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旅立つ私と気になる言葉
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「忘れ物はないな」
次の日というには早すぎる時間、まだ日も昇らぬ前に私は用意された馬車の前でお父様とお母様にお別れの挨拶をしていました。
「ありません。何かあればお手紙を書きますね」
「あ、ああ」
「気を付けて、昨日お母様とお兄様への手紙を持たせて先触れを出していますから、必ず立ち寄ってね」
「分かりました」
お母様の実家に伺うのは久し振りです。
こんな時でなければゆっくりとおばあ様とお茶を楽しみたいところですが、今回はそんな時間は取れないでしょう。
「今日一日様子を見て、明日陛下に昨日の手紙の件を報告する。馬に無理をさせるが、今日はなるべく距離を稼いで王都から少しでも離れるんだ」
「はい」
お父様は一刻も早く私を王都から離したいのでしょう。
「私達が余計な心配をしているだけならいい、後からならそれも笑い話だ」
「はい」
お父様が心配しているのはどちらなのでしょうか。
私には分かりません。
「フローリア、お前は幸せになる為に生まれてきたんだ。婚約は断れるものでは無かったが、それでも幸せになって欲しいと私達は願っていた」
「お父様達のお気持ちは十分理解しています」
「領地や私達のことよりも、自分の幸せを、幸せになれる道を考えなさい。お前がどう生きても、私達はお前の決断を応援するから」
なぜでしょう。
なぜ、そんな、言い方。
「さあ、馬車に乗って。愛してるよ、可愛い私の娘」
「そうよ愛してるわ。フローリア」
「お父様、お母様?すぐに領地で会えるのですよね」
「ええ、きっと」
涙ぐみながら頷くお母様の顔は、その言葉を否定しているように見えました。
どうしてこんなに不安を感じてしまうのでしょう。
「お母様、領地でお待ちしています」
「気を付けて、体を大切にね」
私を馬車に押し込むようにしながら、お母様は返事をごまかしている様に感じました。
「いってまいります」
馬車の小窓から手を振り、小さくなっていく二人を子供の様に見続けました。
「お嬢様」
「兎に角急ぎましょう。お父様は上等な馬を用意してくれたわ。これならあまり休まずに進めるでしょう」
私とユウナが乗る馬車と、荷物を積んだ馬車の二台に、護衛の乗る馬が六騎。
人通りのない暗い道を、魔道具の灯りを頼りに走り続けました。
「お嬢様、門に辿り着きました。念のためショールをかぶり具合が悪い振りをなさってください」
「わかりました」
二刻程走ったでしょうか、やっと第一の門に辿り着きました。
馬車の小窓越しに護衛からの指示を受け、私はショールをかぶりユウナに寄りかかりました。
小窓に付けられたカーテンの隙間から朝日の光が馬車の中に入ってきます。
日が昇ったのだと感じるだけで、少し不安が和らぎました。
「ゾルティーア侯爵家の馬車とお見受け致します」
「いかにも我々はゾルティーア侯爵家に仕える者だ」
第一の門は、王都の中でも中心部近くにある門です。
門の中に暮らすのは、貴族と裕福な平民だけ、大きな屋敷と高級な店ばかりがあるのが中心部です。
第一の門と第二の門の間には平民達が暮らす町があります。
貴族の馬車は、第一の門で確認されれば第二の門は素通り出来るのです。
ですから、ここで止められなければ王都から出られる筈でした。
「失礼致しました。馬車の中にはどなたがお乗りになっていますか?」
「お嬢様が奥様のご実家に療養の為お出掛けになる。かの地は温泉での医療が盛んだからな」
「お嬢様がご病気なのですか」
門番の声はなぜかとても心配している様に聞こえました。
聞き覚えはない声だけれど、私を知っている人なのでしょうか。
「どうした」
「私はゾルティーア侯爵領にある孤児院出身です。私が孤児院でお世話になっていた時お嬢様は何度も慰問に来て勉強を教えて下さいました。私がこうして門番として働けるのは、お嬢様が作ってくださった教本のお陰なのです。お嬢様はお体がお悪いのですか?」
「少し風邪を拗らせただけだ」
「そうでしたか、これは通行証です。お嬢様が早くお元気になられますよう、お祈り申し上げます」
「お嬢様にはお前の頑張りをお伝えしておこう。お嬢様がお作りになった教本が役立ったと聞けばきっとお元気になるだろう」
少しでも文字や計算の練習になればと、領地に帰り慰問の度に教本を作っては孤児院の子供達に渡していました。
私より年下の子供だけではなく、もう孤児院を出なければいけない年の子にも迷惑がられながらも渡して、読み書きを教えました。
その結果をこんな風に知るとは思いもしませんでした。
「そうなれば嬉しいです。道中お気をつけて」
「ああ」
