【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

兄の寵愛弟の思惑90

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「王妃になれると思い込んでいるだけでも図々しいのに、そんな恐ろしい考えを持っていたのですか? エマニュエラが守りの魔法陣に王妃として紐づいているだけでも大問題なのに、そんな書き換えがされていたとしたら」

 彼女の行いが、仮に国の未来を憂いてのことなら褒められはしなくとも彼女なりの理由があったのだと思えなくはないけれど、国や民を人質に王侯貴族達を自分の思い通りにしたいと、責任を果たすつもりもないのに自分の欲を満たすために王妃になり、守りの魔方陣を都合よく使おうとしていたのなら、そのために魔方陣を書き換えていたのなら、それは彼女の遺体を何度焼いても足りないくらいの大罪だ。
 この国を守るために皇女が作った守りの魔方陣、皇女の尊い思いを踏みにじる行いなのだから。
 私に力があれば、エマニュエラの母を超える魔力があればいいのに、私にはそんな力はない。

『彼女の魔力を超える者以外誰も魔法陣を書き変えられない。彼女の子が正式に魔法陣に王妃の契約をしない限り王の魔力は魔法陣に吸われ続ける』

 ふいに、おじい様の言葉を思い出す。

『強い魔力を持つ者だけでなく、光属性の魔力を持つ者が王妃になった時魔法陣を書き変えられるようにした』

 おじい様は、書き換えられた魔方陣を元に戻そうとして、逆にエマニュエラの母親が魔法陣に掛けていた呪いに命を取られた。
 彼女は魔方陣に自分の魔力以下の者が魔方陣に手を加えようとしたら、その者の命を魔方陣が奪うように仕掛けをしていたのだ。

「魔法陣は常に魔力が不足している。一番多く魔力を流す筈の王妃が魔力を魔法陣に流していないからだと、先程兄上から伺いました。殿下がそうおじい様に教えられたとも」
「父上からその話を?」

 おじい様と夢の中で話をした内容はすべて兄上に打ち明けている、それを兄上は父上に伝えたのだろう。
 あの夢を見てからだいぶ経つというのに、どうして父上は今ジョバンニ叔父上に話したのだろうか。

「私は父上、前国王陛下が亡くなった本当の理由も知りませんでいた。あの者が書き変えた魔法陣を元に戻す為兄上に王位を譲り父上は単身魔法陣に挑んだ。そして魔法陣の間で命を落としたのです。あの場にいたのは父上と兄上と義姉上の三人だけでした。私は兄上達の儀式の途中で父上が亡くなったとしか聞かされていなかった。父上は健康の問題等無かったのに、兄上に突然王位を譲ると言い始めたのは母上が急逝されてお心を痛めていたからだとばかり」

 王位を父上がおじい様から譲られた本当の理由を、多分二人はジョバンニ叔父上に伝えることは出来なかったのだろう。なにせ、その理由はジョバンニ叔父上とエマニュエラの母親の件に繋がってしまう。
 ジョバンニ叔父上は父上の兄弟の中で一番繊細な方だから、二人はそんなジョバンニ叔父上を追いつめたくなかったのだと思う。

「私は何も知らなかった。あの時自分だけが傷付いていると思い込んで、妻にも申し訳なくて。だが、私があの者にしてやられたせいで、妻が傷付き、母上の命を奪われ、魔法陣まで書き変えられてしまった」

 ジョバンニ叔父上は今何て言った?
 母上の命を奪われた? 母上、私にとっておばあ様、その命はエマニュエラの母親に奪われたのか?

「なぜそこまでのことが彼女が出来たのですか」
「闇魔法だよ」
「闇属性の魔法ですか? 王家の血を引くものに闇?」

 光属性の魔法は、王家の血を引く女性達の多くが使える。
 魔法の属性というものは、適性があれば簡単にその属性魔法を覚えたり、強い魔法が使えるようになる。
 光属性は特殊で、神殿で修行しないと一般の者は使えないらしいが、王家の血筋の者は適性が無くても修行無しで覚えられるらしい。
 ボナクララの場合、光属性の適性があるから幼い頃からかなり難しい光属性の魔法が使えたが、そういえばエマニュエラが光属性の魔法を使えるとは聞いたことがない。

「ええ、闇です」

 光属性の魔法には癒しや浄化があるのは有名だが、闇属性の魔法を使える者は少ないせいかあまり知られていない。
 闇とつくせいであまり良い印象を持たれず、その属性魔法が使えても隠している者が多いという説もある。
 私が知っている闇属性の魔法は、相手の影を地面に固定し動きを封じる影縛りとか、毒攻撃くらいのものだ。

「彼女は全属性の魔法を使えましたが、その中でも闇魔法は国内随一の使い手でした。特に精神操作の魔法は、宮邸魔法使いの精神防御魔法も破る程だった様です。おかげで彼女を捕縛するのが大変だった」
「精神操作の魔法、そんなものがあるのですか」
「ええ、私の件があるまでは上手く隠していたようですが」

 ジョバンニ叔父上の件というのは、つまり彼女は精神操作魔法をその時に使ったのか?

「私の乳兄弟の一人は、あの者を私の部屋に手引きし、私に媚薬を盛った罪で処刑されました」
「乳兄弟?」
「はい、あの頃妻は母上の宮で過ごしていました。ボナクララを授かったばかりで悪阻が酷く、心配した母上が自分の宮で様子を見たいと」

 ボナクララとエマニュエラは双子として育てられたくらいだから、生まれた時期が近い。
 叔母上がボナクララを妊娠したばかりの不安定な時期に、エマニュエラの母親は敢えて叔父上を狙ったのか。
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