悪役令嬢の婚約者に転生しました

木嶋うめ香

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魔法を使うのって、難しいらしい。

「彼は魔力量が少ないのではなく、あるのに使えないのですか」

 ゲームの設定では、魔力が少ないから初級魔法しか使えないとかじゃなかったっけ?
 疑問に思って先生に尋ねると、首を横に振った後頭を掻きながら説明を始めた。

「そうですね。殿下を基準にした場合は、低いと言っても差し支えないかもしれません。ですが、宮廷魔法使いとして働ける程度の魔力量はある筈ですよ」

 個人情報。と思わなくもないが、この世界にそんなものを気にしている人はいない。
 おまけに俺の立場なら相手も油断して話してしまうのだろうから、遠慮せずに聞く。

「それでも使えないのですか」

 たしかに魔力量が多い筈のエバーナも、魔法が上手く使えない。
 そのせいで、ゲームではエルネクトに失望されていくのだ。
 でも、出会った時に自分は魔法が上手く使えないという話を、エルネクトにしているのに勝手に期待して勝手に失望しているエルネクトの方が悪いと思う。
 だって、ゲームのエバーナもヒロインが気がつくレベルで努力していたのだ。
 でも、そのエピソードは頑張ったのに結局魔法が使えないエバーナを、優しいヒロインが慰めてエバーナに逆恨みされるという話だった。
 婚約者を奪おうとしているヒロインに、コンプレックス刺激されたあげくに慰められて、ありがとうと思える人間っていたら逆に凄いと思う。というか、その状況でエバーナを慰めるヒロインって、優しいと言うより相手の気持ちが分ってないか、気持ちを逆なでしたかったんじゃないかと邪推したくなるんだけど、これって俺がエバーナを贔屓してるだけだろうか。

「彼のお父上は魔法使い長です。彼は幼い頃から訓練をされている様ですが、小さな炎を出すのが精一杯のようです」
「小さな炎、この位ですか」

 炎なら詠唱なんか無くても出せる。
 というか、姉ちゃんの夢を見てから俺はどんな魔法でも無詠唱で使える様になった。
 そんな能力無いって分ってるけれど、姉ちゃんが何かしたんじゃないか? なんて思う。
 あの例のメモはいつの間にか、姉ちゃんの文字が増えてたし。ゲームの設定だけじゃなく、俺が好きだったお菓子とか料理のレシピまで追加されてたし。あれこそ魔法だ。というか、奇跡だ。

「殿下は息をする様に簡単に炎を出されますが、普通はその程度の炎でも詠唱は必須です。最低限『小さな炎を我の指先に』これくらいは必要です」
「そうでしたね」

 そうだったっけ? 俺は、というか俺も兄上もフロレシアも、炎は昔から無詠唱だった様な覚えがあるんだけど。
 いや、詠唱が必要って思い込みなんじゃないのか?
 まあ、その検証は後日一人でやってみよう。

「でも、クリスティーノ・シャイネンの場合は『小さな炎、赤く燃えるその火を我の指先に点せ。そしてその火を維持せよ。灯火』と正式な詠唱を唱えなければなりません」

 そんな長い詠唱だったのか。
 俺、知らなかったかも。こんな初歩的な詠唱がもし試験で出たら答えられないかもしれないな。

「どうかされましたか」
「いえ、普段詠唱を必要としない魔法が試験に出たら、答えられないなと」

 俺が素直に答えると、先生は「出るかもしれませんが、無詠唱出来る方に詠唱を覚えろとは言えないですね」と苦笑いした。

「クリスティーノ・シャイネンは魔法は使えないと思っていた方がいいのでしょうか」
「彼の場合は難しいかもしれませんね。幼学校の内は初級程度すら出来ずにいた子が貴族学校で開花した例はいくらでもありますが、彼の場合はちょっと」
「先生は無理だと考えていると」

 クリスティーノ・シャイネンは、魔法が使えない為に父親へコンプレックスを持っている。
 それが同じ様に魔法が使えないエバーナを嫌う理由になり、平民なのに光魔法の使い手であるヒロインに惹かれる理由だ。
 クリスティーノ・シャイネンルートでも、エバーナが出てくるんだよなあ。断罪はされなかった筈だけど、でも登場して皆に嫌われているし、婚約者とも仲が悪い事になっている。

