【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香

文字の大きさ
41 / 123

呪縛からの解放

しおりを挟む
「私は婚約破棄をして、神聖契約で二度とフィリップ殿下と縁を結ばないとしたにも関わらずまだ縛られていたのですね」

 婚約破棄をした時、私は自由になったと感じました。
 神聖契約をして、もう王家から解放されたと信じました。
 それでも心の奥底にはまだ、フィリップ殿下の婚約者だった私が残っていたのかもしれません。

「そうね。婚約していた期間が長かったのですもの、たった数日でその呪縛が消えるわけではないのよ。あなたはフィリップ殿下を将来の夫として、一緒に領地を治めていく未来しか選べなかった。貴族の子供の多くは政略結婚が当り前で親に婚約者を決められるのが当り前だとしても、あなたから嫌だと言える婚約では無かった」
「はい」
「あなたは殿下と少しでも親しくなろうと努力をしていたわ。でも、王都から遠い場所にいる私にも殿下があなたを虐げているという噂は届く程だったのよ」

 おばあ様のお話に私は眼を丸くしました。
 学校でも夜会でも殿下は私を周囲の眼すら気にせずに、気が利かないとか優しさの欠片も無いとお話され夜会ではエスコートもまともにされませんでした。

「殿下がダンスの途中で何度もお前を置き去りにして離れてしまったというのは最初の頃かしら、その後はエスコートすらまともにされず、ダンスをフローリアとはなさらなくなったとか、学校でもお前を貶める発言をされるとか」
「それは、はい」

 ダンスの途中で置き去りにされたのは、夜会に参加をする様になってすぐのことです。
 努力がお嫌いな殿下は当然ダンスの練習もお嫌いで、夜会の場で披露出来る程ではありませんでしたが、夜会に婚約者と出席してダンスを踊らない等出来る筈もなく渋々私を相手に踊っていました。
 たった一度ダンスをする間、何度も私は足を踏まれ、動きを間違えた殿下に「お前が下手なせいだ」と叱られ、その内に癇癪を起した殿下が「やっていられるか」と私を突き放し去って行ってしまったのが真相です。

 どちらのダンスが悪かったのか、それは周囲から見れば一目瞭然だったらしく後日王太子殿下に注意を受けたフィリップ殿下は、その後何度か夜会で私とダンスをして下さいましたが、その度に同じ状態になりました。
 そしてその度に王太子殿下に注意され、陛下に注意されを繰り返し、私とダンスは踊らないと宣言されてしまう様になったのです。

 今はそれなりにダンスを踊れる様になった殿下は、私以外の女性を相手にダンスをされていて、私は基本壁の花です。

「ケネスは従兄弟だというのに、彼とのダンスも許さなかったとも聞いたわ。エスコートを断っておきながら、ケネスがそれをすれば周囲に誰が居ようとフローリアを罵倒したと」
「はい」

 私が夜会でダンスを踊れるのはお父様か親族だけでしたが、ケネスとのダンスは許されませんでした。
 殿下がエスコートを断った夜会にケネスと共に参加すれば「俺がエスコート出来ない夜会に参加しているお前が悪いのだ」と罵るのです。

「侯爵家の次期当主なのだから、フローリアは人脈作りの為にも夜会に出るのは当たり前、婚約者がエスコート出来なければ、年の近い従兄弟がその役割を引き受けるのは当然だというのにねぇ」
「常識が通じる方ではありせんから」

 酷い婚約者でした。
 良かったと思うこと、楽しかった記憶が一つもありません。

「私は、お父様とお母様の様にお互いを思いやれる相手と添い遂げたいです」
「ええ、きっとそうなれますよ。その為にも王妃様にはお前のことも侯爵家のことも諦めて頂かないとね」
「はい。なんとか、頑張ります」
「神殿から連絡が来たら知らせます。それまでお休み、そうだ湯浴みはどう? 疲れが取れるわ」

 おばあ様に心配そうにそう言われ、私は小さく頷きました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

これで、私も自由になれます

たくわん
恋愛
社交界で「地味で会話がつまらない」と評判のエリザベート・フォン・リヒテンシュタイン。婚約者である公爵家の長男アレクサンダーから、舞踏会の場で突然婚約破棄を告げられる。理由は「華やかで魅力的な」子爵令嬢ソフィアとの恋。エリザベートは静かに受け入れ、社交界の噂話の的になる。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...