【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香

文字の大きさ
50 / 119
本編

今は愛さえあればいい

しおりを挟む
「どうした何かあったのか」
「え、何も無いよ」

 舞と陽子さんが佐々木様の部屋へ戻った後、雅が僕の部屋を訪ねて来た。
 両思いになっても、僕の居場所は僕の部屋で雅の部屋に引っ越しはしていない。
 小姓にならなければ、部屋の移動は出来ないのだから当り前だ。

「悩んでいる様に見えるが」

 僕を抱っこして、雅は僕の顔を覗き込む。
 雅に抱っこされるのがたった数日で当り前になりつつある。

 告白の後、約束通り僕は雅に手料理を食べて貰った。
 作ったのは煮込みハンバーグとカボチャのポタージュと卵サラダで、貴族的な料理とはちょっと違う。どちらか言えば平民の食卓に近い食事だ。
 二人で買い物に出掛け、僕の部屋で料理をした。
 雅は美味しいと全部食べてくれて、僕はとっても幸せだったしまた料理を食べさせて欲しいと雅に言われて嬉しかった。

「悩んでないよ。ううん、悩んでるかも」

 今日は食堂から料理を運んで貰い二人で夕食を食べた。
 食べ終わった食器を食堂の人が片付けてくれて、僕は雅にコーヒーを入れ今に至る。

「雅、僕怖いんだ。木村君が何を考えてるか分らないから」

 彼は、雅のみを狙って動いているのかと思っていた。
 川島君達と親しくはしていても、雅ルートのイベントが発生しているのを考えると彼のターゲットは雅なんじゃないかと思っていた。
 でも、森村様の名前呼びイベントも発生したのだ。ここまで雅ルートのイベントを進めているのに、森村様のイベントもクリアしているのは意外だった。
 ゲームでは誰か一人の攻略がある程度進むと、他の人のイベントが発生しないことがあるから、すでに雅ルートのイベントを何個か発生しているのに森村様イベントまで出てくるのは予想外だった。
 考えるなら、ここはゲームに似た世界で攻略対象者との恋愛はイベントで進むものではない。主人公である木村春と攻略対象者達は恋愛に発展しやすい要素はあるけれど、イベントをクリアしても攻略完了が確実になるわけじゃ無いと言うこと。
 そうでなければ、佐々木様と舞が早々に小姓手続きを完了させてしまったのが納得出来ないし、同じく攻略対象者の雅が、僕と両思いになったのはバグとしか言いようがない。
 でも、これは僕の願望だ。
 ゲームの世界に似ているだけなら、イベントをクリアしていっても雅は主人公を好きにならない。
 もしもこの世界が主人公の為のゲームの世界だとしたら、雅ルートのイベントが進んでいるのだから、これから先雅は主人公への好感度がどんどん上がってしまう。ただでさえ、雅はどのルートでも主人公に片思いする設定なんだから、好きまではいかなくても主人公が気になって仕方ない程度には意識してて当然なんだ。

「不安なのか」

 不安だ、雅には言えないけれど。
 どうしても、雅の好きが信じられない。
 今日は僕を好きでも、明日は? 来週は? 一ヶ月後は? そう考えてしまう。

「僕はあの時睨んだりしてないよ。本当にしてないんだ」
「お前がああいう場面で誰かを睨み付けたり出来る人間なら、俺は何の心配もしない」

 優しく頭を撫で、雅は僕を慰めてくれる。
 これって恋人というより、幼い子供を慰めているみたいで何だかちょっと納得がいかない。

「信じてくれる?」
「信じるというより、事実だからな」
「どうして木村君はあんな風に言ったのかな」

 誰かに意地悪されるとか、そう言う経験が僕にはない。
 誰かを陥れるとか、駆け引きをするとかそういう経験も皆無なんだ。

「とにかくハルは、俺か信用出来る人間と一緒に行動するんだ。暫くの間でいいから、絶対に一人になるな」
「うん」
「なるべくなら俺と一緒に、いいな」
「ごめんね。僕が頼り無いから」
「ハルを守るのは俺の役目だ。だから遠慮するな」

 甘い言葉と態度、でも不安に思うのは雅が何もしてくれないからだ。
 小姓手続きをしていないからなのか分らないけれど、両思いになったのに雅はキスすらしてくれないのだ。

「雅」
「心配するな」
「うん。ありがと」

 抱きしめて、頭を撫でてくれる。
 好きだと言って、甘い言葉をくれる。
 だけどそれだけ。だから不安になる。
 本当に雅は僕を好きなのか、本当は木村春も好きなのに僕に好きと言ってしまったのではないのか。
 不安は募るけれど、自分からは何も言えない。
 不安で不安で仕方ないけれど、木村君が好きなのでは? なんて聞けるわけが無い。

「雅、大好き」

 ぎゅうと抱きついて、雅に思いを告げる。
 思いを言えるだけでいい。今はそれでいい。
 不安を隠して僕は雅に好きと言い続ける。
 これから何かが起きそうで、ただ怖かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

処理中です...