【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

兄の寵愛弟の思惑100

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「そうなのですか? サデウス家でも何着か仕立てていますけれど足りないでしょうか」
 
 私の言葉を受けて、ボナクララが少し驚いた様子を見せた後小さな扇を開き口元を隠す。
 普段冷静なボナクララが、私の前でだけ油断を見せ感情を出してくれるのが実は密かに嬉しい。

「昨日何着か追加しましたし、今年の社交の時期は間に合うかと考えていましたわ」

 ボナクララが言う様に、昨日追加した分を含めると今回二十着程のドレスを仕立てることになるから私も不足はないだろうと考えていた。
 まだ成人していない私達はそもそも夜会に出る事が少ない、今までは叔母上と侍女任せでドレスを仕立てていただろうからどれだけドレスが必要になるかなんて、ボナクララにも未知の話だろう。
 でもドレスの追加注文について母上に話すと、母上は「陛下も同じ様に追加されていましたわね」と懐かしそうに侍女達と話しながら、ドレスはもっと仕立てなければならないから、それが早まっただけだと言ってくれたのは嘘ではない。
 母上の反応を見ると、ボナクララの婚約披露分の衣装費用の多さの理由も分かるというものだ。

「うん、婚約をした後は夜会も茶会も招待が増えるだろうからね。兄上達の方が多いだろうけれど、私達もすでに何件か招待が来ているだろう?」
「ええ、お茶会と夜会どちらも数件招待が来ています。でも仕立て直しをすればいいと母は言っていましたが」

 トニエの母国の上位貴族は一度着たドレスは二度と着ないらしいが、この国の貴族はあまりその辺り気にしない。
 毎回新しいドレスを作る家もあるが、宝石やレース等を付け替えて着る者もいれば、そのまま数度着る者も大勢いるし、姉妹や従姉妹で貸し借りをすることもある。気にったドレスを貸し借りすることは仲が良い証と言われている程だ。
 そうやって何度か着たドレスは、寄り親から寄子、自分付の侍女やメイドに下げ渡すようだ。
 ちなみにトニエにそれを話したら、目を丸くして「私の国で姉妹同士でドレスの貸し借り等したら、どれだけ困窮しているのかと後ろ指さされます」と驚いていた。国が違うと考え方も違うものだと思う。

「今後そうすることもあるかもしれないけれど、それをするにも元のドレスが無いと出来ないからね」

 今回仕立てるドレスはどれも成人した女性向けの意匠にしているから、出来上がるドレスは今までボナクララが着ていたドレスより少し大人っぽい印象になると思う。
 一度そういう物を着始めたら、今までのドレスは公の場で着られなくなる。そういう意味でも足りないのだと母上に言われて、考えが浅かったと気が付いた。

「そう言って頂けるのはとても嬉しいですが、私の分だけでなくエマニュエラのドレスもありますのに、いいのでしょうか」
「王太子妃用、王子妃用それぞれ予算が組まれているから気にすることではないよ。ね、レモ」
「はい。特に今回は婚約披露用に別に予算が組まれております。実はまだ衣装費の半分も使われておりませんのでもう少しお使い頂きませんと、今後第三王子殿下、第四王子殿下の婚約の際に困った基準が出来てしまうかと」
「それは、つまり私達が使わな過ぎてウーゴ達の時に予算が減らされる?」

 そこまでは考えが及ばなかったと驚くと、レモは真剣な顔で頷く。

「はい。皆様お相手は公爵家の方ですから条件は同じになります。第二王子殿下の場合新しく公爵家を興すこともあり、各予算を少々多めに見積もってございますが、あまりにもお使いになる額が少ないと悪い見本になるやもしれません」
「レモ」
「大変申し訳ございません。少々口が過ぎました」

 謝罪しながらレモは本気で悪いとは思っていなさそうで、軽く睨む。
 私の言動を全て肯定する者は多いが、レモの様に私の足りない部分を指摘してくれる者は僅かだ。
 時々口が過ぎるが、それも私が許す範囲を超えることはないから、睨む程度で終わる。

「予算の使い過ぎは問題外だが、使わな過ぎは問題か。とはいえ不足……ああそうだボナクララ、母上に相談してみてはどうだろう」
「お義母様に?」

 母上は昔からボナクララを可愛がってくれているし、これ以上の相談相手はいないだろう。それに母上もエマニュエラと離れて過ごすのは良い気晴らしになると思う。
 ボナクララとエマニュエラが鉢合わせしないように何とか工夫して、ボナクララと母上と私の三人で会えるようにすればいい。
 
「母上はボナクララのドレスの準備はどの程度進んでいるのかと、とても心配されていたんだ。だからその報告と相談を兼ねて数日後、私の宮で母上と三人でお茶会を開きたいと思うのだがどうかな」

 母上は忙しいからこちらで日程は決められないが、短い時間なら来て頂けるかもしれない。

「まあ、お義母様と三人で! 私沢山お話したいことがございますの。とても嬉しいです。それにこれから何を追加したらいいかご相談出来るのはとても心強いですわ」
「それなら良かった。レモ、母上にお話してご都合の良い日を伺って来て欲しいが頼めるか?」
「畏まりました、では早急に」

 そう言うとレモは、フランコに何事か囁いてから部屋を出ていく。
 レモに頼めば、エマニュエラに気付かれない様に母上に確認してくるだろう。
 
「デルロイ様、エマニュエラはお義母様に迷惑を掛けていないでしょうか」
「……大丈夫だと思うよ」

 使用人達はともかく、母上には大きな迷惑は掛けていないと思う、とは言えずに苦笑しつつ答える。
 
「婚約披露に向けてエマニュエラのドレスの用意をしているのが母上だから、そういう意味ではお疲れかもしれないけれどね」
「疲れ? エマニュエラが何か」
「王太子の婚約者は代々受け継いでいる装飾品があるから、ドレスもそれに合わせて作らないといけないのだけど、どうもエマニュエラの好みでは無いらしくて作り直すと母上に抗議していてね」

 王太子妃が、公の場で必ず身に着ける装飾品がある。
 首飾り、耳飾り、腕輪の三点だが、それは魔道具であの装飾品自体が守りの魔方陣と繋がっているらしく、皇女がそれを作ったと言われているものだ。

「確かに古いものだから今の流行りとは違うけれど、だからといって気軽に作り直せるものでも無いから、納得しないエマニュエラに兄上がお怒りなんだ」
「なんてこと」

 身を飾ることに強い拘りがあるエマニュエラには、代々受け継ぐものだと言っても気に入らないの一言で拒絶してしまった。
 だが、王家に嫁ぐ意味を理解していないと兄上は激怒したのだ。
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