【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

兄の寵愛弟の思惑102

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「あの時が最初ではなく何度も注意を受けていたけれど、エマニュエラは行動を改めなかったのだと少し大きくなってから兄に聞きました」
「そう」
「兄はその時父達がエマニュエラを甘やかすから反省しないのだと言いましたが、私には本当に甘やかしていたようには見えませんでした」

 かなり幼い頃からエマニュエラは、今の彼女と変わらない行いをしていたのだと聞き、成長過程で歪んだのでは無かったのかと考えていると、ボナクララが不思議なことを言い始めた。

「甘やかしていたのではない?」
「ええ、当時エマニュエラだけを特別に甘やかしてはいなかったと私は思っていました。兄のことは家を継ぐのだからと厳しくしていました。私達は外に出る、どちらも王家に嫁ぐ可能性があるのだからと両親は、王家の方は貴族の頂点に立つ方なのだから、その方に相応しくならなければいけないのだと躾けられてきました」
「エマニュエラも?」
「はい。私よりもエマニュエラの方に厳しく……いいえ、あれはもしかしたら厳しいのとは違っていたのかもしれません。両親、特に父は『王や王妃はただ権力を持つのではない。彼の方々はその地位に相応しく自分を律し貴族や民を慈しみ守ろうとするからこそ人は敬うのだ』と常々エマニュエラに話していました。それだけでなく、父はシード神の教えを私達に話し、清い心、善の心を持たなくてはならないと」

 ボナクララが話すジョバンニ叔父上の行動は、占術師がエマニュエラに向けて言った占術を気にしてのことなのだろう。
 エマニュエラが生まれた時の占術結果は『すべての欲を抑え善の心を育てよ』、五歳の時は『心に魔が巣くっている内は変われない』、七歳の時は『神の声は心を閉ざした者には届かない』だったとジョバンニ叔父上は私に話してくれた。
 自分を律し、貴族や民を慈しみ守る様にエマニュエラに教え、シード神の教えを話すことで、ジョバンニ叔父上はエマニュエラの善の心を育てようとしたのだろう。
 だが、生まれた時から五歳までの間に善の心は育たず、だから五歳で心に魔が巣くっている内は変わらないと言われ、きっと叔父上達は二年の間エマニュエラの心から魔を遠ざけようとして、でも心を閉ざしているエマニュエラに神の声は届かないと、占術師は叔父上達に告げたのだ。

「デルロイ様?」
「ジョバンニ叔父上もクロティルデ叔母上も、エマニュエラに正しい道を示そうとしていたんだね」

 ジョバンニ叔父上は、クロティルデ叔母上がボナクララに向ける以上の愛情をエマニュエラに向けていると言っていた。
 二人はとても仲が良く互いを想い合っている、それをエマニュエラの母は自分の気持ちだけを優先しジョバンニ叔父上に媚薬を盛りエマニュエラを授かった。
 ジョバンニ叔父上への恋慕からではなく、未来の王妃に選ばれなかった腹いせから、ジョバンニ叔父上を襲い守りの魔法陣を書き変えた。それはとても許せるものではない。
 ジョバンニ叔父上の妻、クロティルデ叔母上の憤りは私の想像を超えているかもしれない。
 それでもエマニュエラに憎しみを向けることなく、母として愛情を込めて育て来たというのにエマニュエラは占術師の占い『神の声は心を閉ざした者には届かない』の通り、誰の言葉にも頑なに耳を向けず傲慢を絵に描いた様に好き勝手に生きている。

「ええ、父は私達を神官にしたいのかと思う程、シード神の教えを頻繁に私達に話しました。屋敷にある神殿にも頻繁に通い祈りを捧げる様にと」
「頻繁に」
「ええ、私従姉妹達に聞くまでどの家でも同じくシード神の教えを学んでいるのだと考えていましたが、そうではないと知った時はとても驚きましたもの」

 神殿で祈りを捧げるのは、王家の場合は年明けの日、月の初め、誕生日等だ。父上はその他に穢れを払う為とたまに祈りを捧げ大神官から清めを受けている。

「驚く程?」
「ええ、幼い頃は父の時間が許せばほぼ毎朝、でもエマニュエラは早く起きるのが苦手で泣いて嫌がっていました。嫌がるエマニュエラを父が抱いて神殿に連れて行き、私と兄は母に手を引かれて」
「ほぼ毎朝?」

 それは頻繁といえる頻度を超えている。

「それは今も?」
「はい。エマニュエラは意味がないと最近は父が何を言っても起きて来なくなりましたが、私と兄はもはや習慣になってしまいましたので、神殿に向かう時間は異なっていても通っておりますね」

 それはまさに、『神の声は心を閉ざした者には届かない』だ。
 ジョバンニ叔父上の心もエマニュエラには届かなかったのだろう、エマニュエラの心に魔は巣くったまま、心は閉ざされ神の声は彼女に届かなくなった。

「叔母上はどう感じているのだろうね」
「エマニュエラについて、母は何か不安を感じているのだと思います」
「不安?」
「はい、今までエマニュエラは物にあたり大声をあげ使用人達に手を上げて、私のものを奪ってもそれだけでした」

 それだけとボナクララは言うが、十分酷い話だと思う。

「私を傷つけることは今までありませんでした。ですから先日油断してしまったのです」
「でも、ボナクララの頬を傷つけた」
「はい。それに母にも酷い言葉を吐く様になりました。自分の立場は上になったのだからもう遠慮はしないと」
「上になった? 兄上の婚約者になり準王族となったから?」
「ええ、だから王弟の父はともかく母は自分より立場が下だと」

 それを聞いて頭を抱えそうになる。
 ただの婚約者でそうなっているなら、正式に兄上と結婚し王太子妃となったらどうなってしまうのか。
 今の段階で、ボナクララを平気で、理由も無しに傷つけているというのに、これから先どうなるのか。

「私も不安です。父と兄は私の護衛を増やすため動いている様ですが、とても不安で私……」

 その不安がボナクララを顔色が悪くなる程追いつめていたのだと、私は遅まきながら気が付いたのだった。
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