17 / 123
過去の話は憶測も
しおりを挟む
「おばあ様」
「あなたの婚約破棄の償い等必要ないわ。あなたの両親も私達も婚約破棄は喜んでいると言ってもいいの」
「では命を守るというのは」
テーブルを挟んで向かい側のソファーに座るケネス、壁際におばあ様の侍女と並んで控えているユウナ、二人には驚いた様 子も戸惑いもありません。
私だけがおばあ様の言葉に驚いているのです。でも、どうして?
「あなたは、王妃様が婚約破棄を認めていると思っているの?」
「いいえ。失礼を承知で申し上げれば陛下は賢王と名高き方ですが王妃様には甘い方です。王妃様がどうしてもと言い出したら破棄を撤回しない等すぐに反故にされるでしょう」
だから私は神聖契約を自分の命を代償にして行なったのです。
これでフィリップ殿下がやはり侯爵家に婿入りしたいと言ってきても、私とは婚姻出来ません。ですが。
「私は神聖契約を行ない、フィリップ殿下、いいえ王家の方との婚姻は結ばないと誓いました。契約を破ったときの代償は自分の命です。ですから殿下と私が再度婚約する未来はありません。ですが、王妃様にとって大事なのは殿下が侯爵家に婿入りするそれだけでしょう」
フィリップ殿下は昔から私を嫌っていました。
それでも他に婚約出来る上位貴族家が無かったから、私が婚約者でいるしかなかったのです。
「王妃様が本気になれば、私は廃嫡の上放逐され適当な縁戚から殿下の年齢に合う女子を侯爵家の養女にとしたいのではないかと。さすがに王命には出来ませんから、私の身柄を秘密裏に拘束しお父様と交渉を進める。殿下と殿下の運命の相手が結婚する前にそうしたいのでは無いかと思い、私を王都から離したのではありませんか?」
「婚約破棄の上、罪の無い嫡子を放逐等、さすがの王妃様でも陛下にねだれないでしょう」
お父様達が急いだ理由はそれなのだと思っていたのに、おばあ様は簡単に否定しました。
私を放逐せず、殿下が我が侯爵家に婿入り等もう出来ません。
でも、お父様達は一刻でも早く私を王都から離したい、そう思っている様でした。
「王妃様の願いを簡単に叶えるなら、あなたが儚くなればいいだけ。簡単な話よ」
「私を殺すと?」
ざわりと体が震えました。
王妃様はそんなに簡単に私を排除するでしょうか。私を殺してしまったら侯爵家との遺恨が残ります。そんな家に殿下を婿入りさせようとするでしょうか?
伯爵家で我慢すれば、殿下は新しく家を興し領地を下賜頂けるというのに。
婿入りよりも余程そちらの方が良いはずなのに。
「あなたの両親はそう考えているわ。勿論私達も」
「その根拠があるのですか」
まさか命まで狙われているとは思わず、震えながらおばあ様を見ると悲しげな顔で首を横に振り、なぜかケネスの方に視線を移しました。
「ケネスはあの子に良く似ているわ。従兄弟だから当然だけれど、大きくなったあの子に会えた様でとても嬉しいわ」
「あの子?」
「あなたは幼かったから忘れてしまったかしら、フローリア、あなたのお兄さんのことよ」
「お兄様? 亡くなったお兄様ですか? ケネスはお兄様に似ているのですか?」
「ええ」
そう聞いて、私は亡くなったお兄様の顔を思い浮かべようとして失敗してしまいました。
お兄様の話は、なぜかお父様もお母様も避けている様に思います。
お兄様の肖像画すら屋敷には飾られていないのです。
その話をすると何か怖い物を引き寄せるとでも言うような、そんな雰囲気すらあって幼い頃の私は何も聞く事は出来ませんでした。
亡くなったのは多分私が五、六歳の頃。婚約をする前だと思いますが、詳しくは思い出せません。
当時お兄様は学校の初等課に通うため王都で暮らしていて、私は領地にいる方が多かった為あまり話したことすらなかったのです。
「お兄様はケネスの一番上のお兄様と同じ年だったと聞いていますが」
「そうよ。あの子が生まれた後、ブライス家の長男が誕生したの。あの子を支えてくれる頼もしい子が生まれたと当時は皆で祝ったものよ」
懐かしそうに話すおばあ様ですが、なぜ今お兄様の話が出てくるのか私には理解出来ませんでした。
「二人はとても仲が良くてね、長期の休みに領地に帰る度にここに寄っていってくれたのよ。私は二人の成長がとても楽しみだった」
「そうでした……か」
ケネスの一番上のお兄様はすでに妻帯し、子供も生まれています。
私とお兄様はそれだけ年が離れているのです。
「あの子はとても元気な子で、風邪すらひいた事がなくてね。だから私達は油断していたの」
「油断、ですか?」
何が言いたいのでしょう。
首を傾げながら、話の流れを考えました。
私の命の話から、どうしてお兄様の話に?
「あの子が亡くなったのは、あなたがフィリップ殿下と顔合わせをした日の一ヶ月程前なの」
「一ヶ月前? お兄様が亡くなってすぐに私と殿下の婚約の話が出たというのですか」
「そうよ。その話が来たのは、あの子のお葬式の日。信じられる? あの子の死を受け入れられない状況で、私達はフローリアの婚約の打診を受けたのよ。王妃様の手紙でね」
正気とは思えない話に、私は言葉を失ってしまったのです。
「あなたの婚約破棄の償い等必要ないわ。あなたの両親も私達も婚約破棄は喜んでいると言ってもいいの」
「では命を守るというのは」
テーブルを挟んで向かい側のソファーに座るケネス、壁際におばあ様の侍女と並んで控えているユウナ、二人には驚いた様 子も戸惑いもありません。
私だけがおばあ様の言葉に驚いているのです。でも、どうして?
