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番外編
兄の寵愛弟の思惑94
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「王太子殿下は成人の祝いの時占術者に『最愛を守る者として正しい選択をしているか、今後何があってもそうあり続けられるか』と尋ねたそうです」
「最愛……」
兄上の最愛と聞いて、それは私だと思ったのは驕りがあり過ぎるだろうか。
でも、兄上は『私はこの幼い弟を心から愛し守るために生まれた』と私に言った。兄弟で生まれたことを神に感謝し『兄の立場なら、お前を生涯愛していてもおかしくない』とも。
だけど、兄上は単純に最愛の私を守る者としてそれを占術師に聞いたのでは無いと思う。
兄上は恐れているのだ、守りの魔方陣からの教え『エマニュエラを自分の妻にし、将来王妃にしなければ守りの魔方陣は消えて無くなり、この国は魔物に呑まれ他国から攻め込まれる』を、自分の選択でその最悪な未来に進んでしまうのではないかと。
「驚かれたと思いますが、きっとその言葉通りでは無いのでしょうね」
言葉を発せずにいる私に、ジョバンニ叔父上は苦笑しながら話を続ける。
「占術師は言ったそうです『心が千々に乱れても血の涙を流しても正しい選択をし最愛を信じ見守り続けよ、大樹がどんな時も旅人を己の枝葉で照り付ける日差しや雨から守る様にあり続けよ』と」
「大樹の様にあり続ける」
大樹の根を守る者だと、私は生まれた時に占術師に言われた。
私は単純に、兄上が王になった時常に傍に居て兄上を支える。そういう存在になるのだと言われているのだと思っていた。
だけど違うのだろうか、もしかすると私は兄上が大樹であり続けるための存在なのだろうか。
「木は自ら動けません、対して旅人は自分の意思で自由にどこにでも行けます。その旅人自身が辛い時心と体を休められる場所が大樹なのだとすれば、王太子殿下が大樹だと言われるのは理解出来ます」
王というものは、望みをすべて叶えられ贅沢な暮らしが出来る人だと思われているかもしれないが、王に自由なんて存在しない。
自分の本心を隠し自分の幸せより国を優先し生き続ける。
どこにも行かず、どこにも行けず、常に国を守るために貴族と民の頂にいてその手で国を守り続ける。
トニエに呑気だと言われるこの国を、皆が呑気に笑って生きられるように、王は何の苦労も知らぬ顔で頂点に立っていなければならない。
どんな脅威からも国を守ると決め、そうする責任があるからだ。
父上が、その身を削って守りの魔方陣を維持しているのもその責任の為だ。
私のような凡人では王の重責を理解したくても、すべてを理解するなんてきっと出来ないだろう。
だが兄上は、責任の重さを幼い頃から理解して父上の後を継ぎ王になりこの国を守るのは自分だと心を決め、国を守るためにエマニュエラを妻に選んだ。
「……兄上は大樹、旅人を……この国の民を強い日差しや雨風から守る大樹」
ぎゅうと拳を握りしめ、俯く。
自分が『大樹の根を守る者』なのだから、兄上がその大樹なのだと分かっていたのに大きな衝撃を受けたような気持ちになるのは自分が不甲斐ないからだ。
なにせ今の私は、兄上に守られているだけの役立たずなのだから。
「私は生まれた時占術師に『大樹の根を守る者』と言われたそうです。それなのに、今の私はその役割を果たせていない」
あまりの情けなさに、ジョバンニ叔父上の目をまともに見ることすら出来なくなる。
「どうしてそう思うのですか」
「ジョバンニ叔父上は、私が兄上に守られるだけの子供だと知っているくせに、なぜそんな意地の悪い言い方をされるのですか」
恨めしくジョバンニ叔父上を見ても、穏やかに笑っているだけなのが私の心を波立たせる。
私は守るどころか守られるだけ、守られるだけならまだしも父上に魔力譲渡をして倒れた時の様な心労を兄上に与えている。
「陛下のお体の為に他国の薬師から薬を買いつけられる様になったのは、第二王子殿下が精一杯尽力されたからこそだと聞いています」
「そんなの、あれは私の力ではなく薬師トニエの力です。私は魔力回復薬に違いがあることも、日薬草の存在も知らなかったのですから」
魔力譲渡だって、私は教えられて安易に使ってしまう程の考えなしなことをしてしまった。
