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自分がなんでも出来るなんて、ありえないのです
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「もう言わないで、自分の考えは正しいと、少し習っただけの知識で思い込んでしまう頭でっかちな子供だったのよ。今もその傾向はあるかもしれないけれど、あの頃は特に酷かったの。恥ずかしいわ」
あの頃の私には大変だった五個の魔石の魔力込めの仕事も、毎日続けてもユウナの食事代にも足りないとは思い付きもしませんでした。
少しずつ魔石の数を増やし、魔石の大きさを増やしていき、最初の十倍の魔力込めが出来るようになった時になって、初めてお母様からそう教えられた時は恥ずかしさのあまり、お母様のお顔をまともに見られませんでした。
「助けて頂いたのに拗ねた考えを持っていた私の方が恥ずかしいです。あの時お嬢様が助けてくれなければ、凍えて死んでいたかもしれないのですから」
「それは分からないけれどね」
「あの時、施しをされただけだと冷めた考えを持ちながら、私の手を包んで下さったお嬢様の手の温もりの記憶が、私の支えでもありました。文字すら読めなかった私にはお屋敷の仕事は見習いだとしても大変で、逃げ出したいと思うことも多くありました。でもその度にお嬢様の手の温もりを思い出したんです。自分が働いて私を雇うと、私を専属侍女にと望んで下さった。それが支えになったんです。本当にお嬢様の侍女になれたら、生涯お仕えしようと心に誓っていたのです」
ユウナは侯爵家にというより、私に忠誠を誓っている様に見えていましたが、あの私の愚かな行動がその基だったとは思いませんでした。
「大袈裟ね」
私は婚約者の気持ちも繋ぎ止められない、不甲斐ない主人だというのに。
こんな私に仕えてくれるなんて。
「ですから、あの馬鹿者を排除したいと思われたらいつでも私にお命じ下さい」
「その考えは捨ててと言った筈よ」
ユウナは明るくて、真面目に働くし良く気が付く人ですが、主人の私に似て思い込みが激しいところがあるのが困ります。
私より三歳年上のユウナは、そろそろ結婚の話が出てもいい頃だと言うのに、休みの日でも私の側から離れようとしないのですから。
「では、取りあえず忘れたことに致します」
「もう、仕方ないわね。少し眠りましょう。旅は長いのですから、体力を残しておかないといけないわ」
おばあ様のいらっしゃる伯爵領までは気が抜けません。
しっかり眠って、食事もしっかり取らなければ。
「どうぞ私の肩をお使い下さい」
「あなたも休んでね」
ユウナの言葉に甘えて、私は体を彼女に寄り添わせ目を閉じました。
石畳の敷かれた王都の道はそれ程大きな揺れはありませんが、第二門を過ぎれば土の道が続くばかりです。
長距離向きの馬車を使っていても、体には負担になります。
「皆に無理をさせるわね」
ごめんなさい。心の中で謝りながら私は眠りの中に落ちていきました。
「お嬢様、少し休憩を取るそうです、外に出てみませんか?」
「休憩?私そんなに寝ていたのかしら?」
「よくお休みでした。馬車に精神安定の香草を下げていましたから、その効果でしょう。先程第二門を過ぎ二つ目の町を目指している途中でございます」
「かなり眠ってしまったのね」
疲れが溜まっていたのでしょうか?
