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疑われていた、それなのに
「それは本当の話なのね」
「はい。あまりに恐ろしい出来事で会話のすべてを記憶してしまい、忘れられませんでした」
おばあ様の体が震えているのか、私の方なのか分かりませんが、おばあ様の腕にすがる私の手が震えていました。
「二人は恋人なのではという噂は昔からあったのよ、あれはそう、王妃様が伯爵家の養女になってすぐの頃だから、まだ十代前半の頃よ」
「王妃様のご両親が亡くなった為に伯爵家の養女になったと聞いていますが、それで恋人だと噂になっていたのですか?」
「フィリエ伯爵家は王族に嫁げる程の力も財力も無かったの。でも、先代、王妃様の義理の父である伯爵は野心家でね、幼い頃から美しい顔立ちだと評判だった王妃様なら陛下のお心を射止められるのではと、そう考えたのよ」
おばあ様は嫌なものでもふるい落そうとするみたいに、顔を力なく横に振り、目を閉じました。
「養女の話が先だったのか、ご両親が亡くなるのが先だったのか分からないけれど、王妃様はご実家の男爵家を実父の弟に継がせ、自分は伯爵家の養女になったのよ。養女になってすぐ社交界デビューした彼女は、義理の兄となった現フィリエ伯爵と仲良睦まじく過ごしていたわ。二人とも美しい銀色の髪を持つ美男美女、どんな夜会でも注目されていたの」
王妃様は年を重ねているとはいえ、美しい顔立ちは変わりませんし、子供を何人も産んだとは思えない華奢な体と豊かな胸をお持ちです。
「だから二人は恋人なのではないかと、そういう噂がでてもおかしくなかったのよ。それ程親密に見えていたの」
「王妃様は陛下の婚約者選定のお茶会で見初められたと」
それが先代伯爵の目的だったとすれば、義理とはいえ兄妹で恋人と噂をされるのは不本意だったのではないでしょうか。
「先代伯爵も王妃様にとても甘くてね。どんな我が儘も許したくなると、本人が笑っていらしたわ。それが若い二人の仲を誤魔化す為だったのかどうかは分からないけれどね。先代の伯爵夫人はあまりいい顔はしていなかったわね」
養女に甘い夫、それを外で隠しもしないなど伯爵夫人が不愉快に思うのは当然です。
「美しい彼女をお茶会で見初めた陛下は、すぐに婚約を望みそれは叶えられたのよ。元が男爵家の令嬢で教育が足りていないのは学生の間に学ばせれば良いと言ってね」
「王妃様はそれは努力をされたと」
「ええ、高位貴族と下位貴族ではそもそも礼儀作法から異なるところがあるでしょう?その違いすら知らなかった彼女をを周囲は馬鹿にしていたけれど、卒業する頃には笑う者はいなくなったわ。礼儀作法、ダンス、教養、すべてを身につけた彼女に敵はいなくなったの」
それだけ努力をしたということでしょう。
王妃様は令嬢達の憧れの人です。私以外の令嬢達です。
「笑顔の時の首を傾げる仕草まで完璧な令嬢だと褒め称えられた彼女は、王太子妃になって半年で懐妊し、王子を立て続けに二人、その後王女も生むことでその地位は磐石なものとなったわ」
あの日の王妃様は、本心から義理の兄である伯爵を思っている様に見えました。
それならば、陛下は義兄と自分を引き離した憎い相手の筈です。
それでも陛下の子を次々と生み、夫である陛下を常に敬い国の母として貴族女性すべての模範となっていたのです。
「けれどフィリップ殿下が生まれたことで、王妃様の立場は危うくなったのよ」
「どうしてですか」
「フィリップ殿下は王妃様にだけ似ているでしょう。髪の色、瞳の色、すべてが王妃様と同じ。顔付きもそう。陛下に似ているところは何も無かったの。魔力の系統すら違ったのよ。だから疑いを持たれたの」
父親が陛下ではないのですから、それは当然です。
「王妃様は自分を疑うなら今すぐ死を賜りたいと陛下に願い出てね、生まれたばかりのフィリップ殿下と共に毒杯を飲もうとしたの」
「そうならなかったのは、陛下が王妃様を信じたからですか?」
「ええ、証拠と言っていいのか微妙な証拠のお陰でね」
おばあ様がどうしてこんなに詳しいのか分かりませんが、それだけ当時の貴族達が注目していたということなのでしょうか。
「王妃様は殿下を身籠る少し前から、足を怪我された王太后様の宮に暮らしていたの。自分の宮ならともかく王太后様の宮には陛下以外の殿方は入ることは出来ないのよ。懐妊が分かってからはご自分の宮に戻ったけれど、それまでは誰も疑えない場所に暮らしていたのよ」
「それは」
では、あれは私の記憶違いだというのでしょうか。
あの恐ろしい王妃様は、幻だったと?
