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「どういう事でしょうか。この国には治癒師が大勢いらっしゃるのではないのですか?」

 治癒師は神殿に囲われているもの。それが祖国での常識だった。
 治癒師になる為にはとんでもなく大変な修行が必要だから、その存在を野放しに出来ないのだ。
 それなのに、エイマールは神殿にはおらずこの家の専属だというから、この国には治癒士が大勢いるのかと誤解していた。

「大勢いる? そんなわけある筈がない。それとも奥様の祖国デルヴィーニュ国ではそうなのですか」

 エイマールは私に対する敵対心を隠すのは止めてしまったのか、苦々しい表情を隠す事も無く聞いて来た。
 私は何故彼からこんなに嫌われているのだろう。
 理由が全く分からないけれど、この人は私を嫌っている様に見える。
 私が彼と話すのはこれが初めて、治療を受けていた時は会話らしい会話なんてしていないというのに、何故こんなに悪感情を持たれているのだろう。
 
「治癒師は基本神殿に囲われています。治癒の力はそう簡単に得られるものではありませんもの」

 旦那様と私の関係は良好、でも話の中の私は虐げられた妻だ。
 もしエイマールと私の関係が最悪な物になったら、これから虐げられた妻になっていく可能性だってゼロではないのかもしれない。

「治癒師のあなたの方が、それは詳しいでしょう?」

 私は注意深くエイマールを観察しながら、控えめな女性を演出しつつ会話を続ける。
 治癒師になるには、神殿で苦しい修行を行わなければならない。
 人を癒す力は、魔法を使えるこの世界でも簡単には手に入らないのだ。
 何故か簡単にその能力を得られて使いこなせる様になる、私の家の血が特別なのだ。
 何せ、私は信仰心も殆ど無いし、修行等したことも無い。
 私の治癒能力も幼い頃突然使える様になり、いつの間にか能力が向上していった。

「ええ、勿論殆どの治癒師は神殿でその力を使っています。それはあなたの祖国もこの国も同じです」
「あなたは違う様ですけれど」

 治癒師は神殿に囲われる。
 この国もそれは同じなのだとしたら、エイマールはなぜこの家の治癒師なのだろう。
 私の祖国では王家すら専属の治癒師を持てなかった。
 何せ王家と神殿は仲が悪い、治癒師を王家に派遣させるには面倒な手続きとお金が必要になる。
 エーレン家の能力は、家族か親族または自分より家格が下の者を癒すとされていて、治癒の力が必要だからといって好き勝手に王家の者がその能力を当てに出来ない。
 だからこそ、王家はエーレン家の血を王家の血筋に入れようとしたのだ。

「ええ、私は神殿と決別しましたから。私は死んでも神殿に弔って貰えない者です。異端者となりました」

 異端者と聞いて、私は小さく息を飲んでしまった。
 悲鳴を上げないのが精一杯、それでも目を見開きエイマールを見てしまった。

「異端、者」

 神殿に対して異端者というのは、神の教えから背いた者を指す。
 信仰する神を違えた者、それが異端者と呼ばれる。

「悪神を信仰しているわけではありませんよ。ただ、私は神殿が決めた者を癒すのではなく、自分で相手を決めたかった。それだけです」
「神の教えに背いたわけではない?」

 この国は祖国よりも神殿の力は上だった筈だというのに、それに背き神殿から出てこの家ディアロ家の治癒師になったのだろうか。
 それとも異端者となったから、旦那様がディアロ家に招き入れたのだろうか。

「あなたの事を国はなんと」
「王家に何かあれば私が力を貸す。その約束で許されています。神殿はそれを認めていませんが」

 エイマールは何でもない事の様に言うけれど、それは神殿とこの国の王家の関係を告げたのと同じだ。
 私の祖国デルヴィーニュ国よりもこの国の王家と神殿の仲は良く無いのだろうか、それが分からない。
 そう言えば、私と旦那様の式にエイマールは参列していなかった様な気がする。

「そう、なのね」

 神殿が癒す者を決めるというのは、稼げる相手だけを治癒していると言う事だ。
 それをエイマールは良しとせず、異端者となったということなのだろう。
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