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番外編
おまけ 兄の寵愛弟の思惑58 (エマニュエラ視点)
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「馬鹿にしているわ」
夕食後、湯浴みを済ませ寝支度を終えた私は、皺ひとつなく整えられたベッドの上で枕に八つ当たりをしていた。
両親と兄弟全員が珍しく全員揃った夕食は、私とボナクララ二人の婚約を祝うためのものだった。
その席で、私は兄達に揶揄われてわざとらしく恥じらうボナクララの顔は醜悪で、祝いの食事だというのに私の心は嵐の様に荒れていた。
嫌味の一つも言ってやれたら良かったのだけれど両親と兄達がいる場でそれは出来ないから、ボナクララの頭から熱々のスープを掛け、清楚を装うドレスにこってりとしたソースが掛かった魔物肉の焼き物をぶつけ、ボナクララのお気に入りのドレスが台無しになった姿を想像するに留め溜飲を下げていた。
王太子殿下と婚約が決まった私より、いずれ臣籍降下する第二王子殿下との婚約が決まったボナクララの方が話題の中心になっているのが面白くなかった。
ボナクララがわざとらしく恥じらうから、兄達は面白がって余計に揶揄うのだ。
あれはボナクララの策略だと、なぜ兄達は気が付かないのだろう。
食事の席であんな態度を取るのは下品だと、なぜお父様は彼らを咎めないのか分からない。
私は皆からの祝いの言葉に、控えめに「王太子殿下に随分と待たされてしまいました。この私を待たせるなんて酷い方です」と謙遜して言ったら「……婚約が決まって良かった」と返されただけだったというのに。
ボナクララは食事の間ずっと話題の中心にいたのだ。
「ボナクララが愚かだから、揶揄いたくなるのね。お兄様は部屋を出る時私を気にして下さっていたもの」
長兄は私に「お前は賢いが、足を引っ張ろうとする愚かものはどこにでもいる。これからは己の行いに十分気をつけなくてはね」と言い肩を叩いて去って行った。
あの時、ボナクララには何も声を掛けて行かなかったのは、あの子にそんなことを言っても無駄だと知っているからだろう。
「お兄様は、私の方がボナクララより優れていると分かっているのよ」
枕を床に投げつけて、メイドを呼ぶため呼び鈴を鳴らす。
不愉快な気持ちを家族の前で表に出す程、私は愚かではない。
それにボナクララへの嫌がらせは、お父様達が見ていないところで行うから楽しいのだ。
昨日、あの子が届くのを楽しみにしていた靴を奪ってやった時の悲しそうな顔は、愉快だった。
少し私の足にはキツイのだけれど、私の新しいドレスに良く似あっているし、あの靴のお陰で女官に嫌がらせも出来たのは良かった。
私達は双子でも、私の方が美人だし華やかな顔をしている。
でも王妃殿下は私よりもボナクララの方を好いている気がする。
出来が良く無いボナクララを憐れんでいるのだろうけれど、私よりあの子を優遇しようとしている王妃殿下に腹が立つから、義母と呼んで欲しいと頼まれても願いを叶えてはやらなかった。
それどころか、結婚しても義母と呼ばないと言い切ってやった。あの時驚いた様に一瞬目を見開いた王妃殿下の顔は面白かった。
日頃感情を出さないあの人があんな風に驚くのだから、きっと私が王妃殿下を喜んでお義母さまと呼ぶと思い込んでいたのだろう。
王妃殿下が心を入れ替えたら、お義母さまと呼んであげてもいいけれど、そうでないなら一生呼んでやるつもりはない。
「お嬢様、お呼びでしょうか」
「お前、仕事を怠ったわね。その枕、枕から羽根が飛び出ているわ。私の頬に傷がついたらどうするつもり?」
