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本編
やっぱり何かを忘れている
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「あの、僕自分の部屋に」
雅が僕を抱き上げたまま寮まで戻ってくると、管理人さんが入り口で待っていてくれた。
僕が倒れた経緯も知っていたから、学園から連絡が行って心配してくれていたんだろう。
気を失っている間冷やされていたから気にしてなかったけれど、少し腫れている頬を見て驚き悲鳴の様な声を上げていた。
それなのに雅はそっけなく、今日は自分の部屋で休ませるからと告げるとそのままエレベーターに乗ってしまった。
「駄目だ、具合悪くなったらどうする。頬も腫れてきたし、さっき動揺させた俺が言うのもあれだが、ハルは気を失ってたんだぞ。一人になんて出来るか」
言われてから、頭を打っているかもしれないんだったと思い出した。
「でも」
エレベーター、僕は普段使わないから存在を忘れていた。
学園の寮のエレベーターなのに、老舗高級ホテルのエレベーターかと勘違いしそうな造りだ。エレベーターなんて無機質なただの大きな箱ってイメージだったのに、これ違うよねえ。さっきの東屋でも思ったけれど、どこまで施設にお金掛けてるんだろう。
あれ? 忘れてた? エレベーターって元々あったっけ?
なんだろう、意識があやふやだ。
こんなところにも記憶のあやふやが来てるのかな、寮の設備なんて今世の僕が生活していた場所だというのに記憶が無いとか、僕大丈夫なんだろうか。
本気で忘れているとしたら実は頭を打っていて、記憶障害が出てるとかなんだろうか?
前世の記憶が急に朧気になったのも、頭を打ったせいなのかもしれない。
「何もしないから」
「何も? って何を?」
雅は何を気にしてるんだろう。
僕って鈍いのかな、雅が何を言いたいのか分らない。
「はぁ。兎に角俺の部屋で安静に、いいな」
「はぁい。ねえ、雅。エレベーターって雅はいつも使ってたっけ?」
「一人の時は使っているな、でも日による」
「そっか。僕使ったことなかったなって」
「このエレベーターは俺の部屋がある階の奴専用だから、ハルだけでは使えないだろう生体認証で登録してあるから」
なら知らなくても当然かな、良かった。記憶障害じゃなくて。
「でも何度も一緒に使っただろ。どうした?」
「あれ、そうだっけ。はは、ど忘れしちゃった?」
雅の問いに焦る。嘘、そんな記憶ないよ。
雅と何度も使った? だって、雅と一緒に行動し始めたのは節分以降だよ。
勉強教えて貰ったりしたから、その時に使ってた? じゃあなんで忘れてるんだ?
あれ? あった?
エレベーターで閉じ込められるんだ、でもこれは僕と雅じゃない。
これはイベント?
分からない、なんだか気持ち悪い。大事な何かを忘れている気がする。
「ハル?顔色が悪い、大丈夫か?」
「うん、エレベーターの揺れ苦手なのかな」
ゆっくりとした速度で昇っていくエレベーターは、独特の揺れを感じる。
でも、それが原因じゃない。
「すぐ部屋につくから」
その言葉通りエレベーターが止まり、雅が歩き始める。
歩き始めてすぐ雅の部屋に到着した。つまり雅の部屋の近くにエレベーターがあるんだ。
だったら、覚えていて良いはずだ。何で僕は忘れていたんだろう。
「雅」
「顔色が悪い。もう部屋だから、少し横になって休めば良くなるかな。苦しくないか?」
「平気」
ドアが開き、メイドさんが出迎えてくれる。
鞄をメイドさんが受け取って、雅はリビングに向かう。
「温かい飲み物を用意させる。準備が出来るまでに着替えようか」
「でも着替え」
「大丈夫だ、用意してある」
え、どうして。
雅の部屋に着替えなんて持ってきてない筈だよ。え、ないよね?
