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寝言戯れ言世迷い言
「まあ、殿下は私と婚約していたと思いますが記憶違いでしょうか」
ふざけるなよ。と令嬢らしからぬ心の声を押さえながら微笑むと、殿下はさっと顔を赤くしながらエミリアさんを立ち上がらせました。
「婚約など、運命の恋の前にはゴミも同然だ」
殿下に促されるまま立ち上がったエミリアさんは、殿下に抱き込まれおろおろと私と殿下の顔を交互に見ています。
可哀想に、遊ぶにしてもこんな気の弱そうな人を選ぶことはないのに。
冷ややかな目で二人を見つめても、ため息すら出ません。
「さしずめその方が運命の恋のお相手ですか」
呆れながら私は一枚の紙にすらすらとペンを走らせると、鞄から劣化防止、破損防止の魔法を施した紙挟みから十年大切に取っていた書類を取り出しました。
「殿下、先ほど作成しました書類にご承認の署名をお願い致します。あと、こちらにもご署名を」
作成した書類の下に三枚の紙を追加して、殿下に手渡すと「大事な話の途中だぞ」と言いながら殿下はそれぞれの書類に署名をしていきました。
殿下は書類の内容の確認などしません。
今回も中身を確認しないまま署名を進めていき、最後の一枚に署名した時に、やっと空欄に気がついたのか「あれ?」と声を出しました。
「おい、これは」
「ご承認及びご署名ありがとうございます。エミリアさんでしたかしら、あなたもここに署名を」
最後の一枚の一番下を指差して、エミリアさんを私の机に呼ぶとインクを付けた羽ペンを手渡しました。
「これは」
「ここに署名を」
「は、はい」
私が急かしたせいで内容は確認できなかった様子ですが、署名を終えてからやっと文章を読むことが出来たのでしょう。途端に慌て始めました。
「え、あの。これ、わ、私っ」
「お二人の署名確かに頂きました。書類にありました通り、提出後の異議や訂正及び撤回は認められませんので悪しからずご了承ください」
言いながら、三枚の紙を転移の魔道具に入れると城にいるはずの父のもとへ送りました。
「エミリア?」
「そんな、あれでは私達が不義不貞を犯したという証明に、そんな、そんな」
「不義?どういうことだ」
「どういう事とは?殿下はご自分で署名されたのですよ。納得いかない内容の書類に署名されたのですか?」
行儀が悪いと思いながら、ふんと鼻で笑うと会計書類を学園の経理担当に送る転移魔道具に入れて起動しました。
「運命の恋、素敵ですわね」
机の引き出しにしまっていた筆記用具を鞄にしまいます。
いつでも撤退できるよう、筆記用具以外の私物は机に入れていなかったので、簡単に片付きました。
「殿下のお気持ち、私よく理解いたしましたわ」
各担当の書類は、すべて彼らの机の上に戻します。
勿論手付かずで、書類は真っ白なままです。
これで何も問題はありません。
立つ鳥跡を濁さずですわね。
「理解とは?」
「殿下は十年婚約者を務めていた私より、その運命の恋のお相手エミリアさんを選んだという意味をです」
気配を感じて手のひらを上に向けると、その上に戻ってきた魔道具が現れました。
「さすがお父様、仕事が早くていらっしゃる」
陛下のご承認済みの書類が入った魔道具に、私は心からの笑顔を向けると殿下へ控えの書類を渡しました。
「良かったですね。陛下も殿下のお心を理解されたようです。婚約破棄のご承諾を頂きました」
「婚約、破棄?」
「先ほどの書類の一枚目は、殿下の不義不貞を理由にした婚約破棄の嘆願書です。二枚目は婚約破棄締結についてのこちらからの条件、具体的にはお二方への慰謝料請求と王家への賠償請求を後日行う。例え王家及び公爵家からの要求でも、今後婚約及び婚姻を私は結ばない。婚約破棄撤回は絶対に行わない。婚約破棄理由は学園内に周知する等ですね。殿下はそこに内容に相違なく慰謝料及びは賠償金は当家の要求額を間違いなく支払う旨の証明として署名されました。三枚目はお二人の婚約締結の嘆願書です。お二人の署名入りですが、こちらはエミリアさんのご実家と婚姻のの取り決めが必要なので仮の承諾のようですわね。ただし、王命による婚姻の為撤回は出来ません」
私の早口言葉の様な説明に、殿下の顔が赤くなり青に変わり最後に白くなりました。
今まで生きてきてこんなに早口で捲し立てたことはありませんが、案外話せるものです。それにしても、人ってこんなに短時間に顔色が変わるものなんですね。