枕に八つ当たりして、中の羽根が縫い目から飛び出ただけ。
それを床に叩きつけたから、羽根が床に一枚落ちてしまっただけ、それを分かっていてメイドを叱りつける。
「申し訳ございませんっ」
「お前、私に嫌がらせをするつもりだったのね、そうでしょう」
ベッドのすぐ脇に置いてある棚の上、呼び鈴と一緒に置いてある鞭を手に取りパシリと音を鳴らす。
「両手を出しなさい」
「は、はい」
「私だってお前を傷つけたくて罰を与えるわけではないのよ。もしも本当に顔に傷がついたら、王太子殿下の婚約者である私をあなたは害したことになるの。そうしたらもっと重い罰を与えられる可能性もあるわ。そうしたら、お前だけでなくその家族も処罰の対象になるかもしれないわ」
この鞭は乗馬用のものだ、乗馬は私の趣味の一つだから鞭も沢山持っているし部屋にあっても言い訳が出来る。
今までは使用人達の脅しの為に目立つ場所に置いていただけだったけれど、これからは効率的に使うつもりだ。
鞭打てば当然傷がつくけれど、私は良く効く薬を持っているからそれを塗ればすぐに傷は癒える。
私は優しい主人だから、反省すればすぐに治療をしてあげるわ。誰に訴えても傷が無ければ鞭打たれたなんて分かりはしないのだから。
「お前の体に罰を与えるのは、私の優しさよ」
メイドが、恐る恐る差し出した両手に鞭を振るう。
馬より遥かに弱いメイドの手の甲には、すぐに何本もの赤い線が浮かび出す。
「さあ、どうしてお前は私に罰を与えられているのか言いなさい」
「わ、私は、……い、痛っ」
口を開きかけたメイドの声を、鞭を振るい遮る。
簡単に反省されては、面白くない。
「反省が無いわね。私を馬鹿にしているのね」
「ちがっ」
「反省しないどころか、口答えするなんて、仕事をいつも怠けて困るとお母様に伝えてもいいのよ」
何度も何度も鞭を振るうと、痛みからだろうメイドが涙を流し始めた。
「お許しください。私は、いい加減な仕事をしてお嬢様のお肌を傷つけてしまうところでした」
泣きながら謝っても、許しはしない。
「仕事を満足にしなかったと認めるのね」
「はい、認めます。申し訳ございません」
手の痛みと鞭を何度も振るわれる恐怖に、震えながら泣くメイドの姿にボナクララを重ねる。
あの子をこうして痛めつけてやりたい。魔物に喰わせるのは決定だけれど、その前に尊厳を奪わせて屈辱を与え体中綺麗なところが見えなくなるくらいに鞭を打ち付けてやりたい。
幸せそうに笑うあの顔を、恐怖に歪ませてもう許してと願うまで傷つけてから排除して、あの子が心からお慕いしているデルロイ様を私のものにする。
「お許し下さい、お許しくださいっ」
「許したくないけれど、反省はしている様ね」
手が疲れるまで鞭打ちを続け気が済んだから鞭を棚の上に置き、引き出しから取り出した傷薬をメイドの手に塗らせると傷はすぐに消える。
「誰に話しても、罰の跡はないからお前の言葉なんて誰も信じないわ。でも、私の言葉なら皆が信じるわ。この意味が分かるわね?」
私の声に、メイドは絶望した顔をし私を見つめる。
私の傍に居る限り、同じ様に何度も甚振られると気が付いたのだろう。
今まで鞭を見せつけても、実際に体罰を与えたことはなかった。それよりもメイド達に嫌がらせをする方が楽しかったから、でもこれからは違う。
嫁いだ後、女官たちを思い通りに躾ける練習として、私付きのメイド達には役に立ってもらう。
「命が大事なら黙っていることね。もう休むわ、下がりなさい」
メイドが誰かに訴えても無駄だ。
心を壊すまで、私はこのメイドを甚振り躾け続けると決めたのだから。
「失礼いたします」