下手をしたら私が命を落としただけでなく、罪のないトニエが私の考えなしな行動のせいで刑に処されていたかもしれないのだから。
今まで、王家の人間は自分の一挙手一投足まで気を配り、安易に発した言葉で周囲を誤解させる等しないように細心の注意を払わなくてはいけないと教えられてきたし、自分でそれは出来ているつもりだった。
だが、それは今まで運が良かっただけ、私の周囲を守る者達のお陰で無事に過ごせていただけだったと、やっと気が付いた。
「あの時私は自分勝手に動き、父上と兄上を心配させ友人を命の危険に晒しただけです。魔力回復薬と日薬草は友人の知識と経験がもたらしてくれた幸いで私の力ではありません」
こうして後悔を口にするのも甘えだと思う、それでもジョバンニ叔父上に尽力などと言われることでは無かったのだと否定しないではいられなかった。
「……あたなは私に良く似ている。こうして自分が後悔してきた道を同じ様にあなたが後悔しているのを見ると、過去の自分の愚かな行いが余計に恥ずかしくなりますね」
「え?」
「私が自分の行いを恥じて悔んでいた時兄上は『誰に言われずとも気付いたのなら、それだけは自分を褒めてやるといい。それはお前の成長だ』と言ってくださいました」
「成長、ですか?」
「ええ、甘えによる失敗が許されるのは子供のうちだけです。勿論失敗しないことが一番ですが、万能ではない人間にそれは無理な話です。失敗を回避出来ない人間であるなら、せめて失敗してした後で、自分の何がどう悪かったのかを考え、次に同じ失敗をしないようにするしかない。何が悪かったのか気が付いていても尚繰り返すのならそれは何も学ばない愚者の行いでしかありません」
同じ失敗をしないように、出来るのだろうか私に。
でも私は変わらなければならない、いつまでも守られるだけの子供ではいられないのだから。
「失敗を失敗だったと認めること、それに気が付くこと、それは自分がほんの少しでも成長していなければ出来ないことです。誰に指摘されても叱られても学ばない人間に成長はありませんからね」
「学び」
「ええ、あなたは王太子殿下と共に次の時代を担う方です。あなた自身が守られるだけはなく、今度はあなたが大切な者達をこの国を守れるように、あなたの成長を私達皆が見守っているのだと覚えていてください」
ジョバンニ叔父上の励ましに、私は何度も頷くことで応えた。
「最愛……」
兄上の最愛と聞いて、それは私だと思ったのは驕りがあり過ぎるだろうか。
でも、兄上は『私はこの幼い弟を心から愛し守るために生まれた』と私に言った。兄弟で生まれたことを神に感謝し『兄の立場なら、お前を生涯愛していてもおかしくない』とも。
だけど、兄上は単純に最愛の私を守る者としてそれを占術師に聞いたのでは無いと思う。
兄上は恐れているのだ、守りの魔方陣からの教え『エマニュエラを自分の妻にし、将来王妃にしなければ守りの魔方陣は消えて無くなり、この国は魔物に呑まれ他国から攻め込まれる』を、自分の選択でその最悪な未来に進んでしまうのではないかと。
「驚かれたと思いますが、きっとその言葉通りでは無いのでしょうね」
言葉を発せずにいる私に、ジョバンニ叔父上は苦笑しながら話を続ける。
「占術師は言ったそうです『心が千々に乱れても血の涙を流しても正しい選択をし最愛を信じ見守り続けよ、大樹がどんな時も旅人を己の枝葉で照り付ける日差しや雨から守る様にあり続けよ』と」
「大樹の様にあり続ける」
大樹の根を守る者だと、私は生まれた時に占術師に言われた。
私は単純に、兄上が王になった時常に傍に居て兄上を支える。そういう存在になるのだと言われているのだと思っていた。
だけど違うのだろうか、もしかすると私は兄上が大樹であり続けるための存在なのだろうか。
「木は自ら動けません、対して旅人は自分の意思で自由にどこにでも行けます。その旅人自身が辛い時心と体を休められる場所が大樹なのだとすれば、王太子殿下が大樹だと言われるのは理解出来ます」
王というものは、望みをすべて叶えられ贅沢な暮らしが出来る人だと思われているかもしれないが、王に自由なんて存在しない。
自分の本心を隠し自分の幸せより国を優先し生き続ける。
どこにも行かず、どこにも行けず、常に国を守るために貴族と民の頂にいてその手で国を守り続ける。
トニエに呑気だと言われるこの国を、皆が呑気に笑って生きられるように、王は何の苦労も知らぬ顔で頂点に立っていなければならない。
