104 / 123
後悔5
しおりを挟む
「夜会や茶会の席で、私達はフィリップの傍にいることは殆ど無かった。年が近い者同士が集まるのはああいった席では当たり前だけれど、それでも幼い末の弟を気遣うのは本来なら当然の事だ。けれど誰もそうしようとはしなかった」
確かに王女殿下達はフィリップ殿下は粗野だと嫌っていらっしゃいましたから、茶会の席で近くのテーブルに着くことすらお厭いでした。
女同士仲良くしましょうねと、私を近くにいさせてくれる優しい王女殿下達がフィリップ殿下には声すら掛けないのは不思議で、でも何となく仲良くないのだろうと察せられたものです。
「フィリップ殿下を私は遠くから様子を見ていました。誰かがフィリップ殿下と私が似ていると言いださないか気になっていたというのも勿論ありますが、あの庭の隅で膝を抱えていた殿下の姿が忘れられなかったというのもあるのです。気にして見ているとフィリップ殿下は、取り巻きに囲まれながら王太子殿下や皆様をいつもご覧になっていました。殿下方が他の王族の皆様と語らっていらっしゃる様子をそっと見て、そして一瞬自分の御髪に手を触れるのです」
「フィリップがそんな事を?」
「はい。それを何度か繰り返した後、決まって婚約者であるゾルティーア侯爵令嬢を叱責されるのです。髪型がドレスに合っていない。その顔を見ているだけで気分が悪くなる等、外見を蔑み罵った後その場を立ち去るのです」
「ああ、確かによくフローリア嬢はフリップの癇癪の被害にあっていたな。だがその前にそんな事を?」
確かに私は夜会やお茶会の席で良くフィリップ殿下に叱られました。
外見が悪い。お前の顔は美しくない、髪型の趣味が悪い等々。
そういえばフィリップ殿下以外のご兄弟が出席していない席では、その叱責はあまり無かった様に思います。
「フィリエ伯爵の考え過ぎではないのか」
「いいえ、お父様。確かにフィリップ殿下の叱責は他のご兄弟がいらっしゃらない場では無かった様に思います。あの叱責の後フィリップ殿下は私を遠ざけることが多く、私は王女殿下や王太子妃殿下方と一緒に過ごしていましたから、よく覚えています」
夜会やお茶会の席でフィリップ殿下に叱責されるのは、周囲の目も気になり辛い事でしたがそれに耐えさえすればフィリップ殿下から解放されるので、辛く恥ずかしい事でしたが嬉しくもあったのです。
そうでなければ私の存在を無視して取り巻き達と会話しているフィリップ殿下の傍を離れる等出来なかったからです。
「フローリア嬢には夜会やお茶会は辛い場でしかなかっただろうから、その記憶は確かだろう」
「覚えてはいても、フィリップ殿下のお気持ちを察することすら出来ていなかったのです」
少しでもフィリップ殿下との仲を改善したいと思っていた筈でした。
まともなエスコートはされず、夜会やお茶会の場で最初に行うのはフィリップ殿下の姿を探し傍に行くことでした。
それが遅れたと王妃様の耳に入ると、王妃様が参加されていた場合はその場で婚約者の自覚がないと叱られ、王妃様がいらっしゃらない場合は後日お叱りを受けるのです。
勿論フィリップ殿下のご機嫌も悪くなり、殿下の取り巻きが近くに控えている場で殿下に私がいかに婚約者として劣っているか、駄目な女と婚約している自分が不幸かを聞かされ続けるのです。
ですから私にとって夜会もお茶会も、フィリップ殿下が参加しているだけで苦痛でした。
フィリップ殿下と少しでも親しく語らいを等思っていたつもりでしたが、本当はお叱りを受けない様にしていただけだったのです。
フィリップ殿下が何を思ってその場にいらっしゃったか等、考えたことすら無かったのです。
「私はフィリップ殿下の仰る通り、婚約者失格だったのかもしれません」
婚約者として仲良くなりたい、親しくなりたいと努力している。
私がそう思って努力しているのに、フィリップ殿下は歩み寄ってくれない。そう不満に思っていましたが、本当は私は努力していると思っていただけなのかもしれません。