泣きながら去るメイドの姿に満足しながら体を横たえて、どうやってボナクララを苦しめようかと考えながら目を閉じた。
夢の中で、私は二人の王子から薔薇を差し出されたけれど、それは所詮夢でしかなかった。
夕食後、湯浴みを済ませ寝支度を終えた私は、皺ひとつなく整えられたベッドの上で枕に八つ当たりをしていた。
両親と兄弟全員が珍しく全員揃った夕食は、私とボナクララ二人の婚約を祝うためのものだった。
その席で、私は兄達に揶揄われてわざとらしく恥じらうボナクララの顔は醜悪で、祝いの食事だというのに私の心は嵐の様に荒れていた。
嫌味の一つも言ってやれたら良かったのだけれど両親と兄達がいる場でそれは出来ないから、ボナクララの頭から熱々のスープを掛け、清楚を装うドレスにこってりとしたソースが掛かった魔物肉の焼き物をぶつけ、ボナクララのお気に入りのドレスが台無しになった姿を想像するに留め溜飲を下げていた。
王太子殿下と婚約が決まった私より、いずれ臣籍降下する第二王子殿下との婚約が決まったボナクララの方が話題の中心になっているのが面白くなかった。
ボナクララがわざとらしく恥じらうから、兄達は面白がって余計に揶揄うのだ。
あれはボナクララの策略だと、なぜ兄達は気が付かないのだろう。
食事の席であんな態度を取るのは下品だと、なぜお父様は彼らを咎めないのか分からない。
私は皆からの祝いの言葉に、控えめに「王太子殿下に随分と待たされてしまいました。この私を待たせるなんて酷い方です」と謙遜して言ったら「……婚約が決まって良かった」と返されただけだったというのに。
ボナクララは食事の間ずっと話題の中心にいたのだ。
「ボナクララが愚かだから、揶揄いたくなるのね。お兄様は部屋を出る時私を気にして下さっていたもの」
長兄は私に「お前は賢いが、足を引っ張ろうとする愚かものはどこにでもいる。これからは己の行いに十分気をつけなくてはね」と言い肩を叩いて去って行った。
あの時、ボナクララには何も声を掛けて行かなかったのは、あの子にそんなことを言っても無駄だと知っているからだろう。
「お兄様は、私の方がボナクララより優れていると分かっているのよ」
枕を床に投げつけて、メイドを呼ぶため呼び鈴を鳴らす。
不愉快な気持ちを家族の前で表に出す程、私は愚かではない。
それにボナクララへの嫌がらせは、お父様達が見ていないところで行うから楽しいのだ。
昨日、あの子が届くのを楽しみにしていた靴を奪ってやった時の悲しそうな顔は、愉快だった。
少し私の足にはキツイのだけれど、私の新しいドレスに良く似あっているし、あの靴のお陰で女官に嫌がらせも出来たのは良かった。
私達は双子でも、私の方が美人だし華やかな顔をしている。
でも王妃殿下は私よりもボナクララの方を好いている気がする。
出来が良く無いボナクララを憐れんでいるのだろうけれど、私よりあの子を優遇しようとしている王妃殿下に腹が立つから、義母と呼んで欲しいと頼まれても願いを叶えてはやらなかった。
それどころか、結婚しても義母と呼ばないと言い切ってやった。あの時驚いた様に一瞬目を見開いた王妃殿下の顔は面白かった。
日頃感情を出さないあの人があんな風に驚くのだから、きっと私が王妃殿下を喜んでお義母さまと呼ぶと思い込んでいたのだろう。
王妃殿下が心を入れ替えたら、お義母さまと呼んであげてもいいけれど、そうでないなら一生呼んでやるつもりはない。
「お嬢様、お呼びでしょうか」
「お前、仕事を怠ったわね。その枕、枕から羽根が飛び出ているわ。私の頬に傷がついたらどうするつもり?」
枕に八つ当たりして、中の羽根が縫い目から飛び出ただけ。
