【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

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本編

小姓と正妻

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「あの、でもね」
「小姓と申しましても、鈴森様のご実家のご事情もあるかと存じます。ですがわたくしがご主人様の元乳母としてではなく、舞様の教育係として申し上げるならば、鈴森様の親友である舞様のご心痛を和らげる為にも一刻も早く小姓の手続きを完了させて頂きたく存じます」

 あれ? 今なんか変な事聞こえなかったかな?
 舞の教育係というのはいいよ。舞は佐々木様の小姓になったから、佐々木家の諸々を習うってのはあるだろうし、でも元乳母? 乳母って佐々木様が生まれた時にはもう子供がいたんだよね?

「あの、陽子さんっておいくつ」
「初産は十八の時にございます。それ以上は申し上げられません」

 佐々木様の部屋で会ったメイドさんは無表情過ぎて怖かったけれど、陽子さんはえがおなのに怖い。
佐々木様が十六才。その時が初産だったとしたら十六プラス十八で三十四。
 見た目二十代前半にしか見えないんだけど、下手すると僕達と歳が変わらない様に見えるんだけど、なんで肌ぷりぷりなのこの人。

「陽子さん、そんなに歳変わらないと思っていました」
「光栄に存じます」

 にっこりと微笑む陽子さんは、顔のどこにも年齢を感じさせる部分がない。
 綺麗にまとめた髪もつやつやだし、姿勢も綺麗でスタイルも抜群。
これのどこが元乳母だと言うんだろう、この人にお世話されていた赤ん坊時代の佐々木様なんて想像するのも無理だ。
 陽子さん、まだ十代でこれから結婚しますと言われても納得しちゃうよ。

「先程伺った限りですと鈴森様は恐れ入りますが、社交は学ばれておられませんね」
「全然学んでいません。母はお茶会に妹を連れて行くだけでした」
「千晴様も同じなのですか? 僕は学園に来るまで一人で屋敷の外に出ることはありませんでした。同じなのですね」

 無邪気に舞が喜ぶけれど、多分記憶を思い出す前の僕と舞を比べたら舞の方がよっぽどしっかりしている。
 前世で記憶している世界と、この世界は考え方が違っているところが多すぎて役に立たないところも多すぎる。
それにしても、今世の鈴森千晴の世界は狭すぎだ。
 自立出来ない様にわざとそう育てた様に勘ぐりたくなるしそれは事実なんだろうな、世の中の事を何も知らなすぎる。

「小姓となられる方は、なるべくして小姓となられますが、昨今の教育では夫に協力し家をもり立てられる者が増える傾向にございます。夫、正妻。それを邪魔せぬ様上手く立ち回りながら二人を支えるのが小姓。それが現在の傾向です」
「僕の家の教育は時代遅れなのですか?」
「そうとも言えません。傾向は賢い側室でも、主人となる方々は降ったばかりの白雪の様な無垢な方を好まれます。それは正妻では望めませぬ」

 陽子さんの説明は難しすぎて僕には理解出来ない。
 理解できていないと陽子さんも気がついているんだろう。なんだか先生の様な顔で、僕を眺めながら話してくれる。

「貴族の女性は、政略で嫁ぎます。嫁ぎ先での地位を確保するため、様々な教育を幼い頃から受けてまいります。社交は最も重要な教育です」
「はあ」
「茶会や夜会では、実家や嫁ぎ先に不利益にならぬ様動くのは当り前、新しい情報を仕入れ記憶し吟味し動く。それが正妻の役割です。対して側室は決して社交には出ずその役割は、主人の心を癒やす、それが最大にして唯一の役割です」
「社交はしないのですか」
「ええ。今まではそれが当り前でした。先程夫と正妻の二人を邪魔せぬ様上手く立ち回りながら二人を支えると申し上げましたが、それは極々最近の考え方にございます」
「でも、側室は二番目でしかないんですね」

 心が側室にあっても、男は子供を産むなんて出来ない。
 正妻は政略ではあっても、夫の妻として外に出て、子を産んで、そして夫の隣に立ち続けるんだ。

「愛情以外を望むのは、贅沢ではありませんか」
「好きな人を独占したいと思うのは、自然な感情じゃないですか」
「貴族でなければそれでもいいのですが、難しいでしょうね」
「そうですか」

 なんで木村君の話からこんな横道に逸れた話になったのか分らないけれど。
 雅の小姓になり、将来的に側室になるのは二番目になるっていう意味なんだなあと悟った。

「雅と両思いになれたのは嬉しいですけれど、両思いになったらなったで、違う悩みが出てきちゃうんですね」

 ゲームで主人公は雅の小姓になるけれど、主人公も僕と同じ様に悩む日がくるのかもしれないと思うと何だか切なかった。
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