【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

文字の大きさ
267 / 310
番外編

兄の寵愛弟の思惑89

しおりを挟む
「五歳と七歳、それから成人の時の占い結果も叔父上はご存知なのですか」

 エマニュエラの占い結果を思えば、良い結果が出ている筈が無い。
 
「知っています。五歳の時は『我慢を覚え慈悲の心を育てなければ、幸いは指の間から零れ落ちていく』七歳の時は『愛情は奪い取るものではないと知れ』でした。そして成人の時は……」

 エマニュエラとどちらが酷いだろうか、一瞬気が遠くなるのを感じながらジョバンニ叔父上の話の続きを待つ。
 
「成人の時は『己の欲だけを尊ぶ愚か者よ、己の行いで名を失いその身を焼かれても心から望むものは手に入らない。行いを悔いよ、心を清めよ』と」
「それは、占術師が彼女が処罰される未来をその場で見たとしか思えない」

 占術師は本当にすべてを見るのだろうか、あまりにも当たり過ぎている占いに背筋が寒くなる。

「ええ、本当に」
「占術師にそこまで言われても、心を改めることはなかった? あれ、先程「彼女が生んだ子が国の守りを変えるっ切っ掛けになる」と占術師が陛下に言ったというのは?」
「その部分は彼女には伝えなかったそうです。あの人は、守りの魔法陣を否定した。こんな守り方は正しくないと、自分なら変えられると」
「正しくない?」
「ええ、王家の血を引く女性達の魔力を注ぐことが必須の守り、そんなものに頼っていたら国力が弱まると」

 ジョバンニ叔父上が悲痛な表情で言う『国力が弱まる』の言葉に、私は兄上の告白を思い出す。
 生まれて半年程で守りの魔法陣に兄上は『エマニュエラを自分の妻にし、将来王妃にしなければ守りの魔方陣は消えて無くなり、この国は魔物に呑まれ他国から攻め込まれる』と教えられたと言っていた。
 兄上が生まれたばかりということは、当然私もボナクララもエマニュエラも生まれていない。
 つまりまだエマニュエラの母親は魔法陣に何も手を加えていない頃だというのに、守りの魔法陣は兄上を魔法陣の間に呼びよせ未来に起こることを見せたのだ。
 占術師の占いどころじゃない、人ではない魔法陣がまるで自分の意思があるかのように未来を教える相手を選び知恵を授けるなんて、私にその話をしたのが兄上でなければ嘘を吐かれたと疑うところだ。
 
「殿下?」

 急に私が黙りこんでしまったのを不審に感じたのか、ジョバンニ叔父上がじぃっと私を見ながら呼ぶ。

「魔法使いとして力がどれだけあればそんな傲慢な考えが出るのでしょうと、つい呆れてしまいました。ジョバンニ叔父上には大変申し訳ありませんが、あのエマニュエラの母親だけのことはある」

 兄上からの告白を言うわけにはいかないから、そう言って沈黙の理由をごまかす。
 
「傲慢、そうですね。それはエマニュエラとその母親を表すためにある様な言葉です」
「守りの魔法陣頼りではいけないことは、陛下だって危惧されていると思います。そうでなければ宮廷魔法使いや騎士団を国境近くに常駐させる理由がない」
「ええ、彼らは常に自身を鍛えています。この国を守る為に」

 確かにこの国の王侯貴族も民達も、守りの魔法陣の力を過信しているところはあるのかもしれない。
 トニエが私達を甘いと指摘する様に、他国よりだいぶ呑気に暮らしているのも事実なのかもしれない。
 だからといって守りの魔方陣を正しくないと決めつけるのはおかしい、たった一人の考えで国の守りの仕組みを変えようなんて、許されることではない。

「エマニュエラの母親は、そんな傲慢な考えで自分を王妃だと紐付けしたのでしょうか」
「何を思ってそうしたのか、誰にも分からないでしょう。罪人は既にこの世にいないのですから」
「もし、彼女が生きていたらどうなっていたと思いますか」

 王妃の母上が魔方陣にそうと認められていないせいで、王妃の魔力の肩代わりをしている父上の負担が大きくなっている。
 王妃の魔力が魔方陣を動かす要で、魔方陣と紐付けした王妃が魔力を注いでいるのなら、ほんの僅かな魔力を皆で魔方陣に供給すればいいけれど、その要の魔力が今全く無い状態だから、必要魔力量が膨大なものになっているのだそうだ。
 現在の魔方陣に王妃と紐付けされているのは、まだ王太子妃ですらないエマニュエラだ。
 彼女は成人前だし、王太子妃になる儀式も終えていない身たから魔方陣の間には入ることは出来ない。
 だから後数年は父上が耐えなければならないのだ。