驚く僕を余所に、雅の指示でメイドさんはふわもこのルームウエアを持ってきてくれたのだった。
雅が僕を抱き上げたまま寮まで戻ってくると、管理人さんが入り口で待っていてくれた。
僕が倒れた経緯も知っていたから、学園から連絡が行って心配してくれていたんだろう。
気を失っている間冷やされていたから気にしてなかったけれど、少し腫れている頬を見て驚き悲鳴の様な声を上げていた。
それなのに雅はそっけなく、今日は自分の部屋で休ませるからと告げるとそのままエレベーターに乗ってしまった。
「駄目だ、具合悪くなったらどうする。頬も腫れてきたし、さっき動揺させた俺が言うのもあれだが、ハルは気を失ってたんだぞ。一人になんて出来るか」
言われてから、頭を打っているかもしれないんだったと思い出した。
「でも」
エレベーター、僕は普段使わないから存在を忘れていた。
学園の寮のエレベーターなのに、老舗高級ホテルのエレベーターかと勘違いしそうな造りだ。エレベーターなんて無機質なただの大きな箱ってイメージだったのに、これ違うよねえ。さっきの東屋でも思ったけれど、どこまで施設にお金掛けてるんだろう。
あれ? 忘れてた? エレベーターって元々あったっけ?
なんだろう、意識があやふやだ。
こんなところにも記憶のあやふやが来てるのかな、寮の設備なんて今世の僕が生活していた場所だというのに記憶が無いとか、僕大丈夫なんだろうか。
本気で忘れているとしたら実は頭を打っていて、記憶障害が出てるとかなんだろうか?
前世の記憶が急に朧気になったのも、頭を打ったせいなのかもしれない。
「何もしないから」
「何も? って何を?」
雅は何を気にしてるんだろう。
僕って鈍いのかな、雅が何を言いたいのか分らない。
「はぁ。兎に角俺の部屋で安静に、いいな」
「はぁい。ねえ、雅。エレベーターって雅はいつも使ってたっけ?」
「一人の時は使っているな、でも日による」
「そっか。僕使ったことなかったなって」
「このエレベーターは俺の部屋がある階の奴専用だから、ハルだけでは使えないだろう生体認証で登録してあるから」
なら知らなくても当然かな、良かった。記憶障害じゃなくて。
「でも何度も一緒に使っただろ。どうした?」
「あれ、そうだっけ。はは、ど忘れしちゃった?」
雅の問いに焦る。嘘、そんな記憶ないよ。
雅と何度も使った? だって、雅と一緒に行動し始めたのは節分以降だよ。
勉強教えて貰ったりしたから、その時に使ってた? じゃあなんで忘れてるんだ?
あれ? あった?
エレベーターで閉じ込められるんだ、でもこれは僕と雅じゃない。
これはイベント?
分からない、なんだか気持ち悪い。大事な何かを忘れている気がする。
「ハル?顔色が悪い、大丈夫か?」
「うん、エレベーターの揺れ苦手なのかな」
ゆっくりとした速度で昇っていくエレベーターは、独特の揺れを感じる。
でも、それが原因じゃない。
「すぐ部屋につくから」
その言葉通りエレベーターが止まり、雅が歩き始める。
歩き始めてすぐ雅の部屋に到着した。つまり雅の部屋の近くにエレベーターがあるんだ。
だったら、覚えていて良いはずだ。何で僕は忘れていたんだろう。
「雅」
「顔色が悪い。もう部屋だから、少し横になって休めば良くなるかな。苦しくないか?」
「平気」
ドアが開き、メイドさんが出迎えてくれる。
鞄をメイドさんが受け取って、雅はリビングに向かう。
「温かい飲み物を用意させる。準備が出来るまでに着替えようか」
「でも着替え」
「大丈夫だ、用意してある」
え、どうして。
雅の部屋に着替えなんて持ってきてない筈だよ。え、ないよね?
驚く僕を余所に、雅の指示でメイドさんはふわもこのルームウエアを持ってきてくれたのだった。
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