どんな脅威からも国を守ると決め、そうする責任があるからだ。
父上が、その身を削って守りの魔方陣を維持しているのもその責任の為だ。
私のような凡人では王の重責を理解したくても、すべてを理解するなんてきっと出来ないだろう。
だが兄上は、責任の重さを幼い頃から理解して父上の後を継ぎ王になりこの国を守るのは自分だと心を決め、国を守るためにエマニュエラを妻に選んだ。
「……兄上は大樹、旅人を……この国の民を強い日差しや雨風から守る大樹」
ぎゅうと拳を握りしめ、俯く。
自分が『大樹の根を守る者』なのだから、兄上がその大樹なのだと分かっていたのに大きな衝撃を受けたような気持ちになるのは自分が不甲斐ないからだ。
なにせ今の私は、兄上に守られているだけの役立たずなのだから。
「私は生まれた時占術師に『大樹の根を守る者』と言われたそうです。それなのに、今の私はその役割を果たせていない」
あまりの情けなさに、ジョバンニ叔父上の目をまともに見ることすら出来なくなる。
「どうしてそう思うのですか」
「ジョバンニ叔父上は、私が兄上に守られるだけの子供だと知っているくせに、なぜそんな意地の悪い言い方をされるのですか」
恨めしくジョバンニ叔父上を見ても、穏やかに笑っているだけなのが私の心を波立たせる。
私は守るどころか守られるだけ、守られるだけならまだしも父上に魔力譲渡をして倒れた時の様な心労を兄上に与えている。
「陛下のお体の為に他国の薬師から薬を買いつけられる様になったのは、第二王子殿下が精一杯尽力されたからこそだと聞いています」
「そんなの、あれは私の力ではなく薬師トニエの力です。私は魔力回復薬に違いがあることも、日薬草の存在も知らなかったのですから」
魔力譲渡だって、私は教えられて安易に使ってしまう程の考えなしなことをしてしまった。
下手をしたら私が命を落としただけでなく、罪のないトニエが私の考えなしな行動のせいで刑に処されていたかもしれないのだから。
今まで、王家の人間は自分の一挙手一投足まで気を配り、安易に発した言葉で周囲を誤解させる等しないように細心の注意を払わなくてはいけないと教えられてきたし、自分でそれは出来ているつもりだった。
だが、それは今まで運が良かっただけ、私の周囲を守る者達のお陰で無事に過ごせていただけだったと、やっと気が付いた。
「あの時私は自分勝手に動き、父上と兄上を心配させ友人を命の危険に晒しただけです。魔力回復薬と日薬草は友人の知識と経験がもたらしてくれた幸いで私の力ではありません」
こうして後悔を口にするのも甘えだと思う、それでもジョバンニ叔父上に尽力などと言われることでは無かったのだと否定しないではいられなかった。
「……あたなは私に良く似ている。こうして自分が後悔してきた道を同じ様にあなたが後悔しているのを見ると、過去の自分の愚かな行いが余計に恥ずかしくなりますね」
「え?」
「私が自分の行いを恥じて悔んでいた時兄上は『誰に言われずとも気付いたのなら、それだけは自分を褒めてやるといい。それはお前の成長だ』と言ってくださいました」
「成長、ですか?」
「ええ、甘えによる失敗が許されるのは子供のうちだけです。勿論失敗しないことが一番ですが、万能ではない人間にそれは無理な話です。失敗を回避出来ない人間であるなら、せめて失敗してした後で、自分の何がどう悪かったのかを考え、次に同じ失敗をしないようにするしかない。何が悪かったのか気が付いていても尚繰り返すのならそれは何も学ばない愚者の行いでしかありません」
同じ失敗をしないように、出来るのだろうか私に。
でも私は変わらなければならない、いつまでも守られるだけの子供ではいられないのだから。
「失敗を失敗だったと認めること、それに気が付くこと、それは自分がほんの少しでも成長していなければ出来ないことです。誰に指摘されても叱られても学ばない人間に成長はありませんからね」
「学び」
「ええ、あなたは王太子殿下と共に次の時代を担う方です。あなた自身が守られるだけはなく、今度はあなたが大切な者達をこの国を守れるように、あなたの成長を私達皆が見守っているのだと覚えていてください」
ジョバンニ叔父上の励ましに、私は何度も頷くことで応えた。
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