どちから本当なのか、分からなくなってしまいました。
「私の知っているのはここまでよ。でも、この話は侯爵に伝えなければいけないわね」
私はお父様に長い手紙を書くことにしたのです。
「はい。あまりに恐ろしい出来事で会話のすべてを記憶してしまい、忘れられませんでした」
おばあ様の体が震えているのか、私の方なのか分かりませんが、おばあ様の腕にすがる私の手が震えていました。
「二人は恋人なのではという噂は昔からあったのよ、あれはそう、王妃様が伯爵家の養女になってすぐの頃だから、まだ十代前半の頃よ」
「王妃様のご両親が亡くなった為に伯爵家の養女になったと聞いていますが、それで恋人だと噂になっていたのですか?」
「フィリエ伯爵家は王族に嫁げる程の力も財力も無かったの。でも、先代、王妃様の義理の父である伯爵は野心家でね、幼い頃から美しい顔立ちだと評判だった王妃様なら陛下のお心を射止められるのではと、そう考えたのよ」
おばあ様は嫌なものでもふるい落そうとするみたいに、顔を力なく横に振り、目を閉じました。
「養女の話が先だったのか、ご両親が亡くなるのが先だったのか分からないけれど、王妃様はご実家の男爵家を実父の弟に継がせ、自分は伯爵家の養女になったのよ。養女になってすぐ社交界デビューした彼女は、義理の兄となった現フィリエ伯爵と仲良睦まじく過ごしていたわ。二人とも美しい銀色の髪を持つ美男美女、どんな夜会でも注目されていたの」
王妃様は年を重ねているとはいえ、美しい顔立ちは変わりませんし、子供を何人も産んだとは思えない華奢な体と豊かな胸をお持ちです。
「だから二人は恋人なのではないかと、そういう噂がでてもおかしくなかったのよ。それ程親密に見えていたの」
「王妃様は陛下の婚約者選定のお茶会で見初められたと」
それが先代伯爵の目的だったとすれば、義理とはいえ兄妹で恋人と噂をされるのは不本意だったのではないでしょうか。
「先代伯爵も王妃様にとても甘くてね。どんな我が儘も許したくなると、本人が笑っていらしたわ。それが若い二人の仲を誤魔化す為だったのかどうかは分からないけれどね。先代の伯爵夫人はあまりいい顔はしていなかったわね」
養女に甘い夫、それを外で隠しもしないなど伯爵夫人が不愉快に思うのは当然です。
「美しい彼女をお茶会で見初めた陛下は、すぐに婚約を望みそれは叶えられたのよ。元が男爵家の令嬢で教育が足りていないのは学生の間に学ばせれば良いと言ってね」
「王妃様はそれは努力をされたと」
「ええ、高位貴族と下位貴族ではそもそも礼儀作法から異なるところがあるでしょう?その違いすら知らなかった彼女をを周囲は馬鹿にしていたけれど、卒業する頃には笑う者はいなくなったわ。礼儀作法、ダンス、教養、すべてを身につけた彼女に敵はいなくなったの」
それだけ努力をしたということでしょう。
王妃様は令嬢達の憧れの人です。私以外の令嬢達です。
「笑顔の時の首を傾げる仕草まで完璧な令嬢だと褒め称えられた彼女は、王太子妃になって半年で懐妊し、王子を立て続けに二人、その後王女も生むことでその地位は磐石なものとなったわ」
あの日の王妃様は、本心から義理の兄である伯爵を思っている様に見えました。
それならば、陛下は義兄と自分を引き離した憎い相手の筈です。
それでも陛下の子を次々と生み、夫である陛下を常に敬い国の母として貴族女性すべての模範となっていたのです。
「けれどフィリップ殿下が生まれたことで、王妃様の立場は危うくなったのよ」
「どうしてですか」
「フィリップ殿下は王妃様にだけ似ているでしょう。髪の色、瞳の色、すべてが王妃様と同じ。顔付きもそう。陛下に似ているところは何も無かったの。魔力の系統すら違ったのよ。だから疑いを持たれたの」
父親が陛下ではないのですから、それは当然です。
「王妃様は自分を疑うなら今すぐ死を賜りたいと陛下に願い出てね、生まれたばかりのフィリップ殿下と共に毒杯を飲もうとしたの」
「そうならなかったのは、陛下が王妃様を信じたからですか?」
「ええ、証拠と言っていいのか微妙な証拠のお陰でね」
おばあ様がどうしてこんなに詳しいのか分かりませんが、それだけ当時の貴族達が注目していたということなのでしょうか。
「王妃様は殿下を身籠る少し前から、足を怪我された王太后様の宮に暮らしていたの。自分の宮ならともかく王太后様の宮には陛下以外の殿方は入ることは出来ないのよ。懐妊が分かってからはご自分の宮に戻ったけれど、それまでは誰も疑えない場所に暮らしていたのよ」
「それは」
では、あれは私の記憶違いだというのでしょうか。
あの恐ろしい王妃様は、幻だったと?
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私はお父様に長い手紙を書くことにしたのです。
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