「彼女が生きていたら、この国は滅んでいたかもしれません」
「どういうことですか」
「彼女の死後、彼女の部屋から魔方陣の研究資料が大量に出てきました。その資料の中に、予め魔方陣に紐付けしていた相手が魔力を魔方陣に注ぐと魔力だけでなく生命そのものまで全て奪い取るというものがあったのです」
「まさか魔方陣を書き換えて、それを行おうとした?」

 あまりのことに、声が震えてしまう。
 エマニュエラの母親は、なんて恐ろしいことを考えていたのか。

「それだけでなく資料には、まず自分を魔方陣に王妃と紐付け、その後順番に書き換えて行く予定が組まれていました」
「順番、今の話だけではなく?」
「はい、そこには任意の場所に魔物を召喚する、災害を発生させる等もあったのです。彼女はそれらを使いこの国の貴族達を脅しし従えようとしていた」

 魔方陣に魔力を注ぐのは、主に王家の血を継ぐ女性達だ。
 その女性達の命を脅かすものを魔方陣に組み込み排除した後で、自分が王妃として貴族達を牛耳るつもりだったのか。
 そんなことをしていたら、本当に国は滅びていたかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生したので前世の大切な人に会いに行きます!

本見りん
恋愛
 魔法大国と呼ばれるレーベン王国。  家族の中でただ一人弱い治療魔法しか使えなかったセリーナ。ある出来事によりセリーナが王都から離れた領地で暮らす事が決まったその夜、国を揺るがす未曾有の大事件が起きた。  ……その時、眠っていた魔法が覚醒し更に自分の前世を思い出し死んですぐに生まれ変わったと気付いたセリーナ。  自分は今の家族に必要とされていない。……それなら、前世の自分の大切な人達に会いに行こう。そうして『少年セリ』として旅に出た。そこで出会った、大切な仲間たち。  ……しかし一年後祖国レーベン王国では、セリーナの生死についての議論がされる事態になっていたのである。   『小説家になろう』様にも投稿しています。 『誰もが秘密を持っている 〜『治療魔法』使いセリの事情 転生したので前世の大切な人に会いに行きます!〜』 でしたが、今回は大幅にお直しした改稿版となります。楽しんでいただければ幸いです。

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
サフィリーン・ル・オルペウスである私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた既定路線。 クロード・レイ・インフェリア、大国インフェリア皇国の第一皇子といずれ婚約が結ばれること。 皇妃で将来の皇后でなんて、めっちゃくちゃ荷が重い。 こういう幼い頃に結ばれた物語にありがちなトラブル……ありそう。 私のこと気に入らないとか……ありそう? ところが、完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 絆されていたのに。 ミイラ取りはミイラなの? 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? いろいろ探ってましたけど、どうなったのでしょう。 ――考えることに、何だか疲れちゃったサフィリーン。 第一皇子とその方が相思相愛なら、魅了でも何でもいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- 不定期更新です。 他サイトさまでも投稿しています。 10/09 あらすじを書き直し、付け足し?しました。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結】あなたの『番』は埋葬されました。

月白ヤトヒコ
恋愛
道を歩いていたら、いきなり見知らぬ男にぐいっと強く腕を掴まれました。 「ああ、漸く見付けた。愛しい俺の番」 なにやら、どこぞの物語のようなことをのたまっています。正気で言っているのでしょうか? 「はあ? 勘違いではありませんか? 気のせいとか」 そうでなければ―――― 「違うっ!? 俺が番を間違うワケがない! 君から漂って来るいい匂いがその証拠だっ!」 男は、わたしの言葉を強く否定します。 「匂い、ですか……それこそ、勘違いでは? ほら、誰かからの移り香という可能性もあります」 否定はしたのですが、男はわたしのことを『番』だと言って聞きません。 「番という素晴らしい存在を感知できない憐れな種族。しかし、俺の番となったからには、そのような憐れさとは無縁だ。これから、たっぷり愛し合おう」 「お断りします」 この男の愛など、わたしは必要としていません。 そう断っても、彼は聞いてくれません。 だから――――実験を、してみることにしました。 一月後。もう一度彼と会うと、彼はわたしのことを『番』だとは認識していないようでした。 「貴様っ、俺の番であることを偽っていたのかっ!?」 そう怒声を上げる彼へ、わたしは告げました。 「あなたの『番』は埋葬されました」、と。 設定はふわっと。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

処理中です...