「これは私の考えで、他の人は同じには思っていないかもしれませんが、初級程度が使えるなら後は成長に伴って魔力が増える事と、魔法を繰り返し使う事で体が効率的な魔力の使い方を覚え、次第に強い魔法が使えるようになると思うのです。初級と中級では消費する魔力量が違いますから、子供の魔力量では足りない場合もありますし」
「でも彼はすでに宮廷魔法使いとして働ける程度の魔力量があるのですね」
「そうです。ですから彼の場合は魔力が足りないのではなく、魔力を魔法に上手く変換出来ていないのだと思うのです」

 それは多分エバーナも同じだろう。
 彼女は俺が腕輪に込めた魔力を感じる事は出来るみたいだから、訓練次第でなんとかなる筈だ。

「魔力量を測定する水晶は、魔法を使う為に変換した魔力を測定しているわけではないのですね」
「あれは、単純に体内にある魔力を測定しているだけです。水晶に触れる事で体内に流れる魔力を感知します。そうでなければ、子供を測定出来ませんから」
「そうですね。赤ん坊を神殿で測定する時も同じですか」

 一般的には、生まれて一ヶ月程になると神殿で魔力を測定する。
 神様に無事に生まれ、育った事を感謝しに行くのが主だが、今は形式だけで神殿に前世でいうところの戸籍を届けに行くのだ。そのついでに魔力測定を行いそれも神殿が記録するのだ。

「赤ん坊の場合は、大人しく水晶に触れられている赤ん坊は同じように測定できますが、抱っこされて手を大人に添えられている子は正式な測定は出来ません」
「どうしてですか」
「魔力は多い少ないの差はあっても、すべての人にあります。赤ん坊が大人に抱っこされたままだと大人の魔力量が影響してしまう様です。理由は分かりませんが」
「なるほど。勉強になります」

 これで何となく答え合わせが出来た感じかな。
 あぁ、最後にもうひとつ。

「先生はご両親か乳母のどちらかで魔法が使える人がいましたか?」
「母は弱いものでしたら使えますし、乳母は私よりも魔力があった様ですね。私の乳兄弟は神殿で今回復師として働いていますから、家系的にはそれなりに魔法が使える血筋なのかもしれませんが、何か」

 答えながらも、不思議そうな顔をしている。
 まあそうなるよね。

「いえ、先生が神殿で魔力測定をした時はどうだったののか、気になったもので」
「そうでしたか。測定に付き添ったのは母だと聞いています」
「なるほど。ちなみに先生は彼が魔法が使えない理由はなんだとお考えですか、何か解決策はありますか」
「解決策は、多分魔力の放出を自然に行えることかと考えております。幼学校に入学し、魔法実技で最初に学んだ時の事を覚えていらっしゃいますか」
「確か魔道具に灯りをつけた」

 あれは幼児の頃におもちゃとして遊んでいた物だったから、授業で教材として出て来て驚いた覚えがある。

「はい。あれは魔力を注ぐ事で発動するように作られており、魔力を注ぐのを止めると灯りも消えます。彼は未だにあれを使いこなせません。灯りがついてもすぐに消えてしまうのです。最初の頃は一人だけいつも授業であれと格闘していました。今も時々やっている様ですが、上手くはいっていないようです」

 なんだか気の毒な話だ。
 彼みたいな人が、おもちゃみたいな魔道具が使えずにいるなんて。

「彼は諦めていないのですね」
「そうですね。諦められないでしようね。魔力が少ない私だって未だに諦められないでいるのですから、彼は更にでしょう」

 エバーナと多分同じ理由だと思うけど、彼の環境が分からない。
 彼の父親は宮廷魔法使い長だから、魔力は多い筈だし、母親はどうなのかな。
 解決出来るなら、なんとかしてあげたいけれど。

「彼の母親も魔力は強いのですか?」

 確か魔法使いではなかった筈。
 あまり貴族達のそういうのは気にしてなかったから、覚えていない。兄上なら当たり前に記憶しているだろう事だ。これからは知らない、興味がないではすまされないな。

「母親は確か彼を生んで亡くなっていた筈ですが、確か宮廷魔法使いだったかと。彼の弟の母親は後妻ですが、あちらはどうか分かりません」

 亡くなっているのか。
 その辺りが問題だったのかな。

 兎に角、彼と一度話をしてみよう。
 それからだ。

「先生ありがとうございます。そろそろ失礼します」

 次の授業は歴史だったかな。
 授業受けながら、彼とどう話すか考えをまとめるか。
 歴史の先生に失礼な事を企みながら、俺は教室へと急ぐのだった。

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