侯爵令嬢の婚約の行方~妖精の様だと言われる可愛い妹と素直になれない私~(旧、やって出来ないこともある)

木嶋うめ香

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お母様の教え4

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「王家の者は誰もが、私に聖女の力が芽生えると信じていたわ。期待したのではなく、当然あるものだと確信していたのよ」

 お母様の髪色と瞳の色が、お母様の祖国の聖女の特徴だとすれば誰もがそう考えていたのは納得できます。
 
「けれど私が何歳になっても聖女の力は発現しなかったわ。そしてかすり傷すら治せない私が、一番初めに覚えたのは火球の魔法だったの。その時の私の絶望があなたに想像できるかしら」

 魔物を狩る時以外は、いつもおっとりとした貴婦人の微笑みを浮かべているお母様は、今にも泣きだしそうな顔で私を見つめています。
 不謹慎な感想ですが、私はお母様も普通の女性だったのだとそう感じました。
 私にとってお母様は、すべてを持っている人でした。
 強くて賢いだけでなく、妖精の国の姫の様に儚げな美しさを持ち皆の手本となるような美しい所作で魅了する人でもあり、私の憧れで目標でした。
 私がどれだけ努力しても手が届かないそんな存在だったお母様を、今私は生まれて初めて身近に感じたのかもしれません。

「そう感じるまでの経緯は分かります。でも、お母様の絶望を本当の意味で私が理解出来ているかどうかは自信がありません」
「あなたはそうでしょうね。挫折した経験がないものね」

 お母様にそう言われて、そうではないと首を横に振りました。
 挫折ではなく、望んでも手に入らない。そういう経験なら私にもあります。

「私は運よく挫折した経験は無かったのかもしれません。そもそも挫折しようがなかったとも言えます。私が心から望んでいたことは、最初からどうやっても手に入らないと分かっていましたから。期待する前に諦めていたのです」

 私は勉強が出来ましたし、攻撃魔法もすぐに覚えられました。
 それは努力でどうにかなることだったから、出来たことです。侯爵家の長女として生まれた私には、素晴らしい教育を受けられる環境が整っていました。

「諦め? あなたが? カレンと違ってあなたはどんなことでも難なく身に着けてきたし、人よりも秀でていたではありませんか」

 珍しく驚いたような表情を浮かべてお母様は私に言いますが、そうではないのだともう一度首を横に振ります。

「私が欲しかったものは、最初から私に無かったものです」
「最初から無かった?」

 そこまで言っても、お母様には見当もつかないらしく私をただ見つめているだけです。
 そんな姿すら美しいのですから、本当に私の母親なのか疑いたくなってしまいます。

「恥ずかしい話ですが、私はずっとお母様やカレンの様な見た目になりたかったのです。お母様にはお分かりにならないでしょうね。同じ姉妹なのに妹だけ愛らしいと褒められる、その隣に立つあなたは賢い子ね。出来が良い跡継ぎがいてこの家は安泰ねと言われるだけ」

 それの何が問題なのか、分からないという顔でお母様はただ私の話を聞いています。

「綺麗なお母様には理解できないかもしれませんが、未来の当主なのだから顔の造作など関係ない、領地を治められるだけの賢さと、魔物から領民を守れるだけの強さがあればそれでいいのだと、そう慰められる惨めさを私は何度も味わってきました」

 両親にもカレンにも、ここまで自分の卑屈な思いを吐露したことは今までありませんでした。
 私の心が卑屈なのは、この見た目に理由があるのだと、そう告白したのと同じです。

「年が近い姉妹だったから、お母様は私達が幼い頃お揃いのドレスを何度か仕立ててくださいましたね。でも私は自ら揃いのドレスは着たくないと、好みではないからと拒絶した。その本当の理由をご存じでしたか?」
「あなたの好みでは無かったから、あの時ジョーシーはそう言ったわ。あなたは昔から大人っぽいドレスを好んでいたものね」

 本心からそう言っている様子のお母様に、私は苦い思いで頷きました。
 好みでは無い、だから自分で意匠を決めさせて欲しいと確かに私は言いました。自分の心を隠して、当時の好みとは違ったものが好きだと言い張ったのです。

「それは、カレンと揃いのドレスを作らせないための言い訳です」
「揃いのドレスを作らせないため?」
「お母様、いくら姉妹でもカレンと私の見た目は全く違います。髪の色も目の色も」

 金髪で緑色の瞳の私は、少し目元が吊り上がったキツイ顔をしていますしこの国の女性の標準的な身長と体格をしています。対して少し桃色にも見える様な不思議な色が入った金髪と紫の瞳をしたカレンは、お母様とよく似た優しく綺麗な顔をしていますし、とても華奢な体をしているのです。
 これだけ見た目が違う二人が、揃いのドレスを着ても似合うわけがありません。
 私は美しいお母様の様になりたかったし、大人になればそうなれると信じていた時もありました。
 でも、妹のカレンを見てそれは違うと気が付いたのです。
 勉強も魔法も努力すれば身に付きました、美しい所作もそうです。
 でも、妖精の様な美しい姿はどう頑張っても無理でした、守ってあげたくなるような華奢な体も儚げな見た目も私には遠い遠いものだったのです。
 だから手の届かないのもは早々に諦めて、自分はそんなもの望んでいない振りをするようになったのです。
 勉強と魔法の訓練に明け暮れ、賢く凛々しい貴族女性になれるように努力し始めたのです。

「花びらの様な裾の淡い色のドレス、細いリボンや繊細なレースを使ったドレス、とても綺麗で儚げで夢の様に綺麗なドレスに憧れない女の子なんていませんわ。私だって本当はそういうドレスが好きでした」

 でも、似合うものと好きなものは違うのです。
 幼い頃から、愛らしいというより凛々しい顔立ちだと言われていた私に妖精のために作られたような儚く美しいドレスは、どう頑張っても私には似合わなかったのです。

「ただでさえカレンの愛らしい顔立ちと私のは違うと言われていたのに、同じドレスを着てさらにカレンと比べられるのは耐えられませんでした。お母様にも仕立て人にもその意図は無くても、私は自分がカレンの引き立て役にしか思えませんでした」
「なんてことを、あなたはそんな風に感じていたの?」

 本当に、たった今知ったのでしょう。
 だとしたら幼かったころの私の悲しい努力は、今報われたのかもしれません。
 だって、当時誰にも私の卑屈な思いに気が付いて欲しくなかったのですから。

「私自身、それが似合っていると思えるなら別でしたが、借り物を着ているように私ですら感じていたのですから、どんなに素敵なドレスを着せられていたとしても、皆の前で泣かないでいるのが私の精一杯だったのです」
「そんな、あなたも似合っていたし、借り物だなんて、そんなこと無かったわ」

 それは私が本当はあのドレスを着られることが嬉しかったことを、お母様が察していたから。そう見えていただけなのでしょう。
 でも、私があのドレスが着られて嬉しいと思うのは、自分の部屋を出て同じドレスを着たカレンを見るまでのことでした。
 着付けをしてくれた侍女やメイドに褒められて、鏡に映る姿に違和感を覚えながらも堂々と胸を張り部屋を出て、そしてカレンを見て絶望するのです。
 揃いのドレスだからこそ、それを着たのが私だからこそ気が付いたのです。
 ああ、このドレスはカレンが着るからこそ価値を発揮するのだと、私がいくら着飾り胸を張り歩いても美しくない私にはどう頑張っても似合わないのだと。
 誰が言わなくても、私自身がそう感じてしまっていたのです。

※※※※※※
あけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
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