【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香

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後悔6

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「お父様、フィリップ殿下にエミリアさんと会わせてあげるわけにはいきませんか」

 屋敷でイオン様に解呪された後のフィリップ殿下は、エミリアさんを気にしておいででした。
 エミリアさんの命は、普通の刑罰であれば放火の罪で火あぶりになります。
 ですが、彼女は未遂でしたし王妃様から魔法を使われていたか、使われていなくても男爵家の令嬢でしかない彼女では王妃様からの命令には逆らえなかったでしょう。

「フローリア、それは私達が決められることではない」
「ですが、フィリップ殿下は私はエミリアを本当の運命の相手だと思っていると仰っていたのですよ。だとしたら、せめて最後に一度会わせてさしあげたいのです」

 二人は学校で一緒に過ごすことが多く、私にもその噂は嫌でも耳に入ってきました。
 自分の目で、二人を見たのも一度や二度ではありません。

「お父様、私は自分が婚約者として一度もまともな会話すらして頂けなかったのが悔しくて、私が少しでも親しくなりたいと努力しているのにフィリップ殿下は歩み寄ることもして下さらないと嘆くだけでした。ですからエミリアさんがフィリップ殿下と親しくしているのを認めたくはありませんでした。フィリップ殿下がとても楽しそうに幸せそうに彼女と過ごしていることを許せなかったのです」

 昼食の時間、低位貴族の彼女と一緒に学園の庭に設置してあるベンチに並んで座り楽しそうに何かを会話している姿。学園内にある薔薇園を手を繋ぎ歩く姿。フィリップ殿下が乗馬の練習をする様子をエミリアさんが応援している姿等、無視しようと思っていても視界に入ってきてしまうそれらを、私は無関心を装いながら心のどこかで羨ましいと思っていたのだと、今なら分かります。
 私がどれだけ努力しても、フィリップ殿下から笑顔どころかまともな挨拶さえ返しては貰えなかったというのに、エミリアさんは優しい笑顔で寄り添っていたのです。
 夜会やお茶会の席で叱責されるだけの私は、フィリップ殿下の婚約者として一番長く傍にいた者として殿下のお気持ちを察することすら出来ていなかったくせに、エミリアさんと殿下の仲を疎ましく思っていたのです。

「フィリップ殿下の幸せを王妃様は、殿下の純粋なお気持ちを魔法により歪めてしまわれました。お二人が離れ離れになる運命しかないのだとしたら、せめてお別れを言う機会を、その位の慈悲をお二人に与えて欲しいのです」

 私の言葉をお父様と王太子殿下は遮ることなく聞いてくださいました。

「それはフィリップ次第だな。あれがみっともなく命乞いする様なら陛下はそれを許しはしないだろう」
「命乞い」

 まだ学生の立場でしかないフィリップ殿下が、自分の罪を受け入れられず命乞いをすることすら許されないのでしょうか。
 父だと信じていた陛下が自分の父ではなく、母の不貞を言われ己の存在も罪だと言われ、それをすぐに受け入れる等出来るものでしょうか。

「お前の言いたいことは良く分かった。判決は先程の部屋で行う。それまでここに控えていろ」

 第二王子殿下はアヌビートの時と同じようにそう告げると部屋を出て行きました。
 残るはフィリップ殿下、ただ一人です。

「お父様」
「フローリア、私達が出来るのは見ていることだけだ」
「はい」

 私達が刑罰を決められるわけではありません。
 王家と私達臣下の立場を考えれば、こうして断罪の場にいて罪の行方を見届けられるだけでも陛下や王太子殿下の温情だと言えるのでしょう。
 それが長年王妃様に苦しめられてきた私達への、陛下からの贖罪なのだと思います。

「フィリップ、愚かな弟よ。何か申し開きしたいことはあるのか」

 わざと第二王子殿下は、フィリップ殿下に冷たく接している様に見えました。
 普段お二人がどんな会話をしていたのか、私は存じません。
 ですが今、第二王子殿下はわざとフィリップ殿下に冷たく接しその心を見定めようとしている様に思うのです。

「兄上。いいえ、第二王子殿下。私は何もございません」
「では大人しくこの杯を飲むか」

 第二王子殿下が持つ銀盆の上には、何故か二つの杯がありました。
 アヌビートとフィリエ伯爵のところでは一つだけしかなかった杯が何故か二つに増えているのです。
 まさか、フィリップ殿下には二つ? 二か月苦しみ続ける程の罪をフィリップ殿下は持っていると、他の三人が一つの杯しか賜らないというのに、フィリップ殿下だけ?

「どうして」

 そこまでの罪でしょうか。
 フィリップ殿下の罪は、そんなにも罪深いのでしょうか。
 私には判断出来ませんでした。
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