確かに昨晩はあまり寝ていませんが、それにしても馬車で熟睡するとは思っていませんでした。
「一つめの町は過ぎたのね」
「はい。ここは二つ目の町に向かう途中にある休憩場所でございます」
「そう、では少し降りようかしら」
第二門を出て最初の町はかなり大きく、王都からも近いのですが、二つ目の町は最初の町から離れていて、馬車で半日程の距離があります。その間にある休憩所は、村まではいきませんが、数件の家と店があるのです。
「はい。店の主に話を通してありますので」
「それは、助かるわ」
旅の大変な事と言えば、ご不浄です。
幸い王都から侯爵領までは山道等も無く、町や村も点在していますから、比較的辛くはありませんがそれでも屋敷にいる時として同じとはいきません。
ご不浄に限らず、食料が足りなくなった者や野営をしなければいけなくなる場合もあります。
町と町の間にある所謂休憩は、そういった旅事情に詳しい商業ギルドや冒険者ギルドが管理する場所なのです。
「お嬢様、私が店までお供致します」
馬車を降りる為に手を貸してくれた護衛にそう言われたものの、聞き覚えのある声につい声を上げてしまいました。
「あなた何故ここにいるの?」
手を貸してくれたのは、侯爵家の紋章が入った簡易鎧姿の従兄だったのです。
あの頃の私には大変だった五個の魔石の魔力込めの仕事も、毎日続けてもユウナの食事代にも足りないとは思い付きもしませんでした。
少しずつ魔石の数を増やし、魔石の大きさを増やしていき、最初の十倍の魔力込めが出来るようになった時になって、初めてお母様からそう教えられた時は恥ずかしさのあまり、お母様のお顔をまともに見られませんでした。
「助けて頂いたのに拗ねた考えを持っていた私の方が恥ずかしいです。あの時お嬢様が助けてくれなければ、凍えて死んでいたかもしれないのですから」
「それは分からないけれどね」
「あの時、施しをされただけだと冷めた考えを持ちながら、私の手を包んで下さったお嬢様の手の温もりの記憶が、私の支えでもありました。文字すら読めなかった私にはお屋敷の仕事は見習いだとしても大変で、逃げ出したいと思うことも多くありました。でもその度にお嬢様の手の温もりを思い出したんです。自分が働いて私を雇うと、私を専属侍女にと望んで下さった。それが支えになったんです。本当にお嬢様の侍女になれたら、生涯お仕えしようと心に誓っていたのです」
ユウナは侯爵家にというより、私に忠誠を誓っている様に見えていましたが、あの私の愚かな行動がその基だったとは思いませんでした。
「大袈裟ね」
私は婚約者の気持ちも繋ぎ止められない、不甲斐ない主人だというのに。
こんな私に仕えてくれるなんて。
「ですから、あの馬鹿者を排除したいと思われたらいつでも私にお命じ下さい」
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ユウナは明るくて、真面目に働くし良く気が付く人ですが、主人の私に似て思い込みが激しいところがあるのが困ります。
私より三歳年上のユウナは、そろそろ結婚の話が出てもいい頃だと言うのに、休みの日でも私の側から離れようとしないのですから。
「では、取りあえず忘れたことに致します」
「もう、仕方ないわね。少し眠りましょう。旅は長いのですから、体力を残しておかないといけないわ」
おばあ様のいらっしゃる伯爵領までは気が抜けません。
しっかり眠って、食事もしっかり取らなければ。
「どうぞ私の肩をお使い下さい」
「あなたも休んでね」
ユウナの言葉に甘えて、私は体を彼女に寄り添わせ目を閉じました。
石畳の敷かれた王都の道はそれ程大きな揺れはありませんが、第二門を過ぎれば土の道が続くばかりです。
長距離向きの馬車を使っていても、体には負担になります。
「皆に無理をさせるわね」
ごめんなさい。心の中で謝りながら私は眠りの中に落ちていきました。
「お嬢様、少し休憩を取るそうです、外に出てみませんか?」
「休憩?私そんなに寝ていたのかしら?」
「よくお休みでした。馬車に精神安定の香草を下げていましたから、その効果でしょう。先程第二門を過ぎ二つ目の町を目指している途中でございます」
「かなり眠ってしまったのね」
疲れが溜まっていたのでしょうか?
確かに昨晩はあまり寝ていませんが、それにしても馬車で熟睡するとは思っていませんでした。
「一つめの町は過ぎたのね」
「はい。ここは二つ目の町に向かう途中にある休憩場所でございます」
「そう、では少し降りようかしら」
第二門を出て最初の町はかなり大きく、王都からも近いのですが、二つ目の町は最初の町から離れていて、馬車で半日程の距離があります。その間にある休憩所は、村まではいきませんが、数件の家と店があるのです。
「はい。店の主に話を通してありますので」
「それは、助かるわ」
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ご不浄に限らず、食料が足りなくなった者や野営をしなければいけなくなる場合もあります。
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馬車を降りる為に手を貸してくれた護衛にそう言われたものの、聞き覚えのある声につい声を上げてしまいました。
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手を貸してくれたのは、侯爵家の紋章が入った簡易鎧姿の従兄だったのです。
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