確かに王女殿下達はフィリップ殿下は粗野だと嫌っていらっしゃいましたから、茶会の席で近くのテーブルに着くことすらお厭いでした。
女同士仲良くしましょうねと、私を近くにいさせてくれる優しい王女殿下達がフィリップ殿下には声すら掛けないのは不思議で、でも何となく仲良くないのだろうと察せられたものです。
「フィリップ殿下を私は遠くから様子を見ていました。誰かがフィリップ殿下と私が似ていると言いださないか気になっていたというのも勿論ありますが、あの庭の隅で膝を抱えていた殿下の姿が忘れられなかったというのもあるのです。気にして見ているとフィリップ殿下は、取り巻きに囲まれながら王太子殿下や皆様をいつもご覧になっていました。殿下方が他の王族の皆様と語らっていらっしゃる様子をそっと見て、そして一瞬自分の御髪に手を触れるのです」
「フィリップがそんな事を?」
「はい。それを何度か繰り返した後、決まって婚約者であるゾルティーア侯爵令嬢を叱責されるのです。髪型がドレスに合っていない。その顔を見ているだけで気分が悪くなる等、外見を蔑み罵った後その場を立ち去るのです」
「ああ、確かによくフローリア嬢はフリップの癇癪の被害にあっていたな。だがその前にそんな事を?」
確かに私は夜会やお茶会の席で良くフィリップ殿下に叱られました。
外見が悪い。お前の顔は美しくない、髪型の趣味が悪い等々。
そういえばフィリップ殿下以外のご兄弟が出席していない席では、その叱責はあまり無かった様に思います。
「フィリエ伯爵の考え過ぎではないのか」
「いいえ、お父様。確かにフィリップ殿下の叱責は他のご兄弟がいらっしゃらない場では無かった様に思います。あの叱責の後フィリップ殿下は私を遠ざけることが多く、私は王女殿下や王太子妃殿下方と一緒に過ごしていましたから、よく覚えています」
夜会やお茶会の席でフィリップ殿下に叱責されるのは、周囲の目も気になり辛い事でしたがそれに耐えさえすればフィリップ殿下から解放されるので、辛く恥ずかしい事でしたが嬉しくもあったのです。
そうでなければ私の存在を無視して取り巻き達と会話しているフィリップ殿下の傍を離れる等出来なかったからです。
「フローリア嬢には夜会やお茶会は辛い場でしかなかっただろうから、その記憶は確かだろう」
「覚えてはいても、フィリップ殿下のお気持ちを察することすら出来ていなかったのです」
少しでもフィリップ殿下との仲を改善したいと思っていた筈でした。
まともなエスコートはされず、夜会やお茶会の場で最初に行うのはフィリップ殿下の姿を探し傍に行くことでした。
それが遅れたと王妃様の耳に入ると、王妃様が参加されていた場合はその場で婚約者の自覚がないと叱られ、王妃様がいらっしゃらない場合は後日お叱りを受けるのです。
勿論フィリップ殿下のご機嫌も悪くなり、殿下の取り巻きが近くに控えている場で殿下に私がいかに婚約者として劣っているか、駄目な女と婚約している自分が不幸かを聞かされ続けるのです。
ですから私にとって夜会もお茶会も、フィリップ殿下が参加しているだけで苦痛でした。
フィリップ殿下と少しでも親しく語らいを等思っていたつもりでしたが、本当はお叱りを受けない様にしていただけだったのです。
フィリップ殿下が何を思ってその場にいらっしゃったか等、考えたことすら無かったのです。
「私はフィリップ殿下の仰る通り、婚約者失格だったのかもしれません」
婚約者として仲良くなりたい、親しくなりたいと努力している。
私がそう思って努力しているのに、フィリップ殿下は歩み寄ってくれない。そう不満に思っていましたが、本当は私は努力していると思っていただけなのかもしれません。
374
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな
恋愛
私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。
婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる