【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

兄の寵愛弟の思惑97

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「トニエ様は薬師の腕だけでなく剣術の腕もある。国に帰すのは惜しい存在ですね」

 トニエ達と別れ教室に向かい歩く途中でニモが囁く様に話す、それにうっかり頷きそうになり首を横に振る。

「あれ家を継ぐ立場にあり家のため知識を増やそうと来ているに過ぎないのだから、帰るのは当然のこと。あの才能が惜しいと思うより、エベラルド達の様に己の強さの糧としようとする者が増える方が私は嬉しい」

 トニエの良さは、薬師としての才や剣術の腕だけではない。
 彼と話しているのは、向こうはどう思っているか分からないが私は楽しい。
 下位貴族家の息子という立場を守る為遜っているのは気になるが、それは仕方のないことで、遜りながらそれでも自分の考えを曲げられないところはしっかりと自分の意見を口にする。
 私のすべてを肯定し、良い事も悪いことも否定しない者が多い中で彼のそういうところはとても好ましく私の目に映る。

「フランコ、君も彼と打ち合ってみたいと思うか?」
「はい、彼の剣は彼が言う通りとても泥臭い。悪く言えば洗練されていませんが、そこが良いと感じます。騎士の剣はどうしても型を重視しますし、授業で教えている剣も同じです。私達の剣は人を相手にすることを想定しているものです。でも、彼の剣は人より魔物向けなのでしょう。私とて王宮の森に何度も入り魔物を相手に戦ってきましたが彼はもっともっと多くの魔物を狩って来たのだと分かります。あの者と戦って勝てるかどうか、即答は出来かねますが機会があるなら是非戦ってみたい」

 寡黙なフランコがこれだけ話すのは珍しい、それだけトニエの剣への興味が強いのだろう。
 私の護衛は、兄上が選んだ者ばかりで、フランコもロイも騎士団の中で上位の実力者だ。トニエとフランコが本気で打ち合ったらどちらが勝つのだろう。
 フランコやロイはたまに私の剣の稽古に付き合ってくれるが、私の腕が拙いこともあり彼らは本気で私とやりあったりはしない。
 マーニ先生が見本として彼らと打ち合うのを見ている時も、多分両者とも本気ではないのだろうと思う。なんというか余裕が見えるのだ。

「いつか機会があればな」
「はい、その時は勝利を殿下に捧げます」
「……そうか、楽しみにしている」

 ロイとフランコは、私が公爵家を興してからも私の護衛として傍にいると決めているらしい。
 私が王子宮を去る時、王宮に残る者も多いが私について来る者も多い。
 彼らは今からその為の準備をしている、公爵家を新たに興すのは久し振りのことだから入念な準備が必要になるのだとレモが力説し王都の屋敷と私が治める領地の屋敷、それぞれを整えている。
 卒業しボナクララと結婚し公爵家を興す。言葉にするのは簡単だが、私にその才があるのか不安になる。
 ジョバンニ叔父上が言っていた私の五歳と七歳の時の占術の結果を思い出すと、不安はどんどん募っていく。
 私は早く大人にならなければ、兄上の片腕になるとか公爵家の当主とか領主とか、不安だなんて言っていられないと分かっているのに、恐怖に体が震えそうになる。

 父上は五歳の祝いの時、私が幸せになる方法を聞いたという。
 私だけでなく、五歳の祝いの時は兄弟皆同じことを聞いているのだそうだが、それはエマニュエラが生まれたのが理由だったという。
 王家の言い伝え『王の血筋に乱れが起きた後、災いの子が生まれ乙女は魔に喰われ、聖なる乙女は光と闇を一つにして新たな時代が始まる』で言われている災いの子は、エマニュエラのことだと父上達は考えていた。
 だとしたら聖なる乙女はボナクララなのかもしれないとも、その時考えていたのだそうだ。
 エマニュエラをどうしても王妃にしなければならないのであれば、エマニュエラと結婚した兄上が王位を継ぎ、数年で退位しその後を私が引き継ぐか、エマニュエラを健康上の理由で表向き廃妃にして、ボナクララと兄上が夫婦になる。という案もあったのだそうだ。
 父上は私の五歳の祝いの占いを、私の誕生日よりだいぶ早い時期に占術師に依頼した。
 それは、婚約者候補を決める為の顔合わせの前に私の未来を確認する為だった。
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