色々な意味で、今日は勉強になりました。
ふざけるなよ。と令嬢らしからぬ心の声を押さえながら微笑むと、殿下はさっと顔を赤くしながらエミリアさんを立ち上がらせました。
「婚約など、運命の恋の前にはゴミも同然だ」
殿下に促されるまま立ち上がったエミリアさんは、殿下に抱き込まれおろおろと私と殿下の顔を交互に見ています。
可哀想に、遊ぶにしてもこんな気の弱そうな人を選ぶことはないのに。
冷ややかな目で二人を見つめても、ため息すら出ません。
「さしずめその方が運命の恋のお相手ですか」
呆れながら私は一枚の紙にすらすらとペンを走らせると、鞄から劣化防止、破損防止の魔法を施した紙挟みから十年大切に取っていた書類を取り出しました。
「殿下、先ほど作成しました書類にご承認の署名をお願い致します。あと、こちらにもご署名を」
作成した書類の下に三枚の紙を追加して、殿下に手渡すと「大事な話の途中だぞ」と言いながら殿下はそれぞれの書類に署名をしていきました。
殿下は書類の内容の確認などしません。
今回も中身を確認しないまま署名を進めていき、最後の一枚に署名した時に、やっと空欄に気がついたのか「あれ?」と声を出しました。
「おい、これは」
「ご承認及びご署名ありがとうございます。エミリアさんでしたかしら、あなたもここに署名を」
最後の一枚の一番下を指差して、エミリアさんを私の机に呼ぶとインクを付けた羽ペンを手渡しました。
「これは」
「ここに署名を」
「は、はい」
私が急かしたせいで内容は確認できなかった様子ですが、署名を終えてからやっと文章を読むことが出来たのでしょう。途端に慌て始めました。
「え、あの。これ、わ、私っ」
「お二人の署名確かに頂きました。書類にありました通り、提出後の異議や訂正及び撤回は認められませんので悪しからずご了承ください」
言いながら、三枚の紙を転移の魔道具に入れると城にいるはずの父のもとへ送りました。
「エミリア?」
「そんな、あれでは私達が不義不貞を犯したという証明に、そんな、そんな」
「不義?どういうことだ」
「どういう事とは?殿下はご自分で署名されたのですよ。納得いかない内容の書類に署名されたのですか?」
行儀が悪いと思いながら、ふんと鼻で笑うと会計書類を学園の経理担当に送る転移魔道具に入れて起動しました。
「運命の恋、素敵ですわね」
机の引き出しにしまっていた筆記用具を鞄にしまいます。
いつでも撤退できるよう、筆記用具以外の私物は机に入れていなかったので、簡単に片付きました。
「殿下のお気持ち、私よく理解いたしましたわ」
各担当の書類は、すべて彼らの机の上に戻します。
勿論手付かずで、書類は真っ白なままです。
これで何も問題はありません。
立つ鳥跡を濁さずですわね。
「理解とは?」
「殿下は十年婚約者を務めていた私より、その運命の恋のお相手エミリアさんを選んだという意味をです」
気配を感じて手のひらを上に向けると、その上に戻ってきた魔道具が現れました。
「さすがお父様、仕事が早くていらっしゃる」
陛下のご承認済みの書類が入った魔道具に、私は心からの笑顔を向けると殿下へ控えの書類を渡しました。
「良かったですね。陛下も殿下のお心を理解されたようです。婚約破棄のご承諾を頂きました」
「婚約、破棄?」
「先ほどの書類の一枚目は、殿下の不義不貞を理由にした婚約破棄の嘆願書です。二枚目は婚約破棄締結についてのこちらからの条件、具体的にはお二方への慰謝料請求と王家への賠償請求を後日行う。例え王家及び公爵家からの要求でも、今後婚約及び婚姻を私は結ばない。婚約破棄撤回は絶対に行わない。婚約破棄理由は学園内に周知する等ですね。殿下はそこに内容に相違なく慰謝料及びは賠償金は当家の要求額を間違いなく支払う旨の証明として署名されました。三枚目はお二人の婚約締結の嘆願書です。お二人の署名入りですが、こちらはエミリアさんのご実家と婚姻のの取り決めが必要なので仮の承諾のようですわね。ただし、王命による婚姻の為撤回は出来ません」
私の早口言葉の様な説明に、殿下の顔が赤くなり青に変わり最後に白くなりました。
今まで生きてきてこんなに早口で捲し立てたことはありませんが、案外話せるものです。それにしても、人ってこんなに短時間に顔色が変わるものなんですね。
色々な意味で、今日は勉強になりました。
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