【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

兄の寵愛弟の思惑103

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「まあボナクララ、お茶会用夜会用どちらも五着は追加しなければいけないわ。あなた達はまだ成人前だから夜会よりお茶会の招待の方が増えるかもしれないから、お茶会用のドレスの方はいっそ十着程増やした方がいいかもしれないわね。あら、何かしら騒がしいわね」

 ボナクララとマーニ先生の教務室で話をしてから数日後、母上を私の宮に招いてボナクララと三人でお茶を頂いていると、慌ただしくレモが部屋の中に入って来た。
 今日の集まりは母上とボナクララに招待状を出し三人でのお茶会としているが、それを知らない兄上が私の宮を訪ねて来てお茶会に参加する予定になっている。
 兄上が先触れなしに私の宮にふらりと現れるのは珍しくないから、この企みは不自然ではない。
 兄上に招待状を送り、現在王宮に暮らしているエマニュエラに送らないのは支障があるから母上の提案でこの様な形になった。
 ボナクララには兄上も参加する事は伝えていない、私の宮の使用人や母上の連れている侍女を疑うわけではないが兄上の姿を見た時にボナクララが驚く様子を彼らに見せた方がいいと考えたのだ。

「どうしたレモ」
「あの、それがサデウス……エマニュエラ・サデウス様がいらっしゃいました」

 レモにも兄上のことは伝えていなかったけれど、彼が戸惑った様子で口にしたのは兄上ではなくエマニュエラの名前だった。

「え、エマニュエラ? あの子が何故。デルロイ、彼女が今までこの宮に来たことはあるの?」
「幼い頃も含めて初めてですね。レモ、何か聞いている?」
「それが……」

 レモは母上とボナクララの方にちらりと視線を向けた後、「手違いで招待状が届かなかった様だと」と言い難そうに口にする。

「手違いもなにも、デルロイがエマニュエラを呼ぶ理由が無いというのに」
「母上」
「来てしまったものは仕方がないわね。デルロイ、いいかしら?」

 母上を招待したのは私でも、ここで一番位が高いのは王妃である母上だから私に決定権はないのだが……と思いながら「仕方ありませんね」と頷く。

「それではすぐに茶器の用意を……」
「まだそれはしなくていいわ。レモ、エマニュエラをここに」

 レモが部屋を出てすぐ、私が部屋の中に控えていたメイドに指示を出そうとするのを、母上が扇を指しながら止める。

「母上?」

 招かれざる客とはいえ、追い返さないのならば部屋に来る前にもてなしの準備はしなければならないというのに、なぜ止めるのか分からない。

「最初から三人だけだったと、分からせないとね」

 これから兄上が来る予定なのを、母上は勿論知っている。
 兄上用の茶器は用意していないし、テーブルの上に載っている菓子も兄上の好みのものは置いていない。あくまでも兄上は偶然に私の宮に来て、丁度お茶会をしていた私達に合流したということにしていたから、兄上の好みだと分かるものは出していないのだ。

「失礼いたします。エマニュエラ・サデウス様がいらっしゃいました」

 扉を開きレモがそう告げると、強い香水の匂いが私のところに漂ってきた。
 母上も気が付いたのだろう、不愉快そうに扇を顔の前に開きながらうんざりした様に息を吐く。その様子に私が思っているよりも母上はエマニュエラを疎ましく思っているのだと気が付いた。

「エマニュエラ、あなたが私の宮まで足を運ぶのは珍しいね」

 令嬢のする表情ではないが、エマニュエラは眉間に深く皺を刻みながら部屋の中を見渡している。
 エマニュエラが着ているドレスは辛うじて昼間用に見えるが、目が痛くなりそうな程派手なものだし胸元が大きく開いている。王宮で日頃使っている仕立て人もサデウス家で使っている者達もおかしな趣味はしていなかった筈だが、どうやったらこんな下品な物を仕立てられるのだろう。
 今までエマニュエラが王宮に来る時、こんなドレスを着ていたことがあっただろうかと記憶を探るけれどその覚えはないから、サデウス家の中で着ていたものなのかもしれない。

「私は優しさから手違いで招待状が届かないのだと言っているというのに。これはボナクララの嫌がらせですの?」

 なぜこれがボナクララの嫌がらせになるのか、エマニュエラの思考が良く分からない。

「なぜボナクララの名前が出て来るのか分からないな。今日は婚約披露の準備についてボナクララと共に報告したくて母上をお招きしただけのこと……っ!」

 部屋の入口に立ったままのエマニュエラにそう言った途端、エマニュエラがバンッと扇を扉に叩きつけるものだからあまりの暴挙に唖然としてしまう。

「私に恥をかかせるおつもりですか」
「恥? 招かれてもいないのにやってきてその様な振る舞いを見せるのは恥ではないの。エマニュエラ」

 呆れたように言う母上にエマニュエラは「私は邪魔だということですか。王妃殿下のお気持ちは良く理解しました。失礼します。邪魔よどきなさい」と捨て台詞を吐くと、扉を抑えながら立っていたレモを押しのけ足音も高く去って行った。

「レモ、怪我はないか。ロイ、エマニュエラを送る必要はないが、宮を出るまで目を離さない様に」

 エマニュエラに押しのけられてヨロヨロと床に倒れ込んだレモに近付き声を掛けながら手を差し伸べロイに指示をだすと、レモは「お手をお借りするなど恐れ多い」と言いながら一人で立ち上がり、ロイがエマニュエラの後を追いかける。

「無様な姿を晒してしまい申し訳ございません。王妃殿下、サデウス様お詫び申し上げます」

 立ち上がってすぐ母上達に詫びを告げるレモを見ながら、エマニュエラが去っていくのを横目で見送る。
 エマニュエラは供も無く一人で歩いて行く、ロイはエマニュエラに追いつかない程度の歩みで歩いて行く。
 本人がいないのに強く残る香水の匂いに、私は軽い眩暈を感じ始めていた。
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