それを床に叩きつけたから、羽根が床に一枚落ちてしまっただけ、それを分かっていてメイドを叱りつける。
「申し訳ございませんっ」
「お前、私に嫌がらせをするつもりだったのね、そうでしょう」
ベッドのすぐ脇に置いてある棚の上、呼び鈴と一緒に置いてある鞭を手に取りパシリと音を鳴らす。
「両手を出しなさい」
「は、はい」
「私だってお前を傷つけたくて罰を与えるわけではないのよ。もしも本当に顔に傷がついたら、王太子殿下の婚約者である私をあなたは害したことになるの。そうしたらもっと重い罰を与えられる可能性もあるわ。そうしたら、お前だけでなくその家族も処罰の対象になるかもしれないわ」
この鞭は乗馬用のものだ、乗馬は私の趣味の一つだから鞭も沢山持っているし部屋にあっても言い訳が出来る。
今までは使用人達の脅しの為に目立つ場所に置いていただけだったけれど、これからは効率的に使うつもりだ。
鞭打てば当然傷がつくけれど、私は良く効く薬を持っているからそれを塗ればすぐに傷は癒える。
私は優しい主人だから、反省すればすぐに治療をしてあげるわ。誰に訴えても傷が無ければ鞭打たれたなんて分かりはしないのだから。
「お前の体に罰を与えるのは、私の優しさよ」
メイドが、恐る恐る差し出した両手に鞭を振るう。
馬より遥かに弱いメイドの手の甲には、すぐに何本もの赤い線が浮かび出す。
「さあ、どうしてお前は私に罰を与えられているのか言いなさい」
「わ、私は、……い、痛っ」
口を開きかけたメイドの声を、鞭を振るい遮る。
簡単に反省されては、面白くない。
「反省が無いわね。私を馬鹿にしているのね」
「ちがっ」
「反省しないどころか、口答えするなんて、仕事をいつも怠けて困るとお母様に伝えてもいいのよ」
何度も何度も鞭を振るうと、痛みからだろうメイドが涙を流し始めた。
「お許しください。私は、いい加減な仕事をしてお嬢様のお肌を傷つけてしまうところでした」
泣きながら謝っても、許しはしない。
「仕事を満足にしなかったと認めるのね」
「はい、認めます。申し訳ございません」
手の痛みと鞭を何度も振るわれる恐怖に、震えながら泣くメイドの姿にボナクララを重ねる。
あの子をこうして痛めつけてやりたい。魔物に喰わせるのは決定だけれど、その前に尊厳を奪わせて屈辱を与え体中綺麗なところが見えなくなるくらいに鞭を打ち付けてやりたい。
幸せそうに笑うあの顔を、恐怖に歪ませてもう許してと願うまで傷つけてから排除して、あの子が心からお慕いしているデルロイ様を私のものにする。
「お許し下さい、お許しくださいっ」
「許したくないけれど、反省はしている様ね」
手が疲れるまで鞭打ちを続け気が済んだから鞭を棚の上に置き、引き出しから取り出した傷薬をメイドの手に塗らせると傷はすぐに消える。
「誰に話しても、罰の跡はないからお前の言葉なんて誰も信じないわ。でも、私の言葉なら皆が信じるわ。この意味が分かるわね?」
私の声に、メイドは絶望した顔をし私を見つめる。
私の傍に居る限り、同じ様に何度も甚振られると気が付いたのだろう。
今まで鞭を見せつけても、実際に体罰を与えたことはなかった。それよりもメイド達に嫌がらせをする方が楽しかったから、でもこれからは違う。
嫁いだ後、女官たちを思い通りに躾ける練習として、私付きのメイド達には役に立ってもらう。
「命が大事なら黙っていることね。もう休むわ、下がりなさい」
メイドが誰かに訴えても無駄だ。
心を壊すまで、私はこのメイドを甚振り躾け続けると決めたのだから。
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