門を通り抜け馬車は進みます。
私はショールを取ると、深く息を吐きました。
次の日というには早すぎる時間、まだ日も昇らぬ前に私は用意された馬車の前でお父様とお母様にお別れの挨拶をしていました。
「ありません。何かあればお手紙を書きますね」
「あ、ああ」
「気を付けて、昨日お母様とお兄様への手紙を持たせて先触れを出していますから、必ず立ち寄ってね」
「分かりました」
お母様の実家に伺うのは久し振りです。
こんな時でなければゆっくりとおばあ様とお茶を楽しみたいところですが、今回はそんな時間は取れないでしょう。
「今日一日様子を見て、明日陛下に昨日の手紙の件を報告する。馬に無理をさせるが、今日はなるべく距離を稼いで王都から少しでも離れるんだ」
「はい」
お父様は一刻も早く私を王都から離したいのでしょう。
「私達が余計な心配をしているだけならいい、後からならそれも笑い話だ」
「はい」
お父様が心配しているのはどちらなのでしょうか。
私には分かりません。
「フローリア、お前は幸せになる為に生まれてきたんだ。婚約は断れるものでは無かったが、それでも幸せになって欲しいと私達は願っていた」
「お父様達のお気持ちは十分理解しています」
「領地や私達のことよりも、自分の幸せを、幸せになれる道を考えなさい。お前がどう生きても、私達はお前の決断を応援するから」
なぜでしょう。
なぜ、そんな、言い方。
「さあ、馬車に乗って。愛してるよ、可愛い私の娘」
「そうよ愛してるわ。フローリア」
「お父様、お母様?すぐに領地で会えるのですよね」
「ええ、きっと」
涙ぐみながら頷くお母様の顔は、その言葉を否定しているように見えました。
どうしてこんなに不安を感じてしまうのでしょう。
「お母様、領地でお待ちしています」
「気を付けて、体を大切にね」
私を馬車に押し込むようにしながら、お母様は返事をごまかしている様に感じました。
「いってまいります」
馬車の小窓から手を振り、小さくなっていく二人を子供の様に見続けました。
「お嬢様」
「兎に角急ぎましょう。お父様は上等な馬を用意してくれたわ。これならあまり休まずに進めるでしょう」
私とユウナが乗る馬車と、荷物を積んだ馬車の二台に、護衛の乗る馬が六騎。
人通りのない暗い道を、魔道具の灯りを頼りに走り続けました。
「お嬢様、門に辿り着きました。念のためショールをかぶり具合が悪い振りをなさってください」
「わかりました」
二刻程走ったでしょうか、やっと第一の門に辿り着きました。
馬車の小窓越しに護衛からの指示を受け、私はショールをかぶりユウナに寄りかかりました。
小窓に付けられたカーテンの隙間から朝日の光が馬車の中に入ってきます。
日が昇ったのだと感じるだけで、少し不安が和らぎました。
「ゾルティーア侯爵家の馬車とお見受け致します」
「いかにも我々はゾルティーア侯爵家に仕える者だ」
第一の門は、王都の中でも中心部近くにある門です。
門の中に暮らすのは、貴族と裕福な平民だけ、大きな屋敷と高級な店ばかりがあるのが中心部です。
第一の門と第二の門の間には平民達が暮らす町があります。
貴族の馬車は、第一の門で確認されれば第二の門は素通り出来るのです。
ですから、ここで止められなければ王都から出られる筈でした。
「失礼致しました。馬車の中にはどなたがお乗りになっていますか?」
「お嬢様が奥様のご実家に療養の為お出掛けになる。かの地は温泉での医療が盛んだからな」
「お嬢様がご病気なのですか」
門番の声はなぜかとても心配している様に聞こえました。
聞き覚えはない声だけれど、私を知っている人なのでしょうか。
「どうした」
「私はゾルティーア侯爵領にある孤児院出身です。私が孤児院でお世話になっていた時お嬢様は何度も慰問に来て勉強を教えて下さいました。私がこうして門番として働けるのは、お嬢様が作ってくださった教本のお陰なのです。お嬢様はお体がお悪いのですか?」
「少し風邪を拗らせただけだ」
「そうでしたか、これは通行証です。お嬢様が早くお元気になられますよう、お祈り申し上げます」
「お嬢様にはお前の頑張りをお伝えしておこう。お嬢様がお作りになった教本が役立ったと聞けばきっとお元気になるだろう」
少しでも文字や計算の練習になればと、領地に帰り慰問の度に教本を作っては孤児院の子供達に渡していました。
私より年下の子供だけではなく、もう孤児院を出なければいけない年の子にも迷惑がられながらも渡して、読み書きを教えました。
その結果をこんな風に知るとは思いもしませんでした。
「そうなれば嬉しいです。道中お気をつけて」
「ああ」
門を通り抜け馬車は進みます。
私はショールを取ると、深く息を吐きました。
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