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告白と涙と
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「罪深き私めが陛下の御前にこの身を晒す事をお許しください。私めは王妃様が王太子妃殿下となられた時から侍医としてお仕えしておりました。私がこの手に掛けたのは、五人です。最初がフィリエ前伯爵夫人でした。その次がフィリエ前伯爵。そしてゾルティーア侯爵子息、そして王太后様付きのメイド。そして王太后様です。そして、わたしはフィリップ殿下の懐妊時期も偽りを申しました。すべては王妃様の命令でございます」
アヌビートの声は淡々としていて、罪の告白というよりは医師が病状を説明していると言った方が良いように思います。
侯爵家でイオン様に解呪の魔法を掛けられ、王妃様の精神操作の魔法を解かれた時とは別人の様に感情を失った様な顔で罪を告白しています。
「嘘よっ」
「王妃よ、そなたは口を閉じていよ。話す許可は出しておらぬ」
思わず叫び声を上げた王妃様の声は、陛下の低いお声に遮られました。
王妃様の宮に陛下がいらっしゃり、優しく王妃様の名を呼び二人で庭を散策する。そんな場面を何度も見ていた私には陛下のそのお声は別人の様にすら感じます。
神聖契約を行い、その代償が王妃様の若さです。
今の王妃様を見れば、王妃様がどれだけ王家の血筋と侯爵家を害して来たのかアヌビートの告白を聞かなくても分かるでしょう。陛下の変化はそれ故なのです。
「続けよ」
「はい。私は王妃様から五人の命を屠る様に命ぜられ、懐妊時期についても誤魔化すようにと」
「そうか。偽り無く王妃の命だったと言うのだな」
「はい。王妃様の命令で行った私の罪でございます。医師として命を守る者であるはずの私が罪のない五人の命を奪ったのでございます」
アヌビートは床に蹲り、両手を付き頭を下げます。
その後ろで王妃様は、両手で顔を覆い泣き声をあげ始めました。
「アヌビート、そなたの罪はそれだけか」
「いいえ。もう一つございます。フィリエ伯爵の元にはフィリップ殿下の双子の妹が秘密裏に育てられております。生まれた時、双子だったことを隠し乳母により王宮の外に連れ出された紫の瞳を持つ女の子でございます」
「嘘よっ! 嘘です、陛下、そんな子なんていません。私が産んだのはフィリップだけです! この男は私を陥れようとしているのです」
先程の殺人の告白よりも動揺して、王妃様は取り乱し嘘だと否定しました。
「陛下、私を疑うのですか。ずっと陛下に仕えてきた私を。王妃たる私をっ」
陛下が座られている場所まで駆け寄ろうとして、王妃様は何もない場所で躓きその場に座り込んでしまいました。
「母上っ」
フィリップ殿下だけが王妃様を案じて傍により、跪いて王妃様の手を取ろうとしました。
「ああ、フィリップあなただけが私を案じてくれるのね。あなたは私を信じてくれるでしょう?」
フィリップ殿下の右手を王妃様は両手で握ると弱弱しい声を出しながら、フィリップ殿下の顔を覗き込む様にして視線を合わせました。
「フィリップ、あなたは私を案じて、私を信じてくれる、わよね。……あっ。どうして」
それは不自然な間でした。
「母上」
フィリップ殿下は、悲し気な声で王妃様を呼び彼女の手を優しく外すと自分だけ立ち上がりました。
「母上、もう魔法は使えないのですよ。母上は魔封じの腕輪を付けられているのですから」
「魔封じの腕輪? これはアダムが無理矢理私に付けた物よ。これを付けられてから私は調子を崩したの。髪が白くなり肌に皺がでて、これはそのせいなの?」
王妃様は腕輪が体調不良の原因だと思っていた様です。
ですが、そうではありません。あの腕輪は、魔法が使えなくなるだけです。
「いいえ、母上そうではありません。それは魔封じの腕輪です。母上は魔力量が多いそうですから、もしかしたら簡単な魔法なら使えるかもしれませんが、私には解呪の腕輪がつけられています。これを付けた人間には腕輪の力以上の魔力での魔法しか掛からないのです。母上の精神操作の魔法は私には掛けられません」
