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親子鑑定
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「な、なぜお義兄様とフィリップの鑑定を?」
フィリップ殿下の訴えに狼狽えたのは王妃様です。
フィリエ伯爵は項垂れたまま、抵抗もせずに王太子殿下が指示するままに腕を出し、血液の採取を行っています。その後テーブルの上に二つ用意してある内の右側の魔道具の魔石にフィリエ伯爵の血液を王太子殿下が落としました。
その後同じ様に陛下の血液を採取すると、今度は左側の魔道具の魔石に陛下の血液を落としました。
「フィリップ」
「はい、兄上」
フィリップ殿下はそれだけ言って王太子殿下による血液採取を受けました。
「フィリップ駄目よっ!アダムはお前を良く思っていないの。アダムが何か細工をするかもしれないわっ!」
「陛下が見守る中細工をして私にどんな利益があると言うのですか」
「王妃よ、己の行いが余との不義不貞ではないと言うのなら口を閉じていよ」
陛下のお言葉は、王妃様を信じてのことなのかどうか分かりません。
「参考までに母上、過去に紫の瞳を持った王妃が存在したことは無く、青以外の瞳を持った陛下も存在したことがありません。そして王妃、母上の生家の血筋にも紫の瞳を持つものは居なかったそうですよ」
王妃様へ説明しながら王太子殿下はフィリップ殿下の血液もそれぞれの魔道具の魔石に落としました。
これで魔道具を発動すれば、フィリップ殿下と二人の関係が確認できるのです。
「アダム、あなたは私に嫌がらせをして楽しいの?どうしてあなたはいつもそうなの、私やフィリップを蔑むだけで手を差しのべようとしないのね。フィリップはあなたの弟だというのに、あなたには優しさがないのよ。ああ、陛下可哀想なフィリップをお助け下さい。アダムに私の不貞だと信じ込まされているだけなのです。アヌビートはアダムの手先なのです。私は何もしておりません。か弱い女の身でどうして恐ろしい命令など出せるでしょうか」
魔道具を発動しようとする王太子殿下に王妃様がよろよろと近付き、涙声で止めようとしています。
王家の血統に関係する証明の為、王太子殿下は他者を介入させず一人ですべての作業をされています。
常日頃なら側にいる護衛騎士達も今はいませんから、王太子殿下は無防備ですがそれを気にする様子も無く作業を続けています。
「母上が何も疚しいことをされていないのならば動揺されることもないでしょう」
「でも、あなたは何か企んでいるのでしょう?私を憎んでいるあなたが正しき行いをするとは思えません」
「私は疚しいことは何一つありません。陛下の言われるまま行動するのみですよ」
「アダム」
王太子殿下と話しながら、フィリエ伯爵の血液を落とした魔道具に手を伸ばした王妃様は、魔道具を両手で持ち上げた途端、何かの刺激を受けたかの様に体を痙攣させた後、へなへなとその場に座り込んでしまいました。
「最後か、まさかそれほどの罪を犯していたとは」
それまで一度も聞いたことがない弱々しく悲しげな声に陛下へ視線を移していた私は、その言葉にハッとして王妃様へ再び視線を移すと、王妃様から魔道具を取り返した王太子殿下が、王妃様のお顔を隠していたベールを剥ぎ取られていたのだと気がつきました。
陛下はベールを取られた王妃様のお顔を見て、衝撃を受けたのでしょう。
「母上、フィリップが心配していますよ」
王太子殿下はそう言って、私達の近くに無言で立っているフィリップ殿下を指差しました。
「フィリップ」
陛下の方を向いていた王妃様は、王太子殿下の指先に釣られるように私達の方を見て、フィリップ殿下に手を伸ばしました。
「フィリップ、フィリップ。私の最愛の子。ただ一人の可愛い我が子」
涙を流すのは、生きているのが不思議なほどに深い皺と染みだらけの肌の、白髪の女性でした。
「母上」
「フィリップ、どうしたの?どうして後退るの母の元にいらっしゃい。私の可愛いフィリップ」
王妃様は座り込んだままフィリップ殿下に手を伸ばして、追い縋ろうとしています。
ですが、フィリップ殿下は青白い顔を小さく横に振りながらジリジリと後退っているのです。
「なぜ逃げるのフィリップ、私から」