「あなたは、王妃様が婚約破棄を認めていると思っているの?」
「いいえ。失礼を承知で申し上げれば陛下は賢王と名高き方ですが王妃様には甘い方です。王妃様がどうしてもと言い出したら破棄を撤回しない等すぐに反故にされるでしょう」
だから私は神聖契約を自分の命を代償にして行なったのです。
これでフィリップ殿下がやはり侯爵家に婿入りしたいと言ってきても、私とは婚姻出来ません。ですが。
「私は神聖契約を行ない、フィリップ殿下、いいえ王家の方との婚姻は結ばないと誓いました。契約を破ったときの代償は自分の命です。ですから殿下と私が再度婚約する未来はありません。ですが、王妃様にとって大事なのは殿下が侯爵家に婿入りするそれだけでしょう」
フィリップ殿下は昔から私を嫌っていました。
それでも他に婚約出来る上位貴族家が無かったから、私が婚約者でいるしかなかったのです。
「王妃様が本気になれば、私は廃嫡の上放逐され適当な縁戚から殿下の年齢に合う女子を侯爵家の養女にとしたいのではないかと。さすがに王命には出来ませんから、私の身柄を秘密裏に拘束しお父様と交渉を進める。殿下と殿下の運命の相手が結婚する前にそうしたいのでは無いかと思い、私を王都から離したのではありませんか?」
「婚約破棄の上、罪の無い嫡子を放逐等、さすがの王妃様でも陛下にねだれないでしょう」
お父様達が急いだ理由はそれなのだと思っていたのに、おばあ様は簡単に否定しました。
私を放逐せず、殿下が我が侯爵家に婿入り等もう出来ません。
でも、お父様達は一刻でも早く私を王都から離したい、そう思っている様でした。
「王妃様の願いを簡単に叶えるなら、あなたが儚くなればいいだけ。簡単な話よ」
「私を殺すと?」
ざわりと体が震えました。
王妃様はそんなに簡単に私を排除するでしょうか。私を殺してしまったら侯爵家との遺恨が残ります。そんな家に殿下を婿入りさせようとするでしょうか?
伯爵家で我慢すれば、殿下は新しく家を興し領地を下賜頂けるというのに。
婿入りよりも余程そちらの方が良いはずなのに。
「あなたの両親はそう考えているわ。勿論私達も」
「その根拠があるのですか」
まさか命まで狙われているとは思わず、震えながらおばあ様を見ると悲しげな顔で首を横に振り、なぜかケネスの方に視線を移しました。
「ケネスはあの子に良く似ているわ。従兄弟だから当然だけれど、大きくなったあの子に会えた様でとても嬉しいわ」
「あの子?」
「あなたは幼かったから忘れてしまったかしら、フローリア、あなたのお兄さんのことよ」
「お兄様? 亡くなったお兄様ですか? ケネスはお兄様に似ているのですか?」
「ええ」
そう聞いて、私は亡くなったお兄様の顔を思い浮かべようとして失敗してしまいました。
お兄様の話は、なぜかお父様もお母様も避けている様に思います。
お兄様の肖像画すら屋敷には飾られていないのです。
その話をすると何か怖い物を引き寄せるとでも言うような、そんな雰囲気すらあって幼い頃の私は何も聞く事は出来ませんでした。
亡くなったのは多分私が五、六歳の頃。婚約をする前だと思いますが、詳しくは思い出せません。
当時お兄様は学校の初等課に通うため王都で暮らしていて、私は領地にいる方が多かった為あまり話したことすらなかったのです。
「お兄様はケネスの一番上のお兄様と同じ年だったと聞いていますが」
「そうよ。あの子が生まれた後、ブライス家の長男が誕生したの。あの子を支えてくれる頼もしい子が生まれたと当時は皆で祝ったものよ」
懐かしそうに話すおばあ様ですが、なぜ今お兄様の話が出てくるのか私には理解出来ませんでした。
「二人はとても仲が良くてね、長期の休みに領地に帰る度にここに寄っていってくれたのよ。私は二人の成長がとても楽しみだった」
「そうでした……か」
ケネスの一番上のお兄様はすでに妻帯し、子供も生まれています。
私とお兄様はそれだけ年が離れているのです。
「あの子はとても元気な子で、風邪すらひいた事がなくてね。だから私達は油断していたの」
「油断、ですか?」
何が言いたいのでしょう。
首を傾げながら、話の流れを考えました。
私の命の話から、どうしてお兄様の話に?
「あの子が亡くなったのは、あなたがフィリップ殿下と顔合わせをした日の一ヶ月程前なの」
「一ヶ月前? お兄様が亡くなってすぐに私と殿下の婚約の話が出たというのですか」
「そうよ。その話が来たのは、あの子のお葬式の日。信じられる? あの子の死を受け入れられない状況で、私達はフローリアの婚約の打診を受けたのよ。王妃様の手紙でね」
正気とは思えない話に、私は言葉を失ってしまったのです。
643
あなたにおすすめの小説
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる
冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」
謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。
けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。
なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。
そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。
恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。
邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです
ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる