【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

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本編

なんか泣きそう

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 雅のグッズが三つ当たったのだから、僕を雅も思ってくれているんだ。
 明日告白したら、雅が受け入れてくれるって事だ。

 違う。

 受け取ったグッズを見ながら、前世の俺が僕の頭の中で泣き出した。

「千晴様」
「大丈夫、大丈夫だよ。舞」


 頭の中で、違う、違うと言葉が響く。
 そして僕は理解した。

「ラストワン賞、これは最後にくじを引いた人がこれも一緒に貰えるんですか?」
「そうだよ。まだくじが沢山あるから、ごめんね。明日またくじ引きに来て」

 店員さんが謝ってくれる。
 謝る必要なんかないのに。

「いいんです。ルールなんですから、明日また来ます。でも、あの」
「なにかな」
「ラストワン賞のぬいぐるみ、一回だけ抱っこしてもいいですか」

 馬鹿なお願いだと分ってる。でも、せめての気持ちでお願いしてみた。

「え。ああ、いいよ」
「ありがとうございます」

 透明なビニール袋に包まれたぬいぐるみを手渡され、そっと両手で捧げ持つ。
 狼の顔なのに、なんとなく不機嫌そうな表情をして銀縁眼鏡をしている。
 学園の制服を着ているのが可愛い。
 ゲームの設定では、アニメのキャラ等ではなく学園で作ったくじで動物達は学園の
抱かれたいランキング上位の人を動物化したという設定だった。
 この世界ではどうなんだろう。

「雅に見えちゃうなあ」

 ぼそりと呟くと、店員さんが「雅、ああ山城雅様か。そうだろうねえ」と頷いた。

「え」
「それね、以前やったランキング上位の人をイメージして作られてるんだよ。本人達の許可は取っているらしいけれど、公表はしてないから内緒にしてね」
「なんで、知ってるんですか?」
「僕この企画に参加してるんだ。本当は大々的に宣伝した方がいいのかもしれないけれど、この店の企画担当が設定を隠して販売したいって言い出してね。くじが一日一人三回しか引けない様になっているのも、誰をイメージして作られたキャラなのかを内緒にしているのも、その為なんだよ。だから、内緒にしてね」
「はい」

 頷いたけれど、店員さんの話は頭に入ってこなかった。

「ありがとうございます。明日、くじ引きに来るまで残っててね」

 悪あがきだと分っているけど、ぬいぐるみの頭を撫でてそうお願いすると店員さんへ返す。

「我が儘言ってすみませんでした」
「いえ。こちらこそ申し訳ありません」

 店員さんと僕二人で頭を下げ合った後、僕は舞とコンビニを出た。

「千晴様、元気出して下さい。明日くじ引きに来ましょう」
「うん」

 励ましてくれる舞の言葉に頷きながら、僕は違う事を考えていた。
 ゲームでは三回くじを引いて、攻略中の相手のキャラのグッズをすべて当てられたら攻略ほぼ確定となる。でも、ひとつだけ例外があったんだ。
 攻略しているのに、攻略出来ない。攻略条件が足りないから、このままだとお友達エンドになるという印。
 それが、くじを当てた後に店員さんから「そのキャラはラストワン賞でぬいぐるみがあるんだ」と言われぬいぐるみが手に入らなかったバージョンだ。
 これは完全にランダムで、好感度としてはほぼ攻略なのにある条件が満たせないためにハッピーエンドにならないというものだった。
 通常のハッピーエンドで起こるイベントを全部クリアしていても、もう一つの隠しイベントをクリアしないと好感度マックスでもお友達エンドになってしまうという鬼畜仕様。
 隠しイベントは格キャラ五種類の内がランダムで起きるという噂があったけれど、攻略サイトでも全部の検証はできていなかったらしく、雅の隠しイベントは検証中となっていて公表されていなかった。
 噂だけで、攻略サイトでは公表されていなかったけれど、ラストワン賞があると言われて、ぬいぐるみが手渡されるバージョンもあり、この場合は主人公告白ではなく攻略対象者から告白されるらしい。
 まあ、今日の僕には関係の無い知識だ。だって僕はラストワン賞を当てられなかったんだから。

「舞、それ鞄につけないの?」
「藤四郎様にお見せしてからにします。だってこれ藤四郎様の様に見えるのではなく、藤四郎様がモデルなんですよね。でしたら、僕が使っていいと許可頂いてからでなければ仕えません」
「舞が全部当てたって知ったら驚くんじゃない?」
「そうですね。僕自身驚いていますから、多分藤四郎様も驚かれると思います」
「運命だよね。舞の所には佐々木様、僕のところには雅」
「はい。きっと運命です。ですから千晴様、明日告白頑張ってくださいね」

 ゆっくりと寮までの道を歩きながら、舞が僕を励ましてくれる。
 僕のところに雅がモデルの狼キャラが当たったのは運命。
 だけど、ラストワン賞が当てられなかったのもきっと運命。

「頑張る」

 僕が主人公だとしたら、雅の気持ちは僕に傾いているのだと思う。
 だけど何か障害があって、ハッピーエンドにならない。
 もしも隠しイベントがあるとしたら、それって何なんだろう。
 僕は主人公じゃないから、隠しイベントを仮にクリアしても駄目なのかもしれないけれど。

「僕お祈りしています。千晴様の告白が上手くいって山城様の小姓になれますようにって」
「ありがと、舞」

 僕だってそうなりたい。
 雅の隣にいるのは、主人公じゃなく僕。

「ぬいぐるみ、欲しかったなあ」

 告白、僕は言えるんだろうか雅に好きだって。
 雅は僕の気持ちを受け止めてくれるんだろうか。
 あのぬいぐるみが当てられなかったという事実は、僕の心の中にずっしりと沈んでいった。
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