「母上、どうして、どうして母上の額にそんな印が、それは神に背いた証だと言われているものではありませんか、それがどうして、母上にっ!」
フィリップ殿下の言葉通り、王妃様の皺だらけの額にはそれでもはっきりと分かる黒い痣がありました。
それは神聖契約を破った代償、フィリップ殿下は神に背いた証と言いましたがその通り、あれは神とした契約に背いた証なのです。
フィリップ殿下の訴えに狼狽えたのは王妃様です。
フィリエ伯爵は項垂れたまま、抵抗もせずに王太子殿下が指示するままに腕を出し、血液の採取を行っています。その後テーブルの上に二つ用意してある内の右側の魔道具の魔石にフィリエ伯爵の血液を王太子殿下が落としました。
その後同じ様に陛下の血液を採取すると、今度は左側の魔道具の魔石に陛下の血液を落としました。
「フィリップ」
「はい、兄上」
フィリップ殿下はそれだけ言って王太子殿下による血液採取を受けました。
「フィリップ駄目よっ!アダムはお前を良く思っていないの。アダムが何か細工をするかもしれないわっ!」
「陛下が見守る中細工をして私にどんな利益があると言うのですか」
「王妃よ、己の行いが余との不義不貞ではないと言うのなら口を閉じていよ」
陛下のお言葉は、王妃様を信じてのことなのかどうか分かりません。
「参考までに母上、過去に紫の瞳を持った王妃が存在したことは無く、青以外の瞳を持った陛下も存在したことがありません。そして王妃、母上の生家の血筋にも紫の瞳を持つものは居なかったそうですよ」
王妃様へ説明しながら王太子殿下はフィリップ殿下の血液もそれぞれの魔道具の魔石に落としました。
これで魔道具を発動すれば、フィリップ殿下と二人の関係が確認できるのです。
「アダム、あなたは私に嫌がらせをして楽しいの?どうしてあなたはいつもそうなの、私やフィリップを蔑むだけで手を差しのべようとしないのね。フィリップはあなたの弟だというのに、あなたには優しさがないのよ。ああ、陛下可哀想なフィリップをお助け下さい。アダムに私の不貞だと信じ込まされているだけなのです。アヌビートはアダムの手先なのです。私は何もしておりません。か弱い女の身でどうして恐ろしい命令など出せるでしょうか」
魔道具を発動しようとする王太子殿下に王妃様がよろよろと近付き、涙声で止めようとしています。
王家の血統に関係する証明の為、王太子殿下は他者を介入させず一人ですべての作業をされています。
常日頃なら側にいる護衛騎士達も今はいませんから、王太子殿下は無防備ですがそれを気にする様子も無く作業を続けています。
「母上が何も疚しいことをされていないのならば動揺されることもないでしょう」
「でも、あなたは何か企んでいるのでしょう?私を憎んでいるあなたが正しき行いをするとは思えません」
「私は疚しいことは何一つありません。陛下の言われるまま行動するのみですよ」
「アダム」
王太子殿下と話しながら、フィリエ伯爵の血液を落とした魔道具に手を伸ばした王妃様は、魔道具を両手で持ち上げた途端、何かの刺激を受けたかの様に体を痙攣させた後、へなへなとその場に座り込んでしまいました。
「最後か、まさかそれほどの罪を犯していたとは」
それまで一度も聞いたことがない弱々しく悲しげな声に陛下へ視線を移していた私は、その言葉にハッとして王妃様へ再び視線を移すと、王妃様から魔道具を取り返した王太子殿下が、王妃様のお顔を隠していたベールを剥ぎ取られていたのだと気がつきました。
陛下はベールを取られた王妃様のお顔を見て、衝撃を受けたのでしょう。
「母上、フィリップが心配していますよ」
王太子殿下はそう言って、私達の近くに無言で立っているフィリップ殿下を指差しました。
「フィリップ」
陛下の方を向いていた王妃様は、王太子殿下の指先に釣られるように私達の方を見て、フィリップ殿下に手を伸ばしました。
「フィリップ、フィリップ。私の最愛の子。ただ一人の可愛い我が子」
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フィリップ殿下の言葉通り、王妃様の皺だらけの額にはそれでもはっきりと分かる黒い痣がありました。
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