「フィリップ何を言っているの。あなたは母を疑うの。私だけがあなたを愛しているのよ。あなたを私だけが理解しているというのに。その母を見捨てるというの?」
「いいえ、いいえ。母上。見捨てたりしません。母上、私の大事な母上。でもどうか罪を認めて下さい。どうか、母上」
床に座り込み続ける王妃様を、フィリップ殿下は辛抱強く説得していました。
それでも納得しない王妃様に、とうとう諦めてフィリップ殿下は自ら陛下に願い出たのです。
「陛下、私は母上の不義で生まれた疑いがあります。どうか私と陛下、そして私とフィリエ伯爵の親子鑑定をお願い致します」
「フィリップ何を言うのっ!」
フィリップ殿下の嘆願に、王妃様は悲鳴の様な声を上げフィリエ伯爵は声を上げずただ項垂れたのです。
アヌビートの声は淡々としていて、罪の告白というよりは医師が病状を説明していると言った方が良いように思います。
侯爵家でイオン様に解呪の魔法を掛けられ、王妃様の精神操作の魔法を解かれた時とは別人の様に感情を失った様な顔で罪を告白しています。
「嘘よっ」
「王妃よ、そなたは口を閉じていよ。話す許可は出しておらぬ」
思わず叫び声を上げた王妃様の声は、陛下の低いお声に遮られました。
王妃様の宮に陛下がいらっしゃり、優しく王妃様の名を呼び二人で庭を散策する。そんな場面を何度も見ていた私には陛下のそのお声は別人の様にすら感じます。
神聖契約を行い、その代償が王妃様の若さです。
今の王妃様を見れば、王妃様がどれだけ王家の血筋と侯爵家を害して来たのかアヌビートの告白を聞かなくても分かるでしょう。陛下の変化はそれ故なのです。
「続けよ」
「はい。私は王妃様から五人の命を屠る様に命ぜられ、懐妊時期についても誤魔化すようにと」
「そうか。偽り無く王妃の命だったと言うのだな」
「はい。王妃様の命令で行った私の罪でございます。医師として命を守る者であるはずの私が罪のない五人の命を奪ったのでございます」
アヌビートは床に蹲り、両手を付き頭を下げます。
その後ろで王妃様は、両手で顔を覆い泣き声をあげ始めました。
「アヌビート、そなたの罪はそれだけか」
「いいえ。もう一つございます。フィリエ伯爵の元にはフィリップ殿下の双子の妹が秘密裏に育てられております。生まれた時、双子だったことを隠し乳母により王宮の外に連れ出された紫の瞳を持つ女の子でございます」
「嘘よっ! 嘘です、陛下、そんな子なんていません。私が産んだのはフィリップだけです! この男は私を陥れようとしているのです」
先程の殺人の告白よりも動揺して、王妃様は取り乱し嘘だと否定しました。
「陛下、私を疑うのですか。ずっと陛下に仕えてきた私を。王妃たる私をっ」
陛下が座られている場所まで駆け寄ろうとして、王妃様は何もない場所で躓きその場に座り込んでしまいました。
「母上っ」
フィリップ殿下だけが王妃様を案じて傍により、跪いて王妃様の手を取ろうとしました。
「ああ、フィリップあなただけが私を案じてくれるのね。あなたは私を信じてくれるでしょう?」
フィリップ殿下の右手を王妃様は両手で握ると弱弱しい声を出しながら、フィリップ殿下の顔を覗き込む様にして視線を合わせました。
「フィリップ、あなたは私を案じて、私を信じてくれる、わよね。……あっ。どうして」
それは不自然な間でした。
「母上」
フィリップ殿下は、悲し気な声で王妃様を呼び彼女の手を優しく外すと自分だけ立ち上がりました。
「母上、もう魔法は使えないのですよ。母上は魔封じの腕輪を付けられているのですから」
「魔封じの腕輪? これはアダムが無理矢理私に付けた物よ。これを付けられてから私は調子を崩したの。髪が白くなり肌に皺がでて、これはそのせいなの?」
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ですが、そうではありません。あの腕輪は、魔法が使えなくなるだけです。
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