
「王宮でこれを日常的に使う者がいると、一般貴族や民に気が付かれるわけにはいかないから」
「そうです。そして私は留学でこの国に来ています。私が帰国した後どうなさるおつもりですか」

 そうか、トニエは早ければ来年の春、遅くとも数年内にはこの国からいなくなる。
 そうなった時、トニエにわざわざ魔石の加工を依頼するわけにはいかないし、予備として虹のユニコーンの魔石を集めておくわけにもいかないだろう。
 王宮で虹のユニコーンの魔石を求める理由、それを探ろうとする者は絶対に出て来るからだ。

「王太子殿下ともお話しましたが、魔石と布と同様の効果を望めるものは食事の改善です。迷宮産の果物や魔物肉を常食頂ける様にするか、私が以前申し上げた日薬草を育てて食されるか」
「だが、日薬草は育てるのが難しかったのではないのか?」

 確か採取した後、葉が駄目になるまでの時間がとても短いと言っていた覚えがある。
 
「ええ、理想は魔素の多い荒れた土地か、迷宮の中、または魔物が出やすい森等でなければ育ちが悪いです」
「それは、王都では難しいし、王宮内ではもっと難しいだろう。ああ、でも……」

 王都で魔素が多いといえば、王家の森だ。
 あそこは森型の迷宮だから、植物を植えられる場所は多いだろうし、迷宮だから魔素も多い。
 王家の森は王宮のある敷地内の外れに位置しているから、もしかすると王家の森の近くであれば魔素は幾分多いのかもしれない。
 魔素が多いと魔物が出やすいらしいが、頻繁に王家の森周辺を王宮魔法師団が見回り魔物を狩っているから魔物被害は出ないのだと言う。

「何か」
「王家の森の近くであれば、普通より魔素は多いのではないかと思うんだが、そこで育てるのは難しいだろうか」

 私の提案に、トニエはにっこりと笑顔を作る。

「そこなら一般の人間でも出入できますか」
「王宮から王家の森までは、出入は厳重に管理されている。あそこは王都で一番魔物が出る確率が高い場所だから戦えない人間が入り込んでいたら危険だ」
「そうでしょうね。そうなると陛下のお食事を作る人間に日薬草を誰が迅速に届けるか、それが難しいでしょう」

 日薬草を誰が育てるか、薬に関することなら薬師だし、野菜の一つと考えれば農夫だが。

「薬効があまりないものであれば、魔素が薄い場所でも育てられるんですよ」
「そうなのか?」
「はい、ただし魔素が多いところで育てたものより効果が薄いので、量を多く取らないといけませんし、育つのも遅いのです」

 そう言うとトニエは、お茶の道具の隣に置いてあったワゴンから何かを入れた器をテーブルに運んで来た。

「これは?」
「殿下がいらっしゃってから採取した日薬草です」

 そういえば、お茶の用意をしてくると言ってトニエは部屋から出ていた。
 お茶を入れるには随分時間が掛かると思っていたけれど、日薬草を採取していたのか、でもどこから?

「この屋敷の庭の一部をお借りして、日薬草を育ててみました。第二王子殿下召し上がってみませんか」

 トニエがにやにやと笑いながら勧める、器に盛られた水気の多そうな半透明のものを、私はじぃっと見つめてしまったのだった。
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